【マラソンペース(Mペース)でのトレーニング効果と練習法】生理学とトレーニング原則から考察

マラソンペース
こんな疑問を解消
  • Mペースってなに?
  • マラソンのレースペースで走ることで得られる効果は?
  • マラソンペースでのトレーニングの適切な実施方法が知りたい

 フルマラソンで記録向上を目指している方でマラソンレースペースでのトレーニングをする方も多いと思いますが、得られる具体的な効果まで理解できている方は少ないのではないでしょうか。

 フルマラソンで記録を狙うためのトレーニングとして、実際のフルマラソンレースペース(以下Mペース)でトレーニングを行うことが効果的ではない場面も多くあるのが事実です。

 しかし実は、マラソンペースの強度が程よく、トレーニングの費用対効果が高いということもできます。

 今回はMペースでのトレーニング効果と適切な練習法について考察・解説していきます。

 実際、ダニエルズのランニング・フォーミュラやリディアードのランニングトレーニングの両理論でも、フルマラソン用のトレーニングとして、必ずMペースが組み込まれています。

 マラソンの記録向上に必要不可欠なトレーニングではありますが、適切な実施方法やタイミングがります。

 本記事を読めば、Mペースでのトレーニングで得られる効果を理解することができ、適切なペースを設定し、トレーニングを効果的なタイミングで実施できるようになります。

マラソンレースペースのトレーニングについて
  • ダニエルズのランニング・フォーミュラでは「Mペース」と呼ばれる
  • マラソンペースはスイートスポットに該当し、少ない疲労で高い効果を得られる強度である
  • フルマラソンに対して「特異性」が伸びる
著者:らんしゅー
日比野就一

社会人からランニングを始めました。
理論に基づいたトレーニングで、
どこまで記録を伸ばすことができるか挑戦。
競技志向で取り組んでいます。
自己紹介・記録変遷はこちら

血中乳酸濃度や血糖値も測定。
マラソンへ科学的にアプローチします。

★自己ベスト
 1500m 4:25(2022/08)
 5000m 16:01(2022/09)
 10000m 33:44(2021/12)
 ハーフ 1:12:29(2022/03)
 フル 2:43:55(2024/11)

著者:らんしゅー
日比野就一

  社会人からランニングを始めました。
  理論に基づいたトレーニングで、
  どこまで記録を伸ばすことができるか挑戦。
  競技志向で取り組んでいます。
   自己紹介・記録変遷はこちら

  血中乳酸濃度や血糖値も測定。
  マラソンへ科学的にアプローチします。

  ★自己ベスト
   1500m 4:25(2022/08)
   5000m 16:01(2022/09)
   10000m 33:44(2021/12)
   ハーフ 1:12:29(2022/03)
   フル 2:43:55(2024/11)

carb-upper
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目次

マラソンペース(Mペース)の強度・設定ペース・走行距離

 Mペースとは、「マラソンペース」のことです。以下では、強度・設定ペース・走行距離について解説します。

マラソンペースの強度

 運動強度を5段階に分けた場合、Mペースはzone3に該当します。

スクロールできます
運動強度強度名称強度区分※1 %HRmax※2 %VO2max※3 血中乳酸濃度
mmol/L
zone1Easy低強度60~7150~650.8~1.5
zone2Moderate低~中強度72~8266~801.5~2.5
zone3LT中強度83~8781~872.4~4.0
zone4OBLA高強度88~9288~934.1~6.0
zone5VO2max高強度93~10094~100>6.1
Sprint高強度-100~-
表1 トレーニング強度の5分類+1(zone1~zone5とsprint)
用語解説
  • ※1 %HRmax:最大心拍数に対する割合。
  • ※2 %VO2max:最大酸素摂取量に対する割合。
  • ※3 血中乳酸濃度:血液中の乳酸濃度。専用の測定機器でしか測ることができない。競技レベルが向上すると、同じ強度でも血中乳酸濃度の数値は低下する傾向がある。

 後で解説しますが、zone3で行うトレーニングは、疲労が溜まりにくい一方でトレーニングで得られる効果が高いと考えられています。

設定ペース

 Mペースは、フルマラソンレースペースでのトレーニングです。直近でフルマラソンに出場し記録が分かる方は、その記録を元にペースを決めることができます。

 一方、フルマラソンへの出場が無い方、もしくは前回出場してから長い時間が経過している方は、ハーフマラソンや5000mの記録からVDOT Calculatorで計算することになります。

 「Marathon」行に示されているのがMペースとなります。以下図の例では、Marathonペースは3:40/kmであることが分かります。

 

図 VDOT Calculator計算例

走行距離

 ダニエルズのランニング・フォーミュラでは、1回のトレーニングで行うMペースでの走行距離上限は週間走行距離の20%以下が推奨です(怪我防止の観点から)。

 例えば1週間で100km走っている方であれば、1回のトレーニングで行うMペースは20km以内に抑えましょう、ということになります。

Mペースでのトレーニングに期待できる効果(筆者体験踏まえて)

 Mペースでのトレーニングに期待できる効果は以下の通りです。

Mペースでのトレーニングに期待できる効果
  • フルマラソンに向けた特異性の向上
  • Easyペースと同じ効果
  • LT値向上

フルマラソンレースに向けた「特異性」の伸長

 マラソンレースペースでトレーニングを行う最も大きな理由は、マラソンレースに向けた特異性の向上だと考えています。

 Mペースでのランニングを繰り返すことで、Mペースに対するランニングエコノミー(マラソンペースを「特に」楽に走れるようになる)が向上します。これを「特異性の向上」と呼びます。

 マラソン界で有名なコーチとして知られているレナート・カノーヴァという方がいらっしゃいます。

 ウィルソン・キプサング選手(元世界記録保持者)やソンドレ・モーエン選手(元ヨーロッパ記録保持者、2017福岡国際優勝)等の有名選手指導していました。

 そのカノーヴァコーチが重要視している思想としてトレーニングの特異性が挙げられます。

 カノーバシステムによると、「マラソンペース90%以上の練習以外はすべて特異的ではない」と考えているようです。

 極端な例を挙げると、カノーヴァコーチのトレーニングではMペースの98%に近いペースで40kmを行うことがあるそうです。

 「特異性」はトレーニングの5大原則でもよく知られていることです。カノーバシステムを採用した選手が実績を残していることからも、「特異性」の重要性はマラソンにも当てはまるようですね。

 NTT西日本の竹ノ内佳樹選手、2020年福岡国際マラソンで優勝したGMOアスリーツの吉田選手も、他種目に対してフルマラソンのVDOTが飛び抜けて高いです。

 このことからも、種目に沿ったトレーニングを特異的に実施することが、記録を向上させるうえで重要であることが示されています。

ダニエルズ理論での説明

 Mペースでのトレーニング効果について、ダニエルズのランニング・フォーミュラには以下の記載があります。

Mペースランニングをする目的は、実際のレースペースになれること、そしてそのペースで給水をとる練習をすることである。したがって、Mランニングの主な効果は、メンタル的なもの、つまり設定したペースで走る自身を高めるものと言ってもいい。生理学的な効果はEランニングとまったく変わらない。

ダニエルズのランニング・フォーミュラ第3版

 ダニエルズ理論によれば、マラソンペースでのトレーニングはEペースで行うジョギングと生理学的な効果が変わらないと述べられています。

Easyペースで得られる効果
  • 怪我に対する耐性を作り上げること
  • 心筋を発達させること
  • 毛細血管新生(活動筋に酸素を運搬する微細な血管が増える)
  • ミトコンドリアの新生/機能向上

 Easyペースでのジョギングで得られる効果は次の記事でまとめています。

LT値向上

 私が自分自身でマラソンペースのトレーニングを取り入れた時、「本当にジョギングと同じ効果しかないのだろうか」と疑問を持ちました。

 Mペースでトレーニングを行っていると、徐々にLT走と同じきつさを脚に感じたことがきっかけです。

 自分の中で、「Mペースでもやり方によってはLT走と同じ効果を得ることができるのではないか」と考えていました。

 結論として、MペースでのランニングトレーニングではLT値の改善効果を得ることができます。

 zone3の強度で行うトレーニングは別名「スイートスポットトレーニング(SST)」と呼ばれます。SSTは最小限の疲労で最大限の効果を得ることができるといわれており、非常に効率が良いトレーニングです。

 SSTについては次の記事で詳しく解説しています。

 SSTを積み上げていくことで、LT値を継続的に改善することが可能です。

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Mペーストレーニングのメニュー具体例

 Mペースでのトレーニング例を紹介していきます。

ペース設定方法(レースまでの時期による設定方法)

 ダニエルズのランニングフォーミュラでは、フルマラソンレース18週間前からのトレーニングメニュー例が記載されています。

 その中で、トレーニングでの設定ペースを決める際には、次のように推奨されています。

M、T、I、Rの各トレーニングのペースをVDOTから求める場合には、現実的に考えるべきである。そして、VDOTは10km以上のレース結果を元に決める。基準とするレースは、距離が長いほど、そして最近のものであるほど良い。・・・。最初の6週間のVDOTを決めるには、直近のレース結果に相当するVDOTと、マラソンで予想されるVDOTより2ポイント下のVDOTとを比べ、低い方を採用する。次の6週間は、VDOTを1ポイント上げ、最終の6週間ではもう1ポイント上げてトレーニングを行う

ダニエルズのランニング・フォーミュラ 第3版

 フルマラソンにおける準備期間においては、多少VDOTのレベルを下げてトレーニングを開始します。

心拍数を基準に決める場合

 心拍数を基準にマラソンペース相当の適正ペースを決める場合は、強度表のテーブルで紹介した通り、83%HRmax~87%HRmaxの範囲が該当します。

 最大心拍数が180回/分のランナーであれば、149~157回/分程度の心拍数です。

 心拍数を基準にする場合は、最大心拍数を正確に把握しておく必要があること、心拍数を正確に測定するセンサーを持っていることが条件となります。

 心拍数を正確に測定するには、上腕に付けるアームバンド式の心拍センサーか胸ベルト式の心拍センサーが必要です。

変化走形式の具体的メニュー例

 ダニエルズのランニングフォーミュラに記載されている、具体的トレーニング例を紹介します。

※E:Eペース、M:Mペース、T:Tペース。EとはEasyペースの事であり、ジョギングのペース。TとはThresholdの略でありLTペースの事。

Mペースでのトレーニング例
  • E(15分~60分) + M(30~80分) + E(10~15分)
  • E(15分) + M(5~50分) + T(5分) + M(5~50分) + T(5分) + E(10分)

 オーソドックスなMペースでのペース走や、Tペースを挟んだ変化走等があります。レースに近い実戦的なメニューです。

 Mペースでランニングする前後でEペースでのジョギングを行うことで、ウォーミングアップとクーリングダウンを兼ねています。

 Mペース前に行うEペースでのジョギングを60分まで延ばすことで、ロングランの要素を織り交ぜることも可能です。

インターバル形式のメニュー例

 マラソンペースをインターバル形式で取り入れているランナーも多くいます。エリートランナーになればなるほど、フルマラソンレースペース自体が速くなるため、ペース自体への余裕度は低くなる傾向があります。

 インターバルに分割することで、無理なくマラソンペースでのトレーニングボリュームを稼いでいくことが狙いです。

インターバル形式のトレーニング例
  • 5000m × 3 レスト3分ジョグ
  • 3000m × 4 レスト2分ジョグ

 また、上で紹介したようにマラソンペースはスイートスポット強度でもあるので、継続的に行う閾値トレーニングとして以下のように取り入れる例もあります。

SSTとしての導入
  • 6min × 5 レスト60sジョグ
  • 10min × 3 レスト60sジョグ

Mペースのトレーニングを取り入れるべき時期

 Mペースでのトレーニングの主目的は、フルマラソンレースに対する特異性の向上です。目標としているフルマラソンレースの2か月くらい前から取り入れ始めるのが理想的です。

 レースから遠い時期にMペースでのトレーニングを行う場合は、SSTとしての取り組みになると思いますので、一度に長い距離を走る必要性は低下すると考えられます。

 目標とするレースの距離や、目標レースまでの期日を考え適切に導入していきましょう。

 

※「ランニングを科学する」では、筆者の知識・経験のアップデートと共に都度改定を行っています。

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