【マラソンペースでのトレーニング効果と練習法】生理学とトレーニング原則から考察する

 こんにちは。管理人のsyu_hibiです。

 今回はマラソンペースでのトレーニング(以下Mランニングと記載)効果と練習法について考察、解説していきます。

 皆さんは、フルマラソンで記録を狙うためには、実際のレースペース(=マラソンペース)でトレーニングを行うことが最も効果的であると思いますか?

 ある意味では正解ですが、ある意味では正しくない考え方です。

 実際、ダニエルズのランニング・フォーミュラやリディアードのランニングトレーニングの両理論でも、フルマラソン用のトレーニングとして、必ずMランニングが組み込まれています。

 生理学やトレーニングの原則から、Mランニングがどのように有効なのか、その効果を考察、紹介していきたいと思います。では解説していきます。

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1.マラソンペースのトレーニングについて

■設定ペース

 マラソンペース(以下Mペースと記載します)でのトレーニングは、フルマラソンでのレースペースで行います。直近でフルマラソンに出場し記録が分かる方は、その記録を元にペースを決めることができます。

 一方、フルマラソンへの出場が無い方、もしくは前回出場してから長い時間が経過している方は、ハーフマラソンや5000mの記録からVDOT Calculatorで計算することになります。「Marathon」行に示されているのがMペースとなります。

 

図1 VDOT Calculator計算例

※VDOT計算機の使い方が分からない方は次の記事を参考にしてください。

■走行距離

 Mランニングはペース走が基本です。一定の決めた距離を設定したペースで走りきります。

 ダニエルズのランニング・フォーミュラでは、1回のトレーニングで行うMペースでの走行距離上限は週間走行距離の20%以下が推奨です(怪我防止の観点から)。例えば1週間で100km走っている方であれば、1回のトレーニングで行うMペースを20km以内に抑えましょう、ということになります。

2.Mランニングに期待できる効果(筆者体験踏まえて)

■ダニエルズ理論に見るMランニングの効果

 Mランニングの効果について、ダニエルズのランニング・フォーミュラには以下の記載があります。

Mペースランニングをする目的は、実際のレースペースになれること、そしてそのペースで給水をとる練習をすることである。したがって、Mランニングの主な効果は、メンタル的なもの、つまり設定したペースで走る自身を高めるものと言ってもいい。生理学的な効果はEランニングとまったく変わらない。

ダニエルズのランニング・フォーミュラ第3版

 ダニエルズ理論によれば、MランニングはEランニング(=Eペースで行うジョギング)と生理学的な効果が変わらないと述べられています。

 しかし、私が自分自身でマラソンペースのトレーニングを取り入れた時、「本当にジョギングと同じ効果しかないのだろうか」と疑問を持ちました

 Mペースでトレーニングを行っていると、終盤に近付くにつれ、LT走と同じきつさを脚に感じたことがきっかけです。

 自分の中で、「Mペースでも運動継続時間を延ばせば、LT走と同じ効果を得ることができるのではないか」と考えていました。それを裏付ける記載があったため、以下で紹介していきます。

■MランニングでのLT値向上

 私のハーフマラソン自己ベストは1時間14分40秒でしたので、Mペースが3:43/kmとなります。週間走行距離が約90kmでしたので、Mペースで16kmのペース走を行いました。

 すると、残り3~4kmとなった時点で「LT走と同様のきつさ」を体に感じてきたのです。トレーニングをやりきることはできましたが、ジョギングと同じ効果しか得られないというのは、腑に落ちませんでした。

 後日、この現象について調べを進めていたところ、Mペースであったとしても走行時間が長くなれば、LT走(Tペースで20分間のテンポ走)と同じLTへの刺激が入るということが分かりました。

 具体的には、Mペースで60分間走ることで、Tペースで20分間のテンポ走と似たようなLT値への効果が得られるようです。詳しくは次の記事で記載しています。

 ただし、あくまでも「似たような効果」であることには留意しておく必要があります。具体的にどんな違いがあるのかを示した論文や根拠は見当たりませんが、Tペースで走るテンポ走には、テンポ走でしか得られない効果があると考えられます。

■走行時間が長くなれば、脂肪が優先して消費されるようになる

 Mペースでのトレーニングは、LT値向上だけでなく、「ジョギングよりも速いペースにおいて脂肪をエネルギーとして使う能力」の向上にも期待できます。

 脂肪をエネルギーとして使う割合は、運動強度及び運動継続時間によって決まります(図2)。運動強度が低いほど、また、運動時間が長いほど脂肪をエネルギーとして使う割合が高まってくることが分かっています。

図2 運動強度及び時間と、代謝基質の関係

 そのため20分間のテンポ走と比較すると、「脂肪を使いながらある程度速いペースを持続する力」が向上することが期待できます。

 別の記事で紹介させていただきましたが、フルマラソンで30kmの壁を克服し良い記録を出すためには脂肪をエネルギーとして使う能力がとても重要です(30kmの壁記事参照)。

■カノーバシステムに見る「特異性」の伸長

 マラソン界で有名なコーチとして知られているレナート・カノーヴァという方がいらっしゃいます。ウィルソン・キプサング選手(元世界記録保持者)やソンドレ・モーエン選手(元ヨーロッパ記録保持者、2017福岡国際優勝)等の有名選手指導していました。

 そのカノーヴァコーチが重要視している思想としてトレーニングの特異性が挙げられます。カノーバシステムによると、「マラソンペース90%以上の練習以外はすべて特異的ではない」と考えているようです。

 極端な例を挙げると、カノーヴァコーチのトレーニングではMペースの98%に近いペースで40kmを行うことがあるそうです。ほぼマラソンレースですね。

 「特異性」はトレーニングの5大原則でもよく知られていることです。カノーバシステムを採用した選手が実績を残していることからも、「特異性」の重要性はマラソンにも当てはまるようですね。

参考:

 以前の記事でも紹介させていただきましたが、NTT西日本の竹ノ内佳樹選手、2020年福岡国際マラソンで優勝したGMOアスリーツの吉田選手も、他種目に対してフルマラソンのVDOTが飛び抜けて高いです。

 このことからも、種目に沿ったトレーニングを特異的に実施することが、記録を向上させるうえで重要であることが示されています。

3.ダニエルズのランニング・フォーミュラにおけるMペーストレーニングの導入例

 ダニエルズのランニング・フォーミュラにて紹介されている、Mペースでのトレーニング例を紹介していきます。

■レースまでの時期による、ペース設定方法

 ダニエルズのランニングフォーミュラでは、フルマラソンレース18週間前からのトレーニングメニュー例が記載されています。その中で、トレーニングでの設定ペースを決める際には、以下のように推奨されています。

M、T、I、Rの各トレーニングのペースをVDOTから求める場合には、現実的に考えるべきである。そして、VDOTは10km以上のレース結果を元に決める。基準とするレースは、距離が長いほど、そして最近のものであるほど良い。・・・。最初の6週間のVDOTを決めるには、直近のレース結果に相当するVDOTと、マラソンで予想されるVDOTより2ポイント下のVDOTとを比べ、低い方を採用する。次の6週間は、VDOTを1ポイント上げ、最終の6週間ではもう1ポイント上げてトレーニングを行う

ダニエルズのランニング・フォーミュラ 第3版

 フルマラソンにおける準備期間においては、多少VDOTのレベルを下げてトレーニングを開始するようです。その理由について記載はありませんが、おそらく、フルマラソンに向けて徐々に体を慣らしていき怪我を予防する狙いがあると思われます。

■具体的トレーニング例

 ダニエルズのランニングフォーミュラに記載されている、具体的トレーニング例を紹介します。

※E:Eペース、M:Mペース、T:Tペース。EとはEasyペースの事であり、ジョギングのペース。TとはThresholdの略でありLTペースの事。

  1. E(15分~60分)+M(30~80分)+E(10~15分)
  2. E(15分)+M(5~50分)+T(5分)+M(5~50分)+T(5分)+E(10分)

 1.はオーソドックスなMペースでのペース走です。Mペースでランニングする前後でEペースでのジョギングを行うことで、ウォーミングアップとクーリングダウンを兼ねています。

 Mペース前に行うEペースでのジョギングを60分まで延ばすことで、ロングランの要素を織り交ぜることも可能です。Mランニングを行う前にできるだけ糖質を消費し、脂肪をエネルギーとして使う能力を高める目的があります。

 2.はMペースとTペースを織り交ぜた変化走です。Tペースでは乳酸発生が旺盛になってくるため、血中乳酸濃度が上昇していきますが、Mペースに一旦落とすことで、発生した乳酸を処理することができます。よりフルマラソンのレースに近いトレーニングとなります。

ダニエルズのランニング・フォーミュラには、フルマラソンまでの具体的トレーニングメニュー例が記載されています。是非一度は手に取って読んでみることをおすすめします。

いかがでしたでしょうか。

 フルマラソンに向けて、マラソンペースでのトレーニングは欠かせません。その取り組み方や練習効果を正しく理解して、自分自身のトレーニング計画に織り交ぜていきましょう。

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参考文献:

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