【Easyペースの役割と目的】最も基本なランニングトレーニング

Easyペースの定義と役割

※「ランニングを科学する」では、筆者の知識・経験のアップデートと共に都度改定を行っています。改訂履歴は記事の最後に記載しています。

こんな疑問を解消
  • ダニエルズのEasyペース(Eペース)ってなに?
  • Easyペースの目的、得られる効果が知りたい
  • Easyペースの適切なペース、心拍数、きつさが分からない

 ランニングに真剣に取り組み始めて、Easyペース(Easy、Eペース、回復走などとも呼ばれる)という言葉を聞いたことがあるランナーも多いかと思います。

 私は、社会人からランニングを始めた市民ランナーです。月500km程度を走り、競技志向でランニングに取り組んでいます。

 本記事では、ランニングトレーニングの中で最も重要であり、ランナーが最も多くの時間を割くEasyペースのランニングについて解説します。

 世界で活躍するエリートランナーでさえも、ランニングトレーニングのうち約80%はこのEasyな強度で行っています。

 EasyペースにはEasyペースならではの目的があり、これを理解してトレーニングに組み込んでいくことで、Easyペーストレーニングの効果を最大限に得ることができます。

Easyペースについて
  • 疲労度を下げつつ、トレーニング効果を維持・漸増するランニング
  • Easyペースランニングの翌日は体の疲労度が下がっていることが基準になる
  • Easyランニングの継続で心筋の発達、ミトコンドリアの数、容量の増加などの効果がある
  • 心拍、設定ペース、主観的きつさなど、Easyペースを定義する指標はいくつかある
目次

Easyペース(回復走)とは?

Easy:疲労度を下げつつトレーニング効果を維持・漸増するランニング

 Easyペースを言葉で表すと「回復が上回る強度・負荷でのランニング」です。

 Easyペースの翌日は、Easyペースでランニングを行った日よりも体の疲れが抜けていることが一つの指標になります。

 しかしそれは、Easyペースでのランニングが「疲労抜き」になっているというわけではありません。本当に疲労を抜きたいのであれば、まったく走らないで完全休養したほうが、間違いなく疲労は抜けます。

 Easyペースでのランニングの重要な点は、「負荷が低くく体の疲労度は下がる方向になるが、有酸素に関わる体の機能をを維持、もしくは漸増させることが可能である」ということです。

 有酸素の代謝能力は、トレーニングを中断した途端低下が始まります。Easyペースでのランニングだけでも継続することで、低下を抑えながら、次のトレーニングに備えて体の疲労度を下げることができます。

 もちろん、数日の完全休養(全く走らない)であればその低下具合はわずかであり、トレーニングの歴が長いほど、完全休養による機能低下は少なくなります。

 「完全休養をしない方がいい」と言っているわけではありません。体への負荷が高くなっているときは、完全休養によって回復を優先させることが、結果的にパフォーマンス向上につながることもあります。

 ただ、長距離種目は「そこそこの負荷のトレーニングを長期にわたって積み上げていく」ことでパフォーマンス向上を獲得していくことが重要です。

 Easyペースでのランニングは、そんな長距離種目にとても適したトレーニングと言えます。

Easyペースの用語について

 これまで専門的な指導を受けてこなかった市民ランナーが「Easy」というランニングトレーニング用語に出会うのは、ランニングトレーニングについて書かれた著書「ダニエルズのランニング・フォーミュラ」だと思います。

 本著書では、Easyランニング(イージーランニング)として紹介されており、そのトレーニングを「Eペース」と呼んだり「Easy」と呼んだりします。

 ダニエルズのランニング・フォーミュラだけでなく、アドバンスト・マラソントレーニングにも「回復走」というトレーニングが紹介されていますが、これらの目的はほぼ同じです。

著:ジャック・ダニエルズ, 監修:前河洋一, 翻訳:篠原美穂
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著:ピート・フィッツィンジャー, 著:スコット・ダグラス, 監修:前河洋一, 翻訳:篠原美穂
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Easyの強度定義

 ランニングトレーニングにおけるトレーニング強度は、表1のように分類されます(パワーズ運動生理学より一部引用)。

スクロールできます
運動強度強度名称強度区分※1 %HRmax※2 %VO2max※3 血中乳酸濃度
mmol/L
zone1Easy低強度60~7150~650.8~1.5
zone2Moderate低~中強度72~8266~801.5~2.5
zone3LT中強度83~8781~872.4~4.0
zone4OBLA高強度88~9288~934.1~6.0
zone5VO2max高強度93~10094~100>6.1
Sprint高強度-100~-
表1 トレーニング強度の5分類+1(zone1~zone5とsprint)
用語解説
  • ※1 %HRmax:最大心拍数に対する割合。
  • ※2 %VO2max:最大酸素摂取量に対する割合。
  • ※3 血中乳酸濃度:血液中の乳酸濃度。専用の測定機器でしか測ることができない。競技レベルが向上すると、同じ強度でも血中乳酸濃度の数値は低下する傾向がある。

 ダニエルズのランニング・フォーミュラ、アドバンスト・マラソントレーニングにおけるEasy(回復走)は次のように定義されています。

各著書におけるEasyの定義
  • ダニエルズ:59~74%VO2max、65~79%HRmaxで行う楽なランニング
  • アドバンスト:76%HRmaxを下回る強度で行う、比較的短いランニング

 各著書におけるEasyの定義と表1で紹介したトレーニング強度は部分的にオーバーラップしていることがわかります。

 Easyの定義はその用語を使う人によって異なるものであり、明確に数値で線引きができているわけではありません。

 上でも述べた通り、「Easyペースでのランニングは疲労からの回復が上回っていればよく、その範囲であればある程度自分で強度をコントロールしていい」とも言えます。

Easyペースの目的と得られる効果

 Easyペースは回復を優先させながらも、有酸素に関わる体の機能を向上させることができるトレーニングです。

 具体的にEasyペースの目的と得られる効果をまとめると以下の通りです。

ジョギング(Eペース走)の効果
  • 怪我に対する耐性を作り上げること
  • 心筋を発達させること
  • 毛細血管新生(活動筋に酸素を運搬する微細な血管が増える)
  • ミトコンドリアの新生/機能向上

怪我に対する耐性

 マラソントレーニングの中で、ペース走インターバル走、長い距離を走る距離走は非常に負荷が高いトレーニングです。

 いきなり負荷が高いトレーニングを行うと高い確率で「怪我」をします。

 Easyペースでのランニングを継続的に行うことで、負荷が高いトレーニングをしても怪我をしにくくなります。いわば「トレーニングのためのトレーニング」という側面があります。

 長距離種目では、怪我無く練習を継続することが重要です。

心筋を発達させること

 心臓の筋肉が最大限に収縮するのは、最大心拍数の約60%の時だと言われています。

 心臓の筋肉が発達することで、一回の心臓における収縮-膨張で押し出される血液量(心拍出量)が増加し、体中に酸素を行き渡らせる能力が発達します。

 特に最大酸素摂取量を決める要因として心拍出量は重要であることから、最大酸素摂取量がパフォーマンスの決定要因となっている長距離種目全般に対して、Easyペースは有効であると言えます。

毛細血管新生

 活動筋(=ランニングで使う筋肉)へ酸素を行き渡らせているのは、毛細血管です。

 体の節々までは太い血管である動脈によって血液が運ばれますが、体の各組織に到達したのちは毛細血管によって筋肉組織まで血液が運ばれます。

 筋繊維付近での毛細血管密度が増加することで、毛細血管から筋繊維への酸素拡散効率が向上し筋繊維に多くの酸素を届けることが可能となります。

 毛細血管は、トレーニングを長い期間継続することで徐々に発達します。

 毛細血管密度が向上することで得られる効果の一例を紹介します。

 運動未経験者が32か月のトレーニングにおいて、特に「動静脈酸素較差※」が伸びることで、最大酸素摂取量が向上しています。

 動静脈酸素較差の改善は主に毛細血管密度の変化によって得られます。毛細血管密度が向上すると筋肉において抜き取られる酸素の量が増えるため、動静脈酸素較差が向上します。

らんしゅー
※動静脈酸素較差について:肺から空気を吸って血液中に酸素を渡した後に、体の各筋肉に酸素が送られます。血液中の酸素は消費されて心臓に戻りますが、その消費される量を動静脈酸素較差と言います

ミトコンドリアの新生/機能向上

 ミトコンドリアの役割は、糖質と脂質を代謝してエネルギーを作り出すことです。ミトコンドリアは、運動を行うことによって容量を大きくし、機能を向上することができます

 ジョギングのような低強度ランニングでは、主にミトコンドリアの容量(=大きさや数)が増加することが知られています。

 ミトコンドリアの容量が大きくなれば、その分糖質や脂質をエネルギーに変換する能力が向上しますので、結果的にエネルギー代謝能力の向上につながります。

 ミトコンドリアの適応については別の記事で詳しく解説していますのでご参照ください。

Easyペースの実施方法:ペース・心拍数・主観的キツさ

 Easyペースでのランニングの具体的な方法については、次の記事で詳しく解説しています。

 速いジョグと遅いジョグの違いや、ジョギングの適切な距離の検討などを紹介しています。

 簡単にまとめると、次の通りです。

Easyペースの実施方法
  • 主観的なきつさが重要、きつさは全く感じないペース
  • 設定ペースを決めたい場合はVDOT Calculatorを使って算出する
  • 心拍数を基準にする場合は、65~79%HRmaxの範囲が目安
  • Easyランニングの翌日は、Easyペースを行った日よりも疲労が抜けていることが基準

 VDOT Calculatorでの設定ペース算出方法は次の記事を参考にしてください。

Easyペースはランニングトレーニングの基本

 これまでで説明してきた通り、Easyペースはランニングトレーニングの最も基本となるトレーニングです。

 どんなエリートランナーであっても、そのトレーニングのうち80%程度はEasyなペースのランニングであるといわれています。

 このEasyペースの目的と役割を理解し、自身のトレーニングに適切に組み込んでみてください。

参考文献

著:ジャック・ダニエルズ, 監修:前河洋一, 翻訳:篠原美穂
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著:ピート・フィッツィンジャー, 著:スコット・ダグラス, 監修:前河洋一, 翻訳:篠原美穂
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編集:Iñigo Mujika, 翻訳:長谷川 博, 翻訳:中村 大輔, 翻訳:安松 幹展, 翻訳:桜井 智野風, 翻訳:久保 啓太郎, 翻訳:禰屋 光, 翻訳:伊藤 静夫, 翻訳:相澤 勝治, 翻訳:鬼塚 純玲, 翻訳:田中 美吏, 翻訳:安藤 創一, 翻訳:加藤 晴康
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