※「ランニングを科学する」では、筆者の知識・経験のアップデートと共に都度改定を行っています。改訂履歴は記事の最後に記載しています。
【ジョギング(Eペース走)】走るペースで効果は変わる?心拍数と主観的強度が重要
- ダニエルズのEペース(Easyペース)ってなに?
- 遅いジョグと速いジョグの効果の違いが知りたい
- ジョギングの適切なペース、心拍数、きつさが分からない
ランニングへ本格的に取り組んでいる方の中でも、何気なくジョギングを行っている方も多いのではないでしょうか。
私は、社会人からランニングを始めた市民ランナーです。月500km程度を走り、競技志向でランニングに取り組んでいます。
本記事では、ランニングトレーニングの中で最も重要であり、ランナーが最も多くの時間を割く「ジョギング」について考察していきたいと思います。
ジョギングと言っても、普段からはやめのペースでジョギングを行っている方もいれば、LSD(ロングスローディスタンス)のように、とてもゆっくりなペースでジョギングを行っている方もいます。
ジョギングは「速くないといけない」「遅くないといけない」といった決まりはありません。ジョギングで得たい効果によって、走るペースは変えていく必要があります。
単なるジョギングでも、何度も繰り返し行うことで体の機能を大きく向上させることができます。本記事では、ジョギングの適切な方法や生理学的な効果について説明していきたいと思います。
本記事を読めば、ジョギングの目的や効果を根本から理解し、正しいペースや距離で行うことが出来るようになります。
- ジョギングでは長距離種目に必要な様々な基礎的能力を鍛えることができる
- 適切な設定ペースは、心拍数(65~79%HRmax)と主観的強度を基準に決める
- ジョギングを長時間行うこと(=距離走)で、脂質を使う能力を鍛えることができる
- 怪我防止のため、一回で走る上限距離(週間走行距離の25%以下)を気にする
- ピッチやストライドは、自然なフォームでジョギングできていれば気にする必要はない
ジョギングの名称について
ジョギングを意味する用語は主に3つ挙げられます。「ジョギング(ジョグ)」、「Jog(英語表記)」、「Eペース(ダニエルズのランニング・フォーミュラ)」です。
特に3つ目「E(Easy)ペース」という表現は、ダニエルズのランニング・フォーミュラを読んだことがない人にとっては聞きなれない単語かもしれません。
使われる単語の違いというよりも、その言葉を発する各個人のとらえ方によって、ジョグの意味合いが異なってきます。どの単語を使っても、一般的には同じ意味を表していると考えています。
※ダニエルズのランニング・フォーミュラは、ランニングトレーニング本です。ランナーであれば一読することをおすすめします。
Eペース走とは:ゆっくりなペースの低強度ランニング
ダニエルズのランニング・フォーミュラでは、一般的なジョギングを意味する言葉として「Eペース走」という単語が使われます。
EはEasy(イージー、簡単)の略語です。
他のランニングトレーニング本(リディアードのランニングトレーニングやアドバンスドマラソントレーニング)では、「有酸素ラン」のように呼ばれることもありますが、基本的にはジョグを表しています。
口述しますが「ジョグ=低強度なランニング」と理解すると、どの呼ばれ方をしても同じように理解することができるようになります。
基本的に、自分自身が感じる主観的に「低強度」であれば、そのトレーニングは「低強度」となります。走っている途中にもきつさは全く感じません。
主観的な感覚ではなくて数値で理解したい場合は、心拍数を基準に判断するとよいと考えています。およそ65%HRmax~79%HRmaxの範囲がジョギングの適切な範囲になります。詳しくは口述します。
ただ、心拍数と主観的な強度は毎回一致するわけではありません。心拍数は低くても主観的には「きつい」と感じることもあり、最終的には主観的に「きついかきつくないか」で判断する必要があります。
ジョギングの効果は?
ジョギングの効果は下記となります。これらは一般的に述べられている事項と同じです。ここでは、これらの効果について定性的に説明をします。
- 怪我に対する耐性を作り上げること
- 心筋を発達させること
- 毛細血管新生(活動筋に酸素を運搬する微細な血管が増える)
- ミトコンドリアの新生/機能向上
怪我に対する耐性
マラソンに向けては、様々なトレーニングを行いますが、ペース走やインターバル走、長い距離を走る距離走等は非常に負荷が高いトレーニングです。
負荷が高いトレーニングを、何も対策をしないで継続していると高い確率で「怪我」をします。
ジョギングを継続的に行うことで、負荷が高いトレーニングをしても怪我をしにくくなります。ジョギングはいわば「トレーニングのためのトレーニング」という側面があります。
ジョギングの継続によって、筋力アップによって関節等への衝撃が吸収されるようになったり、持久性トレーニングの継続によって骨や腱が徐々に強化されます。
長距離種目では、怪我無く練習を継続することが重要です。
心筋を発達させること
ダニエルズのランニング・フォーミュラで紹介されているジョギングの適正心拍数は最大心拍数の65~79%です。
心臓の筋肉が最大限に収縮するのは、最大心拍数の約60%の時だと言われています。
心臓の筋肉が発達すると、一回の心拍で押し出される血液量(心拍出量)が増加し、体中に酸素を行き渡らせる能力が発達します。
特に最大酸素摂取量は心拍出量によって決まる能力であるため、例え遅いペースのジョギングであっても、長距離種目全般に有効です。
心筋の発達については、ジョギングのペースでも十分であると言えます。
毛細血管新生
活動筋(=ランニング中に使っている筋肉)へ、酸素を行き渡らせているのは、毛細血管です。
体の節々までは太い血管である動脈によって血液が運ばれますが、体の各組織に到達したのちは毛細血管によって筋肉組織まで血液が運ばれます。
毛細血管密度が増加することで、筋繊維での血流速度を遅くし、毛細血管から筋繊維への酸素拡散のために多くの時間を使えるようになります。
結果として、筋繊維に多くの酸素を届けることが可能となります。
毛細血管は、トレーニングを長い期間継続することで徐々に発達します。
一例として、運動未経験者が32か月のトレーニングにおいて、特に「動静脈酸素較差」が伸びることで、最大酸素摂取量が向上しています。
動静脈酸素較差の改善は主に毛細血管密度の変化によって得られます。毛細血管密度が向上すると筋肉において抜き取られる酸素の量が増えるため、動静脈酸素較差が向上します。
ミトコンドリアの新生/機能向上
ミトコンドリアの役割は、糖質と脂質を代謝してエネルギーを作り出すことです。ミトコンドリアは、運動を行うことによって容量を大きくし、機能を向上することができます。
ジョギングのような低強度ランニングでは、主にミトコンドリアの容量(=大きさや数)が増加することが知られています。
ミトコンドリアの容量が大きくなれば、その分糖質や脂質をエネルギーに変換する能力が向上しますので、結果的にエネルギー代謝能力の向上につながります。
本ブログでは、ランニングトレーニングが生理学的にどのような効果をもたらし、体がどのように適応していくのかをいくつかの記事で考察しています(運動生理学カテゴリー)。
興味がある方は、是非読んでみてください。
ジョギングの適正ペース・心拍数について
ここでは、ダニエルズのランニングフォーミュラと私自身の体験を参考にした紹介をします。
ジョギングのペースについては様々な考え方があります。
フルマラソンを2時間10分程度で走ってしまう人でも、普段のジョギングは1km当たり5分程度かける、というようなこともあります。
ダニエルズのランニング・フォーミュラ「Eペース走」の説明
ダニエルズのランニングフォーミュラで推奨されているジョギングのペースは、最大心拍数の65~79%(59~74%VO2max)です。
トレーニング強度を決めるための指標として「VDOT(最大酸素摂取量)」があり、自分の直近レース結果からジョギングの適正ペースを求めることができます。
Jack Daniels’ VDOT Running Calculatorです。
ジョギングのペースとして参考にするのはEasyペースです。図1でVDOT計算機によるEペースの求め方を示します。
ジョギングのペース:管理人自身の例
ここからは私自身の例を紹介します。
私のハーフマラソン自己ベスト1時間14分40秒を元に、ジョギングの適正ペースを計算すると、4:14~4:41/kmです。
私が行っているジョギングのペースは、「4:15~5:00/km」(ペースを意識しないで走っている)です。
Eペースの上限速度である4:14/kmでジョギングをするのは、ポイント練習での負荷が低かった翌日、レース前調整期間等、体の疲労が抜けている時です。
一方、負荷が高かったポイント練習翌日やレース翌日等は、Eペース下限のペース、もしくはそれよりも遅いペースでジョギングを行います。
心拍数は、私自身の例ではおおよそ125~140bpm、最大心拍数の65~75%程度です。※HRM-Dualハートレートセンサーによる測定。
ジョギングでは心拍数による客観的な評価と、自分の感覚を優先し主観的なきつさを大事にします。
私はジョギングでは努力感がゼロになるようにしています。
速いジョギングと遅いジョギングの効果の違い
よく、市民ランナーの間で「そんなに速いペースでジョグをしても意味ないよ」とか「LSDは効果がない」といった会話がなされていることがあります。
しかし、どのペースで走っても、目的が違うだけで「効果がない」ということはありません。
ひとつ言えることは、目標としているレースがフルマラソンである場合、同じ時間走るのであれば遅いペースのジョギングよりも速いペースのジョギングの方が、体が得る効果は間違いなく大きい、ということです。
なぜかと言えば、走るペースが上がることによって、フルマラソンに必要な筋肉を使って走ることになるので、筋肉の適応やランニングエコノミーの向上が進むためです。
基本的な考え方として「使った筋肉」しか適応していきません。フルマラソンに必要な筋肉はフルマラソンのペースに近づけていかないと使われません。
また、ランニングエコノミーについても、走ったペースでのエコノミーが最も高まると言われているため、ゆっくりなジョギングでは、フルマラソンペースでのランニングエコノミーは高まりにくいと考えられます。
一方で、「遅いジョギング」が必要とされるタイミングは、きついトレーニングの翌日や疲労が残っている日のトレーニング等です。
最低限のランニングトレーニングを継続し体の適応状態を維持しながら、体の回復を進めることが目的です。
速いジョグを行うと、その分疲労は溜まることになります。疲労から回復させたいタイミングでは、あえて遅いジョギングをすることで体力の維持と疲労からの回復を同時に行うことができます。
ジョギングの適切な距離と時間
ジョギングの適切な距離と時間について解説します。
ジョギングを長い時間行うことで持久力が向上する
ダニエルズの理論では、Eペースを30分以上継続することで効果が大きくなる、と説明されています。
長い時間のジョギングは、「ロングジョグ」や「距離走」と呼ばれます。ジョギングのような比較的遅いペースのランニングであっても、長時間運動を継続することで遅筋繊維だけでなく速筋繊維も動員されることがわかっています。
本来であれば高い強度のランニングで動員されるはずの速筋繊維ですが、遅筋繊維に蓄えられている筋グリコーゲンが減少することで、速筋繊維が補助的に働くようになると考えられています。
使った筋肉だけが適応する、という事実があるため、ジョギングであっても長い時間をかければ、遅筋だけでなく速筋繊維にも刺激が入り、ミトコンドリアの新生/容量増加が得られ、持久力の向上につながります。
怪我防止として上限距離を設定する
怪我防止のため、ダニエルズ理論ではジョギングの時間及び距離に上限を設けることが推奨されています。「週間走行距離の25%、もしくは150分間の短い方」、という上限です。
1週間で100km走っている方であれば、一回で走ってよい最大距離の推奨は25kmということになります。
ただし、フルマラソンレースに向けた30km走や35km走だと、どうしても推奨距離をオーバーしてしまうことになります。
このような超長距離トレーニングも、3週間に一回など頻度を落とせば、怪我無くトレーニングを行うことができますので、ご自身の足の状態と相談しながら、走る距離・時間の上限には気を付けてみてください。
ジョギングにバリエーションを付ける
遅いジョギングと速いジョギングの違いを述べましたが、トレーニングの約80%を占めるジョギングでは、意図的に場絵リエーションをつけて行うことを推奨します。
私自身もこれまで試行錯誤を続けてきましたが、ダニエルズ推奨のEペース上限速度を超えてくると、ジョギングで体が疲労することが体感としてわかっています。
結果としてインターバル走などのポイント練習の質に支障が出ました。
また、一回で走る距離を長くしすぎた結果、疲労が溜まり怪我につながった経験もあります。
- ポイント練習翌日は「疲労抜きジョギング」と位置づけ、ペースを落としたり距離を少なくする
- ポイント練習ができなかったときや負荷が少なかった時は、「セット練習」として翌日に「速めのジョギング」を行う
- ポイント練習という位置づけで「長い距離のジョギング(=ロングジョグ)」を行う
重要なことは、単なるジョギングでも必ず「目的を持つこと」です。
ジョギングのフォーム ストライドやピッチは?
ジョギングフォームについても世の中色々な意見がありますので、私自身の例を紹介させていただきます。
私がジョギングをすると、数値的には「ピッチもストライドも低下」します。
例えばペース走ではピッチ180/分、ストライド1.5m/歩くらいあるものが、ジョギングではピッチ170/分、ストライド1.35m/歩となります。
ジョギングするときはピッチもストライドも特に意識はしていませんが、腕振りや地面に接地するときの感覚は速いペースで走るときと変えないように心がけています。
意識しているのは「一生懸命足を動かさず楽に走る事」です。
ジョギングのフォームに正解はありません。
フルマラソンやハーフマラソンと極力同じフォームで走った方が良いことには間違いありませんが、本当に同じフォームで走ってしまうとジョギングとしてはペースが上がりすぎます。
ジョギングの位置づけが、負荷が高い練習の代わりであれば、ジョギングがある程度ハイペースになっても問題ないと思います。
トップのマラソンランナーでも、その練習のほとんどをジョギングが占めています。毎日のように行うジョギングにも目的意識をもって取り組みましょう。
参考文献:
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