【距離走(ロングジョグ)】の効果を最大化する方法を考察。適正ペースや距離は?

 こんにちは。管理人のsyu_hibiです。

 今回は、距離走(ロングラン=ロングジョグ)トレーニングの効果を最大化するための方法を考察していきます。

 マラソン界において二大理論といっても過言ではない、ダニエルズのランニングフォーミュラリディアードのランニングトレーニングでも週に一回以上の距離走が推奨されています。両理論を踏まえ、走るべき距離適正ペース・実施するタイミングについて考察を進めていきます。

 また、運動生理学の観点から距離走で得られる効果についても考えていきます。

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1.距離走の呼び名について

 ダニエルズのランニングフォーミュラでは「Lランニング」、リディアードのランニングトレーニングでは「有酸素ロングラン」と呼ばれるトレーニングです。一般的には「ロングジョグ」といわれることもあります。

 指導者や参考書によっては、ペースによって呼び名を使い分けている例もあります。例えばジョギング程度のペースで長い距離を走る場合はロングジョグ、ある程度速いペースで走る場合はロングランなどと使い分けます。

 指導者として正しく言葉を定義する必要があれば、明確に言葉を使い分ける必要があります。本記事では、正確に情報を伝えるため下記の定義とさせて頂きます

  • ロングジョグ:Easyペースの中でも遅い方(もしくはEasyペースよりも遅め)での距離走
  • ロングラン:Easyペースの中でも速い方(マラソンペースに近いペース)での距離走

※Easyペースとは、ダニエルズのランニングフォーミュラで使用される名称です。

 距離走は「長い距離を一度で走るトレーニングの総称」とします。

2.距離走で得られる生理学的効果と適正ペース

 距離走の効果を考えるためには適正な設定ペースを検討することが必要です。目的が理解できていれば、適正なペースも自然と理解することができます。

■距離走で得られる生理学的効果

 まず距離走には、ジョギングと同様の効果である、怪我への耐性・心筋の発達・毛細血管新生・活動筋の適応・ミトコンドリアの新生/機能向上を期待することができます。次の記事でジョギングで得られる効果についてまとめています。

 ただ、ジョギングと同じ効果しか得られないのであればあえて長い距離を一度に走る必要はありません。距離走でしか得られない効果もあるから、エリートランナーにも広く取り入れられていると考えます。

 距離走の主目的は「脂肪を優先的に使う能力の向上」であると考えています。

 フルマラソンでは「30kmの壁」が知られています。「30kmの壁」とは筋グリコーゲンが枯渇に近づき、筋収縮がスムーズにできなくなる状態のことを指します。

 従って、マラソンでは筋グリコーゲン(=糖質)を可能な限り使わずに走ることが求められますが、そこで重要なのが脂肪をエネルギーとして使う能力です。

 脂肪は、糖質に比べて代謝するための経路が複雑であるため、糖質よりも消費される優先度が低いです。しかし、継続的な持久性トレーニングによって脂肪を使う機能が徐々に発達し、脂肪を消費できる体に適応していきます。

 脂肪代謝能力を上げるためには、脂肪をエネルギーとして使って走る時間をできるだけ多くすることが必要です。以下では、できるだけ効率よく脂肪代謝能力を向上させる方法を紹介します。

 図1に運動継続時間と脂肪・糖質のエネルギー割合の関係を示しましたが、運動継続時間が長ければ長いほど、脂肪の利用割合が増加していきます。

※以下はパワーズ運動生理学より引用

図1 運動継続時間と脂肪・糖質のエネルギー割合の関係

 図2には、運動強度(%VO2max)と脂肪・糖質のエネルギー割合の関係を示しました。運動強度が弱いほど、脂肪の利用割合が高いことが分かります。

図2 運動強度(%VO2max)と脂肪・糖質のエネルギー割合の関係

 しかし、脂肪を効率よく使用したいからと言って運動強度を下げれば下げるほど良いかと言われれば、そうとは言えません。図3には運動強度(%VO2max)と単位時間当たりの脂肪酸化量を示しました。

 図3からは、運動強度を上げれば上げるほどRERが上昇(=エネルギーに占める糖質の割合が上昇)行くことは分かりますが、同時に脂肪の使用量も増加していることが分かります。

図3 運動強度とRER(呼吸交換比)、脂肪酸化量の関係

 これは、「単位時間当たりの」使用量で考えているため、ある程度までは運動強度を高めたほうが、少ない時間で効率よく脂肪を使えることを意味しています。

 図1~図3で示したデータから、効率よく脂肪を使うための条件は%VO2maxが60%くらいの運動強度でできるだけ長くランニングを継続すること、と言えそうです。

 距離走はジョギングペースで長い時間運動を継続するトレーニングですので、脂肪を使ってランニングする時間を多く稼ぐことができるトレーニングとなるのです。

■基本はEペース

 これまで述べてきた通り、脂肪の代謝能力を向上させることが主目的の場合、距離走での走行ペースは「ジョギングと同じペース=Eペース」が推奨です。VDOT Calculatorを使ったEペースの求め方については次の記事を参考にしてください。

 その他の点で重要なことは「怪我無く、練習を継続し、練習の目的を達成すること」です。

 例えば、ダニエルズ理論では、基本的に「マラソンペース」と「Eペース」の生理学的効果は同じ(効果の大小はある)と紹介されています。脂肪の代謝能力向上が目的であればペースを上げすぎる必要はないということが、これまでの説明からも理解できるかと思います。

 毎回距離走においてマラソンペースで走っていては、負担が大きく怪我も多くなり、長い期間でみると練習を継続できない可能性が高いですよね。練習の継続性距離走の目的をしっかりと把握できていれば、ジョギングペースでも十分に効果があることがわかると思います。

■距離走のペースを上げる場合の意図

 ただし、練習の目的が異なる場合には設定ペースを見直す必要があります。距離走の目的がマラソン大会に向けた模擬トレーニングタイムトライアルであれば、本番と同じマラソンペースに近い速度で走るべきです。

 また、別の記事でも紹介していますが、例えばマラソンペースで60分間のペース走を行うと、Tペースで20分間のペース走を行った場合と同等の乳酸性作業閾値への刺激効果が得られると言われています。

■実業団選手(例:吉田祐也選手)の距離走

 実際にエリートランナーのトレーニングを見てみます。

 例えば、GMOアスリーツの吉田祐也選手。2020年福岡国際マラソンで優勝され、2021年も好調を維持しています。

 彼は練習をnoteで公開していますが、ロングジョグを非常に重要視していて、その走行ペースは3:45~4:00/kmだそうです。フルマラソンを3:00/kmで走ってしまう選手としてはとてもゆったりしたペースです。Easyペースの中でも最も遅い領域、もしくはEasyペースよりも遅めの設定です。

 吉田選手は、ロングジョグ一回当たり120~150分(夏場は90~120分)で行っていたそうです。リディアード理論で推奨されている120分は確保していることがわかります。青山学院時代の考え方を踏襲しているのでしょうか(※青学は原監督がリディアード理論に従ってトレーニング計画を構築)。

3.適正な距離は?

 これまで、距離走は運動継続時間が長ければ長いほど脂肪の利用割合が増加すると述べてきましたが、一度で走る距離には少し注意が必要です。

■怪我予防の観点から、上限距離を決めておく

 はじめに結論を言ってしまうと、距離走は怪我防止の観点から一回で走る距離に上限を決めるべきだということです。

 ダニエルズのランニングフォーミュラでは、一回での走行距離に上限をかけることが推奨されています。

  • 1週間当たりの走行距離が64km未満の方は、週間走行距離の30%以内
  • 1週間当たりの走行距離が65km以上の方は、週間走行距離の25%以内、もしくは150分以下のどちらか短い方

でとどめておくことが望ましいとされています。上限が設けられているのは、怪我防止のためです。

 実業団の選手が30kmを4分/kmのペースで走れば120分で終わりますが、5分/kmの市民ランナーが同様に30kmを走ると150分かかります。

 実業団の方にとっても市民ランナーにとっても、ランニングのペース的には体にかかる負担が同じEペースであっても、市民ランナーのほうが走らなければならない時間が長く、負担が大きいと言えます

 市民ランナーの方が5分/kmのスピードで24kmしか走れなかったとしても、走行時間は120分となるため、十分長いと言えます。

 リディアードのランニングトレーニングでは、怪我防止のために走行距離・時間に上限を設けるべき、というような推奨はありません。リディアード理論では、有酸素能力向上のため「1回当たり2時間以上のランニング」が推奨されています。

 リディアード理論では、トレーニングの期分け(マラソンに向けて時期を段階に分け、段階ごとにトレーニングの内容を変えていくこと)が重要視されていますが、どの段階においても2時間以上のランニングを少なくとも週に一回は継続していくことが提案されています。

 ただし例外として、初心者がマラソン大会で完走を目指している場合やウルトラマラソンに向けたトレーニング等、どうしても練習で長い時間走っておかなければならない時もあるかと思います。そのような場合を除いては、怪我防止のため走行距離に上限を設けながら練習を継続していくようにしましょう。

■距離走で走る1回当たりの距離を伸ばす方法

 体にかかる負担を抑えて怪我を防止しながら、一回で走る距離を伸ばしていくには、普段から走っている距離を徐々に伸ばしていくことがまず優先です。

 ダニエルズ理論では、走行距離を伸ばす時の指標として、一回の練習あたり+1.6kmにとどめ、少なくとも4週間(=つまり1か月)は同距離を維持すべきことが推奨されています。

 具体例を挙げると、1日当たり10km・月間300km程度走っていたランナーが走行距離を伸ばしていくことを考えた場合、まずは1回当たり11.6km程度(=月間で348km)にしておき、少なくとも1か月間は維持するということになります。

 走行距離の伸ばし方に関しては、管理人が実際に怪我を経験してきたうえでとても重要だと思うポイントです。これまで、脚を故障してきた過去を振り返ると、いずれも走行距離を伸ばしたタイミングです。特に膝を痛めてしまった時は、約2~3か月間、棒に振ってしまった結果となりました。

膝の痛みについては、次の記事で紹介しています。

 怪我無く継続的にトレーニングへ取り組むためにも、走行距離を伸ばすときには十分に注意しながら行っていきましょう。

4.実施するタイミング ポイント練習翌日に行うと効果増大

 距離走を実施する適切なタイミング(1週間の練習スケジュールの中で)を考察してみます。

 パターンとしては、ポイント練習の一つとして組み込むか、セット練習(バックトゥバック)2日目のトレーニングとして組み込むかのどちらかだと思います。距離走の目的(有酸素能力の発達)を考えると、セット練習2日目のトレーニングとして組み込んだ方が効果が高いと考えています。

 距離走に初めて取り組む市民ランナーの方には、パターン一つ目である、ポイント練習の一つとして組み込むことをお勧めします。

 ※ポイント練習とは、「ジョギング」とは分けて考える「負荷の高いトレーニング」のこと

 理由としては、まだ長い距離・時間を走ることに慣れていない状態で、急に負荷を上げてしまうことで、怪我のリスクが高くなるからです。 

 経験を積み、距離走にもある程度慣れてきたらポイント練習の翌日に距離走を行うセット練習に取り組んでみてはいかがでしょうか。

 冒頭でも説明しましたが、市民ランナーの方であれば、「30kmの壁」という言葉はよく聞くと思います。30km程度走ったところで体の糖分が使い切られ、急に脚が重くなってしまう、そんなポイントになります。

 距離走では、筋グリコーゲンが減少した状態でランニングを継続することで、練習効果(脂肪の代謝能力向上)が増大すると考えられます。

 前日に負荷が高いトレーニングを行うと、筋グリコーゲンが消費された状態となります。翌日になっても糖分は回復しきっていないことが考えられ、距離走を行う前から、ある程度の糖分は消費された状態となっているため、走り始めから普段よりも脂肪の利用割合が高くなるなります。

 つまり、同じ2時間走る練習でも、脂肪を使う量には「差ができる」わけです。

 以上の理由から、慣れないうちはポイント練習の一環として行うことをお勧めしますが、慣れてきたら是非、ポイント練習の翌日に行うセット練習として距離走に取り組んでみてはいかがでしょうか。

重要ポイント

距離走に慣れないうちはポイント練習の一環として取り組もう

・慣れてきたらセット練習2日目の練習メニューとして組み込んでみよう


・体の糖分(=筋グリコーゲン)が少ない状態で運動を継続することが重要!

 いかがだったでしょうか。これまで、なんとなく距離走を行ってきていた方も、距離走の意味や目的をしっかり理解することができれば、適正ペースや実施するタイミングも見直しできるかもしれません。フルマラソンの記録更新に向けて、効果の高い距離走を行っていきましょう!

参考文献:

著:ジャック・ダニエルズ, 監修:前河洋一, 翻訳:篠原美穂
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