- ミトコンドリアの機能を知りたい
- ミトコンドリアを増やすトレーニング法は?
- マラソンとミトコンドリアの関係性を知りたい
マラソンへ本格的に取り組んでいる方で、ミトコンドリアの機能や、増やす方法について知りたいと思っている方もいらっしゃるのではないでしょうか。
私は、社会人から本格的にランニングを始めた市民ランナーです。月500km程走り、競技志向でランニングへ取り組んでいます。
記録向上を狙って努力をしているランナーの方であれば、乳酸性作業閾値、最大酸素摂取量などの概念は知っていると思います。
乳酸性作業閾値を向上させるためLT走に取り組んだり、最大酸素摂取量向上を狙ってインターバル走をしているのではないでしょうか。
しかし、それらの練習を行った際、体の中でどのような変化が発生するのかまで理解している方はすくないのでは、と思っています。
それらを理解するために重要な考え方がミトコンドリアです。
本記事では 【マラソンにおけるミトコンドリアの重要性】について紹介し、マラソン記録向上で非常に重要な「ミトコンドリアを増やすトレーニング」について考えます。
※本文では難しい反応式は可能な限り無くし、わかりやすく記載することを心掛けています。
- 低強度よりも高強度のトレーニングで「効率よく」増やすことが出来る
- 継続的にトレーニングを行うことが重要
ミトコンドリアとは?
ミトコンドリアとは、人体のあらゆる細胞内に存在し、糖と脂肪を代謝(=消費)し、エネルギーを作り出す、いわゆる「エネルギー産生工場」です。
ミトコンドリアでは、図1の通り、糖と脂肪の両方からエネルギーを作り出すことができます。
糖を消費する経路において「乳酸」が発生します。
ミトコンドリアでは乳酸もエネルギー産生原料の一つとして消費していきますが、運動強度が高くなると、乳酸の産生速度が上昇するため、血中乳酸濃度が上昇していきます。
本記事では乳酸についての記載は割愛させていただきますが、別の記事で、乳酸の代謝や乳酸代謝能力向上についての記事を紹介しています。
ミトコンドリアはなぜマラソンにおいて重要なのか
人間の体に蓄えておける糖質のカロリーは1500~2000kcal(肝臓・血液・筋肉などに備蓄)と言われていますが、フルマラソンでは、3000kcal弱を消費します。
糖質を優先的に消費していく体だと、フルマラソンの途中で「体の糖分を使い切った状態」となってしまい脚が動かない感覚に陥ります。
「30kmの壁」という現象です。
フルマラソンで記録を向上させるためには「長い距離を速く走ること」が必要です。長く速く走り続けるためには、糖をできるだけ切らさないように走り続けることが重要です。
体ができるだけ糖質を使わず脂質を使うようにするためには運動強度を下げる必要があります。図2で示す通り、運動強度が低ければ低いほど、脂質を優先して消費することがわかっています。
脂質を消費してエネルギーに変えていくのはミトコンドリアの役割です。
ミトコンドリアが増え、機能が高まることで、脂質をエネルギーとして使う能力も高まると言えます。
フルマラソンで速いペースを維持する力は、乳酸の処理能力の高さで決まる
自分にとっての「運動強度=きつさ」を決めているのは、「血中乳酸濃度(=乳酸処理速度)」とミトコンドリアによる「エネルギー産生速度と量」になります。
フルマラソンで速いペースを維持するためには、乳酸を処理する力が必要です。
運動強度を下げるためには血中の乳酸を消費し、脂質や糖を代謝してエネルギーに変換してくれる、ミトコンドリアの量と質(=機能)を高めていく必要がある、ということになります。
乳酸処理能力を高めるためにはLT値付近でのトレーニング(LT走)が適しています。LT走のやり方は別記事で紹介しています。
ミトコンドリア増加・機能向上の仕組み
ミトコンドリアは、運動によって、ミトコンドリア生成のためのシグナル分子が増加し、ミトコンドリア新生(=生成)が起こります(図3)。
運動強度が高いトレーニングであればあるほど、ミトコンドリア新生が促進されるのと同時に、ミトコンドリア自体の機能も向上することが過去の実験からわかっています。
次のデータ(図4)は、低い運動強度(40%VO2max)(LO)と高い運動強度(80%VO2max)(HI)のトレーニングをそれぞれ行った際、どの程度ミトコンドリア新生が促進されたのかの結果です。
低い運動強度と高い運動強度でのトレーニングは、条件を合わせるために総消費カロリーを合わせています。
運動してから3時間後のミトコンドリア転写活性化の指標を確認すると、運動強度が高い時の方が2倍以上の活性化が起こっていることが分かります。
※高い運動強度を行った場合に2倍のミトコンドリア生成が起こる、というわけではありません。あくまで活性化の指標になります。
注目したいのは低い運動強度のトレーニングでもミトコンドリア増加が促進されている点です。
高い運動強度の方が効率的にミトコンドリアを増やせますが、低い運動強度であっても、トレーニング量を増やせば、ミトコンドリア量を増やすことは可能である、ということが示されています。
ミトコンドリアを増やすトレーニング方法の考察
現実的にトレーニングで結果を出すことを考えると、「効果および効率」、「継続性」、「時間の制約」の点から考えていく必要があります。
■トレーニング効果と効率
低強度と高強度のトレーニングが、ミトコンドリアに与える影響を深堀して考えます。参考データを載せます。
以下では、異なるトレーニングを行ったA,Bグループに分けて、VO2max及び骨格筋のミトコンドリア量を調査した研究を紹介します。
- Aグループ:20秒×3の高強度トレーニングを3回/週
- Bグループ:45分間の持続運動を週3回
※「低強度=ジョギング」、「高強度=インターバル」と捉えてみてください。
図5では、AトレとBトレが全身持久力(VO2max)と骨格筋におけるミトコンドリア量に与える影響を比較しています。
VO2maxはAトレのほうが向上した一方で、骨格筋ミトコンドリア量ではほとんど「差が無い」ことがわかります。
しかし、運動持続時間には大きな差があります。Aトレが休憩込みでも数分で終わってしまうのに対し、Bトレは45分間の運動です。高強度トレーニングのほうが圧倒的に効率が良いですね。
■トレーニングの継続性
トレーニングの「継続性」という観点から考えてみます。
「継続性」は精神的な面と身体的な面の両面から考える必要があります。
まず精神的な面ですが、インターバルのような高強度トレーニングは「苦しさ=ストレス」を感じます。
主観的な意見にはなりますが、毎日インターバルトレーニングをやれと言われても、私個人的には辛くてやりたくないです。
続いて身体的な面では、主に「怪我のリスク」を考える必要があります。
トレーニングが高強度になればなるほど、怪我のリスクは増大し、トレーニングの継続ができなくなる可能性もあります。
一方、低強度のトレーニングは苦しさを感じることはありません(苦しくない=低強度という定義であるため)。また、強度が低いため怪我のリスクも低く抑えることができそうです。
「継続性」に関しては、低強度トレーニングに軍配が上がります。
■トレーニング時間の制約
主に市民ランナーに向けた条件です。
市民ランナーの多くは、トレーニングに割くことができる時間に限りがあります。仕事・家事・育児・家族との時間等がありますよね。
限られた時間の中で、トレーニングを継続し、マラソンで結果を出すことを考えると、練習の効率を高める必要があります。。
時間が無い中、効率よくトレーニング効果を上げようと思うと、高強度トレーニングを取り入れていく必要がありそうです。
ただ、疲労や怪我のリスクを考えた場合、毎日高強度の練習を行うことが難しいため、低強度トレーニング、つまり、「繋ぎのジョグ」でトレーニングボリュームを稼ぐことになります。
高強度なトレーニングと低強度なトレーニングを組み合わせることで、トレーニングを長期で継続できるようにすることが重要です。
- 【効果】:低・高強度、どちらのトレーニングでもミトコンドリアは増える。
- 【効率】:高強度トレーニングのほうが効率よくミトコンドリアを増やすことができる
- 【継続性】:低強度トレーニングでも、運動時間を増やせば高強度トレーニングと効果が得られるので、継続しやすい。
トレーニング効率を高める手段:ジョグの強度を調整する
ミトコンドリアを増やすためには高強度トレーニングのほうが効率が高いですが、継続性に難があるため、継続しやすいジョギングをつなぎとして取り入れることが現実的です。
普段何気なく「週二回程度のポイント練習と、あとはジョギングでつないでいる」市民ランナーは多いと思いますが、とても理にかなったトレーニング内容であることが分かります。
トレーニング効率を高める手段としてジョギングの強度について考えていきます。
ミトコンドリア増加と機能向上の観点から考えると、繋ぎのジョグでも「強度が高いほうが、ミトコンドリア増加と機能向上には有利」であることは間違いありません。
そのため、単純なジョギングでも、実施するタイミングと目的によって強度を変えていくことが必要だと考えています。
負荷が高いポイント練習の繋ぎとしてジョギングを行う場合は、強度を下げて行うべきです。
一方、次の日に疲れが残っても大丈夫な日にジョギングしか予定していない場合、少しスピードを上げて取り組んでみてもいいかもしれません。
まとめ
では、今回の記事で紹介させていただいたポイントをまとめます。
- フルマラソンではできるだけ脂質を使って走る必要があるため、自分にとっての「運動強度」を下げる必要がある
- 「運動強度」を下げるには、ミトコンドリア増加と機能向上が必要
- ミトコンドリア増加と機能向上には、高強度トレーニングが適しているが、トレーニングの「継続性」を考えると、低強度のトレーニングを織り交ぜてトレーニングを進めるべき
皆さんの記録向上の一助になればと思います。
参考文献:
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