【乳酸はエネルギーの原料】ランニング中に発生した乳酸の代謝メカニズム

 こんにちは。管理人のsyu_hibiです。

 皆さん、乳酸は疲労物質だと思っていないでしょうか。

 結論から言うと、「乳酸はエネルギーを作り出す原料」であり、決して「疲労物質」ではありません。

 乳酸の代謝経路(=エネルギーとしてどのように利用されるのか)を理解することによって、マラソントレーニング各種目の目的を深く理解することができる可能性があります。

 そこで私自身、乳酸の代謝について勉強しましたので、皆さんに紹介していきたいと思います。

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1.乳酸の発生・代謝メカニズム

 ※少し難しい話をします。乳酸の発生・代謝メカニズムに興味が無い方は読み飛ばしてもらっても構いません。

■糖質の代謝経路

 乳酸発生のメカニズムを説明するためには、糖質からエネルギーを作り出す経路の説明が必要です。

 糖質(血中にあるグルコースか、臓器及び筋肉に蓄えられているグリコーゲン)からエネルギー作り出す経路を「解糖系」と呼びます。

 解糖系では、糖質がピルビン酸へと変化します(途中にいくつもの反応がありますが、ここでは省略します)。糖質→ピルビン酸の反応で2ATP(アデノシン三リン酸、エネルギー物質)が発生します(図1)。
※グリコーゲンの場合は3ATPが発生します。

図1 解糖系の模式図

 さらにピルビン酸は、ミトコンドリアに取り込まれると、ミトコンドリアの働きによって完全酸化され、30ATPを生み出します(図1)。

■乳酸の産生と代謝

 運動強度が上昇してくると、必要なエネルギー量が増大するため、まずは解糖系の働きが活発となります。しかし、ミトコンドリアにおけるピルビン酸の取り込み及び完全酸化能力には上限がありコントロースされているため、ピルビン酸が余ってきます(図2)。

図2 ピルビン酸が余り乳酸へ変化

 ピルビン酸濃度が上昇しすぎることを防ぐため、ピルビン酸を乳酸へと変化させる脱水素反応が起こります(反応詳細は省略します)。

 運動強度が低い状態でも、ピルビン酸→乳酸の反応は起きています。しかし、後述しますが、乳酸がピルビン酸へと戻る反応も同時に発生しており(図1)、ミトコンドリアへと取り込まれ酸化されることで、血中の乳酸濃度が上昇しないのです。

マラソントレーニングに当てはめて例を紹介します。

 乳酸→ピルビン酸の反応を経て、ミトコンドリアで完全酸化される反応が間に合う強度は「Eペース」(=血中乳酸値濃度が上昇しない強度)です。

 一方、LT走のように、練習では20分から30分程度しか継続できない強度では、「乳酸→ピルビン酸→ミトコンドリアでの完全酸化反応」の速度が、乳酸発生速度に対して間に合わないため、血中乳酸濃度が上昇します。つまり、このポイントが「LT値=乳酸性作業閾値」です。

 LT走については下記記事で、練習法や大事なポイントを紹介・考察しています。

2.筋繊維種類による乳酸の発生と代謝

 上で説明した通り、乳酸は、急激なエネルギー必要量の増加に伴う解糖系の活発化によって発生が旺盛になります。では、具体的にどの部位で乳酸が発生し代謝されるのでしょうか。

■「速筋繊維」で発生させた乳酸を「遅筋繊維」で消費する

 運動強度を上げていくと、「速筋繊維」の利用割合が高まります。速筋繊維にはミトコンドリアが少ないため、解糖系で発生したピルビン酸を完全酸化する反応が起きにくいです。その結果、速筋で乳酸が溜まっていきます

 一方運動強度が低い状態ではミトコンドリアを多く持っている「遅筋繊維」の動員割合が高いため、常時発生している乳酸がピルビン酸となり、ミトコンドリアで完全酸化される反応が同時に起こっています。

 体全体で考えると、速筋で発生した乳酸が血中に放出され、遅筋に取り込まれたのち、ピルビン酸へと戻り、ミトコンドリアで完全酸化される、という反応が起こります(図3)。このような現象は、「細胞間乳酸シャトル」と呼ばれているようです。

図3 細胞間乳酸シャトル

 乳酸をエネルギーとして利用するのは遅筋繊維だけではありません。ミトコンドリア含有量が多い心筋等でも、乳酸をミトコンドリアを介して完全酸化する反応が発生しています。

■自分自身で乳酸を消費できる「中間型速筋繊維」

 また、もう一つ考えなければならない要素が「中間型速筋繊維(=FOG繊維)」です。FOG繊維は、速筋繊維と同様の力を発揮することができる一方で、ミトコンドリアを多く含むような遅筋繊維の特徴を併せ持ちます

 FOG繊維では、発生させた乳酸を自分自身で処理することができると考えられ、「細胞間乳酸シャトル」を行う必要がありません。そのため、乳酸を発生させてからエネルギーとして使えるまでの時間が短い(=乳酸処理速度が速い)と考えられます。

 別の記事で紹介していますが、速筋からFOG繊維への変化がLT値向上に直結すると考えられるため、トレーニングによるFOG繊維の増加及び機能発達はとても重要なポイントとなります。

3.乳酸の代謝速度を決めている要因と代謝速度向上の考察

 乳酸を素早く代謝することができれば、5000m等の高強度を維持する種目においてのパフォーマンスが向上する可能性があります。

 乳酸が発生してから、消費されるまでの経路(図4)では、①~③の要因が関係しています。

  • ①:乳酸の血中への拡散速度と血中での運搬速度
  • ②:血管から細胞質、ミトコンドリアへの取り込み速度
  • ③:乳酸→ピルビン酸→ミトコンドリアでの酸化速度
図4 乳酸が発生してから完全酸化されるまでの経路

①:乳酸の血中への拡散速度と血中での運搬速度

 主に速筋で発生した乳酸が血中に放出・運搬され、各臓器、遅筋繊維に運ばれる過程でかかわってくるのは「MCT4:乳酸トランスポーター」です。MCT4は主に速筋繊維に多く含まれていることが知られています。

 MCT4は、乳酸が多量に生成されるような高強度のトレーニングを行うことで、増加することが実験的に分かっており、低強度の持久的トレーニングでは増加しないことが認められています。

 従って、MCT4を増やすためにはインターバルペース以上の速筋繊維が多く導入されるペースでトレーニングを行うことが必要だと考えられます。

②:血管から細胞質・ミトコンドリアへの乳酸取り込み速度

 血管から細胞質やミトコンドリアへ乳酸が取り込まれるためには「MCT1:乳酸輸送担体」が必要です。MCT1は心筋や遅筋に多く含まれていることが分かっています。

 MCT1は、MCT4とは違い、持久的トレーニングでも増加します。ただ、高強度トレーニングを行ってもMCT1は増加することが知られています。

③:ピルビン酸→乳酸→ミトコンドリアでの酸化速度

 ピルビン酸から乳酸へ変化するためには、乳酸脱水素酵素(LDH)が必要です。LDHは遅筋繊維が多い筋肉ほど、ピルビン酸から乳酸への反応を促進するLDHが多く含まれています

 LDHの数や活性は、ミトコンドリアの数や活性に関係しており、ミトコンドリアの増加や活性化によって、LDHの数や機能を向上させることができます。従って、ミトコンドリアを増やし、機能を活性させるようなトレーニングが必要です。

 また、ミトコンドリアでのピルビン酸の酸化速度は、ミトコンドリア自体の機能に関わってきます。

 ミトコンドリアを増やすことや機能を向上させることについては、次の記事で紹介していますが、低強度・高強度、どちらのトレーニングでも効果がある事が分かっています。

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4.乳酸代謝を利用したトレーニングアレンジ

 では、乳酸の代謝速度に着目したトレーニング目的について考えていきます。

 主に、乳酸発生が旺盛になってくるのは、LT値でのトレーニングである「LT走」や、「インターバルペース」でのトレーニングになります。

 LT走では、速筋での乳酸産生速度と遅筋での乳酸処理速度がおおよそ釣り合っている最大強度でのトレーニングとなるため、乳酸代謝能力を総合的に向上させるような狙いがあると考えられます。

 一方、インターバルペースでは乳酸の産生速度が処理速度を上回っているため、血中乳酸濃度が上昇することになります。血中に増えた乳酸を、「レスト」を使って処理を進め、次の疾走に備える、ということでしょうか。

 上でも述べた通り、速筋から血中に乳酸を拡散させるMCT4増加は高強度トレーニングでのみ認められるため、LT走よりもインターバルトレーニングのほうが強度が高いことから、MCT4を増加させるためには、インターバルペース以上でのトレーニングが必要だと考えられます。

5.まとめ

 最後に、乳酸の代謝と利用についてのポイントをまとめていきます

  • 乳酸は糖を利用する経路が活発になったときに発生する
  • 乳酸は疲労物質ではなく、「エネルギーの原料」
  • 乳酸は速筋繊維で発生し、遅筋繊維で代謝される中間型速筋繊維では、発生させた乳酸を自分自身で代謝することができる。
  • インターバルのような高強度トレーニングにより、乳酸放出能力を高め、持久的トレーニングにより、乳酸処理能力を高める

 難しい内容にはなりましたが、乳酸の代謝を理解することは、トレーニング内容を目的に沿ってアレンジすることにつながると考えています。

今回紹介した内容を元に、トレーニングの目的を理解してみてください。

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参考文献:

編集:Iñigo Mujika, 翻訳:長谷川 博, 翻訳:中村 大輔, 翻訳:安松 幹展, 翻訳:桜井 智野風, 翻訳:久保 啓太郎, 翻訳:禰屋 光, 翻訳:伊藤 静夫, 翻訳:相澤 勝治, 翻訳:鬼塚 純玲, 翻訳:田中 美吏, 翻訳:安藤 創一, 翻訳:加藤 晴康
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運動生理学
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