【閾値走(LT走)は誤解されている】適切なペース設定方法 | ペース表を公開

- 閾値走(LT走)の具体的なやり方が知りたい
- 閾値走の目的は?
- 自分にとって適切な閾値走のペースが分からない
乳酸性作業閾値(以下LT値)を高めるために、閾値走を効果的に取り入れる方法について悩んでいるランナーの方も多いのではないでしょうか。
私自身の経験として、意図的に「閾値走」を取り入れたことで飛躍的に記録を伸ばすことに成功した体験があります。
閾値走は、別名として「LT走」「テンポ走」「ペース走」と呼ばれたりします。名称についてはその言葉を使う指導者やランナーによって、まちまちです。
長距離のトレーニングとしては非常に重要な閾値走について解説します。ここでは、閾値の意味、閾値走の効果を最大化する方法を紹介していきます。
本記事を読めば、自分の実力に合ったペース設定の閾値走を実践できるようになります。その結果、記録を向上させることができる可能性があります。
閾値走はシンプルな練習ですが、効果が高く、多くの市民ランナーだけでなく、エリートマラソンランナーも取り入れています。
- 閾値走は20~30分間、Tペースで走るランニングトレーニング
- 閾値とはLactate Threshold(乳酸性作業閾値)のことを示す
- 閾値走の主な目的は乳酸処理能力を高めること
- 乳酸処理能力を高める目的であればTペースにこだわる必要はない
- 目標レースがフルマラソンであってもぜひ取り入れておきたいトレーニング
閾値走の定義
本記事では、閾値走について以下のように定義します。ダニエルズのランニング・フォーミュラでの定義と同様です。
最大心拍数の88~92%程度(ダニエルズTペース)で合計20~30分間走るランニングトレーニング
閾値走は「LT走」「テンポ走」「ペース走」などと呼ばれます。言葉を使う人次第ですが、閾値走=テンポ走とされることが多く、ペース走は「少し遅めの閾値走」として使われている傾向があります。
ダニエルズのランニング・フォーミュラではLT走のペースを「Tペース」と呼びます。Tペースは「練習において少なくとも20~30分間は耐えられるペース」です。
体の疲労を抜いて調整した状態であれば「Tペースで60分間は維持できる」と言われています。
閾値走のトレーニングを終えた時、膝に手をつくくらいだと、少しきつすぎます。走り終えた時「後1kmくらいなら走れるかな」と思えるくらいがちょうどいいです。
Tペースで走り続けることは主観的にきつさを感じます。私自身も閾値走を行う前は少し憂鬱になります。
閾値走で得られる効果
閾値走は以下の目的で行います。
- 乳酸性作業閾値の改善(LT値の向上)
- 最大酸素摂取量(VO2max)の向上
- レースペースに対する特異性の向上
閾値走は、乳酸性作業閾値と最大酸素摂取量の両方にアプローチできるトレーニングです。
乳酸性作業閾値の速度(LT速度)は、VO2max・ランニングエコノミー・VO2maxという3つの要素を反映した指標で、長距離走のタイムを最もよく予測する生理学的な指標であることが研究で示されています※1。つまり、LT速度を高めることは、直接レースタイムの向上につながります。
誤解されているのが、「閾値走」という名前から閾値走の目的が乳酸性作業閾値改善のためだけに行っていると思われている点です。
しかし、閾値走は88~92%HRmaxの範囲で走るトレーニングであるため最大酸素摂取量への刺激も確実にあります。(HRmax=最大心拍数。最大心拍数の88~92%。)
また、閾値走自体がハーフマラソンやフルマラソンペースに近いペースであるためレースに対する特異性も向上します。特異性は「ランニングエコノミー」と言い換えることもでき、そのペースをできる限り楽にで走ることができるようになります。
閾値走の具体的トレーニングメニュー
閾値走の具体的トレーニングメニューを紹介します。閾値走は継続的に走り続ける「テンポ走タイプ」とインターバル化する「クルーズインターバルタイプ」があります。
- テンポ走:20~30分間、Tペースで走り続ける
- クルーズインターバル走:テンポ走を分割し、疾走間に短いリカバリーを入れる。
テンポ走とクルーズインターバル走は、同じ設定ペースで行うのが通例です。そのためテンポ走よりもクルーズインターバル走の方が体感的に楽に感じます。結果的にクルーズインターバルの方が合計で走る距離は長くすることができます。
テンポ走のメニュー
最もオーソドックスな閾値走です。20~30分間Tペースで走り続けます。オーソドックスではありますが、閾値走の中では最もきつさを感じます。
テンポ走のメリットは、比較的きついペースを維持する力が付くことです。レースは多少のきつさを耐える力が必要です。トレーニングである程度のきつさに慣れておくと、レースでそのきつさを耐える力が身に付きます。
レースが近づいてきたときにはレースに対する特異性を高めることも意識したいため、特にテンポ走が有効です。
- 6000m @ハーフマラソンレースペース
単独(1人で走る)で行うテンポ走のペース目安は、ハーフマラソンでのレースペースです。
クルーズインターバル走のメニュー
クルーズインターバル走ではテンポ走を分割し、間に短いリカバリーを入れます。リカバリーの時間は疾走時間の20%程度です。
レストはジョギングです。疾走で一時的に高まった血中乳酸濃度は、低強度の有酸素運動を続けることで筋肉や心臓のエネルギー源として利用されて消費されます。レストは乳酸を代謝しながら次の疾走に備える、トレーニングの重要な一部です。
クルーズインターバルのメリットは、きつさが分散されるため練習に取り組みやすく、テンポ走よりもボリュームを稼げることです。分割されることで精神的なきつさは軽減されながらもトレーニング効果はテンポ走とさほど変わりません。
- 2000m * 3 レスト1minジョグ @ハーフマラソンレースペース
- 3000m * 2 レスト2minジョグ @ハーフマラソンレースペース
クルーズインターバルであっても、ペースはテンポ走と同じです。ペースを上げてしまうとトレーニングの目的が変わってきてしまうので注意が必要です。
Tペースよりもペースを落とした「ペース走」について
ランナーの間では、Tペースよりもペースを落としたペース走も多く行われています。本記事では、Eペースよりもペースを落としたペースでいてい時間走るトレーニングを「ペース走」ということにします。
ペース走の効果
結論から言うとTペースより設定ペースを落としても、LT値改善の効果を得ることは可能です。ただし、Tペースでのテンポ走とTペースよりもペースを落としたペース走では明確な違いがあります。
それは「最大酸素摂取量に対する刺激」です。
Helgerud et al.(2007)※2 の研究では、4つのトレーニング強度(70%・85%・90〜95%HRmax)を比較した結果、最大心拍数の90%以上で行うインターバルトレーニングでVO2maxが最大13%改善し、心拍出量も有意に向上しました。
一方、それ以下の強度ではVO2maxの改善幅が小さいことも示されています。
したがって、88%HRmax~92%HRmaxの範囲で行うテンポ走では最大酸素摂取量向上に対して効果があることが予想されますが、それよりもペースを落としたペース走は、最大酸素摂取量に対しての効果はほとんどない可能性があります。
一方で、乳酸性作業閾値の改善を目的としている場合は、Tペースよりもペースを落としたペース走でも効果を得ることができます。
ペースの一覧表(ダウンロード可能)
ペース走でどれくらい走ればいいのか、について紹介します。
Tペースからマラソンペースの間でペースを変化させたときに、同等の負荷を体に与えたいと考えた場合、およそどのくらいのペースでどれくらいの時間走ればよいかがわかる閾値走のペース表を準備しました。
こちらの表で今回着目する点は、T-paceの列です。この表が意味するところは、「Tペースで20分走ることと同等の負荷に設定するために、少し落としたペースでは何分走る必要があるのか」ということです。
例としてハーフマラソンを1時間14分40秒で走る実力がある場合のTペースで見てみます。Tペースは3:32/kmです。3:32/kmで20分間走るとTペースのテンポ走になります。
では、「3:39/km」にペースを落とした場合、何分走れば同じ負荷になるかというとこの表から「40分間」になります。

スイートスポットトレーニング(SST)
Tペースよりもペースを落としたペース走は、別名でスイートスポットトレーニング(SST)と呼ばれます。自転車競技者の間では有名なトレーニング強度ですが、ランナーの間ではそこまで普及していない考え方です。
スイートスポットは、血中乳酸濃度が2.0~4.0mmol/L程度の領域を意味し、およそマラソンペース前後となります。体に疲労を溜めずにトレーニングボリュームを稼げる強度であり、効果的なランニングトレーニングの一つです。
閾値走のペース設定方法
閾値走はトレーニングにおいて20~30分間維持できるペースで走るトレーニングであり、高い効果を得るためには適切なペース設定が必要です。
これまで述べてきた通り、設定ペースはおよそハーフマラソンのレースペースとなります。目標とするレースペースではなく、あくまでも現時点での実力に合ったレースペースです。閾値走のペース設定方法を紹介します。
VDOT Calculatorを使う
設定ペースを決めるための指標として「VO2max(VDOT・最大酸素摂取量)」があり、自分の直近レース結果からトレーニングの適正ペースを求めることができます。「Jack Daniels’ VDOT Running Calculator」です。

将来的なレースでの目標や、今の実力とはかけ離れた過去の自己ベスト等を元にしてはいけません。あくまでも、今走れるペースを参考にすることで適切なペース設定となります。
心拍数や主観的強度を基準に決める
設定ペースを決めると「タイムに追われてしまって精神的にきつい」と感じる場合は、心拍数や主観的強度でトレーニングを行うことを推奨します。
ダニエルズのランニング・フォーミュラでは、閾値走のペース「Tペース」が、「トレーニングを十分に積んだランナーとそうでないランナーで目標強度が異なる」と述べられています。
- 経験を積んだランナー:88~92%HRmax(Zone4)
- それ以外(初心者~中級者)のランナー:80~86%HRmax(Zone3)
これらの心拍数目標は、あくまでもLT走後半における心拍数です。走り始めはもっと低い心拍数になります。
心拍数を使ってトレーニングを行う場合は、腕時計の心拍計では難しいです。測定精度に限界があり、トレーニングで使うには不適切です。
心拍数を使ったトレーニングを行う場合は、胸ベルト式の心拍計かアームバンド式の光学心拍計を使用します。アームバンド式は腕時計と同じ測定技術を使っていますが腕時計と測定位置が異なるので、精度が向上します。
おすすめの心拍計や心拍計の選び方は、次の記事を参考にしてください。私自身はCOROSのアームバンド型心拍計を使用しています。
閾値走の効果例:ハーフマラソン記録向上
閾値走が効果的だった私自身の例を紹介します。
閾値走が重要な練習であることを体感したのは、閾値走を取り入れたことで自分自身のハーフマラソン記録が劇的に向上したときです。
私が閾値走を始めてからの、ハーフマラソン記録と閾値走のペースをグラフにしました。私が行っていたのは、最もオードソックスな20分間の閾値走です。

グラフでは、横軸が実際に行っていた閾値走のペース、縦軸がハーフマラソンの記録(実際のレース記録)になります。すべてのプロットが直線に並んでいて「閾値走のペースがハーフマラソンの記録に直結すること」が分かります。
LT値(乳酸性作業閾値)付近で行う閾値走は、ハーフマラソンに対してとても特異的なトレーニングであると言えます。
また、ある程度余裕を持ってこなせる練習での閾値走のペース設定から、ハーフマラソン本番で走れるタイムを予測することもできるようになりました。トレーニングの段階で「レースでどのくらいで走れるか」を正確に推測できるようになりました。
閾値走で大事だと思うこと
閾値走は、乳酸の処理能力を向上させLT値を改善し、最大酸素摂取量の向上も狙えるトレーニングです。ハーフマラソンやフルマラソンに向けた特異的なトレーニングにすることもできる、万能な練習方法です。
閾値走を行う上で、大事なことを2点紹介します。
練習の継続性と強度のコントロール
閾値走を行う上で大事なことの一つ目は練習の継続性と強度のコントロールです。
長距離種目における持久性トレーニング全般に言えることですが、繰り返しトレーニングを行うことで効果を得ることができます。特にLT値改善は効果が出るまでに時間がかかる能力です。
トレーニングが辛すぎて継続できないと、狙った効果が得られない可能性があります。
そのような場合は設定ペースではなく、心拍数や主観的なきつさでトレーニング強度をコントロールすることがおすすめです。その日の身体の調子によって、同じペースでもきつく感じることがあるためです。
心拍数や主観的強度で管理すれば、ペースにこだわらず、自分が狙った強度でトレーニングを行える確率が高まります。トレーニング強度を適切に設定できると「練習での失敗(=決めたペース・本数をこなせない)」が減ります。
レースで実力を安定して発揮するためにはトレーニングの「再現性」が重要
トレーニングの再現性とは、同じ時間・同じコースであれば、同じタイム設定・主観的きつさで練習をこなすことができる、ということです。
レース当日はその場で与えられた条件で走るしかありません。
練習では、走る時間帯・食事の条件等はある程度コントロールできるので、できる限り毎回、練習の条件を合わせて閾値走を行うことが重要です。
再現性高く閾値走を行っていると、同じペースで走っていても「前より楽になったな」と思えるようになります。自分の調子の上下や、実力が向上したかどうかなどを感じ取ることができるようになります。
そうすることで、レースにおいてもトレーニングと同様の「再現」ができるようになってきます。同じペースでも楽に感じてきたら徐々に設定ペースを上げましょう。自然とレースの記録も向上していきます。
参考文献
※1 Bassett DR Jr, Howley ET (2000) “Limiting factors for maximum oxygen uptake and determinants of endurance performance” Medicine & Science in Sports & Exercise
※2 Helgerud J, Hoydal K, Wang E et al. (2007) “Aerobic high-intensity intervals improve VO2max more than moderate training” Medicine & Science in Sports & Exercise






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