【LT走(閾値走)】効果を上げる練習方法(ペース設定等)を考察

 こんにちは。管理人のsyu_hibiです!

 長距離のトレーニングとしては非常に重要なLT走(閾値走)についての考察をしていきます。LT走はシンプルな練習ですが、効果が高く、エリートマラソンランナーも取り入れています。

 本記事を訪れた方の中には、既にLT走についてある程度知っている方もいれば、まだトレーニングに取り入れたことが無い方まで様々かと思います。

 本記事では、LTの意味練習ペースのバリエーション、私自身がLT走を行う上で大事にしていることを紹介します。LT走の効果を最大化する方法も考察していきます。

 ※本記事は主に私自身の実体験と、「ダニエルズのランニングフォーミュラ」を参考にしています。

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1.LT走とは?目的は?

 LTとはLactate Thresholdの略語です。日本語に訳すと乳酸性作業閾値となります。

図1 LTとOBLA

 図1のように、低い運動強度までは血液中の乳酸値に変化が見られませんが、ある一定強度を超えると血中の乳酸値が急激に高まってくる領域があり、その値のことを乳酸性作業閾値(LT値)と呼んでいます。

 血中乳酸濃度で言うと、2~4mmol/Lであることが知られています。特に、血中乳酸濃度が急増し始める4mmol/Lの時の運動強度の事をOBLA(Onset of Blood Lactate Accumulation)と呼びます。

 広い意味で捉えると、LT走とは「LT値を高めるランニングトレーニング全般」を指すことになります。一般的にLT走と言うと、単にLT値付近で走るペース走の事を指す場合もあります。

 LT値付近でランニングを継続することにより、乳酸の処理能力を高めることができます。その結果、同じ血中乳酸濃度でも、徐々に速く走れるようになります(=乳酸の処理速度が早くなる)

※「乳酸が溜まってくること=脚が動かなくなること」ではありませんが、血中の乳酸をどれだけ早く処理できるかが速いスピードを長く持続できるためのポイントになります。

 血中乳酸濃度を一定に保ちながら、より速く走るためには、乳酸の生成を抑え、かつ、乳酸を素早く処理できるようになることが必要です。なぜなら、血中の乳酸濃度は乳酸の生成速度乳酸の処理速度で決まるからです。

 ただし、乳酸の生成を抑えることと、乳酸を素早く処理することは、全く別のメカニズムです。

 LT走は、糖分解による乳酸生成が旺盛になる運動強度で行うため、発生した乳酸を素早く処理していく能力を高めることに注目したトレーニング手法です。

 一方、乳酸をそもそも発生させないためには、脂質をエネルギー源として使う体に適応させていく必要があります(脂質代謝のメカニズム)。

 乳酸の処理速度は、筋肉からの乳酸放出能力・血管での乳酸運搬能力・ミトコンドリアでの酸化能力によって決まります

 LT走ではこれらの能力を高めることが主目的です。

■閾値トレーニング(LT走)は中距離種目でも有効である

 閾値トレーニングは、長距離種目だけでなく、800mや1500mなどの比較的短い種目にも非常に有効なトレーニングです。

 次の記事ではLTを改善するためのトレーニングバリエーションを紹介していますが、一般的に知られているLT走(ペース走やテンポ走)は閾値を改善するためのトレーニングの内の一つにすぎません。他にも閾値を改善するトレーニングは多くあり、狙っているレースや目的によって使い分けていく必要があります。

 2021年に行われた2020東京オリンピックの1500mで優勝したヤコブ・インゲブリクトセンは、トレーニングにおいて閾値の強化を主目的としてトレーニングメニューを組んでいるようです。

 このように、閾値トレーニングはマラソンだけでなく、長距離種目全般的に重要であると言えます。

2.LT理解:糖の利用が高まることとLT

【血中の乳酸濃度が増加する=糖質の利用が高まっている】

 これが、LT値について理解するための、最も重要なポイントになります。

 「糖質」と「乳酸」は切っても切り離せない存在です。なぜなら、「糖質」が解糖されると「ピルビン酸」が発生しますが、「糖質」の利用が高まってくると、「ピルビン酸」が余るようになるため、「乳酸」に形を変えるからです。詳しくは、次の記事でメカニズムを説明しています。

 従って、糖質の利用が高まることが、乳酸値が上昇する条件なのです。

3.LT値がマラソンにおいてなぜ重要なのか

 マラソンは、42.195kmをできるだけ速いペースで走りきる競技です。走り始めからペースを上げすぎると「30kmの壁」に阻まれ、大きくペースダウンしてしまいます。

 次の記事で紹介している通り、マラソン途中で大きくペースダウンしてしまう現象、通称「30kmの壁」は筋グリコーゲンが枯渇し筋収縮運動がスムーズにできなくなることが原因です。そのため、フルマラソンでは、できるだけ「糖質を節約した走り」が求められます。

 一方、糖質の利用を節約するだけでは、マラソンのタイム向上を望むことはできません。速いペースで走るためには、糖質を使ってスピードを発揮する必要もあります

 上記で説明した通り、糖質消費が盛んになるポイントがLT値です。糖質を沢山使いつつ発生した乳酸を処理できる速度を高めることで、高速ペースを維持できるようになります。

 そのため、マラソンにおいては脂質をエネルギー源として使って乳酸の生成を抑えつつ、糖質を使った時に発生する乳酸を素早く処理していくことが重要であり、その能力を表す「LT値」をできるだけ引き上げることが、記録向上にとても重要だと言えるのです。

4.LT走の特異性:ハーフマラソン記録との関係性がとても強い

 特にLT値付近でのペース走やテンポ走が効果的だった例を紹介します。

 私自身、LT走が非常に重要な練習であることを体感したのは、自分自身のハーフマラソン記録ととてもよく関係がある事が分かってからです。私がLT走を始めてからの、自身のハーフマラソン記録とLT走のペースをグラフにしてみました(図2)。

 ここでは特に、LT走=約20分間で行うペース走、として話を進めています。

図2 ハーフマラソン記録とトレーニングにおけるLT走の設定ペース

 グラフでは、横軸が実際に行っていたLT走のペース(1km当たり)、縦軸がハーフマラソンの記録(実際のレース記録)になります。すべてのプロットが直線に並んでいます。これは、「LT走のペースがハーフマラソンの記録に直結すること」を意味します。

 ダニエルズのランニングフォーミュラでは、閾値付近でのペースを「Tペース」と呼んでいます。Tペースは、調整をすればレース当日60分間維持できるスピードと紹介されています。

 高いレベルになると、ハーフマラソンはおよそ60分~80分の競技ですので、ハーフマラソンでのペースはほぼTペースであると言えます。

 別の言い方をすれば、乳酸性作業閾値付近で行うLT走は、ハーフマラソンに対してとても特異的なトレーニングであると言えます。

 また、普段の練習でこなすことができているLT走のペースから、ハーフマラソンで走れるタイムを予測することもできるようになりました。

 レースにおいて自己ベストを達成するには、オーバーペースにならないよう今の実力に見合った目標タイムを適切に設定することが重要だと考えています。

5.LT走の適切なペース設定・トレーニングバリエーション

 重要なので再び記載しますが、LT走とは広い意味で捉えると「閾値(LT値)を改善するためのランニングトレーニング」と言えます。

 以下では、ダニエルズのランニングフォーミュラで紹介されているLT走のペース設定やトレーニングバリエーションについて紹介します。

■ダニエルズ理論の紹介

 LT走におけるペースは、ダニエルズ理論によると練習において20~30分間維持できるスピードと紹介されており、Tペースと呼ばれています。

 主観でトレーニング強度を判断することは少し難しいですが私自身の例を紹介します。LT走のトレーニングを終えた時、膝に手をつくくらいになってしまうのは、少しきつすぎるのかなと考えています。走り終えた時、「後1kmくらいなら走れるかな」と思えるくらいがちょうどいいです。

 LT走中の適切な心拍数は最大心拍数の約88~92%となります。私の場合、最大心拍数が190当たりなので、LT走中は170を超えたあたりが適切です。走り始めは目標心拍数よりも低い値になると思いますが、LT走を終える頃には目標心拍数かむしろ少し超えるくらいになると思います。

 この心拍数域で走り続けることはきつさを感じます。私自身、LT走を行う前は少し憂鬱になります。

 

 トレーニング強度を決めるための別指標として「VO2max(VDOT・最大酸素摂取量)」というものがあり、自分の直近レース結果からトレーニングの適正ペースを求めることができます。「Jack Daniels’ VDOT Running Calculator」です。

 VDOT計算機の使い方は、次の記事で詳細に解説していますので、今まで使ったことが無い方は是非参考にしてみてください。

 ペース設定を算出する際に気を付けたいことが、「今の自己ベスト」を元にすることです。将来的なレースでの目標や、今の実力とはかけ離れた過去の自己ベスト等を元にしてはいけません。あくまでも、今走れるペースを参考にすることで適切なペース設定となります。

■LT走のバリエーション①:テンポ走

 最もオーソドックスなLTトレーニングです。20~30分間、Tペースで走り続けます。オーソドックスではありますが、LT走の中ではもっともきついと言えるかもしれません。テンポ走のメリットとしては、比較的きついペースを維持する力が付くことです。

 一般的にはペース走と呼ばれることも多いトレーニングになります。

 特に10000mやハーフマラソンレースが近づいてきたときには有効なトレーニング手法であると言えます。

■クルーズインターバル走

 テンポ走を分割し、間に短いリカバリーを入れるトレーニング手法です。リカバリーの時間は、疾走時間の20%程度が望ましいとされています。例を挙げると、2km×4(レスト1分)・3km×3(レスト2分)などです。

 リカバリーは歩くのではなくEペースでジョギングしましょう。リカバリー中は疾走中に蓄積された乳酸を分解するタイミングでもあるため、トレーニングの重要な一部と言えます。

 クルーズインターバルのメリットは、きつさが分散されるため練習に取り組みやすいということ、テンポ走よりも合計で長い時間、閾値への刺激が入ることです。リカバリー中も乳酸処理は進むため、精神的なきつさは軽減されながらもトレーニング効果はテンポ走とさほど変わりません

 クルーズインターバルで走る合計の距離は、テンポ走よりも少しだけ長くするようにしましょう。そうすることでテンポ走と同程度、もしくはそれ以上の効果を得ることができます。私自身、クルーズインターバルをやる前のほうが、テンポ走よりも少しだけ気持ちが楽です。

■LT値ペースよりも、ペースを落とした「ペース走」

 LTペースより設定ペースを落としても、閾値への刺激を入れることは可能です。

 ペース設定のバリエーション詳細は下記記事で紹介していますので、是非ご参照ください。LT走の幅が広がると思います。

 上で紹介してきたTペースでのテンポ走は、想像以上に苦しいです。しかし、少しペースを落とすだけで、走り始めを楽に感じることができるため、練習前の憂鬱感や精神的ハードルが軽減されます。

 また、設定ペースを落とす代わりに疾走時間を長くとるため、その分特異的なトレーニングにすることが可能です。その一例がマラソンペースでのペース走であり、マラソンペースまで速度を落とした場合は60分間の疾走時間をとれば、20分間のTペースによるテンポ走と同等の効果を得ることができるようです。

6.LT走で大事だと思うこと:練習の継続性と強度のコントロール

 LT走は、乳酸の処理能力を向上させ閾値を改善するトレーニングでありながら、特異的なトレーニングにすることもできる、万能な練習方法です。

 長距離種目に向けたトレーニングにおいて重要なことは練習の継続性と強度のコントロールです。

 持久性トレーニングでは、一回のトレーニングだけで効果が大きく表れる、ということはありません。特に閾値改善は効果が出るまでに時間がかかる能力です。練習を継続して行っていき積み上げていくことで、効果を得ることができます。

 トレーニングが辛すぎて継続性に難がある場合には、Tペースにこだわる必要はありません。上でも紹介した通り、Tペースでなく少しペースを落としたとしても、疾走時間を調整すれば、同様の効果を得ることができます

 また、設定ペースではなく、心拍数でトレーニング強度をコントロールすることもおすすめです。

 重要なのは血中乳酸濃度であり、「心拍数=血中乳酸濃度」とは言い切れないことは既に分かっていますが、おおむね心拍数を把握しておけば、血中乳酸濃度をざっくりとコントロールしながらトレーニングを行うことができます。

 トレーニング強度を適切に設定できると、いわゆる「練習での失敗(=決めたペース・本数をこなせない)」が少なくなり、結果的にトレーニング効果を高めることができます。

心拍数とトレーニング強度の関係等は次の記事で紹介していますので是非参考にしてみてください。

 心拍数で練習強度をコントロールしていく場合は、腕時計の光学心拍計だけでは不足します。理由としては、光学心拍計は今の技術では心拍数の急上昇及び急低下に対応しきれない面があるためです。

 心拍数を正確に把握するためには、胸に装着するハートレートセンサーが必要です。

■レースで実力を安定して発揮するためにはトレーニングの「再現性」が重要

 トレーニングの再現性とは、同じ時間、同じコースであれば、同じタイム設定・主観的きつさで練習をこなすことができる、ということです。

 レース当日の、体の状況、気候等、自分で完全にコントロールはできないですよね?その場で与えられた条件で走るしかありません。レースの時期、レース会場までの移動方法、移動時間等は毎回違うはずです。

 練習では、走る時間帯・食事の条件等はある程度コントロールできるわけですから、できる限り毎回、練習の条件を合わせて、同じタイム設定でLT走を行うことが非常に重要です。そうすることで、レースにおいてもトレーニングと同様の「再現」ができるようになってきます

 また、再現性高くLT走を行っていると、同じペースで走っていても、「前より楽になったな」と思えるようになってきます。それこそが練習の効果が出ている証拠です。楽に感じてきたら徐々に設定ペースを上げましょう。自然とレースの記録も向上していきます。

 先にも述べましたが、LT走を毎回同じ条件で行い再現性を高めることで、LT走でこなせているペース設定からレース当日の目標タイムを予測することもできます。

重要Point

LT走は毎回条件(走る時間・場所)を合わせて取り組もう!「練習の再現性」が重要

 いかがでしたでしょうか。

 閾値トレーニングは、中距離種目でさえ必要不可欠です。トップエリートランナーのオフシーズンにおけるトレーニングメニューを見ても、閾値改善を主目的としたトレーニングが多く組み込まれていることが分かります。

 インターバルトレーニングを一生懸命行っているのに、なかなか記録が伸びない、と悩んでいる方がいらっしゃったら、一度、じっくり閾値改善に取り組んでみてはいかがでしょうか。

参考文献:

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