【マラソンにおけるスプリントトレーニングの重要性】速筋繊維と遅筋繊維両方に働きかけるべき理由

こんにちは。管理人のsyu_hibiです。

 フルマラソンを走りきれるペースはLTペース(乳酸性作業閾値)以下であり、後半まで足を止めず走りきるには、できるだけ糖質を使わないように適応させていく必要があるということを、本ブログで何度か述べてきました。

 脂質を優先的に使う体に適応していくためには、脂質を酸化しエネルギーに変換する能力を鍛える必要があり、長い時間をかけたジョギングやLT走に取り組んでいく必要があります。

 しかし一方で、マラソントレーニングにはウィンドスプリントレペティショントレーニングなどの、短距離で高強度なトレーニングも、広く認知され行われています。

 それらトレーニングには、ランニングフォーム改善によるランニングエコノミー(ランニング効率)向上という目的もありますが、実際にランニングフォームが変わるところまでトレーニングをやり切るのは結構難しいことです(指導者がいない状況でフォーム改善することは難易度が高いことです)。

 そう考えると、短距離で高強度なスプリントトレーニングの効果を、体の機能改善という面に着目して考える必要があるのではないかと考えました。

 今回は、「スプリントトレーニング」による体機能への効果を考察し、マラソンへの必要性を検討していきたいと思います。

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1.競走馬(サラブレッド)の例

 スプリントトレーニングの効果を考察していく前に、最も典型的な例であるサラブレッド(競走馬)について紹介します。

 サラブレッドは1000m~3600mを1分/kmを切るペースで、しかも、騎手を載せて走り切ります。サラブレッドの筋繊維や代謝機能は、ランニングパフォーマンスを決める因子を考えるうえで非常に参考になります。

 サラブレッドの中臀筋を採取すると、なんとその90%が速筋繊維であり、さらにその半分がタイプⅡaに分類される中間型速筋繊維(FOG繊維)であるということが知られています。

 FOG繊維とは速筋繊維と遅筋繊維の中間的な能力及び特徴を持った筋繊維です。ミトコンドリア量や筋グリコーゲン量、筋収縮速度等の特徴が、速筋及び遅筋の間に位置している、ということになります(ここでは筋繊維に関する詳細説明は割愛します)。

 サラブレッドの高強度運動時には、血中乳酸濃度が20mmol/Lに到達します。人のLT値が2~4mmolあたりにある事を考えると、非常に高い血中乳酸濃度です。

 しかし、サラブレッドは、発生させた乳酸をそのまま処理できるFOG繊維を多く持っているので、ハイペースを長い時間維持し続けることができると考えられています。

※サラブレッドは、心臓の能力も高く、最大酸素摂取量が160~180ml/kgにまで到達することもあるようです。

2.競技毎の筋繊維特徴 同競技における記録毎の特徴

 競技毎に筋繊維組成には特徴がある事が知られています。

 短距離選手は、長距離選手に比べて速筋繊維の割合が多いことが知られています。一方、長距離選手は他種目の選手に比べ、遅筋繊維の割合が多いです。

 ただし、同じマラソン選手の中で比較すると、記録と筋組成には相関がみられないことも分かっています。わかりやすく言うと、同じ「フルマラソン」という種目の中では、選手同士での比較をしても、遅筋繊維が多いほうがマラソンの記録がいいとは言えない、ということです。

3.筋繊維タイプの変異(速筋繊維に遅筋繊維の性質を持たせる)による効果

 マラソンで好記録を出すためにはできるだけ「速い」ペースで「走り続ける」という、2つの要素を向上させることが必要です。「走り続ける」についてはミトコンドリアでの脂肪酸化能力を向上させることが必要であり、脂肪を使う強度帯でのトレーニングを長時間続けることが有効です。

 一方「速い」については、LT値を底上げし、脂肪を使いつつハイペースを維持できる力を身に付ける必要があります。そこで重要になってくるのが「FOG繊維」だと考えられます。

 FOG繊維は、速筋繊維でありながら遅筋繊維の特徴を持った筋肉です。つまり、ミトコンドリアを多く含むため、脂肪を使う能力が高いことに加え、強い力を発揮し続けることができます

 これらの事から、トレーニングでLTが高まるということは、「速筋繊維が遅筋繊維化(=FOG繊維化)した」と言い換えることができます。その概念図を図2に示します。

図2 速筋繊維の遅筋繊維化によるLT向上

 もちろん、遅筋繊維におけるミトコンドリア増量や機能向上による糖質及び脂肪の酸化能力向上がLT値向上に寄与している部分もあると考えられますが、LTペースに近いほど、FOG繊維の動員が多くなり、FOG繊維の重要性が増してくるのではないかと考えられます。

 LT値の向上は、フルマラソンで記録を向上させるうえで非常に重要な要素です。従って、速筋繊維をFOG繊維化するアプローチも、フルマラソンでの記録向上に必要なことだと言えます。

速筋繊維がFOG繊維化することによる効果

脂肪をエネルギー源として使用しながら強い力を発揮し続けるFOG繊維を増やしていくとLT値向上が期待できる。結果として、マラソンにおいて維持できるペースが上がる。

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4.速筋繊維に遅筋繊維の特徴を持たせる(FOG繊維化)トレーニング

 ここまで、速筋繊維に遅筋繊維の特徴を持たせることでFOG繊維化することが、フルマラソンにおけるペースアップのカギである、ということについて述べてきました。

 では実際のランニングトレーニング方法に落としこんで考えていきます。

 速筋繊維をFOG繊維化するということは、「速筋繊維のミトコンドリア数および機能を高めること」と言い換えることができます。そのためには、速筋繊維が動員される強度でのトレーニングが必要となります。

■高強度トレーニングの効果例:サラブレッドの例

 高強度トレーニングによって高強度運動時のエネルギー代謝がどのように変わるのかを調査するため、サラブレッドに110%VO2max強度(ランニングトレーニングに当てはめた場合、およそ1000mレースペース)で3分間の高強度トレーニングを9週間行いました。

 その結果、解糖系酵素活性は高まらず、ミトコンドリア酵素活性及び脂肪酸酵素活性が高まったとの結果でした(図1)。ラットでも同様の結果が得られているようです。

図1 高強度トレーニング時の各酵素活性

 この結果から言えることとして、糖質を多く消費する強度帯のトレーニングであっても、脂肪利用能力及び乳酸利用能力(=ミトコンドリア活性)を高めることができ、ということです。

 また、速筋繊維の乳酸及び脂肪の酸化能力が高まるということは、「FOG繊維化する」ということと同義です。つまり、高強度トレーニングの継続的実施により、速筋繊維のFOG繊維化が達成されていることになります。

■速筋繊維を動員するランニングトレーニング具体例

 速筋繊維を動員できる強度帯のトレーニングは下記が考えられます。

  • レペティショントレーニング以上の強度で行うスプリントトレーニング
  • ヒルトレーニング(坂ダッシュ等)
  • ※ウェイトトレーニング
  • ※速筋繊維を動員せざるを得なくなるまで、ジョギングを継続する(=ロングジョグ)
  • ※→ともに明確な根拠は見つかっていないが一般的に述べられている事項です

 おそらく皆さんは、「ヒルトレーニング(坂ダッシュ)は効果的」「ウィンドスプリントは必要」だということを感覚的には分かっている方が大半だと思いますが、それはトレーニングの中で「速筋繊維」に刺激を入れることができる、ということが理由の一つなのではないでしょうか。

 ウェイトトレーニングについて、そのマラソンについての必要性や効果的なトレーニング方法等を別の記事で紹介しています。

中間型速筋繊維(FOG繊維)への変化

速筋繊維を動員する高強度トレーニング(VO2max100%以上)を行うことで、速筋繊維のミトコンドリア活性及び脂肪酸化能力向上することが認められる。継続的に行うことでFOG繊維化していくことと同義。具体的マラソントレーニングに当てはめると、ウィンドスプリントやヒルトレーニング、レペティショントレーニングが挙げられる。

5.スプリントトレーニングがなぜフルマラソンに必要なのか?重要ポイントまとめ

 では、ここまで話してきた内容をまとめます。

重要ポイントまとめ>>

マラソンにおいて「速いペース」を維持するためには中間型速筋繊維であるFOG繊維を増やしていく必要がある
LT値が向上することは、一部、速筋繊維がFOG繊維化することで説明することが可能である
速筋繊維が動員される強度で継続的にトレーニングを行うことで、速筋繊維のミトコンドリア活性や脂肪酸化活性が高まる
速筋繊維を動員できる具体的ランニングトレーニングは、レペティショントレーニングやヒルトレーニングである

 いかがでしたでしょうか。市民ランナーであると、なかなかレペティションペースでのトレーニングを行う機会は少ないのかなと感じます。私自身も、陸上競技場が使えないと、なかなかアスファルトでレペティションペースでのトレーニングはやりにくいなぁと感じています。

 ちょうどいい坂や、道を見つけて、少しづつでも速筋繊維を動員するような強度でスプリントトレーニングを行うことで、フルマラソンで記録向上につながるかもしれません。

是非、トレーニングメニューへの導入を検討してみてください。

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参考文献:

編集:Iñigo Mujika, 翻訳:長谷川 博, 翻訳:中村 大輔, 翻訳:安松 幹展, 翻訳:桜井 智野風, 翻訳:久保 啓太郎, 翻訳:禰屋 光, 翻訳:伊藤 静夫, 翻訳:相澤 勝治, 翻訳:鬼塚 純玲, 翻訳:田中 美吏, 翻訳:安藤 創一, 翻訳:加藤 晴康
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運動生理学
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syu_hibi

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