- フルマラソン用のトレーニングとしてスプリントトレーニングって必要?
- ウィンドスプリントの効果は?
- スプリントトレーニングのやり方が知りたい
本記事ではこんな疑問を解消します。
私は社会人から本格的にランニングを始めた市民ランナーです。月500km程を走り競技志向でランニングに取り組んでいます。
ここでは、ランニング・マラソンのトレーニングとして広く知られているスプリントトレーニング(ウィンドスプリントなどとも呼ばれます)の必要性や効果を徹底解説します。
市民ランナーが取り入れやすいスプリントトレーニングのメニュー例も紹介します。
本記事を読めば、マラソントレーニングとしてなぜスプリントトレーニングが必要なのかを理解することができ、自分自身のトレーニングに取り入れるかどうか判断することができます。
- スプリントトレーニングでは速筋繊維を動員することができる
- 速筋繊維を刺激することで中間型速筋繊維への変異を促すことができる
- 中間型速筋繊維の強化がLT値向上につながる
- LT値が向上することでフルマラソンを速いペースで走りきることができる
フルマラソンでスプリントトレーニングが必要な理由
フルマラソンを走りきれるペースはLTペース(乳酸性作業閾値)以下であり、後半まで足を止めず走りきるには、できるだけ糖質を使わないように適応させていく必要があります。
糖質である筋グリコーゲンが枯渇してしまうことで、筋収縮がスムーズにできなくなり、脚が止まってしまうからです。
脂質を優先的に使う体に適応していくためには、脂質を酸化しエネルギーに変換する能力を鍛える必要があり、長い時間をかけたジョギングやLT走に取り組んでいく必要があります。
しかし、ジョギングやLT走だけでは「速く走る」ためのトレーニングが不足します。
速く走るためには、速筋繊維の持久力を高めるトレーニングが必要です。速筋繊維を刺激することで中間型速筋繊維への変異が起こり、速筋繊維が遅筋繊維のような持久力を獲得します。
マラソントレーニングにはウィンドスプリントやレペティショントレーニングなどの、短距離で高強度なスプリントトレーニングが、広く認知され行われています。
スプリントトレーニングには、ランニングフォーム改善によるランニングエコノミー(ランニング効率)向上、速筋繊維への刺激の目的があります。
本記事では、スプリントトレーニングによる速筋繊維への刺激に着目し、マラソンへの必要性を徹底解説します。
競走馬(サラブレッド)の例
スプリントトレーニングの効果を説明するために、最も典型的な例であるサラブレッド(競走馬)について紹介します。
サラブレッドは1000m~3600mを1分/kmを切るペースで、騎手を載せて走り切ります。サラブレッドの筋繊維や代謝機能は、ランニングパフォーマンスを決める因子を考えるうえで参考になります。
サラブレッドの中臀筋を採取すると、90%が速筋繊維であり、さらにその半分がタイプⅡaに分類される中間型速筋繊維(FOG繊維)です。
FOG繊維とは速筋繊維と遅筋繊維の中間的な能力及び特徴を持った筋繊維です。ミトコンドリア量や筋グリコーゲン量、筋収縮速度等の特徴が、速筋及び遅筋の間に位置しています。
サラブレッドの高強度運動時には、血中乳酸濃度が20mmol/Lに到達します。人のLT値が2~4mmolあたりにある事を考えると、非常に高い血中乳酸濃度です。
サラブレッドは発生した乳酸をそのまま処理できるFOG繊維を多く持っているので、ハイペースを長い時間維持し続けることができると考えられています。
速筋繊維が中間型速筋繊維に変異することによる効果
マラソンで好記録を出すためにはできるだけ速いペースで走り続けることが必要です。
走り続けるためには脂肪を使って走る能力を向上させることが必要であり、脂肪を使う強度帯でのトレーニングを長時間続けることが有効です。
速く走るためには、LT値を底上げし脂肪を使いつつハイペースを維持できる力を身に付ける必要があります。そこで重要になってくるのがFOG繊維です。
FOG繊維は、速筋繊維でありながら遅筋繊維の特徴を持った筋肉です。ミトコンドリアを多く含み脂肪を使う能力が高いことに加え、強い力を発揮することができます。
速筋繊維が遅筋繊維化(=FOG繊維化)することでLT値が高まることを示した概念図を図2に示します。
速筋繊維がFOG繊維に変異することで乳酸を処理する力が高まるため、同じ血中乳酸濃度を維持しながら速い速度で走れるようになります。
速筋繊維をFOG繊維化することで速い速度で走り続けることができ、結果的にフルマラソンの記録が向上すると考えられます。
運動強度と筋繊維の動員率の関係
運動強度が上昇するにつれ、動員される筋繊維が変化してきます。運動強度と筋繊維動員率の関係を図3に示しました。
最大酸素摂取量(VO2max)の約40%までの運動では遅筋繊維(I型)、40~75%VO2maxではI型に加え中間型速筋繊維(Ⅱa型)、75%VO2max以上の運動強度では速筋繊維(Ⅱx型)が動員されます。
スプリントトレーニングで速筋繊維(Ⅱx型)を動員するためには、少なくとも75%VO2max以上の強度で疾走する必要があります。
速筋繊維をFOG繊維化するトレーニング
具体的なランニングトレーニング方法を紹介していきます。
速筋繊維をFOG繊維化するということは、「速筋繊維のミトコンドリア数および機能を高めること」と言い換えることができます。
そのためには、速筋繊維が動員される強度でのトレーニングが必要となります。
■高強度トレーニングの効果例:サラブレッドの例
高強度トレーニングによって高強度運動時のエネルギー代謝がどのように変わるのかを調査するため、サラブレッドに110%VO2max強度で3分間の高強度トレーニングを9週間行いました。
その結果、解糖系酵素活性は高まらず、ミトコンドリア酵素活性及び脂肪酸化酵素活性が高まったとの結果でした(図1)。ラットでも同様の結果が得られています。
この結果から、糖質を多く消費する強度帯のトレーニングによって、脂肪利用能力及び糖質・乳酸酸化能力(=ミトコンドリア活性)を高めることができた、といえます。
速筋繊維の糖質・乳酸・脂肪の酸化能力が高まるということは、速筋繊維がFOG繊維化することと同義です。高強度トレーニングの実施により、速筋繊維のFOG繊維化が達成されたことが分かります。
■ウィンドスプリントとは?ダニエルズ理論での定義
ランニングトレーニングの代表的な理論としてダニエルズ理論が広く知られています。
ダニエルズ理論で紹介されているスプリントトレーニングの中にウィンドスプリントがあります。
ニエルズのランニング・フォーミュラで述べられているウィンドスプリントの定義は次の通りです。
ウィンドスプリントとは
15~20秒間の軽く素早い動きのランニングを、合間に45~60秒間の休息を入れて繰り返す練習(ダッシュではない)
ダニエルズのランニング・フォーミュラ 第4版
ウィンドスプリントは具体的にどのくらいのペースで行えばよいかについての記載はありません。
しかし、ダニエルズ理論で紹介されているウィンドスプリントのやり方や筋繊維の動員率を考慮すると、レペティションペース以上のペースが適していると考えられます。
レペティションペースは105~120%VO2maxであり速筋繊維が十分に動員される運動強度です。
■速筋繊維を動員するトレーニング具体例
速筋繊維を動員できる強度のトレーニングは下記が考えられます。
- レペティショントレーニング
- ウィンドスプリント
- ヒルトレーニング(坂ダッシュ等)
- ウェイトトレーニング
レペティショントレーニング(ウィンドスプリント)
レペティショントレーニングは105%~120%VO2maxの運動強度で疾走するランニングトレーニングです。
設定ペースで言うと、800~1500mのレースペースとなります。
レペティショントレーニングについてさらに詳しく知りたい方は次の記事を参考にしてください。
ヒルトレーニング
ヒルトレーニングは傾斜がある上り坂を駆け上がるランニングトレーニングです。
平地に比べ疾走速度は落ちますが、坂道を駆け上がる必要があるため強い力が必要となります。結果として速筋繊維を動員することができます。
ウェイトトレーニング
ウェイトトレーニングでは、バーベル等の重りを使うことで走るだけよりも高い負荷をかけることができ、効率的に速筋繊維を鍛えることができます。
ただし、ウェイトトレーニングの動き自体がランニングとは異なるため、マラソンの記録向上に直結するトレーニングではないことには注意が必要です。
ウェイトトレーニングについて、そのマラソンについての必要性や効果的なトレーニング方法等を別の記事で紹介していますので参考にしてください。
スプリントトレーニングがフルマラソンに必要な理由まとめ
- マラソンにおいて速いペースを維持するためには中間型速筋繊維であるFOG繊維を増やしていく必要がある
- 速筋繊維がFOG繊維化することでLT値が向上する
- 速筋繊維が動員される強度で継続的にトレーニングを行うことで、速筋繊維のミトコンドリア活性や脂肪酸化活性が高まる
- 速筋繊維を動員できる具体的ランニングトレーニングは、レペティショントレーニングやヒルトレーニングである
市民ランナーであると、なかなかスプリントトレーニングを行う機会は少ないのかなと感じます。
私自身も、陸上競技場が使えないと、アスファルトでのスプリントトレーニングはやりにくいと感じています。
スプリントに適した坂や道を見つけて、少しでも速筋繊維を動員するような強度でスプリントトレーニングを行うことで、フルマラソンで記録向上につながります。
トレーニングメニューへの導入を検討してみてください。
参考文献:
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