- ウィンドスプリント(流し)のやり方が分からない
- ウィンドスプリントってどんな効果があるの?
- ウィンドスプリントはフルマラソンにも必要なの?
ウィンドスプリント(流し)をやった方がいいと聞くけど、やり方や効果がよくわからない方もいらっしゃるのではないでしょうか。
ダニエルズのランニング・フォーミュラでもウィンドスプリントが紹介されていますが、その効果についてはほとんど述べられていません。
本記事では、ウィンドスプリントの効果と適切な実施方法について、運動生理学的な観点から解説します。
ウィンドスプリントは、100mの短距離ランナーからフルマラソンランナーまで、ほとんどの陸上競技者が取り入れている、「速く」走るためには必要不可欠なトレーニングです。
本文ではウィンドスプリントをWSと記載します。
ウィンドスプリント(流し)とは?
ウィンドスプリント(WS)は「短い時間の軽いダッシュ」です。
ウィンドスプリント(WS)とは、15~20秒間の軽く素早い動きのランニングのことである(ダッシュではない)。合間には45~60秒の休息を入れて繰り返す。緩やかな上り坂を利用してもいい。
第4版 ダニエルズのランニング・フォーミュラ P150
走っている時間と休息の時間がおよそ1:3であることから、WSの走るペースの目安はレペティションペース(=1500mのレースペース)程度だと考えられます。
WSは全力で走るダッシュではありません。努力感としては全力の80~90%程度です。
海外では「Stride(ストライド)」と呼ばれることもあります。
ウィンドスプリントで得られる効果
WSで得られる効果は次の通りです。
- 速筋繊維動員率の向上、筋パワー(最大スピード)の向上
- 解糖系代謝機能の維持
- ランニングフォーム 余裕度の向上
- 高負荷トレーニングへの怪我予防効果
速筋繊維動員率の向上・筋パワー(最大スピード)の向上
WSをトレーニングに取り入れる上で、最も重要な効果が「速筋繊維動員率の向上・筋パワー(最大スピード)の向上」です。
運動強度が上昇するにつれ、動員される筋繊維が変化してきます。運動強度と筋繊維動員率の関係を図に示しました。
最大酸素摂取量(VO2max)の約40%までの運動では遅筋繊維(I型)、40~75%VO2maxではI型に加え中間型速筋繊維(Ⅱa型)、75%VO2max以上の運動強度では速筋繊維(Ⅱx型)が動員されていきます。
ウィンドスプリントはほぼレペティションペース(100%VO2max以上の運動強度)で走るトレーニングであるため、タイプⅡxの速筋繊維が多く動員されます。
高い運動強度で行うことで、普段使われることがない速筋繊維を呼び起こして使うことになります。このようなトレーニングを繰り返し行うことで、自分が持っている筋肉をフル活用できるように適応していきます(神経系の適応)。
結果的に、速筋繊維の動員率が向上、最大スピードの向上につながります。
運動強度の高まりと筋繊維動員率の向上ついては次の記事で解説しています。
解糖系の代謝機能を維持する
自分にとって速く走る時は、体に蓄えられている糖質を使います。糖質を使って素早くエネルギーを生み出す系は解糖系と呼ばれます。解糖系は酸素を使わずにエネルギーを産み出すことができる無酸素的代謝です。
フルマラソン向けのゆっくりとした長めの距離のランニングトレーニングを中心に行っていると、解糖系の機能が低下します。
LT走などで乳酸をできる限り早く処理できるようになっても、そもそもの「乳酸」が作られなければ意味がありません。
乳酸は解糖系によって糖質が使われたときに発生する物質です。したがって、解糖系の機能が落ちてしまうと、乳酸の生成スピードも落ちるため、そもそも「速く」走ることが苦手になってしまいます。
フルマラソン向けのトレーニングにウィンドスプリントを適度に混ぜることで、解糖系の代謝機能をある程度維持することができます。
ランニングフォーム 余裕度の向上
ランニングエコノミー(以下、REと略します)は、競技力を向上させるうえで重要な要素です。REは「同じスピードでもできるだけ省エネで走る力」と言い換えることができます。
REは二通りの方法で向上させることができます。
- 目標ペースで繰り返し走ることによって、自然と楽なフォームが身に付く
- 速いスピードに慣れることによって、マラソンペースに体と心の余裕を持たせる
WSはおよそ1500mのレースペースで走るので、マラソンペースに対してかなり速いペースになります。WSを繰り返し行うことで、速く走ることに慣れ、マラソンペースの動きに体の余裕が産まれます。
結果的に、楽な感覚でマラソンペースを走ることができるようになるので、REが向上すると考えられます。
高強度トレーニングに向けた怪我予防効果
WSは高強度トレーニングへの怪我予防効果があります。
例えば、ウェイトトレーニングでベンチプレスを行っている方が、腕立て伏せをやっても、怪我することは考えにくいですよね?
ランニングでも同様で、速いペースに慣れている体であれば、それよりもゆっくりとしたペースで走る分には、筋肉的な怪我をしにくくなります。
VO2maxインターバルトレーニングはとても強度と負荷が高いトレーニングですが、それよりも速いペースでウィンドスプリントを行っておくことにより、速さに対して体が慣れた状態で臨むことができます。
結果として、ハードなトレーニングでもケガしにくい体を作ることができます。
ウィンドスプリントの実施方法
具体的なウィンドスプリントの実施方法を紹介していきます。
- 最も基本的なウィンドスプリント
- ヒルトレーニング(坂ダッシュ等)
ウィンドスプリント(=レペティションペース)
もう一度、ダニエルズのランニング・フォーミュラに記載されているウィンドスプリントの実施方法を掲載します。
ウィンドスプリントとは
15~20秒間の軽く素早い動きのランニングを、合間に45~60秒間の休息を入れて繰り返す練習(ダッシュではない)
ダニエルズのランニング・フォーミュラ 第4版
ダニエルズ理論で紹介されているウィンドスプリントのやり方を考慮すると、レペティションペース程度のペースが適していると考えられます。
レペティションペースは105~120%VO2maxであり速筋繊維が十分に動員される運動強度です。設定ペースで言うと、800~1500mのレースペースとなります。努力感は90%程度になります。
もう少しペースを落とすとしたら、3000~5000mのレースペース(100%VO2max程度)が最低ラインです。
レペティショントレーニングについてさらに詳しく知りたい方は次の記事を参考にしてください。
メニューとしては、以下のようなものがあります。
- 120m(20秒) × 6~8本
- 200m × 3~5本
200mまで距離を伸ばすと、よりレースに結びつきやすいトレーニングになると考えます。
ヒルトレーニング
ヒルトレーニングは傾斜がある上り坂を駆け上がるランニングトレーニングです。ヒルスプリントとも呼ばれます
平地に比べ疾走速度は落ちますが、坂道を駆け上がる必要があるため強い力が必要となります。結果として速筋繊維を動員することができます。
ウィンドスプリントを上り坂で行う場合、ランニングフォームが大きく変わってしまうことは防ぎたいため傾斜率は3~5%程度の坂を使うことがおすすめです。
市民ランナーであると、なかなか速く走る機会は少ないのかなと感じます。
ウィンドスプリントに適した坂や道を見つけて、少しでも速筋繊維を動員するような強度で走ることで、フルマラソンでも記録向上につながります。
トレーニングメニューへの導入を検討してみてください。
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