- レペティショントレーニングとは?
- レペティショントレーニングの目的、効果が知りたい
- レペティショントレーニングの方法が知りたい
本記事では、レペティショントレーニングの目的や効果、練習の実施方法等を徹底解説します。
私自身もレペティショントレーニングを取り入れており、その効果を実感しています。レペティショントレーニングには、普段のジョギングやペース走では得られない重要な効果があります。
そんなレペティショントレーニングについて、その効果を、生理学的な観点も含めて考察・徹底解説します。
- 1本毎に十分な休憩を取り、1500mのレースペース付近で行うトレーニングのこと
- 無酸素系代謝である解糖系代謝能力を高めること、速筋繊維に刺激を与えることが目的
- 最大スピードを持続する力が身に付く
- 1回当たりの疾走時間は2分以下、レスト時間は疾走時間の2~3倍が目安
レペティショントレーニングとは?
ランニングにおけるレペティショントレーニングとは、およそ1500mのレースペース以上の強度で行うトレーニングを指します。
酸素摂取量で表すと、105~120%VO2maxになります。レースペースに置き換えると、1500m~800mのレースペースとなります。
一方で心拍数で強度を示すことは難しいです。理由としては、一回当たりの疾走時間が短く、レペティショントレーニングを行っている際中の心拍数は上昇し切らないためです。
レペティショントレーニングの目的についてダニエルズのランニングフォーミュラは以下のように記載されています。
トレーニングの主な目的は、無酸素性作業脳、スピード、ランニングの経済性を高めることにある。自分がトレーニングから何を得ようとしているのか、常に心にとどめておこう。特に大事ななのは、十分に身体を回復させ、正しい走動作で走ることだ。
ダニエルズのランニング・フォーミュラ 第4版
ダニエルズのランニング・フォーミュラで述べられている設定ペースやレストの具体的な取り方は次の通りです。
- 設定ペース:1マイルのレースペース以上(VDOT Calculatorにより算出)
- レスト:疾走時間の2~3倍をゆっくりなジョギングでつなぐ(完全に呼吸が落ち着くまで)
- 一回当たりの走行時間の目安:2分間以下
- 一回トレーニングあたりの走行上限距離:週間走行距離の5%以下
VDOT Calculatorでレペティションペースを計算するときは、Repetitionの行を参考にします。
上の例では、レペティションペースのトレーニングでは3:00/kmのペースで疾走する、ということがわかります。VDOTを計算するツールを使えば、自分の自己ベストからレペティションペースを算出することができます。
ダニエルズのランニング・フォーミュラでも強調されている通り、レペティショントレーニングは、疾走1回毎に十分な休息をとり、正しいランニングフォームで行うことが重要です。もがいて走りきるような状態は望ましくありません。
実際にレペティショントレーニングを行ってみると、呼吸の苦しさは少ないように感じます。
1回当たりの疾走時間「2分間以下」は、ダニエルズ博士推奨の目安です。
トレーニング内容によって1000m程度まで距離を伸ばしたくなる時は、推奨されている2分間を超えてしまいますが、設定ペースを守り余裕を持ったランニングフォームで走りきれる場合は問題ないと考えられます。
トレーニング1回当たりの上限距離は週間走行距離の5%以下です。これは怪我防止の観点から推奨されているので、怪我を未然に防ぐためには、上限距離を守る事をおすすめします。
レペティショントレーニングの目的・効果
ダニエルズのランニング・フォーミュラでは、レペティショントレーニングで得られる効果として「無酸素性作業脳・スピード・ランニングの経済性を高めること」が紹介されています。
しかし、どれも表現が抽象的です。運動生理学の観点から、レペティショントレーニングで得られる効果・メリットを紹介していきます。
解糖系代謝の強化(無酸素性作業脳)
ダニエルズのランニングフォーミュラで述べられている「無酸素性作業脳」は解糖系代謝を意味していると考えられます。
レペティショントレーニングを行った場合には、主に無酸素系の代謝である解糖系代謝能力の向上が見込めます。レペティショントレーニングは最も長くても2分、通常は30~60秒程度の運動時間になることが多いです。
レペティションペースで走った場合の、代謝別エネルギー供給比率を大まかに示すと次の通りです。
最もエネルギー供給比率が高くなるのは無酸素系の解糖系代謝となります。体内では、無酸素系解糖系代謝に関わる酵素が活性化されるなどの適応が発生し、解糖系代謝機能が向上していきます。
ただ、次で示すグラフの通り、レペティショントレーニングを繰り返し行っていくと、エネルギー供給元が徐々に有酸素側にシフトしていきます。解糖系代謝を鍛えたい場合には、レストの取り方などに注意する必要があります。
また、レペティションペースの強度は速筋繊維が積極的に動員されるため、速筋繊維の代謝機能の向上を見込むことができます。
「ミトコンドリアの機能(=ミトコンドリア1つあたりのエネルギー産生能力)は運動強度に相関する」と言われており、ゆっくりなペースでは鍛えにくいです。
レペティションペースのような高強度のトレーニングを行うことで、ミトコンドリアの機能を高めることができると考えられます。ミトコンドリアについては次の記事で詳しく解説しています。
筋肉の緩衝能力(スピード)
ダニエルズのランニングフォーミュラにおいて「スピード」と述べられている能力は、「乳酸を多く出す力」と言い換えることができます。
乳酸自体が運動を阻害するわけではありませんが、乳酸と共に生成される水素イオンによって体液の酸性化(アシドーシス)が進みます。アシドーシス化によって筋収縮が阻害され脚が動かなくなる現象が発生します。
高い強度のトレーニングを行うことで、体液のアシドーシス化を防ぐ機能が向上します。この機能のことを緩衝能力と呼びます。
緩衝能力が向上することで、水素イオンが多く発生(=乳酸が多く生成)しても、スピードを維持できる時間が長くなります。したがってレペティショントレーニングでは「最大スピードに近いスピードを、比較的長い時間維持する能力」が鍛えられます。
ランニングの経済性(ランニングエコノミー)
ランニングの経済性(以下、ランニングエコノミーと記載)は、筋力の発達、ランニングフォームの改善等、いくつかの要素で改善することができます。
ランニングエコノミーは、長距離種目のパフォーマンスを決める3大要素のうちの一つで、特に走る距離が長くなればなるほど、重要な要素になります。
走る速度は、筋力やスタミナだけでなく、ランニングフォームによって大きく変化します。
レペティションペースでは、設定したタイムをできる限り楽に走りきることを考えながらトレーニングを行うことで、ランニングフォームの改善が見込めます。
楽に速く走るフォームを身に付けることができれば、動きが遅いペース走やインターバル走でも、楽に速く走れるはずです。
はじめのうちは、レペティショントレーニングにおいて設定タイムを楽にクリアすることを考えるだけで、ランニングフォームがある程度最適化されると考えられます。
しかし、ランニングフォームをさらに改善していくためには、客観的にランニングフォームを評価し、修正していく必要があります。
ビデオ撮影や指導者の目を利用し、フォーム改善を進めましょう。最近ではインターネットで容易にたくさんの情報を取り入れることができます。
具体的練習方法
具体的にレペティショントレーニングの練習法について紹介します。レペティショントレーニングは非常に単純です。
- 200m × 20
- 400m × 10
- 600m × 7
★レストは、疾走時間の2~3倍(軽いジョギング。歩きでもOK)
設定タイムはVDOT Calculatorで算出します。繰り返し本数でトレーニングの総量をコントロールします。目安として、週間走行距離の5%程度を上限として本数を設定します。上記のメニュー例は週間80km程度を走っているランナー向けです。
レペティショントレーニングで重要なポイントは、疾走1回毎に十分な休息をとり、正しいランニングフォームで行うことです。
レペティショントレーニングではレストの取り方に注意する必要があります。解糖系代謝機能を鍛えたいのに、レストを短くしたり、レストを速いペースのジョギングでつないだりすると、解糖系代謝機能ではなく、有酸素系の代謝が優位になってしまいます。
レペティショントレーニングにおけるレストはゆっくりなジョギング、もしくは歩くくらいのペースが望ましいです。
まずはウィンドスプリントで取り入れてみる
レペティションペースでのトレーニングを気軽に取り入れる手段の一つとして、ウィンドスプリントがあります。
ダニエルズのランニング・フォーミュラでは、ウィンドスプリントのやり方を「20秒間の軽いダッシュ」と表現していますが、目安とすべきはレペティションペースであると考えています。
ウィンドスプリントは、ジョギングの途中や後に取り入れる方が多いと思いますが、たった数本であっても、毎日積み重ねることで、長期的に見れば必ず効果が出ます。
例えば、週に2回、3本程度のウィンドスプリントを取り入れるだけでも、月間にすると24本となり、立派なレペティショントレーニングです。
ウィンドスプリントについては、次の記事で詳しく解説しています。
「坂ダッシュ」にすると効果倍増
坂ダッシュ(=ヒルランニング)はレペティショントレーニングのバリエーションとして捉えることができます。膝への負担を下げつつ、ハムストリングやお尻の筋肉に効かせることができます。
また、低い位置から高い位置に体を運ぶ力が必要になるため、平地でトレーニングを行うよりも速筋繊維への刺激が大きくなることが予想されます。
坂を使うことで疾走スピード自体は遅くなります。その結果、関節等への負担を下げながら、筋肉への負荷を高めることができ、怪我を予防することもできます。坂を使うことはとても良い選択だと考えています。
坂道ダッシュについては、以下の記事で運動生理学や論文に基づいて効果や最適なトレーニング方法を紹介しています。
レペティショントレーニングのデメリット
レペティショントレーニングにも、以下のデメリットがあります。
- 速いペースで走ることに慣れていない場合、疲労が残りやすい
- 怪我のリスク
- 有酸素系能力が低下する可能性がある
それまで、ほとんど速いペースで走ったことがないランナーが急にレペティショントレーニングを取り入れた場合、疲労が残りやすい可能性があります。
また、体が速いペースに慣れていないと、怪我のリスクもあります。流しや坂ダッシュなどで取り入れながら、徐々に体を慣らしていくことをおすすめします。
レペティショントレーニングを行うことで、有酸素能力が低下する可能性があります。
レペティショントレーニングは100%VO2maxを超える強度で走るため、無酸素系の酵素活性が起こりますが、一方で、有酸素系で働く酵素の活性は抑制される方向となります。
何事もトレーニングはバランスが重要です。フルマラソンレースが目的の方は、レペティショントレーニングの頻度と量は比較的少なめにして、「維持する」程度にとどめておくことが適切かもしれません。
自分自身の体で、どんな変化が起こるのかを試してみましょう。
スピード値が高いため、なかなか取り入れているランナーも少ないかと思いますが、ウィンドスプリントもレペティショントレーニングの一環だと思えば、トレーニングの狙いも明確になってくるのではないでしょうか。
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