- 福岡国際マラソン2024で優勝した吉田祐也選手ってどんな選手?
- 吉田選手の練習方法が知りたい
- 市民ランナーが、吉田選手の練習方法を参考にするにはどうしたらいい?
青山学院大学出身、GMOアスリーツ所属の吉田祐也選手が、2024福岡国際マラソンで2時間5分16秒(日本歴代三位)で優勝しました。大幅自己ベストでの優勝です。
吉田選手はnoteでトレーニング方法を公開しており、本人の考え方も記載されています。
そんな吉田選手の練習内容を、ダニエルズのランニングフォーミュラやリディアードのランニングトレーニングに基づき考察していきます。
また、生理学的な観点から各練習にどのような狙いがあるのかも考えてみます。
市民ランナーがさらにレベルアップする上でも参考になると思いましたので、是非ご覧ください。
吉田祐也選手とは
青山学院大学出身、現GMOアスリーツ所属です。2020年の福岡国際マラソンにて2時間07分05秒で優勝しました。
その後、しばらくいい記録を出すことができていませんでしたが、2024年の福岡国際マラソンで2時間05分16秒(日本歴代三位)の大記録を出しました。
吉田選手は2020年1月の箱根駅伝を最後に競技を引退し、一般企業に就職すると決めていました。
しかし、青山学院大学原監督の「もったいないから出てみろ!」という言葉に押され、2020年の別府大分マラソンに出場。2時間08分30秒という、日本男子初マラソンでは日本歴代2位の記録を打ち立て気持ちが変わったそうです。
「よく陸上を、野球やサッカーのように『メジャーに』って言われるけど、それには注目度の高い大会をつくり、メディアの露出を増やすことが必要だと思います。そのひとつとして選手がSNSなどを利用して『陸上はこういうスポーツです』というのを発信していかないといけないと思います。世間の人たちは実業団選手が何をしているかが気になっていると思うので、そういう情報を発信していくといいと思います
集英社-Sportiva love sports 吉田祐也選手インタビュー
吉田祐也選手は、上記のコメント通り、noteに自身の2020年前期のレース結果や福岡国際マラソンの振り返りをアップされていて、情報発信していこうという姿勢を伺うことができます。
市民ランナーにとっては、トップの選手がどんな練習をしているのか気になるところなので、とてもありがたいですよね!
学生時代から、とてもまじめな性格で有名だった吉田選手。コロナウィルスによる自粛期間もマラソンに関する論文を読み勉強したそうです。
トップの選手でさえ理論から理解しようとしているのだから、市民ランナーである私たちも、マラソンについてもっと勉強しないと速くなれない、と私自身も感じました。
そんな吉田選手の自己ベストは以下の通りです(2024/12/02更新)
種目 | 記録 | 記録年 |
---|---|---|
5000m | 13分30秒91 | 2024年6月 |
10000m | 27分45秒85 | 2024年7月 |
ハーフマラソン | 1時間03分07秒 | 2024年1月 |
フルマラソン | 2時間05分16秒 | 2024年12月 |
実は、2024年シーズンにすべての種目で自己ベストを更新しています。2024年は相当調子が上がってきていたものと思われます。
この中でもフルマラソンの記録が特に素晴らしいものとなっています。フルマラソンに向けた練習に特化することで、フルマラソンのベストを更新できたのだろうと考えています。
吉田選手がnoteで公開しているのは2021年シーズンまでのトレーニングです。2023~2024年のトレーニングはまた今後公開されたらアップデートしようと考えています。
2020年前期(4月~7月)の取り組み
前期はコロナウィルスによる緊急事態宣言真っ只中でした。GMOアスリーツでは基本的に練習を個人で考えて行っていくという方針だったそうです。
その中で吉田選手は、「マラソンに向けた取り組みをしながら10000mの日本選手権標準を切ること」を目標に練習を行っていました。noteに記載されている練習を抜粋します。
- ロード1000m×15本(2’50″〜2’53”)
- 2000m(5’45”) +1000m(2’50”)×5set
- 16000m変化走(3’15″、3’10″、3’00″、2’55’を4回繰り返す)
- 上記ポイント練習以外は、90分から120分のjog
参考として、吉田選手のフルマラソンにおけるVDOT80.5で計算した各トレーニングペースを載せます(VDOT Calculator)。(夏場のトレーニングなので気温は30℃で計算)
「ロード1000m×15本(2’50″〜2’53”)」は「CVインターバル」です。最近市民ランナーの中でも話題となっているスピード帯のトレーニングですね。
吉田選手の前期目標が「10000mで日本選手権標準を切ること」だったので、それに向けての練習だと推測されます。
レスト時間の記載はありませんが、おそらく短めにして、数多い本数をこなしたと考えられます。私たち市民ランナーが良く行う「1000m×5」とは内容も狙いも大きく違いそうです。
「2000m(5’45”) +1000m(2’50”)×5set」も「CVインターバル」に当たります。こちらもTota距離が15kmとなっており、練習ボリュームが意識されています。
CVインターバルトレーニングは10kmレースペース前後で行うトレーニングです。主な狙いはVO2max向上ですが、同時にLT値向上も期待できます。CVインターバルについての解説は次の記事で詳細にしていますので是非ご参照ください。
「16000m変化走(3’15″、3’10″、3’00″、2’55’を4回繰り返す)」は「TペースからMペース」を織り交ぜた変化走です。マラソン中のペースアップダウンに耐えることができるようにすることを狙ったトレーニングだと思われます。
この変化走はLT値を超えるか超えないかくらいでスピードを上下させるトレーニングです。Tペースで溜まり始めた乳酸をMペースで除去していくといった生理学的狙いがありそうです。
ポイント練習間はjog90分~120分でつないだとのことです。CVペースのトレーニングをメインに据えながら2時間のjogを取り入れ、マラソンへの脚作りを同時並行していたのだろうと思われます。
まさしくリディアードのランニングトレーニング理論に基づいた練習方法です。
夏場の暑い時期に、これだけのトレーニング行うことは、想像するだけで苦しいです。10000mだけでなく、マラソンも見据えてポイント練習のTotal距離を伸ばしていたのではないでしょうか。
前期の吉田選手が行った練習をまとめると、「日本選手権10000mに向けたポイント練習をしつつ、マラソンへの下地作りとしてロングjogを並行して行っていた」となります。
基本となっているのが、「リディアード理論」。これは青山学院大学時代の思想をある程度踏襲されていると考えられます。
noteにも記載がありますが、青山学院時代は「トレーニングの期分け」を重要視していたそうです。
脚づくり期間、無酸素系能力開発期間、コーディネーション(調整期間)と明確に分けてトレーニング計画を立てていたとのことです。
しかし、学生時代と同じことをやっていては伸び代が無いと考え、無酸素系トレーニングと有酸素による下地作りを同時並行で取り組んでみたのが前期のトレーニングでした。
- 「10000m」を目標に据えながらマラソンへの下地作りを同時並行
- ポイント練習はCVペースをメインにし、ボリュームを意識
- ポイント練習間はロングジョグ(90~120分)でつなぐ
2020年後期(8月~11月)の取り組み
2020年後期のトレーニング。吉田選手のコメントに、魂が込められていることを感じました。
マラソン練習をする上で最も重視していたのはロングjog。今回のマラソンの結果の8割は占めていると言っても過言ではありません。
吉田祐也選手 note抜粋
疲労がある際は1部練習でロングjogということもあり、例えば朝60分、午後60分をだらだらしたペースで走るのであれば、睡眠とリカバリーを取る事を優先し、午後に質の良い120分〜150分という風にすることもありました。そのくらい質の良いロングjogによる下地作りを重視していました。
吉田祐也選手 note抜粋
ロングジョグを重要視して練習に取り組んでいたようです。ジョグのペースは3’45″~4’00”。完全な「Eペース」でのジョグです。
ジョグを分割して行うよりも、一度で長い時間行うことを優先していたことが伺え、やはり「リディアード理論」を踏襲していることがわかります。
ポイント練習は変化走をメインに据えて練習していたとのことです。
- 30km(3’30″〜05″×km+3’00″〜02″×2km)×6set
- 21km(3km8’55″+1km3’35”)×5set+1km(2’45”)
やはり、ポイント練習のボリュームが多いですね。どちらも、速い区間ではMペースを少し超える当たりまでペースアップしていて、LT値に近いペースまで到達しています。マラソンでのペース変化に備えた練習だと推測されます。
変化走の終わりには、必ずペースアップしてトレーニングを終えていることから、常に練習では余裕を持って終わるように意識していたのではないかと思われます。
- 最も重要視していたのは120~150分のEペースロングジョグ
- メインのポイント練習は21~30kmの変化走(Tペース~Mペース)
2021年シーズン
吉田選手は2021年シーズンも、2020年と同様の目標(マラソンのための10000mでのタイムアップ)取り組みをされているようです。先日更新された吉田選手のnoteでは次のように綴られています。
近年の世界陸上やオリンピック等の国際的なマラソンレース、とりわけ2016年リオオリンピックのマラソンが典型的な例ですが、駆け引き故の急激なペース変化があり、ランニングの能力として、乳酸を出し、再利用する能力が極めて重要
吉田祐也選手 note抜粋
2020年に取り組んだトレーニングメニューを見ても、どれも変化走(インターバルは、レスト区間では割と短めのリカバリージョグで繋いでいると思われる)となっており、マラソンのペース変化に対応したメニューにしていることが伺えます。
結果として、2021年5月の記録会で5000m13分45秒(日体大記録会)、Portland track festivalで10000m27分58秒という結果だったようです。
5000mでは自己ベスト更新とはなっていませんが、吉田選手のnoteを見る限り、5000mのレース中でも、ペース変動に対応できた、というようなコメントがありました。
実際、Portland track festivalでの5000m通過タイムが14分01秒であり、5000mで本気でタイムを狙えば、自己ベスト(13分36秒)を更新できるくらいには調子が上がってきていると考えられます。
2021年も吉田選手の走りには期待できそうです。
吉田選手のトレーニングを参考にするためには
吉田選手のトレーニングを市民ランナーが参考にする場合には、トレーニングで走るボリュームと疾走ペースを自分に適したものに調整する必要があります。
吉田選手の5000mや10000mの記録は素晴らしいものではありますが、トラックでトップのランナーと比べると多少記録は低めです。
しかし、マラソンの記録はほぼ日本トップであり、トラックでのスピードをマラソンの記録に結びつけるためのトレーニングの重要性が伺えます。
自分の現在の実力をしっかりと見極め、適切なトレーニングペースを設定し、マラソントレーニングとして吉田選手のトレーニングを参考にしてみてください。
考察とまとめ
吉田選手には、学生時代に培ってきた「スピード」の素養があるため、2020年の取り組みのような、「マラソンに特化した練習」でも素晴らしい結果を残せたのだろうと考えられます。
私たち市民ランナーは、レペティショントレーニングなどのスピードトレーニングによる「ランニングエコノミー向上」が抜けている場合が多く、トップランナーである吉田選手とまったく同じ練習をすればマラソンで速くなれる、というわけではないと考えられます。
しかし、マラソンに特化した練習としては非常に参考になりますね。基本的に学生時代と同様「リディアードのランニングトレーニング」の理論を踏襲し、練習を組み立てています。
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