マラソントレーニングの強度配分を最適化し持久力を向上させる【80:20の法則】

 こんにちは。管理人のsyu_hibiです。

 今回は、マラソントレーニングの強度配分を最適化し持久力を向上させる【80:20の法則】を紹介したいと思います。

 私自身、2018年12月にランニングトレーニングを本格的に開始しました。2020年12月に初めて、膝の故障を患ってしまいトレーニング離脱をせざるを得ない状況になりました。

 以降、最も調子が上がっていた2020年11月から半年間、記録の向上はおろか、ベストにも戻っていない状況になりました。

 2021年びわ湖毎日マラソンにて、日本記録を更新し優勝した鈴木健吾選手のコメントにて、「記録達成のポイントは怪我無く練習を継続的に積めたこと」とありました。

 また、市民ランナーで世界レベルまで到達した川内優輝選手は、サブ20の達成回数でギネス記録を持っていることからもわかる通り、非常に故障が少ない選手です。高校時代に怪我で悩んだため、大学では練習強度を下げて競技に取り組んだ結果、箱根駅伝に学連選抜で出場するまで飛躍しました。

 社会人になってからも、実業団ランナーと比較して少ない練習量であるにも関わらず、フルマラソンでトップに君臨したこともあります。

 これらの事実から、マラソンを含めた長距離競技においては、適切な強度配分のトレーニングを継続的に行う(=怪我無く)ことで、長期的にパフォーマンスを向上させることが重要、と考えています。

 今回は、この考えが正しいと証明できる事例をいくつか紹介し、トレーニング強度配分の最適化について考察していきたいと思います。

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1.トレーニング強度を定量化して把握する

 トレーニング強度配分を最適化するためには、まず、トレーニング強度を定量的に定義する必要があります。具体的に言うと、今自分が行っているジョギングやインターバルトレーニングはどの程度の強度なのか?ということです。

 トレーニング強度を定量する方法はいくつかありますが、その中でも市民ランナーが取り入れやすい強度定義は酸素摂取量(%VO2max)心拍数(%HRmax)です。

 最大酸素摂取量(VO2max)=最大心拍数(HRmax)=100%を最大強度と定義し、酸素摂取量の相対値%VO2maxと心拍数の相対値%HRmaxを用いて、各トレーニングがどのくらいの強度なのかを定量的に把握することが可能となります。

※酸素摂取量と心拍数は相関関係にある事が分かっています。

 酸素摂取量と心拍数の換算については、下記の式で行います。

 目標運動強度が酸素摂取量に相当します。

  • 最大心拍数(HRmax)=220-年齢
  • 予備心拍数=最大心拍数-安静時心拍数
  • 目標心拍数=予備心拍数×目標運動強度(=%VO2max)+安静時心拍数
  • ※カルボーネン法

 しかし、練習毎に上記の式を使って目標心拍数を計算するのは面倒です。表1に%VO2maxと%HRmaxの換算表を示します。

 市民ランナーの間でよく知られている、ダニエルズのランニング・フォーミュラ、アドバンスト・マラソントレーニング(第三版)における、各ペース対応も記載しました。

%VO2max%HRmaxダニエルズペースアドバンスト・マラソントレーニング
100%100%I
99%99%I
98%98%I
97%98%I
96%97%I
95%96%I
94%95%CVVO2max
93%95%CVVO2max
92%94%CVVO2max
91%93%CVVO2max
90%92%CVVO2max
89%92%TLT走
88%91%TLT走
87%90%TLT走
86%89%TLT走
85%89%TLT走
84%88%TLT走/マラソンペース走
83%87%TLT走/マラソンペース走
82%86%TLT走/マラソンペース走
81%85%MLT走/マラソンペース走
80%85%MLT走/マラソンペース走
79%84%MLT走/マラソンペース走/ロング走
78%83%MLT走/マラソンペース走/ロング走
77%82%MLT走/マラソンペース走/ロング走
76%82%MLT走/マラソンペース走/ロング走
75%81%Mロング走/有酸素走
74%80%Eロング走/有酸素走
73%79%Eロング走/有酸素走
72%79%Eロング走/有酸素走
71%78%Eロング走/有酸素走
70%77%Eロング走/有酸素走
69%76%Eロング走/有酸素走
68%76%Eロング走/有酸素走
67%75%Eロング走/有酸素走/回復走
66%74%E有酸素走/回復走
65%73%E有酸素走/回復走
64%72%E有酸素走/回復走
63%72%E有酸素走/回復走
62%71%E回復走
61%70%E回復走
60%69%E回復走
59%69%E回復走
58%68%E回復走
57%67%E回復走
56%66%E回復走
55%66%E回復走
表1 %VO2maxと%HRmax対応表(ダニエルズペースとアドバンスト・マラソントレーニング強度分類を記載)

 90%VO2maxの強度でトレーニングしたいと考えた場合、およそ最大心拍数HRmaxの92%に到達するペースでトレーニングすればよい、ということになります。ダニエルズ理論で言うとCVペースと呼ばれる強度域であり、アドバンスト・マラソントレーニングではVO2maxに分類されます

 心拍数でトレーニング強度を管理することにはメリットがあります。それはトレーニングにおいて伸ばしたい能力が明確になる事です。

 乳酸性作業閾値の向上を狙った練習として、85~90%VO2maxでトレーニングする、と言ってもピンとこないですよね。一方、最大心拍数の88~92%(=88~92%HRmax)でトレーニングせよ、と言われれば、わかりやすいですよね。

 最近、進化が目覚ましいウェアラブルデバイス(ガーミンなどのランニングウォッチ)を使えば、容易に心拍数を把握することが可能です。

 このように、トレーニング全体の強度配分を最適化するには、まず、自分が行っているトレーニング強度を定量化することが必要になります。

2.トレーニング強度の区分

 では、定量化したトレーニング強度を区分けしていきたいと思います。

 普段練習をするとき、最大酸素摂取量向上・乳酸性作業閾値・有酸素能力のどこかにフォーカスしてトレーニングを行います。

 エンデュランストレーニングの科学では、下記表2のようにトレーニング強度が分類されています。

強度区分%HRmax目的
低強度(LIT)79%以下有酸素能力
閾値(ThT)80~88%乳酸性作業閾値
高強度(HIT)89%以上最大酸素摂取量
表2 トレーニング強度区分

 私たちランナーは、このように区分されるトレーニングを最適な割合で織り交ぜることによって、トレーニングを怪我無く継続し、パフォーマンスを向上していく必要があります。

 では、どのような強度割合が、パフォーマンスを向上させるために最適なのでしょうか。

3.トレーニング強度配分【80:20】

 トレーニング強度が把握できるようになると、知りたくなってくるのは、エリートランナーがどのような強度配分でランニングトレーニングを行っているのか、ですよね。

 参考になる例があるので紹介させていただきます。

 1970年代から1990年代に世界大会やオリンピックでメダルを獲得した実績のあるノルウェーのボート競技選手に対して、トレーニング強度配分の数値化を行ったところ、1970年代から1990年代にかけて下記の通りの変化があったことが分かっています。

  • トレーニング総量が20%増加した
  • HITの1か月当たりの時間数が1/3に減少し、LITが増加した
  • 極めて高強度の全力疾走トレーニングが85~90%VO2maxのトレーニングに移行した
  • 高所トレーニングの回数が増加した

 本例では、30年に渡りパフォーマンスを向上させてきた過程において、高強度トレーニングの量を増やすのではなく、低強度トレーニングでトレーニング総量を増やし、むしろ高強度トレーニングは少し強度を落としてきている、という点が着目すべき点だと思われます。

 上記のような持久系アスリートの強度配分にまつわる様々な研究をまとめると、トレーニングの約80%をLIT、20%をThTまたはHITに割いている傾向がある事が分かっています。

 しかし、80%-20%という強度配分が最適なものなのか、それとも、単なる慣習に過ぎないのかという疑問が生まれますよね。有名な指導者のトレーニング方法がたまたま80%-20%であったため、それを習ってトレーニングを行ってきたアスリートを統計しただけかもしれません。

 この事実を明らかにするため、20人のクロスカントリースキー選手を対象とした研究がおこなわれています。

 本研究の直前まで、20人の選手はトレーニングの84%を60~70%VO2max(LIT)、残り16%を80~90%VO2maxとしていました。20人の選手を無作為に中強度(MOD)高強度(HIGH)のグループに分けました。

 MODはそれまでと同一のトレーニング強度配分を維持週16時間のトレーニングを行いました。一方HIGHはトレーニングの83%を80~90%VO2max残り17%をLITとする強度配分に変更し、週12時間のトレーニングを行いました。

 HIGHはMODに比べて、HITを5倍程度行っていたことになります。

 その結果、両グループにおいて乳酸輸送担体の量に変化は見られたものの、パフォーマンスの向上はほとんど差異が無かったようです(以下サイトで要約が確認できます)。

 この事実や、過去の様々な研究事例から、ある一定以上に高強度トレーニングの割合を増やしても、パフォーマンスが線形に上昇していくことはない、ということが分かります。

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4.HITの割合を増やすことによる影響

 論文に載っているような研究事例ではあまり触れられていませんが、トレーニング強度配分におけるHITの割合を一定以上に増やしても、パフォーマンス向上への寄与が小さいのはなぜなのか、その理由について考察していきたいと思います。

 まず、論文のデータだけではわからない事項として、HITは実際どの強度で行われていたのか(具体的強度の内訳が分からない)、ということです。80%VO2maxと90%VO2maxでは得られる効果が全く異なります

 普段からランニングトレーニングを継続して行っているランナーであれば感覚的にわかると思うのですが、HITの割合を増やしていくと、疲労の蓄積によってトレーニングのパフォーマンスが低下します(設定タイムをこなせなくなる)。

 結果的に、狙っていた強度で高強度なトレーニングが行えていないのではないか、と考えられます。

 一方、LITの割合を増やしHITの割合を比較的少なめにしておけば、LITはほとんど疲労が溜まらないため、HITにおけるトレーニング強度は高められる傾向にあります。

 また、怪我のリスクも挙げられます。トレーニングが高強度であればあるほど怪我のリスクが高まり怪我によるトレーニング離脱を余儀なくされる可能性が高くなります。

 これらを総合的に考慮すると、HITの割合を増やしても、結果的にパフォーマンスの向上に結び付いていないのではないか、と考えています。

5.高強度トレーニングを最適化する

 ここまでで、持久性パフォーマンス向上を狙ったトレーニングにおける強度配分は、低強度:高強度=80%:20%が適切である、と述べてきました(過去、トップアスリートの経験則ではあります)。

 では、高強度トレーニングの内訳を最適化する方法を紹介していきます。

 実は以前の記事で、高強度トレーニングの最適化について一度述べています。

 上記記事内で紹介させて頂いた内容を簡潔にまとめると、HRmaxの90%までで8分×4のインターバルトレーニングを行ったグループは、HRmaxの88%までで16分×4、HRmaxの94%までで4分×4のインターバルを行った各グループよりも、LT及びVO2maxの向上が顕著だったということです。

 これは、3.で紹介させていただいた事例と合致する結果であります。

 トレーニング強度は高ければよいというものでもなく、そこそこ高い強度で量をこなすことが重要であるということができそうです。

 強度を少し下げた絶妙な強度のインターバルトレーニングは、量をこなすことができるため、長期的にトレーニング効果が出やすいのではないか、と考えています。

6.トレーニング強度配分における重要ポイントまとめ

 ここまで長く述べてきた内容の重要ポイントをまとめていきます。

重要Point

・トレーニング強度配分を考えるためには、まずトレーニング強度を定量化する必要がある。定量化する方法は、VO2maxとHRmaxの相対%を使うことが最も簡便である。

・トレーニング強度を定量化したうえで、強度区分(LIT・ThT・HIT)を定義し、それぞれのトレーニング目的を明確にする

・持久系アスリートのトレーニング強度配分としてはLIT:ThT/HIT=80:20が最適であるのは経験的に示されている。

・トレーニング強度配分を適正化することで、長期的なパフォーマンス向上が望める理由には、怪我無くトレーニングを継続できること、オーバーワークによるパフォーマンス低下を防げることがある。

・高強度トレーニングにおいては、強度を少し下げ、量を重視することで、高い効果を得ることができる可能性がある。

 いかがでしたでしょうか。

 故障続きの方や、なかなか調子が上がってこない方は、一度自分のトレーニング強度配分を見直してみてはいかがでしょうか。

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参考文献:

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