- ポラライズドトレーニングとは何か?なぜ低強度走80%が効果的なのか?
- トレーニング強度の定義と定量化の方法は?
- マラソンに向けてポイント練習は週に何回がベストか?
マラソンのトレーニングで「低強度走ばかりで本当に速くなれるのか」と疑問に感じたことはありませんか。ランニング界では近年、ポラライズドトレーニング(polarized training)という考え方が注目を集めています。
私自身も、練習のやりすぎによって記録が伸び悩んだり怪我をした経験があり、練習強度を適切に配分することが重要だと学んできました。
マラソンを含めた長距離競技においては、適切な強度配分のトレーニングを継続的に行う(=怪我なく)ことで、長期的にパフォーマンスを向上させることが重要、と考えています。
本記事では、低強度走80%・高強度20%という強度配分——ポラライズドトレーニング——が、なぜマラソンの記録向上に有効なのかを科学的な研究をもとに解説します。
- 「怪我」をせずにトレーニングを継続することが記録向上のポイント
- トレーニング強度を定量化して把握する
- 低強度走80%+高強度20%のポラライズドトレーニングが最適な強度配分
ポラライズドトレーニングとは
ポラライズドトレーニング(polarized training)とは、トレーニングの約80%を低強度(乳酸値2 mM以下のゾーン)で行い、残り約20%を最大酸素摂取量(VO2max)の90%前後にあたる高強度で行う強度配分のことです。低強度と高強度という2つの強度帯にトレーニングを集中させ、その中間の強度帯をほとんど使わないことが特徴です。
持久系アスリートの強度配分を複数の観察研究から整理したSeiler(2010)※1によると、週10〜13回練習するエリート持久力アスリートは、約80%のセッションを乳酸値2 mM以下の低強度ゾーンで実施しています。残り約20%が高強度セッションです。この配分が長期的なパフォーマンス向上に最も有効だというのが、現在の科学的コンセンサスです。
なぜこの強度配分が重要なのでしょうか。その答えは、怪我なくトレーニングを継続することの価値にあります。
私自身、2018年12月にランニングトレーニングを本格的に開始しました。2020年12月に膝の故障を患ってしまいトレーニング離脱をせざるを得ない状況になりました。
怪我以降、最も調子が上がっていた2020年11月から半年間、記録の向上はおろか、ベストにも戻っていない状況になりました。
負荷が高い練習ばかりしていると、トレーニング効果が得られないだけでなく、逆にパフォーマンスが低下したり、最悪の場合私のように怪我につながります。
2021年びわ湖毎日マラソンにて、日本記録を更新し優勝した鈴木健吾選手のコメントにて、「記録達成のポイントは怪我無く練習を継続的に積めたこと」とありました。
また、市民ランナーで世界レベルまで到達した川内優輝選手は、サブ20の達成回数でギネス記録を持っていることからもわかる通り、非常に故障が少ない選手です。
高校時代に怪我で悩んだため、大学では練習強度を下げて競技に取り組んだ結果、箱根駅伝に学連選抜で出場するまで飛躍しました。
社会人になってからも、実業団ランナーと比較して少ない練習量であるにも関わらず、フルマラソンでトップに君臨したこともあります。
このように、トレーニング強度を適切に設定することで練習を継続することが記録向上のポイントであると言えます。ポラライズドトレーニングは、この「怪我なく継続する」という目標を達成するための強度配分として科学的に支持されています。
エリートアスリートの強度配分実態(ノルウェーボート競技選手の例)
1970年代から1990年代に世界大会やオリンピックでメダルを獲得した実績のあるノルウェーのボート競技選手に対して、トレーニング強度配分の数値化を行いました。
1970年代から1990年代にかけて下記の通りの変化があったことが分かっています。
- トレーニング総量が20%増加した
- 高強度の1か月当たりの時間数が1/3に減少し、低強度が増加した
- 極めて高強度の全力疾走トレーニングが85~90%VO2maxのトレーニングに移行した
- 高所トレーニングの回数が増加した
本例では、30年に渡りパフォーマンスを向上させてきた過程を調査しています。
高強度トレーニングの量を増やすのではなく、低強度トレーニングでトレーニング総量を増やし、高強度トレーニングは少し強度を落とした、という点が着目すべき点だと思われます。これはポラライズドトレーニングの考え方そのものです。
Seiler(2010)※1が複数の観察研究を整理したところ、週10〜13回のトレーニングを行うエリートアスリートの約80%のセッションは乳酸値2 mM以下の低強度ゾーンで実施されていました。つまり、エリートが自然と収束した配分が、低強度80%・高強度20%のポラライズドトレーニングだということです。
なぜ低強度中心なのか(Zone 2 を避ける理由)
ポラライズドトレーニングで中間の強度帯(乳酸値2〜4 mMのゾーン)をほとんど使わない理由は何でしょうか。
この点を探った研究として、Seilerら(2006)※2がノルウェーのエリートクロスカントリースキー選手のトレーニング全セッションを心拍数・乳酸値・主観的運動強度の3種類の方法で分類した研究があります。3種類の方法いずれでも結果は一致していました。低強度ゾーン(乳酸値2 mM以下)が全体の約75%、中強度ゾーン(乳酸値2〜4 mM)がわずか8%、高強度ゾーン(乳酸値4 mM超)が約17%です。
エリート選手が中強度をほとんど使わない理由は、この強度帯は疲労の蓄積が大きい割にトレーニング効果が低強度・高強度ほど明確でないためと考えられています。低強度では有酸素能力の基盤が築かれ、高強度ではVO2maxへの鋭い刺激が入ります。中強度はその中間で、どちらの効果も中途半端になりやすいのです。
このことを直接確認した研究として、20人のクロスカントリースキー選手を対象とした試験があります。研究の直前まで、20人の選手はトレーニングの84%を60〜70%VO2max、残り16%を80〜90%VO2maxで行っていました。
20人の選手を無作為に中強度グループと高強度グループに分けました。中強度グループはそれまでと同一のトレーニング強度配分を維持し週16時間のトレーニングを行いました。高強度グループはトレーニングの83%を80〜90%VO2max、残り17%を低強度とする配分に変更し、週12時間のトレーニングを行いました。
その結果、両グループにおいてパフォーマンスの向上はほとんど差異がありませんでした。この事実が示すのは、単純に高強度トレーニングの割合を増やしても、パフォーマンスが比例して上昇するわけではないということです。
ポラライズドトレーニングの科学的根拠
RCTによる直接比較
ポラライズドトレーニングが他の強度配分より優位であることを直接示した比較研究があります。ランナー・サイクリスト・トライアスロン選手・クロスカントリースキー選手48名を対象にした9週間の試験で、Stögglら(2014)※3は4種類の強度配分(低強度80%+高強度20%のポラライズドトレーニング・閾値中心・高強度中心・高ボリューム)を比較しました。
その結果、低強度80%+高強度20%のポラライズドトレーニングのグループが最大酸素摂取量(VO2max)の向上が最も大きく、閾値中心・高ボリュームのグループでは統計的に意味のある変化が見られませんでした。4種類の配分を同条件で直接比較したこの研究は、ポラライズドトレーニングの有効性を示す最も強いエビデンスの一つです。
市民ランナーでも同じ傾向
高強度の割合を一定以上に増やしてもパフォーマンスが線形に上昇しない理由として、疲労の蓄積が挙げられます。高強度の割合を増やしていくと、疲労の蓄積によってトレーニングのパフォーマンスが低下します。結果的に「狙っていた強度で高強度なトレーニングが行えていないのではないか」と考えられます。
一方、低強度の割合を増やし高強度の割合を比較的少なめにしておけば、高強度におけるトレーニング強度は高められる傾向にあります。
また、怪我のリスクも挙げられます。トレーニングが高強度であればあるほど怪我のリスクが高まり、怪我によるトレーニング離脱を余儀なくされる可能性が高くなります。
Muniz-Pumerasら(2025)※4が119,452名のマラソンランナーのトレーニングデータを分析した研究でも、同様の傾向が確認されています。速いランナーほど低強度走の占める割合が高く、走行距離と低強度比率はマラソンのタイムと強い関係を示しました。エリート選手だけでなく市民ランナーにおいても、低強度走の積み上げが記録向上の基盤になることがデータで示されています。
実践方法:強度の定量化
ポラライズドトレーニングを実践するためには、まず自分が行っているトレーニングがどの強度帯に属するのかを把握する必要があります。
トレーニング強度を定量する方法はいくつかありますが、その中でも市民ランナーが取り入れやすい強度定義は酸素摂取量(%VO2max)か心拍数(%HRmax)です。
最大酸素摂取量(VO2max)=最大心拍数(HRmax)=100%と定義します。
酸素摂取量の相対値%VO2maxと心拍数の相対値%HRmaxを用いて、各トレーニングがどのくらいの強度なのかを定量的に把握することが可能となります。
酸素摂取量と心拍数の換算については、下記の式で行います。
- 最大心拍数(HRmax)=220-年齢
- 予備心拍数=最大心拍数-安静時心拍数
- 目標心拍数=予備心拍数×目標運動強度(=%VO2max)+安静時心拍数
練習毎に上記の式を使って目標心拍数を計算するのは面倒です。表1に%VO2maxと%HRmaxの換算表を示します。
市民ランナーの間でよく知られている、ダニエルズのランニング・フォーミュラ、アドバンスト・マラソントレーニング(第三版)における、各ペース対応も記載しました。
| %VO2max | %HRmax | ダニエルズ ランニング・フォーミュラ | アドバンスト ・マラソントレーニング |
|---|---|---|---|
| 100% | 100% | Iペース | ー |
| 99% | 99% | Iペース | ー |
| 98% | 98% | Iペース | ー |
| 97% | 98% | Iペース | ー |
| 96% | 97% | Iペース | ー |
| 95% | 96% | Iペース | ー |
| 94% | 95% | CVペース | VO2max |
| 93% | 95% | CVペース | VO2max |
| 92% | 94% | CVペース | VO2max |
| 91% | 93% | CVペース | VO2max |
| 90% | 92% | CVペース | VO2max |
| 89% | 92% | Tペース | LT走 |
| 88% | 91% | Tペース | LT走 |
| 87% | 90% | Tペース | LT走 |
| 86% | 89% | Tペース | LT走 |
| 85% | 89% | Tペース/Mペース | LT走 |
| 84% | 88% | Mペース | LT走/マラソンペース走 |
| 83% | 87% | Mペース | LT走/マラソンペース走 |
| 82% | 86% | Mペース | LT走/マラソンペース走 |
| 81% | 85% | Mペース | LT走/マラソンペース走 |
| 80% | 85% | Mペース | LT走/マラソンペース走 |
| 79% | 84% | Mペース | LT走/マラソンペース走/ロング走 |
| 78% | 83% | Mペース | LT走/マラソンペース走/ロング走 |
| 77% | 82% | Mペース | LT走/マラソンペース走/ロング走 |
| 76% | 82% | Mペース | LT走/マラソンペース走/ロング走 |
| 75% | 81% | Mペース | ロング走/有酸素走 |
| 74% | 80% | Eペース | ロング走/有酸素走 |
| 73% | 79% | Eペース | ロング走/有酸素走 |
| 72% | 79% | Eペース | ロング走/有酸素走 |
| 71% | 78% | Eペース | ロング走/有酸素走 |
| 70% | 77% | Eペース | ロング走/有酸素走 |
| 69% | 76% | Eペース | ロング走/有酸素走 |
| 68% | 76% | Eペース | ロング走/有酸素走 |
| 67% | 75% | Eペース | ロング走/有酸素走/回復走 |
| 66% | 74% | Eペース | 有酸素走/回復走 |
| 65% | 73% | Eペース | 有酸素走/回復走 |
| 64% | 72% | Eペース | 有酸素走/回復走 |
| 63% | 72% | Eペース | 有酸素走/回復走 |
| 62% | 71% | Eペース | 回復走 |
| 61% | 70% | Eペース | 回復走 |
| 60% | 69% | Eペース | 回復走 |
| 59% | 69% | Eペース | 回復走 |
| 58% | 68% | Eペース | 回復走 |
| 57% | 67% | Eペース | 回復走 |
| 56% | 66% | Eペース | 回復走 |
| 55% | 66% | Eペース | 回復走 |
90%VO2maxの強度でトレーニングしたいと考えた場合、およそ最大心拍数HRmaxの92%に到達するペースでトレーニングすればよい、ということになります。
ダニエルズ理論で言うとCVペースと呼ばれる強度域であり、アドバンスト・マラソントレーニングではVO2maxに分類されます。
市民ランナーがトレーニング強度を定量的に把握する方法として最も導入が容易なのが心拍数での管理です。心拍数であれば市販のセンサーを購入することで精度高く測定することができます。
心拍数でトレーニング強度を管理することでトレーニングにおいて伸ばしたい能力が明確になります。
心拍計付きのランニングウォッチを使えば容易に心拍数を把握することが可能ですが、ランニングウォッチで測定できる心拍数は精度が低くなってしまうため、アームバンド式か胸ベルト式の心拍計がおすすめです。
普段練習をするときは、最大酸素摂取量向上・乳酸性作業閾値・有酸素能力のどこかにフォーカスしてトレーニングを行います。
最もオーソドックスな強度区分は以下のように5zoneに強度を分ける例です。
| 運動強度 | 強度名称 | 強度区分 | ※a %HRmax | ※b %VO2max | ※c 血中乳酸濃度 mmol/L |
|---|---|---|---|---|---|
| zone1 | Easy | 低強度 | 60~71 | 50~65 | 0.8~1.5 |
| zone2 | Moderate | 低~中強度 | 72~82 | 66~80 | 1.5~2.5 |
| zone3 | LT | 中強度 | 83~87 | 81~87 | 2.4~4.0 |
| zone4 | OBLA | 高強度 | 88~92 | 88~93 | 4.1~6.0 |
| zone5 | VO2max | 高強度 | 93~100 | 94~100 | >6.1 |
| Sprint | 高強度 | - | 100~ | - |
- ※a %HRmax:最大心拍数に対する割合。
- ※b %VO2max:最大酸素摂取量に対する割合。
- ※c 血中乳酸濃度:血液中の乳酸濃度。専用の測定機器でしか測ることができない。競技レベルが向上すると、同じ強度でも血中乳酸濃度の数値は低下する傾向がある。
ポラライズドトレーニングの観点から言えば、Zone 1・Zone 2が低強度帯、Zone 4・Zone 5が高強度帯に相当します。低強度80%(Zone 1・2中心)+高強度20%(Zone 4・5)という構成が、ポラライズドトレーニングの実践的な解釈になります。
実践方法:ポイント練習の頻度と配分
ポイント練習は週に何回が最適か
ポラライズドトレーニングを実践するにあたり、高強度のポイント練習は週に何回入れるのが適切なのでしょうか。Seiler(2024)※5は、HIIT(高強度インターバルトレーニング)を「できるだけ多くやる問題」ではなく「最も効果が得られる量に最適化する問題」と述べています。エリートアスリートの実践例を踏まえると、週2〜3回の高強度セッションと、残りのランニングを低強度走で占める構造が、長期的なVO2max向上に最も有効とされています。
市民ランナーの場合は、週2回のポイント練習(インターバルや閾値走など)を基準に、残りのランニングは最大心拍数の75%以下のEasyペースで行うことが、ポラライズドトレーニングを実践する最もシンプルな方法です。怪我のリスクを下げながら低強度走の走行距離を積み上げることが、長期的なパフォーマンス向上の土台になります。
ただし、高強度トレーニングにも幅があります。90〜100%VO2maxの幅があり、90%VO2maxと100%VO2maxでは体感強度にかなり大きな差があります。
高強度トレーニングの一例として、インターバルトレーニングがあります。平均的にHRmaxの90%まで8分×4の高強度インターバルを行ったグループは、HRmaxの88%・HRmaxの94%で行ったグループよりも、VO2maxの向上が高かったことが示されています。
このように、高強度トレーニングは強ければ強いほどよいというわけではなく、適切な強度で質の高いセッションを週2〜3回こなすことが重要です。そしてその質を担保するのが、残りのランニングをしっかり低強度で行うポラライズドトレーニングの考え方です。
まとめ
本記事では、マラソントレーニングにおける最適な強度配分、ポラライズドトレーニングについて解説しました。
科学的な研究が一致して示すのは、持久系パフォーマンスを向上させるには低強度走を中心に据えることが重要だということです。低強度80%+高強度20%のポラライズドトレーニングは、エリートアスリートの実践と複数の研究によって支持されています。
- 心拍数や乳酸値でトレーニング強度を定量化する
- 週2回のポイント練習(インターバル・閾値走)を基準にする
- 残りのランニングは最大心拍数の75%以下のEasyペースで行う
- 高強度を増やしすぎず、怪我なく練習を継続することを最優先にする
参考文献
※1 Seiler S (2010) “What is best practice for training intensity and duration distribution in endurance athletes?” Int J Sports Physiol Perform
※2 Seiler KS, Kjerland GØ (2006) “Quantifying training intensity distribution in elite endurance athletes: is there evidence for an optimal distribution?” Scand J Med Sci Sports
※3 Stöggl T, Sperlich B (2014) “Polarized Training Has Greater Impact on Key Endurance Variables Than Threshold, High Intensity, or High Volume Training” Front Physiol
※4 Muniz-Pumares D et al. (2025) “The Training Intensity Distribution of Marathon Runners Across Performance Levels” Sports Med
※5 Seiler S (2024) “It’s About the Long Game, Not Epic Workouts: Unpacking HIIT for Endurance Athletes” Appl Physiol Nutr Metab










コメント
コメント一覧 (2件)
難しい言葉ばかりだった。
運動強度の求め方を詳しく教えてほしいです。
市民ランナーで血中乳酸濃度が測定できない場合、運動強度は以下の2通りで求めます
・%VO2max(=設定ペース)
・%HRmax(=最大心拍数に対する心拍数率)
自分が走っているペースがどのくらいの%VO2maxになっているかは、表を使わないと計算できません。次の記事で、自分のVDOTと設定ペースがどのくらいの%VO2maxに相当するのかを算出できる表がありますので、ご参照ください。
https://shuichi-running.com/lt-tr-variation/
心拍数による決め方に関しては、
例えば、最大心拍数が190回/分である事が分かっている場合、
90%HRmaxは、運動中の心拍数が171回/分となる程度の強度、ということになります