- トレーニングメニューの作り方がいまいちわからない
- どのくらいの割合で「高強度トレーニング」を行えばいいの?
- 自分に合ったトレーニングモデルがどれなのかわからない
ランニングを長く継続していると、自分自身でトレーニングメニューを考えて練習を行うことも一つの楽しみになっているのではないでしょうか?
私自身は、ヤコブインゲブリクトセン選手が取り入れている「閾値トレーニングモデル」に着目して、自分自身のトレーニングを構築しています。
ランニングを始めとした持久性トレーニング種目での記録向上を目指したトレーニングモデルとしては、主に3種類あります。
- ピラミッド型トレーニングモデル
- ポラライズドトレーニングモデル
- 閾値トレーニングモデル
この中で、閾値トレーニングモデルは諸説ありますが、ここではノルウェーのエンデュランス系競技者の間で広く採用されている「ノルウェー式トレーニングモデル」で説明します。
本記事では、これらの3種類のトレーニングモデルを比較・解説しながら、どのトレーニングモデルが市民ランナーに適しているかを解説していきます。
トレーニング強度の定義
トレーニング強度は、以下のように5つに分類することができます。
| 運動強度 | 強度名称 | 強度区分 | ※a %HRmax | ※b %VO2max | ※c 血中乳酸濃度 mmol/L |
|---|---|---|---|---|---|
| zone1 | Easy | 低強度 | 60~71 | 50~65 | 0.8~1.5 |
| zone2 | Moderate | 低~中強度 | 72~82 | 66~80 | 1.5~2.5 |
| zone3 | LT | 中強度 | 83~87 | 81~87 | 2.4~4.0 |
| zone4 | OBLA | 高強度 | 88~92 | 88~93 | 4.1~6.0 |
| zone5 | VO2max | 高強度 | 93~100 | 94~100 | >6.1 |
| Sprint | 高強度 | - | 100~ | - |
- ※a %HRmax:最大心拍数に対する割合。
- ※b %VO2max:最大酸素摂取量に対する割合。
- ※c 血中乳酸濃度:血液中の乳酸濃度。専用の測定機器でしか測ることができない。競技レベルが向上すると、同じ強度でも血中乳酸濃度の数値は低下する傾向がある。
※レペティショントレーニングやスプリント系のトレーニングはzone5以上の高強度に分類されます。
トレーニングモデルの解説
ランニングトレーニングの代表的な3つのトレーニングモデルを紹介していきます。
ピラミッド型トレーニングモデル
ピラミッド型トレーニングモデルは、zone1に最も多くの時間を割き、zone1~zone5までボリュームが減っていくようなトレーニングモデルです。
それぞれのzoneでのトレーニング割合を示すと、以下のようになります。
※図で示した割合はあくまで、ピラミッド型であることがわかりやすくした例です。この割合が適している、と示しているわけではありません。

例えばピラミッド型の典型的なトレーニング例は次の通りです。
- 月曜:Easy Jog
- 火曜:マラソンペース走 10km
- 水曜:Easy Jog
- 木曜:テンポ走 5km
- 金曜:Easy Jog
- 土曜:VO2maxインターバルトレーニング 1000m * 5
- 日曜:Long Jog
ポラライズドトレーニングモデル
ポラライズドトレーニングモデルは、中強度に分類されるトレーニングを行わず、低強度と高強度でトレーニングを構成するモデルになります。
それぞれのzoneでのトレーニング割合を示すと、以下のようになります。

日本の市民ランナーは、ポラライズドトレーニングモデルを採用しているランナーが多いと思われます。
フルマラソンレース前になると、マラソンペースでのトレーニングが増えますが、そうなるとzone3でのトレーニングが増えることになります。
ポラライズドトレーニングモデルのメニュー例は次の通りです。
- 月曜:Easy Jog
- 火曜:テンポ走(Tペース走) 5~8km
- 水曜:Easy Jog
- 木曜:Easy Jog
- 金曜:VO2max インターバルトレーニング 1000m * 5
- 土曜:Easy Jog
- 日曜:Long Jog
ダニエルズのランニング・フォーミュラで紹介されているTペース走はLT強化が主な目的と記載がありますが、Tペース走の実際の強度は、LTを超えていてOBLAに近い強度となります。
Tペース走を行うと、血中乳酸濃度は4.0mmol/Lを超えるため、高強度に分類されます。したがって週一回のLT走、週一回のインターバル走でメニューを構成すると、それはポラライズドトレーニングモデルです。
※ただし、Tペース走をマラソンペース程度で行っているランナーは、テンポ走の強度は中強度となります。
閾値トレーニングモデル(ノルウェー式)
最後に紹介するのは、閾値トレーニングモデルです。ノルウェーの中距離選手、ヤコブインゲブリクトセン選手が採用しているトレーニングモデルで有名です。
このトレーニングモデルの発端は、同じくノルウェーの長距離選手であったマリウスバッケン選手の理論です。
マリウスバッケン選手が提唱しているのは「Double Threshold」モデルです。一日二回の閾値トレーニングを週2回取り入れます。また、週1回の高強度トレーニング(本文中では要素Xと呼ばれる)を取り入れます。
それぞれのzoneでのトレーニング割合を示すと、以下のようになります。

- 月曜:Easy Jog
- 火曜:AM 6min*5 r=60sjog PM 1000m*10 r=60sjog
- 水曜:Easy Jog
- 木曜:AM 6min*5 r=60sjog PM 400m*25 r=30sjog
- 金曜:Easy Jog
- 土曜:Hill sprint 200m*20 r=jogback
- 日曜:Long Jog
zone2の中でもzone3に近い強度から、zone3までの範囲を「閾値強度」と分けた場合、マリウスさんが提唱しているトレーニングモデルでは、トレーニング全体のうち25%を閾値強度で行います。
ヤコブ選手は、上記のメニュー以外にも、プライオメトリックス系の神経系トレーニングなどを導入しているようですが、詳細は明らかになっていません。
どのトレーニングモデルが優れているか?
上で紹介した3つのトレーニングモデルを比較して、どれが優れているかを一概に決めることはできません。どのトレーニングモデルでも、成功しているランナーがいます。
グループをランダムに分けて効果を比べた実験(RCT)では、ポラライズドトレーニングが閾値中心のトレーニングに比べて最大酸素摂取量(VO2max)を大きく改善させたとの報告があります(Stoggl & Sperlich, 2014)※3。
一方、複数の研究をまとめて統計解析した研究(メタアナリシス)では、ポラライズドの優位性は短期間の介入や、すでに高い負荷のトレーニングを積んだ競技選手に限定されるとされています(Silva Oliveira et al., 2024)※4。
条件を揃えて複数の研究を体系的にまとめたレビューで一致して示されていることは、モデルの種類によらず「低強度のトレーニングが全体の70%以上を占めている」という共通構造です(Campos et al., 2022)※5。どのモデルでも成功しているランナーがいる理由の一つは、この共通基盤にあると考えられます。
ただし、ひとつ言えることは、日本の市民ランナーが行っているトレーニングメニューはほとんどの場合、ポラライズドトレーニングモデルに分類されそうだ、ということです。
市民ランナーの典型的なトレーニングメニュー構成をもう一度示します。
- 月曜:Easy Jog
- 火曜:テンポ走(Tペース走) 5~8km
- 水曜:Easy Jog
- 木曜:Easy Jog
- 金曜:VO2max インターバルトレーニング 1000m * 5
- 土曜:Easy Jog
- 日曜:Long Jog
このトレーニングメニューは、ポイント練習を中二日で設定することができます。
平日は仕事の都合などで練習ができなくなったりすることもあります。平日の中でポイント練習とジョグの日を入れ替えることができるので、柔軟性のあるスケジュールになっています。
目標レースと時期によってトレーニングモデルが変化する
目標としているレースや、レースまでの期間によって、トレーニングモデルは変化します。
レースから遠い時期の場合は、閾値強度のトレーニング量が増える傾向にあります。具体的には、ModerateからLT強度のトレーニングと、坂ダッシュなどの基礎的なスプリントトレーニングなどを行います。
一方で、レースに近い時期にはレース強度に近いトレーニングを行います。5000mレースが目標である場合は90~100%VO2max強度で行うインターバルトレーニングやTペースのLT走などがメインになります。
目標レースがフルマラソンの場合は、レースに近い時期に行うトレーニングはマラソンペース前後で行うため、「中強度」に分類されます。
このように、目標としているレースや、レースまでにどれくらい期間があるのかによって、採用するトレーニングモデルは変化していきます。
ノルウェー式閾値トレーニングモデルの誤解
これまで、それぞれのトレーニングモデルについて説明してきましたが、各トレーニングモデルには共通点があります。
すべてのトレーニングモデルに共通して言えることは、大容量の低強度トレーニングと、ある一定割合の高強度トレーニングが組み合わせられている、という点です。
条件を揃えて複数の研究を体系的にまとめたレビューによると、エリートランナーのトレーニングにおいても、セッションの約80%が乳酸値2 mmol/L以下の低強度域で実施されていることが一貫して示されています(Seiler, 2010)※6。
この「大量低強度+少量高強度」という構造は、ピラミッド型・ポラライズド・ノルウェー式を問わず共通しており、モデルごとの違いは中強度(閾値域)の扱い方にあります。
ヤコブ選手の大活躍により、二重閾値走(ダブルスレショルド)のトレーニングが話題になっていますが、ノルウェー式閾値トレーニングモデルにも、高強度トレーニング(要素X)が必要な要素であると言われています。
また、ダブルスレショルドトレーニングは、一日二回の閾値トレーニングを行います。Casado & Bakken(2023)※1 によると、LGTITでは両セッションとも血中乳酸値を2〜4.5 mmol/Lの範囲に収めながら、セッション中に随時測定してペースを調整します。
1回を連続して行うより2回に分割するほうが、後半の心拍数・血中乳酸値・主観的つらさが抑えられ、翌日の回復も良好であることがTalsnes(2024)※2 のクロスオーバー試験で示されています。
「一日二回の閾値トレーニングをする」ということだけが独り歩きしているように感じていますが、本質は乳酸値でリアルタイムにペースを管理しながら閾値刺激を積み重ねる点にあります。
自分に合ったトレーニングモデルで練習をしてみよう
市民ランナーの間で最も普及しているのはポラライズドトレーニングモデルですが、それが自分に合っているかどうかは、実際に試してみないとわかりません。
持病などで、「高強度トレーニングがそんなにたくさんできない」、というランナーもいらっしゃると思います。
長く継続できるような練習が最も適しています。自分に適したトレーニングモデルを見つけてみましょう。
参考文献
※1 Casado A, Foster C, Bakken M, Tjelta LI (2023) “Does Lactate-Guided Threshold Interval Training within a High-Volume Low-Intensity Approach Represent the ‘Next Step’ in the Evolution of Distance Running Training?” Int J Environ Res Public Health
※2 Kjøsen Talsnes R et al. (2024) “Comparison of acute physiological responses between one long and two short sessions of moderate-intensity training in endurance athletes” Front Physiol
※3 Stoggl T, Sperlich B (2014) “Polarized Training Has Greater Impact on Key Endurance Variables Than Threshold, High Intensity, or High Volume Training” Frontiers in Physiology
※4 Silva Oliveira P, Boppre G, Fonseca H (2024) “Comparison of Polarized Versus Other Types of Endurance Training Intensity Distribution on Athletes’ Endurance Performance: A Systematic Review with Meta-analysis” Sports Med
※5 Campos Y, Casado A, Vieira JG et al. (2022) “Training-intensity Distribution on Middle- and Long-distance Runners: A Systematic Review” Int J Sports Med
※6 Seiler S (2010) “What is best practice for training intensity and duration distribution in endurance athletes?” Int J Sports Physiol Perform








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