【フルマラソンでの糖質補給戦略】グリコーゲンローディングとレース中の補給方法を解説

フルマラソン補給戦略

※「ランニングを科学する」では、筆者の知識・経験のアップデートと共に都度改定を行っています。改訂履歴は記事の最後に記載しています。

こんな疑問を解消
  • フルマラソン前のカーボローディングの方法が分からない。
  • フルマラソン当日はどのような食事をとればいいの?
  • フルマラソンレース中の補給食の方法とどんな補給食を取ればいいか知りたい。

 フルマラソンレースにおいて、栄養補給戦略は非常に重要です。普段のトレーニングがどれだけできていても、当日栄養不足でレースに臨んだ場合、実力の50%も発揮できずに終わってしまうこともあるでしょう。

 私は社会人から本格的にランニングを始めた市民ランナーです。月500km程を走り競技志向でランニングに取り組んでいます。

 私自身が運動生理学に興味を持ち、糖質の代謝についても詳しく勉強をしました。その中で、マラソンにおける糖質の重要性を理解しました。

 ここでは、フルマラソンレースにおける糖質補給戦略を解説します。レース前のカーボローディングと、レース当日の食事、レース中の補給方法や補給食の種類について説明します。

 本記事を読めば、フルマラソンレースに向けて適切な糖質摂取方法を理解することができます。また、適切な補給食を選択するための知識が身に付くと考えています。

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目次

フルマラソンにおいてなぜ糖質が重要なのか?

 フルマラソンは、2時間を超える競技である特性上、あらかじめ筋肉に蓄えられていた筋グリコーゲンを多く消費してしまう競技です。

 筋グリコーゲンが一定以上に減少すると、筋収縮に必要なエネルギーの供給が滞り、ランニング動作に支障をきたすようになります。

 フルマラソンでは、筋グリコーゲンが一定以上に減少するタイミングがちょうど30km付近で訪れることが多いため、30km以降足が止まってしまう現象が「30kmの壁」と呼ばれています。

 逆に言えば、30km以降も十分な筋グリコーゲンが残っていれば、残りの12.195kmもペースダウンせずに走り切れる可能性が高いです。

 したがって、フルマラソンにおいてレースの最後までグリコーゲン(糖質)を切らさないようにすることは、レースでいい記録を残すために非常に重要なポイントとなります。

 レースで糖質が切れてしまう理由としては、速く走りすぎる(オーバーペース)こと等がありますが、本記事では栄養の観点から説明していきたいと思います。

 栄養の観点から、糖質をできるだけ切らさないようにする方法は、以下の通りです。

栄養面においてレースで糖質を切らさないようにする方法
  • レース前にできるだけ多くの糖質を蓄えておく
  • レース中に糖質を補給して筋グリコーゲンを節約する

 以下では、レース前とレース中の糖質補給戦略について解説していきます。

レース前の糖質補給:グリコーゲンローディングの実践方法

 レース当日、糖質をできるだけ切らさないようにする方法の一つとして「レース前にできるだけ糖質を蓄えておく」ことがあげられます。

 目標とする競技の前に糖質を蓄えておくことをカーボローディング(グリコーゲンローディング)と言います。

 カーボローディングはいくつか実践方法がありますが、ここでは古典的な方法改良法の2種類を紹介します。

古典的カーボローディング

 古典的カーボローディング法は、以下の方法で行います。

古典的カーボローディング法
  • レース6日前~4日前:低糖質食+筋グリコーゲンを枯渇させるトレーニング
  • レース3日前~1日前:高糖質食(90%が糖質)+トレーニング量の漸減

 古典的カーボローディングは、1週間の期間で筋グリコーゲンを蓄える手法です。

 週の前半はあえて糖質をカットした食事をとり、厳しいトレーニングを行って筋グリコーゲンを枯渇させます。

 週の後半は逆に糖質比率を90%まで増やした食事をとります。食事のカロリー全体を増やすのではなく、あくまでも糖質の比率を増やします

 普段であれば、糖質:たんぱく質:脂質=6.0:1.5:2.5程度のカロリー比率が適切だと思いますが、これよりもかなり糖質の比率を増やすことになります。

 具体的な実践方法としては、おかずの量を少し減らし、その分ごはんやうどんなどの主食を多めに食べるイメージです。

 古典的カーボローディング法は、週の前半に糖質をカットする食事法を採用するため、週の前半がかなり苦しい期間になります。またトレーニングにより筋グリコーゲンを枯渇させるためかなりの疲労感になる可能性があります。

改良法カーボローディング

 改良型カーボローディング法は、以下の通り実施します。

改良型カーボローディング法
  • レース1週間前から運動時間を90分から徐々に短くしていき、レース2日前には40分になるようにする
  • レース6日前~4日前:糖質の比率が50%の食事をとる
  • レース3日前~1日前:糖質の比率が70%の食事をとる

 改良型カーボローディング法では低糖質食を取る期間をなくしています。研究が進み、24~36時間で十分な糖質の摂取とトレーニングの漸減があれば、筋グリコーゲンは十分に蓄えられることが示されたためです。

 レース6日前~レース4日前はほとんど通常通りの食事をとり、レース3日前からは少し糖質量を増やした食事をとるようにします。

 テーパリングでトレーニング量も徐々に漸減していくことで、体に蓄えられた筋グリコーゲンを増やしていきます。

注意点:カーボローディングでは体重が増える

 カーボローディング期間における注意点は、確実に「体重が増える」ことです。

 グリコーゲンはそれだけで貯蔵することはできず、必ず「水」と一緒に蓄えられます。

 グリコーゲン1gに対して3gの水が結合して貯蔵されるため、仮に普段よりも200g多いグリコーゲンを蓄えた場合、体重としては800g(200+600)増えることになります。

 体重増加を気にして、レース前に食事量を減らしてしまった場合、グリコーゲンが適切に蓄えられない可能性もありますので、「体重は増えるものだ」と思って取り組みましょう。

レース当日朝の糖質補給

 レース当日朝の食事は以下のように摂るのが効果的です。

レース当日朝の食事
  • レース開始4時間前までに固形物の食事は済ませる
  • レース開始2時間前にカフェインを摂取する
  • レース開始30分前~1.5時間前の間に、血糖値が急上昇するような糖質の摂取は避ける
  • レース開始~30分前であれば糖質をとっても問題ない場合が多い

 レース前の栄養補給で気を付けなければならない点は、レース開始までに固形物の消化は終わらせておくこと、レース開始30分前~1.5時間前の間に糖質が急上昇するような補給は避けること、の2点です。

 固形物の消化が終わらない状態で走り始めると、消化しきれていないものが消化不良を起こしたり、お腹を下してしまう原因になります。

 少なくとも、固形物の食事は4時間前までに終わらせておくことが望ましいです。大福やカステラなど、糖質主体で脂質がほとんど含まれていない食事の場合は、レース開始2~3時間前でも問題ない場合が多いです。

 また、レース開始2時間前前後にはカフェインを取っておくこともおすすめです。カフェインは国際的にも認められたエルゴジェニックエイドで、運動パフォーマンスを向上させるサプリメントとして公認されています。

 レース開始30分前~1.5時間前の時間帯で、特にGI値が高い糖質の摂取は避けた方が無難です。GI値とはグリセミックインデックス指数のことです。ブドウ糖を100としたときにその食べ物がどれだけ血糖値を上げやすいかを示した値です。

 血糖値が急上昇すると、インスリンが分泌され、上がった血糖値を下げようとします。血糖値の上昇が急であればあるほど、低下具合も大きくなるため、低血糖が発生する可能性があります。

 このような現象はインスリンショックと呼ばれます。

 低血糖状態だと運動パフォーマンスが低下します。レース開始時点で血糖値がある程度安定していることが必要です。

 逆にレース前30分程度であれば、GI値が高い糖質をとっても問題ない場合が多いようです。走り始めてしまえば、上昇した血糖をエネルギーとして使い始めるため、インスリン分泌が抑制され、血糖値の急低下が防がれるからです。

レース中の補給戦略

 レース中の補給戦略で重要な点は下記の通りです。

レース中の補給戦略
  • 糖質の吸収速度以上に糖質を摂取しすぎないこと(1回あたり20~30g前後の糖質にしておく)
  • ジェルなどの高密度糖質を摂取するときは水分も同時に摂ること
  • 序盤から積極的に補給食を使っていくこと
  • 30分~1時間毎に補給を行う

 レース中にまず意識したいことは、一回当たりの糖質摂取量を高めすぎないことです。

 糖質の吸収速度上限は、シングルソースのもので60g/時間、デュアルソースのもので90~100g/時間といわれておりますが、これはあくまでも良い条件で摂取した場合の吸収速度です。

 糖質を含む飲料を摂取した場合、糖質濃度が濃くなるにつれて、胃から腸に向かって排出される速度が遅くなっていくことが分かっています。

 胃から腸に排出されるスピードは、濃度ができるだけ薄いほうが望ましいことになります。一度に多くの補給用ジェルを摂取しすぎると、そのジェルが胃の中に滞在する時間も長くなり、おなかを下す要因にもなります。

 1回当たりにどのくらいのジェル摂取量で、どのくらいの水分を摂るのが適切なのかについては、普段のトレーニングから自分にとっての最適解を見つけておく必要があります。

 補給食を使う理由は、消費した糖質を補うためです。グリコーゲンの消費を補うために序盤から積極的に補給食を使っていくことがおすすめです。

 補給食の吸収には時間がかかりますので、レース序盤から少しずつ摂っていくのが望ましいです。

 ランニングを科学するでは、おすすめの補給食を紹介しています。具体的にどんな補給食が良いのかについては、次の記事で詳しく解説していますのでご参照ください。

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レース後 リカバリーのための栄養摂取

 フルマラソンに限らず、レースが終わった後の補給はリカバリーのために重要です。

 レース後は、筋グリコーゲンを回復させ体のエネルギー不足を解消する必要があります。

 体がエネルギー不足になっていると、疲労回復が遅れたり、筋分解が進んでしまったりするなどの影響があるため、レース後に栄養摂取を制限する選択をするパターンは少ないと思われます。

 レース終了後1時間以内に、1.0~1.2g/体重kgの糖質とたんぱく質を含む補給食を摂ることがおすすめです。その後、レース4時間後までに、1.0~1.2g/体重kgの糖質を補給し続けることで、筋グリコーゲンを素早く回復させることができます。

 体重60kgのランナーであれば、レース後に60gの糖質、その後4時間は1時間ごとに60~72gの糖質を摂取していくことが望ましいです。糖質60gはごはん茶碗に軽く1杯程度の糖質に値します。

 レース直後が最もグリコーゲン吸収率が高まるタイミングですので、このタイミングで適切な補給をすることでリカバリーを早めることが可能になります。

 ただ、レース後は内臓にも相当な負荷がかかっているため、通常の食事はとることが難しい場合も多いです。レース前に摂っているような吸収しやすい食事をあらかじめ準備しておいて、走り終わった後もたべておく、程度で十分です。

栄養摂取はトレーニングと同等に重要

 私自身も体感していることとして、栄養摂取はトレーニングそのものと同等に重要であるということです。

 いいトレーニングを行うためには、十分な栄養摂取と休養(リカバリー)が必要です。特にトレーニング量が多くなってくると、栄養摂取が十分ではなくなる場合があると思いますので、トレーニング量に合わせて適切な栄養摂取を心がけましょう。

 皆様の参考になれば幸いです。

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