- 脂質ってどうやって体で使われるの?
- 脂質を優先的に使う体にしたい
体内で、脂質がどのような流れで使われ、エネルギーとして利用されているのか、脂質の代謝経路を理解している人は少ないのではないかと思います。
私は社会人から本格的にランニングを始めた市民ランナーです。月500km程を走り、競技志向でランニングに取り組んでいます。
マラソンにおける「30kmの壁」について記事にしましたが、筋グリコーゲンが減少すると脚が止まるため、脂質を優先的に使い、糖を節約することはフルマラソンで好記録を出すうために重要です。
そこで今回は、【脂肪の代謝経路】を説明しながら、脂質を優先的に使う方法について考えていきたいと思います。
本記事を読めば、脂肪が使われる経路を理解することができ、皆さん自身のトレーニング内容をアレンジできる可能性があります。
- 脂肪が脂肪酸とグリセロールに分解され、脂肪酸がミトコンドリアに取り込まれて代謝される
- 脂肪の代謝能力はトレーニング面、栄養面の両面からアプローチできる
脂肪が分解され代謝されるまで
脂肪は中性脂肪の形で存在します。中性脂肪は、炭素鎖の長い脂肪酸がグリセロールにくっついた形をとっています(図1)。
脂肪が代謝されるにはまず、中性脂肪が脂肪酸とグリセロールに分解されます。
脂肪分解によってできた脂肪酸は、血液へ放出されます。脂肪酸は血液には溶けにくいため、血液中を運ばれる際には、アルブミンを主とするタンパク質等にくっついて運ばれます(図2)。
運ばれた脂肪酸は、血液から筋肉に取り込まれます。この時、「FAT/CD36」や「FABPpm」などと呼ばれる脂肪酸の輸送担体が働くことが知られています。
脂肪酸輸送担体は通常筋肉内に存在しますが、働くべき時に筋肉表面へ移動します(図2)。
脂肪酸がエネルギーとして利用されるにはミトコンドリアで酸化される必要があります。従って脂肪酸は、筋肉に取り込まれたのち、さらにミトコンドリアに取り込まれることが必要です。
ミトコンドリアでの脂肪酸取り込みにも、脂肪酸輸送に関係するタンパク質が働いており、それぞれCPT1、CPT2と呼ばれています(図2)。
CPT1、CPT2の働きにはカルニチンが関係しています。
脂肪酸がミトコンドリアに取り込まれる際はまず外膜にて、脂肪酸がアシルCoAに変化し、CPT1の働きによりカルニチンと結合します。
続いてミトコンドリア内膜では、CPT2の働きによってカルニチンが外れます。このようにして、ミトコンドリアの膜を通過します(図3)。
この脂肪酸をミトコンドリアに取り込む過程が、脂肪代謝の律速段階(=脂肪代謝速度を決める段階)ではないかと考えられています。
ミトコンドリア内に入ったアシルCoAは、ベータ酸化されアセチルCoAへと変化し、その後、TCA回路にて完全に酸化されATPを生み出します。
脂肪は、以上のような過程を経てようやく完全利用されるため、糖に比べると手間のかかる経路です。
そのため、運動強度を上げると、手間のかかる脂肪の利用ではなく、単純な経路である糖質の利用が増えていきます(図4)。
脂肪代謝能力を上げる方法
脂肪の代謝は様々な段階を経ているため、どの段階にアプローチをすれば脂肪の代謝能力を上げることができるのかを明確に答えることは難しいです。
どの段階が、脂肪代謝速度を決めているかは明確でないため、ここでは段階毎に方法を考えていきたいと思います。
本記事では、私自身が実践を通じて感じてきた効果と、一般的に言われているような事例を紹介するにとどめておきます。
■栄養面からのアプローチ
栄養面からのアプローチを考える場合、脂肪の分解工程とCPT1によるカルニチンの反応に着目します。
脂肪の分解工程においては、「リパーゼ」により、脂肪が脂肪酸とグリセロールに分解されます。
脂肪分解を高める方法として、「カフェイン」の摂取が知られています。カフェインが体に及ぼす影響については次の記事を参考にしてください。
カフェインの摂取により、脂肪を分解する酵素である「リパーゼ」が活性化されるため、脂肪分解が促進されます。
カフェインはコーヒーや緑茶に含まれているので、日常的に摂取することが簡単です。
脂肪の分解を促進する商品は多数存在します。しかし、そもそも脂肪の分解が脂肪代謝の律速段階ではない場合、いくら脂肪の分解を促進しても脂肪代謝速度の向上は見込めません。
実際、分解された脂肪酸は、グリセロールと再度結合し脂肪に戻る反応も起こっているようです。
カルニチンについても同様です。アシルCoAにカルニチンを結合させる反応を促進させるためには、カルニチンの増量は効果がありそうです。
カルニチンは気軽に手に入るため、一度試してみる価値はありそうです。
■トレーニング面からのアプローチ
トレーニングにおいて脂肪の代謝能力を高めるポイントは以下の2つです。
- 運動強度が低いほど、脂肪の利用割合が高まる
- 脂肪の利用速度は60%VO2max程度で最大になる
- 運動継続時間が長いほど脂肪の利用割合が高まる
運動強度が低ければ低いほど、消費カロリーに占める脂質の割合が増加していることが分かります(図5)。
ただし、脂肪の利用速度を考慮すると、60%VO2max程度(心拍数にすると60~70%HRmax)程度で最大になります(図6)。これは「Eペース=ジョギング」に相当する強度です。
また、運動継続時間が長いほど、脂肪の利用割合が増えていくことも分かっています(図7)
まとめると、Eペース程度の強度で長い時間のランニングを継続することが、脂質代謝能力向上という観点では望ましいと考えられます。
重要ポイントまとめ
本記事のポイントをまとめます。
- 脂肪は「リパーゼ」により脂肪酸とグリセロールに分解される
- 脂肪酸はアルブミンによって筋肉まで運ばれ、「CPT1」「CPT2」によってミトコンドリア内部に取り込まれる
- 脂肪酸がミトコンドリアに取り込まれる際にはカルニチンが関与している
- ミトコンドリアに取り込まれた脂肪酸は、完全酸化されATPを産生する
- 脂肪代謝改善のため、「カフェイン摂取」などの栄養面からのアプローチや、「低強度での長時間にわたる運動」のトレーニング面からのアプローチがある
脂肪代謝を改善することはとても時間がかかります。
しかし、栄養面及びトレーニング面の両面から、日々改善に取り組むことができれば、徐々に体が適応し、脂肪代謝機能は向上していくと考えられます。
皆さんの記録向上の一助となれば幸いです。
参考文献:
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