- ビルドアップ走とは?どんなトレーニングなの?
- ビルドアップ走で得られる効果は?
- 具体的なペース設定や、やり方のコツが知りたい
本格的にランニングに取り組み始め、「ビルドアップ走というトレーニングを聞いたけど、どういう効果があるのか」と疑問に思っている方もいらっしゃると思います。
ビルドアップ走は、比較的取り組みやすいトレーニングである一方で、適切な練習方法で行わないと狙った効果が得られない、難しいトレーニングでもあります。
私自身、インターバル走やLT走など様々なランニングトレーニングを行ってきました。ビルドアップ走は主にレース前に調子を上げていくタイミング等で取り入れています。
ここでは、ビルドアップ走のメリットや得られる効果を解説し、目的ごとの具体的練習メニューを提案します。
本記事を読めば、自分が狙った目的でビルドアップ走を取り入れることができ、その効果を実感できるようになります。
- ビルドアップ走とは段階的にペースアップしていくランニングトレーニング
- 特定の目的に絞ることが難しく、能力を満遍なく向上させる目的とするのが適切
- 「時短トレ、体の調子に合わせられる、ペース感覚が身に付く」というメリットがある
- 閾値改善やVO2max向上等、目的毎に設定ペースを調整する
ビルドアップ走とは
ビルドアップ走とは「段階的に徐々にペースを上げていくランニングトレーニング」を意味します。
走り始めは自分にとって比較的余裕のあるペースからスタートし、トレーニング後半に向かってきつさを感じるペースまで徐々に上げていきます。
どのくらいの距離を、どのくらいのペース設定で走るのかは、自分が狙っている目的によってアレンジします。
ビルドアップ走の注意点
ビルドアップ走の注意点は適切なペース(=強度)まで上げることで目的の効果を得ることが出来る、ということです。
走り始めは余裕を持ったスピードで入ることができ、走り終わった時もペースを上げて終えることが出来るので、練習をやり切りやすく、達成感を感じることが出来ます。
例えばビルドアップ走で最大酸素摂取量(VO2max)への刺激を狙う場合、最大心拍数(HRmax)の90%以上に相当するペースまで引き上げる必要があります。
Helgerud et al.(2007)※1 のグループをランダムに分けて効果を比べた実験(RCT)では、最大心拍数の90〜95%強度での4×4分インターバルが VO2max を最も大きく向上させた(+13%)ことが示されています。
次の図で、横軸運動強度(=ペース)、縦軸血中乳酸濃度をとったグラフを載せます。※あくまでイメージです。血中乳酸濃度や酸素摂取量はおよその数値で示しています。

ビルドアップ走は、余裕があるペース(=運動強度が低い領域)から徐々に速いペース(=運動強度が高い領域)へと推移していくため、「満遍なく能力を引き上げるトレーニング」であると言えます。
「どの強度領域で・どのくらいの長さ」を適切に設定することで、狙った効果を得ることができます。
ビルドアップ走のメリット
ビルドアップ走をトレーニングとして行う場合のメリットと、得られる生理学的効果を解説します。ビルドアップ走をトレーニングとして取り入れる場合のメリットは以下の通りです。
- 「時短トレーニング」として活用できる
- 身体の調子に合わせてトレーニング強度を調整しやすい
- ペース感覚を習得できる
時短トレーニングとして活用
ビルドアップ走は、自分にとって余裕があるペースから徐々にペースアップしていくため、ウォーミングアップを兼ねることができ、限られた時間の中で行いやすいトレーニングだと言えます。
「ウォーミングアップ・メインメニュー・クーリングダウン」と分けて行うと、どうしても間が空きます。ビルドアップ走において一連の流れでこれらを行うことで、トータルでトレーニングにかかる時間を短くすることができます。
調子に合わせた強度に調整しやすい
徐々にペースアップする過程で「調子が悪いな」と感じたらペースアップを止めて調整しやすいです。
その人自身が感じるトレーニング強度は、体の調子や走る環境に左右されます。設定ペースや心拍数を細かく決めて走ると「思ったよりもきついな」と感じ「練習がやり切れない」となったりもします。
狙った効果を得るためには、狙ったペースまで上げることが理想ではありますが、トレーニングは継続性が重要です。時には自分の主観的強度にしたがってトレーニング内容を柔軟に変更することも必要です。
ペース感覚の習得(ペースを上げる感覚)
ビルドアップにおいて徐々にペースを上げていく過程で、ペース感覚が身に付きます。本番レースにおいて、ペース感覚は重要です。フルマラソンでは、序盤のオーバーペースによって後半に大失速してしまう例が多くあります。
自分の努力感と実際のペースを合わせていくトレーニングとして有効だと考えます。
ビルドアップ走のタイム・ペース設定方法
ビルドアップ走のタイム・ペース設定方法を解説します。次の順番で設定していきます。
- ビルドアップ走の目的を決める
- 目的に合った設定ペースを決める
- 設定ペースで維持する時間 or 距離を決める
ビルドアップ走の目的を決める
ビルドアップ走の目的を明確にします。
閾値改善が目的であれば、閾値改善に有効な強度域で維持する時間を長くすることが必要です。
VO2max向上を目的にした場合は、90%HRmax以上までペースアップしなければならないため、ビルドアップ走のラストはかなりきついランニングとなるでしょう。
一方、オフシーズンなど、ペースにこだわる必要性が低いシーンでは「調子に合わせて上げれるところまで上げる」といったアバウトな目的で良い場面もあります。
目的に合った設定ペースを決める
目的を決めたら、その目的を達成するためのペースを設定します。例えば、閾値改善を目的としたビルドアップ走であれば、Tペース(乳酸性閾値に対応するペース)を最終目標にすることが適切です。
なお、Tペースはハーフマラソンレースペースよりやや速いことが多く、「10kmレースペースとハーフマラソンレースペースの中間」程度が目安です。
現在の自己ベストから、VDOT計算機を使い、適切なTペースを算出します。
次の例では、私自身のハーフマラソン自己記録1時間12分29秒を元に計算しています。ThresholdがTペースに相当しますので、3:25/km前後が目標のペースとなります。

設定ペースで維持する時間 or 距離を決める
目標となる設定ペースを決めたら、そのペースで維持する時間もしくは距離を決めます。
ビルドアップ走ではウォーミングアップを兼ねることが多いので、ウォーミングアップの時間、段階的にペースを上げていく時間、目標ペースで維持する時間をそれぞれ設定します。
「どのくらいのペースで、どのくらい維持すべきか」の正解はありません。自分が快適にペースアップできるように設定しましょう。
ビルドアップ走で得られる効果と具体的メニュー例
ビルドアップ走で得られる効果と、目的別の具体的メニュー例を紹介します。例として、サブ3程度の実力があるランナーのペース設定を示します。フルマラソンを3時間で走り切る場合の各トレーニング設定ペースは次のように計算されます。

以下では、サブ3程度が実力のランナーがビルドアップ走を行う際のメニューについて解説します。
乳酸性作業閾値向上
運動生理学的に得られる効果として乳酸性作業閾値向上が上げられます。
ビルドアップ走を行う過程で閾値強度で維持する時間を長くすると、トレーニングボリュームを稼ぐことができ乳酸性作業閾値を向上させることが狙えます。
- 0~5km:~4:30/km(ウォーミングアップ~Moderateペース)
- 5~10km:4:30~4:15/km(Moderateペース~マラソンペース)
- 10~15km:4:15~4:00/km(マラソンペース~Tペース)
最初の5kmはウォーミングアップを兼ねています。ゆっくりとしたペースから走り始め、Moderateペースまで徐々にペースアップしていきます。
5~10kmでは、マラソンペースまで上げていきます。ラストの5kmはTペース付近までビルドアップできるようにします。全体としてボリュームも多く、最後の5kmでは多少のきつさを感じるようなメニューになります。
最大酸素摂取量(VO2max)向上
90%HRmax以上の強度までペースアップすると、VO2maxへの刺激を得ることができます。
Helgerud et al.(2007)※1 の実験では最大心拍数の90〜95%強度がVO2max向上に有効な強度域と示されています。一方、Swain et al.(1994)※2 によれば90%HRmax(最大心拍数の90%)は最大酸素摂取量の約80〜82%相当であり、感覚的にはフルマラソンとハーフマラソンの中間程度の強度に対応します。
VO2maxへの刺激を得るためには、それ以上のペースである程度呼吸が乱れるレベルまで到達することが必要です。ビルドアップ走でVO2maxに刺激を入れたい場合は、最後のペースアップでこの強度に到達することを目標にしましょう。
- 0~5km:~4:30/km(ウォーミングアップ~Moderateペース)
- 5~8km:4:30~4:15/km(Moderateペース~マラソンペース)
- 8~10km:4:15~4:00/km(マラソンペース~Tペース)
- 10~12km:4:00~3:50/km(Tペース~インターバルペース)
最後の2kmでインターバルペースまで上げ、VO2maxへの刺激も意識したビルドアップ走です。10kmまでで体の酸素摂取量が十分に高まっているため、最後ペースアップしている時間はほぼ全てVO2maxへ有効な刺激となるでしょう。
ラスト2kmは、きつい中で追い込むことになります。きつさを感じながらなんとかペースアップを図るような走りになります。
ただしVO2maxへの刺激が主目的の場合は、休息を挟んだインターバルトレーニングの方が適しています。Billat et al.(2000)※4 の研究では、インターバル走は持続的な高強度走と比べてVO2max強度で維持できる時間が約3倍になることが示されており、VO2max強度での疾走時間を確保する点でインターバルが優れています。
参考文献
※1 Helgerud J, Hoydal K, Wang E et al. (2007) “Aerobic high-intensity intervals improve VO2max more than moderate training” Medicine & Science in Sports & Exercise
※2 Swain DP, Abernathy KS, Smith CS, Lee SJ, Bunn SA (1994) “Target heart rates for the development of cardiorespiratory fitness” Medicine and Science in Sports and Exercise
※3 Bassett DR Jr, Howley ET (2000) “Limiting factors for maximum oxygen uptake and determinants of endurance performance” Medicine & Science in Sports & Exercise
※4 Billat VL, Slawinski J, Bocquet V et al. (2000) “Intermittent runs at vVO2max enables subjects to remain at VO2max for a longer time than intense but submaximal runs” European Journal of Applied Physiology






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