「力を貯める・待つ」ことの大事さ。結果を焦る思考回路を考える。

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※「ランニングを科学する」では、筆者の知識・経験のアップデートと共に都度改定を行っています。改訂履歴は記事の最後に記載しています。

 久しぶりに、思ったこと気ままにを書こうと思います。

 今は私自身、仕事・家庭の両立で時間的制約が多く、練習をしたくてもできない環境です。

 しかし、少しづつ時間的制約が無くなってきたときに、結果を焦るがゆえに故障等を引き起こしてしまう自分がいるのではないか、と不安を感じているため、備忘録として今の考えを残そうと思いました。

 長距離競技において「記録を出すべき時期を伺い、力を貯める・待つ」ことは記録を出すうえで非常に重要であることだと感じています。最も自分が苦手としている部分でもあります。長距離競技だけでなくスポーツ全般に言えることかもしれません。

 結果を得ることを焦ってしまうがゆえに、自分の実力を正確に把握できずトレーニングを適切な負荷に設定できない、オーバーワークで故障する、などの問題が発生すると考えています。

 頻繁に故障していて悩んでいる、記録が出なくて困っている、のようなランナーの方に、本記事を読んでいただければ幸いです。

目次

実力を正確に把握し課題を見つけることは非常に難しい

 2021年11月末、練習の一環で5000mのレースに出場し16分34秒でした。1.5か月前の10月9日に気温30℃の中で16分14秒で走ったパフォーマンスに比べると、非常に低調な記録です。

 記録が出せなかった要因の内の一つに、「マイレージ(=走行距離)を下げる調整をしなかった」という点を挙げました。レース一週間前からのトレーニングメニューを比較してみます。

走行距離メニュー
10月2日25.6Long run 4:05/km
10月3日14.2Easy
10月4日0OFF
10月5日10.2Moderate+WS8
10月6日12.61000m*4 r=2min VO2max-7
3:08-3:12-3:13-3:13 
10月7日10Easy
10月8日8Moderate+WS8
10月9日5000m 16:14
Total80.6km
表1 10月9日 5000mレース1週間前のメニュー
走行距離メニュー
11月21日27.7Long Jog 4:28/km
11月22日0OFF
11月23日14.3Easy
11月24日18.71000m*10 r=60s
3:20-3:18-3:19-3:21-3:21-3:20-3:19-3:22-3:23-3:18
ave. 3:20/km
11月25日14.4Easy
11月26日15.5Hill Sprint 200m*20 ave. 34s
11月27日14.4Easy
11月28日5000m 16:34
Total105km
表2 11月28日 5000mレース1週間前のメニュー

 10月9日のレース前は、ポイント練習含めて走行距離を7~8割程度に落としています。一方、11月28日は走行距離105kmで通常週程度。レースの前々日にはヒルスプリントを20本こなしています。

 1000m*10本のインターバルにおけるペースを見ると、3:20/km平均でこなすことができており、「練習としては非常に好調」な様子がうかがえます。10月9日あたりに同練習を行っても、これだけのパフォーマンスは発揮できなかったと思われます。

 練習での調子が良かったため、無調整でもレース前の段階では、「調整はしていないけど実力は上がっているから16分切りはできるだろう」と思っていました。しかし実際には、気温30℃で出した自己ベストにも全く届かない結果となりました。

 冷静に考えれば、強度が高いポイント練習も普段通りに行い、走行距離も落とさないままレースに臨んだら、「普段の練習程度の力」しか出せないことは明らかです。しかし、実際に悪い結果が出てみると、その結果に一喜一憂して、少しメンタル的に沈んでしまう自分がここにいます。

 今思い返せば、学生時代も同じようなことを繰り返してきていたなぁと思います。試合に向けての調整が圧倒的に足りていなかったし、それでいて低いパフォーマンスしか出せないと、「トレーニングが足りないんだ」と考えて、さらにトレーニング量を増やしました。

 その結果、トレーニングの負荷が自分にとって大きく、怪我が多く、思ったような競技成績を残せない自分が居ました。

 結果を焦る思考回路が、自分の実力を正確に把握し課題を見つける手順を狂わせてしまう。そんな迷路に迷い込んでいる市民ランナーは多いのではないでしょうか。

結果を焦らず、周到に準備して「待つ」

 市民ランナーのいいところは、自分のスケジュールで柔軟にトレーニング計画を組み、好きなタイミングでレースに出場できるところだと考えています。このことは走る研究室で発信されている、「市民ランナーが中長距離で日本選手権を目指すなら」でも同じようなことが記載されていました。

 長距離種目で結果を出すためには、周到な事前準備が必要です。

 例えば5000mレースに向けた調整を例に挙げると、取り組み始めてから比較的早期に結果が出始めると言われているVO2maxにフォーカスしたトレーニングでさえも、1か月~1.5か月程度は必要であり、走行距離を落とす調整を加えると、2か月弱は調整期間として確保する必要があります

 VO2maxのトレーニングに移行する前には、比較的ゆっくりなペースでの有酸素ランニングやLTペースでのトレーニングを行っておく必要があり、さらに長いスパンでトレーニングを計画しておかなければなりません。

 この「準備期間」で発生する作業が「力を貯めるために待つ」という行動です。

 練習でのパフォーマンスが上がってくると、どうしてもその力を試してみたくなります。力試しとしてレースに出場するわけですが、そのレースで思ったような結果が出ないと、「トレーニング方針が間違っていたのではないか」と考えて、それまでのトレーニング方針をガラッと変えたり、練習量を急激に増やしたりする行動につながります。

 しかし、冷静に考えれば力試しで出場したレースで思ったように記録が出ないのは当たり前です。

 例えば、脚づくりを終え、LTペースでのトレーニングに移行し、パフォーマンスが徐々に向上してきたタイミングで5000mに出場しても、トレーニングにおける5000mへの特異性は低いため、5000mレースで好記録を出すことは難しいのです。

 市民ランナーの中で、週末のレースをポイント練習代わりにしている方は世の中結構居ると思います。川内優輝選手もそのうちの一人ですね。そういう方々で、怪我せず記録を年々更新できている方は、疲労度が高い中で出場するレース結果の受け止め方がとても上手なのではないかと思います。

中村高洋選手の話

 2020年から2021年にかけて、長距離ランナーの競技成績が躍進しているのが目立ちます。厚底のスーパーシューズの影響は否定しきれませんが、好成績の要因として、コロナウィルスで中止となるレースが相次いだことで半ば強制的に「待つ」行動が促されたと言える、と考えています。

 38歳でありながら自己ベストを連発している市民ランナー、中村高洋さんがいます。中村さんは35歳を超えてから、5000m以上の種目で自己ベストを連発しています。

表3 中村高洋さんの歴代競技成績

 中村さんは、大学1年生での5000m記録が15分25秒ではありますが、大学生でのベストが14分26秒と、当然速いのは事実ですが、箱根ランナーと比較すると特別速い選手ではなかったように見えます。

 また、年齢を重ねた後でも5000m~10000mと短めの種目でも記録を更新し続けていることが注目ポイントです。

 短い距離になればなるほど、速筋繊維が有意に働く必要があり、加齢の悪影響を受けやすいことは明確です。そのような中でも毎年自己ベストを更新できている点が非常に素晴らしいです。

 中村選手は普段、会社員として朝から晩遅く(忙しい時は20時頃になるときもあるそう・・・)まで働いているようです。子供もおり、家庭も忙しいと想像できます。

 学生時代の素養があったにせよ、社会人になってからも記録を伸ばし続けている点が素晴らしく、そのポイントとなっているのは「怪我が圧倒的に少なくトレーニングが継続できている」ことであると考えています。

 別の記事で川内選手についても同じような事を述べましたが、川内選手も他エリートランナーと比較するとトレーニング量は少ない方です。適切な負荷のトレーニングを継続し、怪我無く練習を続けることがいかに難しいかが思い知らされます。

私自身を含め、怪我に悩んでいるランナーは多いと思います。ダニエルズのランニングフォーミュラでは、怪我を防ぎながら徐々に走行距離や負荷を高めていく方法論も紹介されています。今後、自分の体験談をもとに、トレーニング負荷を漸進させてきた体験なども共有していこうと思います。

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