マラソン・ランニングパフォーマンス向上のための筋力トレーニング

こんにちは。管理人のsyu_hibiです。

 最近のマラソン界では、トレーニングの一環として筋トレを導入する選手が活躍しています。大迫傑選手や、先日びわ湖毎日マラソンで日本記録を出した鈴木健吾選手も、筋力トレーニングを精力的に行っているとのことです。

 5000mやマラソンの世界エリートランナーのトレーニングメニューを見ても、ほとんど例外なく筋トレが組み込まれており、客観的な実績だけを見ると「筋トレを行うことでマラソンをはじめとした長距離種目におけるパフォーマンスも上がりそうだ」といえそうです。

 一方で、筋トレをすることによってランニングトレーニングで培った持久力が損なわれてしまったり、筋量の増加で体が重くなってしまい、パフォーマンスへ悪影響を及ぼしてしまうと考えている指導者もいます。

 そこで今回は、筋トレが体に与える影響、長距離種目のパフォーマンスを向上させる筋力トレーニングの方法論を、最新の研究結果を参照しながら紹介していきます。

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0.結論

 はじめに結論を述べると、具体的にどのような筋力トレーニングを行えばマラソン・ランニングパフォーマンス向上に効果があるのかについては、明確な研究結果・証拠がありません。

 これまで、限られた状況・期間での持久性パフォーマンスと筋トレの関係性を調査した結果はいくつか報告されているものが有りますが、長期的に調査した結果はほとんどなく、各研究で報告結果が矛盾するものも多くあります。

 ただ、一つ言えることとして、過去の様々な研究結果から、過度な筋肥大による体重増加等を除いて、「持久性パフォーマンス向上に対する筋力トレーニングの負の影響は示されていない」ということです。

 従って、「持久性パフォーマンスを向上させるために筋力トレーニングを導入することに対して、パフォーマンスが低下してしまう不安を感じる必要はない」、と言い切ることができます。

 ※ただし、筋トレにより発生する急性の筋疲労は短期的に持久性パフォーマンスを低下させます

 本記事では、持久性パフォーマンスを向上させるための筋トレ方法論に絞って話を進めていきます。

 筋トレによる「筋肥大・最大筋力向上・筋パワー」向上を主目的にしながらも有酸素運動を同時に行い、体を絞っていきたい方に対しても有益な情報を提供していきます。

 改めてですが、本記事では、筋トレがマラソンやランニングパフォーマンスにどんな影響を与え得るかを紹介し、筋トレによってパフォーマンス向上につながる可能性が高い方法について論じていきたいと思います。

 本記事は一部が「コンカレントトレーニング―最高のパフォーマンスを引き出す「トレーニング順序」の最適解」の要約となっています。本書は最新の研究をメタアナリシス法を使って調査を進めているため、最新のエビデンスを網羅できており、最も確からしい情報となっています。

 さらに詳しく知りたい方は、是非本書を手に取ってご覧ください。

1.筋トレを行うことにより期待される効果と方針

 長距離種目は、低いレベルからエリートランナーまでを広くとらえると、最大酸素摂取量(VO2max)に代表される有酸素能力と記録が有意に相関していることが分かっていますが、エリートランナー同士で比較すると、その相関関係がかなり弱いものになってしまうことも判明しています。

 その要因として考えられることは、ランニングエコノミーやスプリント能力等がパフォーマンスの決定要因の一部となっている、ということです。

 5000m等の比較的短めの距離になると、レース終盤のスプリント勝負になることもあり、競技成績を上げるためには最大スピード値が高い必要があることも明らかです。

 また、エリートランナーが行っている筋力トレーニングを見ていると、必ずしも筋パワーを高めるトレーニングのみを行っているわけではないことが分かります。

 これらの事から、筋力トレーニングに期待すべき効果は次のように考えています。

  • 最大筋力向上
  • 爆発的な筋発揮能力向上(筋パワー向上)
  • 種目に特異的な動作への移行
  • 運動効率の改善、障害発生率の低下(=ケガの予防)

 筋トレによって得られる効果を図示すると、次のようになります。

 左のピラミッドは、持久性パフォーマンスに影響する代謝機能を表しています。筋トレによって発揮できるパワーが向上すると、到達できる最大スピード値向上が得られると考えられます。

 これは、ランニングトレーニングとしてのインターバルトレーニング等では得ることが難しい効果です。

 以下では、それぞれの効果を得るためのトレーニング方針を示します。

■最大筋力向上

 最大筋力を向上させるには、高負荷(4RM~12RM)・低速度の動作でトレーニングを進めます。具体的な種目名で言うと、スクワットデッドリフトブルガリアンスクワット等が該当します。いわゆる、一般的に言われている「ウェイトトレーニング」です。

 ただし、最大筋力を向上させることが直接、持久性パフォーマンスに結び付く可能性は低いと考えられます。最大筋力向上トレーニングの目的は特定の神経筋の適応を促進し、最大発揮能力を高めることであるためです。

 最大筋力は様々な動作の土台となる部分です。従って、最大筋力向上を狙ったトレーニングは主にレースシーズンに行うのではなく、レースが終わったオフシーズンなどに実施します

 しかし、シーズン中も最大筋力を維持する必要があるため、最低限筋力を維持するためのトレーニングだけを続けていくことになります。

 理想的なスケジュールとしては、オフシーズン中は週2回程度の最大筋力向上トレーニングを実施し、レースシーズンは週1回に頻度を下げ、なおかつ、ボリュームやトレーニングにおける動作の可動範囲を制限し、最大筋力を維持しながらも筋疲労を残さないようにすることがポイントです。

■筋パワー向上

 中~高負荷で比較的速い速度で行い、力発揮速度を高めます。種目としては、クリーンやジャンプスクワット等があります。最大筋力向上を狙ったトレーニングで得た筋力を素早く発揮するためのトレーニングとなります。

 筋パワー向上を狙ったトレーニングを始めると、持久性パフォーマンスに結びつきやすくなってくると考えられます。

 レースシーズンに入ってからは、純粋な最大筋力向上トレーニングはほとんど行わなくなる一方で、筋パワー向上を狙ったトレーニングを週1回程度の頻度で行っていくことで、最大筋力を最低限維持しながら、力発揮速度を維持、もしくは高めることが可能となります。

■種目に特異的な動作の習得

 筋パワー向上を狙ったトレーニングが進んできたら、徐々に反動を用いた、種目の動作に近い低負荷高速度のトレーニングを導入していきます。ランニングに関しては、バウンディングやスプリントトレーニングがそれに当たります。

 一般的にはプライオメトリックストレーニングとも言われます。種目特有の動作にかなり近くなるため、これまでに高めてきた最大筋力や筋パワーを活かすためのトレーニングとなります。

 トレーニングボリュームを抑えれば、そこまで負荷が高くないため、ウォーミングアップに取り入れたり、ドリルトレーニングとして行うことで、体へ馴染ませていくことが望まれます。

■運動効率の改善、障害発生率の低下(=ケガの予防)

 筋トレを行う目的の中で、明確に切り分けないといけないものとなります。

 推測にはなりますが、一般的な市民ランナーが行えている筋トレと言えば、主にこれらに当たるのではないでしょうか。

 体幹トレーニングや低負荷・高回数でのトレーニング等の目的は①特定の筋肉にフォーカスしてさらなる筋力向上を目指す、②局所的な筋持久力の向上、③骨や腱の適応・姿勢制御の向上による運動効率向上及び怪我の予防となります。

 これらのトレーニングは、「練習のための練習」という位置づけであったり、怪我を予防して本当に行いたい練習を継続して行うための土台作りとして取り入れるべきものとなります。

 従って、レースでのパフォーマンスには直接結びつきにくいと考えられます。

2.持久性トレーニングが筋トレの効果に与える影響

 長距離種目に取り組んでいるランナーであれば、筋トレとランニングを同時に行うことになります。

 ランナーからすると、筋肥大による持久性パフォーマンスへ悪影響を心配します。

 筋トレをメインに行っており、体脂肪率を落とすためにランニングを行っている人からすると、持久性トレーニングが筋肥大を妨げる可能性について心配します。

 一般に、筋トレ(レジスタンストレーニング)と持久性トレーニングを同時に行うことをコンカレントトレーニングと呼びます。ここでは、持久性トレーニングと筋トレが相互に与える影響を紹介します。

■筋肥大による持久性パフォーマンスへの影響

 「筋肥大」が起こり、筋繊維断面積が増加すると、筋細胞内外の拡散距離が増加してしまうため、グルコースや遊離脂肪酸を細胞内外へ輸送するのに不利になってしまうことが考えられます。

 しかし冒頭でも述べましたが、これまでの研究結果から、持久性パフォーマンス向上に対する筋力トレーニングの負の影響は示されていません

 当然、筋肥大によって体重が大幅に増加するといった現象があれば、持久性パフォーマンスは落ちてしまう可能性はありますが、体重にさほど変動がない程度の筋肥大であれば、悪影響はないことが分かっています。

■持久性トレーニングが筋肥大を妨げる?

 結論から言うと、過去の様々な研究から、「持久性トレーニングは筋肥大を妨げない」ことが分かっています。ただしそれは、筋肥大に必要な要素を満たしている場合のみです。

 筋肥大に必要な要素についての詳細な説明は本記事の趣旨からずれてしまうため、割愛しますが、筋力トレーニング方法、摂取カロリー>消費カロリーにすること、タンパク質の摂取量等、筋肥大させる要素を満たすことが条件となります。

■「筋パワー向上」は明確に悪影響を受ける

 持久性トレーニングと筋トレを並行して行うと、筋トレによる筋パワー向上効果に対しては、明確に悪影響を受けてしまうことが、示されています。

 その要因として最も考えられているのは、持久性トレーニングによって発生した疲労によって、筋パワー向上トレーニングの質が低下してしまうことです。

 長距離種目のランナーにとってはある程度仕方のないことかもしれませんが、筋トレをメインに行っているトレーニーからすると、あってはならない現象ですよね。

 この悪影響をできるだけ少なくするための戦略としては、次のことが提唱されています。

  • 持久性トレーニングは1回当たり30分程度、軽いものとする。
  • 持久性トレーニングは週3回以下とする
  • 持久性トレーニングと筋トレを同日に行う場合は筋トレ→持久性トレーニングの順番とする

 これらの注意点を守ることで、持久性トレーニングによる筋パワー向上への悪影響を可能な限り小さくすることができると述べられています。

3.「高負荷低回数」か「低負荷高回数」か

 マラソン自体が、比較的低強度な運動を長く続ける種目であることから、行うべき筋力トレーニングも「低負荷高回数」とすべき、と考えられているのが一般的なのでしょうか。

 しかし、これまでで述べてきた通り、筋トレの目的によって筋トレ方法も変えていく必要があります。

■持久性パフォーマンス向上には「高負荷低回数」のトレーニングが有効

 持久性トレーニングとの組み合わせで行う筋力トレーニングは、高負荷低回数(1RMの85%程度で5~8回)」が効果的であることが、実験からも示されています(エンデュランストレーニングの科学)。

 これまで述べてきたことからわかる通り、筋トレを行うことで最大スピード値向上効果を得るためには、最大筋力向上トレーニングや筋パワー向上トレーニングを行う必要があります。

 これらの効果を得るためには、高負荷低回数のトレーニングを行う必要がある事は明確ですね。

 よくトレーニングを積んだ自転車競技選手に対し、週2~3回の高負荷筋力トレーニング(1RMの85%以上)と持久性トレーニング(30時間以上/週)を組み合わせて実施してもらったところ、45分のタイムトライアルで優位に記録が向上しました。

 他の例においても、低負荷の筋力トレーニング(1RMの80%以下)では有意な効果が見られなかったのに対し、高負荷の筋力トレーニングを組み合わせることで効果が得られたと紹介されています。

■低負荷高回数の筋力トレーニングの役割

 原監督が率いる青山学院大学の「青トレ」を見ても、コアトレーニングと呼ばれる類であり、自重を使っているため、高負荷な筋トレとは言えない。

 低負荷高回数のトレーニングは、先に述べた、運動効率向上や障害発生率低下などが主な目的となります。また、ピンポイントで筋肥大を獲得したり、筋持久力を高める狙いもあります。

 また、神経的な適応が一つとして挙げられます。神経的な適応は、筋肉の稼働率を上昇させることと同義ですが、低負荷高回数の筋トレで「意識的に使える筋肉」を増やせる可能性があると考えられます。

4.重要ポイントまとめ

 では、長距離種目での持久性パフォーマンスを向上させるための筋力トレーニングにおける重要ポイントをまとめます。

重要ポイント>>

  • 筋トレが持久性パフォーマンスに悪影響を与えることはない
  • ランナーにとって筋トレの目的は最大スピード値の向上
  • その他の目的は、運動効率向上及び怪我の予防
  • 持久性トレーニングは筋トレの筋肥大効果に悪影響を与えないが、筋パワー向上効果には明確に悪影響がある
  • 筋パワー向上効果への悪影響を減少させるための戦略がある
  • 筋トレの目的によって、「高負荷低回数」「低負荷高回数」の筋トレを使い分ける

 いかがでしたでしょうか。

 私と同じように、筋力トレーニングをやるべきかどうかで悩んでいる市民ランナーの方は多いと思います。悩む理由は、そもそも時間が無い中トレーニングを行っているため、ランニングか筋トレのどちらかしかできない、という状況があるから、と思われます。

 エリートランナーでさえも、筋トレに取り組むことで高いパフォーマンスを発揮している例があります。記録が伸び悩んでいる方は是非一度取り入れてみてはどうでしょうか。

参考文献:

メディカル・サイエンス・インターナショナル
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編集:Iñigo Mujika, 翻訳:長谷川 博, 翻訳:中村 大輔, 翻訳:安松 幹展, 翻訳:桜井 智野風, 翻訳:久保 啓太郎, 翻訳:禰屋 光, 翻訳:伊藤 静夫, 翻訳:相澤 勝治, 翻訳:鬼塚 純玲, 翻訳:田中 美吏, 翻訳:安藤 創一, 翻訳:加藤 晴康
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