マラソンにおける筋トレ(レジスタンストレーニング)の必要性

こんにちは。管理人のsyu_hibiです。

 私自身、ランニングを始めた当初から「マラソンや5000mで記録を向上させるうえで、筋トレ(レジスタンストレーニング)は必要だろうか」ということについて考えてきました。

 というのも、ランニングに取り組み始める前は筋トレ自体が趣味であったため、できれば筋トレを継続しながらマラソンでも記録を出したかったためです。

 最近のマラソン界では、トレーニングの一環として筋トレを導入する選手が活躍しています。大迫傑選手や、先日びわ湖毎日マラソンで日本記録を出した鈴木健吾選手も、筋力トレーニングを行っているとのことです。

 5000mやマラソンの世界エリートランナーのトレーニングメニューを見ても、ほとんど例外なく筋トレが組み込まれていることが分かります。

 客観的な実績だけを見ると、筋トレを行うことでマラソンをはじめとした長距離種目におけるパフォーマンスも上がるということが分かります。

 しかし一方で、筋トレをすることによってランニングトレーニングで培った持久力が損なわれてしまったり、筋量の増加で体が重くなってしまい、パフォーマンスへ悪影響を及ぼしてしまうと考えられている面もあります。

 そこで今回は、筋トレが体に与える影響を学び、長距離種目のパフォーマンスへどのような影響が考えられるのかを考察していきます。

 また、具体的にどのような筋力トレーニングを行えばマラソンでの記録向上に効果があるのかについては、明確な指針がありません。いくつかの論文と参考文献を調べ、マラソンを含めた長距離種目に有効なトレーニング手法を少し紹介させていただきます。

※具体的なトレーニング手法ではなく、トレーニングの負荷度合い、量について述べていきます。

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1.筋トレに伴う筋力アップのメカニズム

 まず、筋トレに伴って生じる筋力増加のメカニズムについて紹介する。

■神経系の変化

 筋トレを始めた初期においては、筋量の増大ではなく神経系の適応が主となる。横軸にトレーニング期間、縦軸に発達(漸進)を示したのが図1(パワーズ運動生理学P327参照)。

 神経系の適応は筋トレを始めてから比較的に早期の段階で起こる。

図1 レジスタンストレーニングに対する神経系と筋の適応の相対的な役割

 神経系の適応メカニズムを詳しく説明するとかなり難しくなってしまうため割愛するが、わかりやすく言うと、筋トレによってそれまで使えていなかった筋肉の一部を使えるようになることが筋力アップの要因となる。

※例えば、「力こぶ」で知られている上腕二頭筋は、筋トレを行っていない状態では7割程度しか活用できていないが、筋トレを始めたことで活用割合が9,10割へと上昇していくことを意味する。

 神経系の適応を示す例として、片腕に対して筋トレを行った場合、トレーニング効果は他方の腕にも転移するということが分かっている(パワーズ運動生理学より)。

 一般に、「筋トレの効果は3か月以上継続することによって現われる」といったことが言われているが、実際トレーニングに取り組み始めてみると、トレーニング初期から、トレーニングにおいて扱える負荷が増大していくことが分かる。

 これは、神経系の要因に基づいた筋力アップによるものが大部分であると考えられる。

■筋トレに伴う骨格筋サイズの増加

 筋トレに伴う筋繊維サイズの増加は数か月から数年間のトレーニングよって生じる漸進的な経過である。上で述べた通り、トレーニング初期から発生する筋力アップはそのほとんどが神経系の適応で説明される。「体の見た目の変化」がなかなか起こりにくいのはこのためであると考えられる。

 筋トレはⅠ型繊維(遅筋繊維)とⅡ型繊維(速筋繊維)の両方の筋繊維サイズを増加させるが、速筋繊維の肥大の程度がより大きいことが示されている。

■筋繊維タイプの変化

 筋トレを行うことで、タイプⅡX繊維(速筋繊維)がタイプⅡA繊維(中間型速筋繊維=FOG繊維)に変化する

 FOG繊維は、速筋繊維のように強い力を発揮することができる一方で、遅筋繊維のようにミトコンドリアを多く含む等の機能を有しているため、持久性及びパワー発揮の両方に優れている筋繊維である。

 別の記事で紹介したが、速筋繊維がFOG繊維化することは、LT値が向上することを意味しており、マラソンで速いペースを長時間維持するためにはとても重要だ。

 筋繊維が変化する一例として、自転車競技選手に対し、16週間の筋力トレーニング及び持久性トレーニングを同時に実施させるテストしたところ、トレーニングの実施前後で、FOG繊維が優位に増加し、速筋繊維は減少したことが分かっている(エンデュランストレーニングの科学参照)。

2.筋トレを行うことにより期待される効果

 長距離種目のパフォーマンスは、決められた距離できるだけ速い速度で走り抜けることができるかで決まる。速い速度を維持するためには、高いパワーを効率よく維持する必要がある。

 また、5000m等の比較的短めの距離になると、レース終盤のスプリント勝負になることもあり、競技成績を上げるためには最大スピードを上げる必要もある。

これらの事から、筋力トレーニングに期待すべき効果は次のように考えている。

■力発揮速度の向上による運動効率の向上

 最大筋力を向上させる筋力トレーニングは、同じ力を発揮するための力発揮速度を上げることにつながると考えられる

 わかりやすい例で言うと、高重量でベンチプレスを行いトレーニングを積むことで、自重で行う「腕立て伏せ」は、以前よりも素早く回数をこなせるようになる、というようなイメージだ。

 力の発揮速度が向上することで、ランニング動作における「力を入れなくてよい時間」が長くなると考えられる。脚を地面に接地し蹴り出す時に、発揮すべき力を出すまでの時間が短くなる。

 その結果、筋肉が弛緩する(ゆるむ)時間が増加し、一定の血流のもとで毛細血管での通過時間が遅くなるため、栄養分の流入や乳酸の放出を増加させることができるようになると考えられる(エンデュランストレーニングの科学)。

■最大パワーの増加

 既述したが、筋トレによって筋パワーが向上するため、一度の蹴り出しで発揮できる力が増大する。同じピッチで走っていても、一歩当たりで発揮できる力が増加すると、ストライドが向上する。その結果、疾走速度が向上することは明確である。

3.筋トレのデメリット

 長距離種目に取り組んでいるランナーであれば、筋トレとランニングを同時に行うことになる。筋トレをメインに行っている人から見ると、持久性トレーニングが筋肥大を妨げる可能性について心配するし、ランナーからすると、筋肥大によって持久性パフォーマンスへ悪影響を心配する。

 一般に、筋トレ(レジスタンストレーニング)と持久性トレーニングを同時に行うことをコンカレントトレーニングと呼ぶ。ここでは、持久性トレーニングと筋トレが相互に与える影響を考えていく。

■持久性トレーニングが筋肥大を妨げる?

 筋トレによる筋繊維サイズの増大は主に速筋繊維で起こるのに対し、持久性トレーニングを行うと、速筋繊維が中間型速筋繊維、もしくは遅筋繊維への変異が発生する。つまり、発生する体への影響は真逆と言ってもいい。

 持久性トレーニングが筋力アップを妨げる要因は、下記の2つが考えられる。

  1. 筋グリコーゲンの減少
  2. タンパク質合成の低下

 持久性トレーニングを継続的に行っている場合、常に筋グリコーゲンが慢性的に低レベルな状態が維持されることが想定される。一方、筋トレでは筋グリコーゲンを積極的に活用し最大パワーを発揮させる必要があるが、低グリコーゲン状態がトレーニングパフォーマンスの低下を招く可能性は高い。

 また、筋トレと持久性トレーニングを同時に行うことで、筋トレ後のタンパク質合成を妨げる可能性がある。少し難しい内容ではあるが、メカニズムを紹介する。

 筋トレをすることでmTORシグナル伝達経路が活性化され、タンパク質合成を増加させることが筋肥大のメカニズムである。一方持久性トレーニングを行った際には結果的にTSC2と呼ばれるシグナル分子が活性化されるが、TSC2はmTORの活性化を抑制することが分かっており、その結果タンパク質合成が抑制されることになる(図2)。

図2 持久性トレーニングが筋肥大のためのタンパク質合成を抑制するメカニズム

■筋肥大による持久性パフォーマンスへの影響

 「筋肥大」が起こり、筋繊維断面積が増加すると、筋細胞内外の拡散距離が増加してしまうため、グルコースや遊離脂肪酸を細胞内外へ輸送するのに不利になってしまうことが考えらる。

 筋トレと持久性トレーニングを同時に行うことには、それぞれを単独で行った場合と比較して相互に悪影響を及ぼす可能性がある。また、筋肥大による持久性パフォーマンスの低下の可能性もある。

 しかし事実として、世界のエリートランナーはほぼ例外なくレジスタンストレーニングを行っており、実際に結果を出していることは否定できない。

 筋トレは、やれば確実に速くなる、という類のトレーニングではないが、適切な取り組み方をすれば、持久性パフォーマンスをさらに向上させることもできると考えられる。

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4.「高負荷低回数」か「低負荷高回数」か

 マラソン自体が、比較的低強度な運動を長く続ける種目であることから、行うべき筋力トレーニングも「低負荷高回数」とすべき、と考えられているのが一般的なのだろうか。

■持久性パフォーマンス向上には「高負荷低回数」のトレーニングが有効

 持久性トレーニングとの組み合わせで行う筋力トレーニングは、高負荷低回数(1RMの85%程度で5~8回)」が効果的であることが、実験から示されている(エンデュランストレーニングの科学)。

 筋トレ本来の目的は最大パワーの向上であることからも、高負荷低回数の筋トレが有用でありそうなことは容易に想像できる。低負荷高回数の筋トレをやるのであれば、坂道ダッシュや階段昇降等で十分代用可能だと推測できる。

■高負荷低回数が効果的な理由の考察

 よくトレーニングを積んだ自転車競技選手に対し、週2~3回の高負荷筋力トレーニング(1RMの85%以上)と持久性トレーニング(30時間以上/週)を組み合わせて実施してもらったところ、45分のタイムトライアルで優位に記録が向上した。

 他の例においても、低負荷の筋力トレーニング(1RMの80%以下)では有意な効果が見られなかったのに対し、高負荷の筋力トレーニングを組み合わせることで効果が得られたと紹介されている。

 2.で示した通り、筋力トレーニングに期待できる効果は、運動効率の向上最大パワー向上の2点である。低負荷高回数では、最大パワー向上への寄与が少なく、運動効率を上げるほどに体の動きを変えることができなかったのではないかと考えられる。

 結果として低負荷高回数の筋力トレーニングでは、持久性トレーニングのみを行っている場合と、ほとんどパフォーマンスが変わらなかった、という結果になったのではないだろうか。

■低負荷高回数の筋力トレーニングは有用ではないのか?

 ここからは個人的な考察となるが、低負荷高回数のトレーニングは、まったく効果が無いのか。私自身はそんなことはないと考えている

 原監督が率いる青山学院大学の「青トレ」を見ても、コアトレーニングと呼ばれる類であり、自重を使っているため、高負荷な筋トレとは言えない。

 低負荷高回数のトレーニング効果がある可能性は、神経的な適応が一つとして挙げられる。神経的な適応は、筋肉の稼働率を上昇させることと同義であるが、低負荷高回数の筋トレで「意識的に使える筋肉」を増やせる可能性があると考えられる。

 筋肥大に関して、低負荷高回数のトレーニングを行ったテストでは有意な結果が得られなかったことについて考える必要がある別要因が、トレーニングを継続した期間だ。

 低負荷高回数のトレーニングでは、一回当たりの効果が少ないと考えられる。結果として高負荷低回数でのトレーニングと同期間で比較した場合に、低負荷高回数の母集団では効果が無いようにみえた、という可能性はある。

 また、運動効率の向上という面では、低負荷高回数でも効果があると考える。低負荷にすることで、トレーニングにおける「動きの質」を上げることが可能だ。自分が意図したとおりに体を動かし、特定の部位に効かせることができる。

 例えば、中臀筋にフォーカスしたトレーニングを行う際、負荷を高めすぎることで適切なフォームが維持できず、意図した動きでトレーニングができない場合、中臀筋にうまく効かず、ランニングする際の動きにつながらないトレーニングになってしまう可能性がある。

 筋力トレーニングの目的はあくまでランニングにおける効率の改善と最大パワーの向上であり、いくら高負荷で筋力トレーニングを行っても、ランニングにつながらない動作になってしまっては本末転倒だ。

5.重要ポイントまとめ

 では、長距離種目での持久性パフォーマンスを向上させるための筋力トレーニングにおける重要ポイントをまとめます。

重要ポイント>>

  • ランナーが筋力トレーニングを行うことで、「速筋繊維」から「FOG繊維」への変化を期待できる
  • 最大パワー及び力発揮速度(最大パワーまでの立ち上がり)の向上が期待できる
  • 「筋肥大」によるデメリットも考えられるが、持久性トレーニングと組み合わせることで、回避できる
  • 持久性トレーニングと組み合わせて行う場合、「高負荷低回数(1RMの85%程度で5~8回)」が推奨される

 いかがでしたでしょうか。

 私と同じように、筋力トレーニングをやるべきかどうかで悩んでいる市民ランナーの方は多いと思います。悩む理由は、そもそも時間が無い中トレーニングを行っているため、ランニングか筋トレのどちらかしかできない、という状況があるから、と思われます。

 エリートランナーでさえも、筋トレに取り組むことで高いパフォーマンスを発揮している例があります。記録が伸び悩んでいる方は是非一度取り入れてみてはどうでしょうか。

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参考文献:

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