- タンパク質の代謝経路が知りたい
- 糖質が不足すると筋肉が分解される仕組みが知りたい
- 筋トレと持久的なトレーニングが両立できない理由は?
ランナーに限らず、筋肉を付けながら持久力も付けたいと考えている方は多いのではないでしょうか。ランナーであればどのくらいタンパク質を摂らないといけないのか?について疑問に思っている方もいらっしゃると思います。
私自身ランニングを始める前は筋トレが趣味で、たんぱく質を摂る量には気を付けていました。ランニングに本格的に取り組み始めて以降もその癖が抜けず、たんぱく質の摂取量には少し気を付けています。
ランナーにとってたんぱく質は重要な栄養素です。運動をしない人に比べて、多く摂取する必要があります。
本記事では、たんぱく質の代謝経路を説明し、筋肉が分解されるタイミングやその時に発生する適応現象などを説明します。
この記事を読めば、ランナーにとってなぜたんぱく質が重要なのかを理解することができます。
たんぱく質の代謝回転とエネルギーとしての利用
たんぱく質は人体を構成する主要な物質であると同時に、糖質や脂質が不足した時にエネルギーの原料にもなります。
たんぱく質は人の体全体でみると、非常に短い時間サイクルで入れ替わりが発生しています。
体全体のたんぱく質は1日で30分の1(約3.0%)が入れ替わっているため「約30日で体全体のたんぱく質が総入れ替え」されます。
アミノ酸プールは細胞内や細胞外に存在します。アミノ酸プールに入ったアミノ酸のほとんどはたんぱく質合成に使われますが、必要な時にはエネルギーとして使われます。
激しい運動を長く続けているときや食事を長く摂っていないときなど、体のエネルギーが不足しているときはアミノ酸をエネルギー源として消費する量が増え、摂取量を上回ります。
たんぱく質をエネルギーとして消費する量が増えると、たんぱく質合成<<たんぱく質分解となります。この時、主に骨格筋のたんぱく質が分解され体重減少が起こります。
たんぱく質の分解が進むと、ランニングに必要な上半身の筋力が低下したり、怪我をしやすくなる可能性があります。
また、たんぱく質は血液におけるヘモグロビンの構成物質です。たんぱく質が不足するとそれが原因で貧血が発生し、運動パフォーマンスが低下する可能性があります。
したがって、ランナーとしては、必要以上に骨格筋のたんぱく質が分解されるのを防ぎながら、ランニングトレーニングを積み重ねていく必要があります。
たんぱく質の代謝経路
食事などで摂取したたんぱく質は、胃と腸でアミノ酸まで分解されて毛細血管に入ります。毛細血管に入ったアミノ酸は肝臓に運ばれます。
肝臓に運ばれたアミノ酸は、その一部が肝臓にて代謝され、余ったアミノ酸が各組織(ほかの臓器や筋肉など)に運ばれて代謝されます。
アミノ酸がエネルギーの原料として代謝されるときには「脱窒素(Nが除去される)」反応が起きます。脱窒素の結果、発生したNH3は最終的に尿素回路で尿素に変換され、体外に排出されます。
肝臓を通過して各組織に運ばれたアミノ酸が代謝される際には、同じく脱窒素反応が起きます。窒素が取れたあとは炭素骨格が残り、その炭素骨格は以下のいずれかの経路をたどることになります。
- ピルビン酸に変換されて、最終的に肝臓に運ばれ糖新生でグルコースになる
- アセチルCoAに変換され、エネルギーとして使われる前に脂肪酸やケトン体に変換される
- クエン酸回路に入り、有機的代謝を経てATPを合成する
炭素骨格に変換された後は、糖質や脂質と同じような運命を辿ることになることが分かります。アミノ酸が代謝される過程を簡単に図で示してみました。
アミノ酸が炭素骨格変換されるかどうかは、アミノ酸がアミノ酸プールに入った後にエネルギーの原料として使われるかどうかにかかっています。
糖質や脂質の摂取量が十分に足りていれば、アミノ酸をエネルギーの原料として使う必要がないため、たんぱく質の合成に使われる量が多くなります。
筋肉が分解されるとは?
筋肉が分解されるというのは、筋繊維でたんぱく質の分解が起こり、アミノ酸であるアラニンが放出されアミノ酸プールに入った後、エネルギーとして利用されることを表しています。
この現象は、体がエネルギー不足に陥ったときに活発になります。下記で詳しく記述しますが、糖質の摂取量が消費エネルギー量に対して不足している場合、アミノ酸をエネルギー源として使うようになります。
また、2時間以上の長時間運動でもアミノ酸をエネルギー源として利用する割合が増加することが知られています。
フルマラソンは2時間以上の競技なので、マラソンランナーは筋肉の分解(=たんぱく質の分解)は避けられないことが分かります。
ランナーに必要なたんぱく質量
ランナーに限らず、アスリートに必要なたんぱく質量は1日あたり【1.2g~2.0g/体重kg】というのが定説です。例えば、体重60kgの人であれば、72~120g/日のたんぱく質を摂る必要がある、ということです。
たんぱく質が不足するとたんぱく質分解が優勢となり、筋力低下や怪我の発生、その他細胞修復などの遅れの影響が出ます。たんぱく質の推奨摂取量はたんぱく質の合成を優勢にするための数値です。
マラソンランナーは、過度なたんぱく質の分解による筋力の低下を最小限に抑えつつ、持久性トレーニングを積み重ねていく必要があります。
たんぱく質の合成と分解のバランスは、たんぱく質の摂取量以外の要因も大きく影響します。そのうちの一つが摂取した糖質の量と消費したエネルギー量のバランスです。
摂取したたんぱく質の量が推奨量の下限値である1.2g/kgに近くても、摂取した糖質の量が消費エネルギー量に対して十分であれば、タンパク質の合成が優勢になります。
筋力の低下を防ぎたい場合、たんぱく質の摂取量よりも、まずは糖質をしっかり摂取して、消費エネルギー量よりも上回らせる必要があるといえます。
特にランナーは、トレーニングでのエネルギー消費量がかなり大きくなる傾向にあります。筋量を維持していくためには、しっかり糖質を摂取し、アンダーカロリーになりすぎないように注意する必要があります。
体重を落として減量したいときには消費カロリー>摂取カロリーとして、エネルギー不足の状態を意図的に作り出すことが必要です。こうなると、たんぱく質の分解はどうしても避けられません。
このような場合は、たんぱく質の摂取量を増やすことで、アンダーカロリーであっても、たんぱく質の分解を食い止めることができます。
ランナーが減量をする際には、普段よりもたんぱく質の摂取量を増やして、筋力低下を防ぐことを考える必要があります。
ランナーにとっての筋トレ
ほとんどのランナーは、走ることに集中していて、同時に筋トレを行っている方は少数派だと思います。
しかし、まったく筋トレを行わない場合、特に上半身の筋肉は分解する方向に行くため筋力は低下する一方になります。
筋肉をつけることと持久力の向上はトレードオフ
筋肉をつけることと持久力を向上させることは、ある意味トレードオフと言えます。
筋肉を増やしていくためには、筋肉におけるたんぱく質合成速度が、たんぱく質の分解速度を数日から数週間にわたって上回っている必要があります。
筋トレによって活性化するのはmTORC1と呼ばれる酵素です。このmTORC1が活性化することによってたんぱく質の合成が旺盛になり、たんぱく質の分解速度を上回ることで、筋肉が発達していくことになります。
mTORC1がいくら活発になっても、そもそもたんぱく質が足りなければ筋肉は発達しません。したがって、筋トレで筋肉を増加させたい場合は、たんぱく質の摂取と筋トレを同時に行っていく必要があります。
一方で、持久性トレーニングにより活性化するAMPKは、このmTORC1の働きを抑制する効果があります。
AMPKは持久性トレーニングやエネルギーが不足しているときにも活性化するので、持久性トレーニング全般でAMPKの活性化が発現し、mTORC1の働きを抑制することになります。
結果として、持久性トレーニングを行うとたんぱく質は分解する方向に向くため、持久性トレーニングと筋トレを同時に行い、筋力を増強していくことはほとんど難しいことになります。
最低限の筋力トレーニングで筋力低下を防ぐ
ランナーにとっての筋トレは「筋力低下を防ぐためのもの」だととらえるのが良いと思います。
月に300km以上も走っていると、筋トレをして筋肉をつけることはかなり難しくなります。理由は上で述べてきた通り、持久的なトレーニングを行うことでたんぱく質合成に重要な酵素の働きが抑制されてしまうからです。
したがって、ランナーが目指すべきなのは「筋力を最低限維持するための筋トレ」だと考えています。
長距離ランナーであっても、最低限の筋肉は必要です。腕振りや、フルマラソンにおいて長時間フォームを維持する必要があります。
下半身に関しては、ランニング動作によって使われるため、ある一定の筋力は維持されます。一方で上半身は、ランニング動作ではほとんど筋力発揮されないため、筋肉は分解される一方になります。
加えて、ランナーは上でも述べた通り消費エネルギー量が多くなる傾向にあります。摂取カロリーが消費カロリーを下回っていると、より、たんぱく質の分解が優勢になり、筋力低下が発生します。
筋トレを行うと、たんぱく質の合成を旺盛にすることができます。適切なタイミングで糖質やたんぱく質を取り、補強トレーニングを行うことで、筋力を維持していくことが必要です。
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