呼吸器系(呼吸筋)とランニングパフォーマンスの関係

 こんにちは。管理人のsyu_hibiです。

 今回は呼吸器系とランニングパフォーマンスの関係について紹介します。また、呼吸筋のトレーニングがランニングパフォーマンスを向上させる可能性があるのかについて考えていきます。

 レースにおいて呼吸が苦しくてペースダウンしてしまうと感じるランナーの方もいるかと思います。私自身の体験としては、3000m以上の種目であれば呼吸が苦しくてペースダウンしてしまったと感じることはありません。しかし、レース後半は呼吸が苦しくなってくる感覚があります。

 実は、呼吸の苦しさがペースダウンにつながっていないと感じているだけで、実際体の中で起こっている現象としては、「呼吸の苦しさへの対応を優先することで、脚などの筋肉を動かすことの優先度を下げる」といったことが考えらえ、結果的にペースダウンしていた、とも考えられることが分かりました。

 本記事では、呼吸の苦しさを生み出す原因は何なのか。また、呼吸が苦しくなってきたときに体にはどういう変化が起きているのかについて紹介していきます。

参考文献:パワーズ運動生理学

広告

1.パフォーマンスを左右する呼吸器系の要素

 運動生理学の区分けで言うと呼吸器系の働きは大きく分けて以下の4つに分類されます。

  • 肺換気
  • 肺胞でのガス交換
  • 循環輸送
  • 体組織でのガス交換

・肺喚起:

大気と肺のガス交換領域との間の呼吸ガス動き。

・肺胞でのガス交換:

肺の肺胞領域と血液との間の呼吸ガスの動き。

・循環輸送:

血中の呼吸ガスを肺から全身の細胞へ運搬すること。

・体組織でのガス交換:

血液から全身の細胞への呼吸ガスの動き。

 呼吸器系というと、肺付近で起こっている現象は想像しやすいですが、運動生理学の観点からは体の各組織に呼吸ガス成分が供給されるまでを呼吸器系の役割とみなしています。

 肺胞でのガス交換や体組織でのガス交換が起こる際には、血中の酸素分圧(PO2)や二酸化炭素分圧(PCO2)等が大きく関わってきますが、ここではそれらガス交換に関わる詳しい機能解説は行いません。詳しく勉強したい方は、冒頭で紹介した「パワーズ運動生理学」をご参照ください。

 循環輸送では血中のヘモグロビンなどの成分、体組織でのガス交換についてはミトコンドリアがどれだけ酸化能力を持っているか等に依存する部分もあると思いますが、本記事では、大気から血液中に酸素を取り込む能力についてフォーカスしていきます。

2.肺は運動トレーニングに適応しない

 骨格筋系や心血管系は持続的な持久性運動をすることで適応していく一方で、肺自体は運動に適応しないと考えられています。

 実際、トレーニングを行っている人とそうでない人の肺を比較してもほとんどほとんど変わらないことが分かっています。数か月から数年の持久性トレーニングを行っても、肺の構造と呼吸器系の機能に、運動時の肺でのガス交換の改善を測定できるほどの効果を及ぼしません(Respiratory physiology: adaptations to high-level exercise McKenzie, D.C. 2012)。

 肺が持久性トレーニングに適応しない理由は、正常な肺の構造的な能力が必要以上に大きく、運動時の酸素と二酸化炭素の運搬に必要な能力を上回っているためだと言われています。

 ただし、高度なトレーニングを積んだ男性の長距離エリートランナーが高強度運動を行った際、動脈血酸素分圧PO2が顕著に低下することがあります。男性の長距離エリートランナーのうち40~50%に見られる現象と言われています。

 動脈血酸素分圧が低下するということは、「肺にて酸素を得た後に全身に運ばれる血液(=動脈血)中の酸素濃度が低下する」だと考えられます。これは、「肺での酸素供給が間に合っていない」ことが要因です。

 まとめると、肺はトレーニングに適応することはありませんが、エリートレベルで競技を行っているランナーが高強度運動をした際には、肺での酸素供給能力が不足することがある、と言えます。

※エリートランナーが高強度運動を行ったときに動脈血酸素分圧が低下してしまう要因については、次項で解説します。

3.呼吸器系は最大運動パフォーマンスを制限するのか?

 一般的に、健常者が海面位で低強度ないし中強度の運動をする場合には、呼吸筋の疲労が運動を制限するとは考えられていません。実際、最も重要な呼吸筋である横隔膜は、非常に酸化能力の高い筋であり疲労しにくいことが分かっています。

 例えば、75%VO2maxでの長時間運動を行っても、動脈中の酸素分圧(PO2、ほとんど酸素濃度に等しい)が低下しないことが、上記事項を証明しています。

 しかし最新の研究では、トレーニングを積んだ/積まないにかかわらず、95~100%VO2maxの運動パフォーマンスを呼吸器系が制限する可能性がある事を示唆する結果が増えてきています。

 例えば、90%VO2maxの高強度運動時に呼吸筋の仕事量を減少させる(例えば、密度の低いヘリウム/酸素ガスを吸入する)ことで運動パフォーマンスが改善することが示されました。

※呼吸筋についての説明は下記のホームページに詳しく記載があります。横隔膜や腹横筋などの筋肉です。また、呼吸筋を鍛えるためのトレーニングデバイスも紹介しております。

 低密度ガスを吸入することで、呼吸仕事量(必要な酸素を取り込む際に使う力の総量)が減少し、高強度運動時に肺を出入りできるガスの量が増加することが分かりました。

 この結果は、非常に高い運動負荷時のパフォーマンスを、呼吸筋の疲労が制限している可能性がある事を示しています。

 別の研究では、80~85%VO2maxで10分間の運動において呼吸筋が疲労することが確認されています。

4.呼吸器系がパフォーマンスに影響を与えるメカニズム

 上記項目で述べてきた通り、高強度運動時や特にエリートランナーにおいては、呼吸器系が運動パフォーマンスに影響を与える可能性が高いことが分かってきました。

 呼吸生理分野の研究者であるデンプシー博士によると、吸気抵抗を用いた数週間の呼吸筋トレーニングがタイムトライアルのパフォーマンスを2~3%優位に改善させたことも、上記事項を裏付ける根拠となっている、と述べています。

 呼吸器系が運動パフォーマンスに影響を与えるメカニズムは、以下の可能性を考えることができます。

以下はあくまで「可能性がある」推測となります(パワーズ運動生理学参照)。

 高強度な持久性運動を行い呼吸筋が疲労すると、疲労した呼吸筋から交換神経血管収縮活性を起こすシグナルが発生し、走運動に用いる筋肉郡への血流を減少させ、呼吸筋への血流を増加させます。

 このような現象をメタボリフレックス(metaboreflex)と呼びます。

 走運動に用いる筋肉への血流が減少することは、つまり、それら筋肉組織への酸素運搬量が減少することを意味します。酸素運搬量が減少するとミトコンドリアでの酸化によるATP産生が滞ることになるため、乳酸の蓄積等を引き起こし高強度な運動を続けることができなくなります。

 呼吸筋トレーニングによって呼吸筋の疲労を遅らせることができれば、呼吸筋疲労による血管収縮作用の影響を小さくすることができ、走運動に用いる筋肉部への酸素運搬を維持することができるため、高強度運動を長く継続できるようになる、と考えられます。

 3.で述べた通り、呼吸筋の疲労が確認されるのは80~85%VO2max以上の強度で10分以上の運動を継続した場合です。つまり、長距離種目に当てはめると、3000mよりも長いレースになると、呼吸筋疲労の影響が出やすい、ということができます。

※さらに高い強度で運動をした場合には、もっと早い段階で呼吸筋疲労がみられる可能性もあります

5.呼吸筋とは

 呼吸筋(こきゅうきん, 英語: Muscles of respiration)は、呼吸を行う筋肉の総称です。呼吸をするときに胸郭の拡大、収縮を行う筋肉のことを示します。種類としては、横隔膜、内肋間筋、外肋間筋、胸鎖乳突筋、前斜角筋、中斜角筋、後斜角筋、腹直筋、内腹斜筋、外腹斜筋、腹横筋などがあります。

引用:Wikipedia「呼吸筋」

6.呼吸筋トレーニング

 これまで述べてきた通り、呼吸器系は運動パフォーマンスに影響を与える可能性が高いことが分かってきました。従って、呼吸器系の改善を行うことで、長距離種目における記録向上に結び付く可能性がある事を示しています。

 次のSiteでは、呼吸筋トレーニングが様々な効果をもたらしたエビデンスへのLinkがまとめられていますので、ご参照ください。

 私自身も、2021年末からランニングでの記録が伸び悩んできており、何とか打破したいと考え、2022年5月から呼吸筋トレーニングを開始しました。 

私が使用している「呼吸筋トレーニング」を行うためのトレーニング器具は「エアロフィット」です。「エアロフィット」はデンマークの国際的な医療技術企業AMBUによって設計開発された呼吸筋トレーニングデバイスです。

 ※実際に私も使用し始めており、レビューしたいと考えています。

 このようなトレーニング器具を使用したり、クロストレーニング等で呼吸筋を鍛えるようなトレーニングプログラムを組むことで、特に強度が高い運動パフォーマンスを高めることができる可能性があります。

いかがでしたでしょうか。呼吸が苦しくなってしまい悩んでいるランナーの方、呼吸筋に着目してパフォーマンスアップを図ってみてはいかがでしょうか?

広告
運動生理学
syu_hibiをフォローする
ブログ管理人
syu_hibi

初めまして、日比野就一と申します。
社会人からランニングを始めました。
理論に基づいたトレーニングで、どこまで記録を伸ばすことができるか挑戦します。
理論の紹介、トレーニング内容やレース参戦記録を発信していきます。
自己紹介・記録変遷はこちら

■自己ベスト
 1500m 4:28(2021/07)
 3000m 9:24(2022/06 公認)
 5000m 16:14(2021/10 公認)
 10000m 33:44(2021/12)
 Half  1:12:29(2022/03)
 Full  -

Twitter,Instagramではブログ更新情報、レース結果等を発信!

syu_hibiをフォローする
ランニングを科学する

コメント

タイトルとURLをコピーしました