※「ランニングを科学する」では、筆者の知識・経験のアップデートと共に都度改定を行っています。改訂履歴は記事の最後に記載しています。
【最大8%パフォーマンスが向上】マラソンに向けたテーパリング方法を徹底解説
- マラソンや5000m(長距離種目)のテーパリングは何日前から始めればいいの?
- テーパリングとピーキングの違いは?
- テーパリングでどれくらい効果が出るの?ランニング以外のスポーツでも効果はあるの?
目標としているレース前、感覚で練習量を減らしてテーパリングを行っているランナーの方も多いと思います。効果が出るテーパリング方法が分からない方も多いのではないでしょうか。
その他スポーツでも「どのくらい練習量を落とせば、試合当日のパフォーマンスがあるのか」と悩んでいる方もいらっしゃると思います。
本記事はそんな疑問を解消します。
私は社会人から本格的にランニングを始めた市民ランナーです。月500km程を走り競技志向でランニングに取り組んでいます。
私自身も、書籍を参考にしながらいくつかのテーパリング方法を試してきました。走る距離をやテーパリングを行う日数を変えてみたり等です。
ここでは、レースに向けた適切なテーパリング方法を、私自身の実体験も交えて解説します。特に、トレーニング量、強度の調整方法について紹介します。
適切にテーパリングを行えば、持久性パフォーマンスが0.5~8.0%向上することが経験的に分かっています。
パフォーマンスに影響する度合いから、テーパリングも「トレーニングの一環」として捉えるべきだと考えています。
- テーパリングではトレーニング量、強度、種類を適切に調整する
- テーパリングでは筋繊維の代謝能力が向上する。筋グリコーゲンの回復、筋細胞の修復なども得られる。
- トレーニングの【量・強度・期間】が重要
テーパリングについて
テーパリングとは?:レースに向け練習量を減らして調子を上げる
テーパリングとは「競技会に向けて徐々にトレーニング量を減らし体力を回復させつつ筋肉や体力の減退を防ぎ、最高の状態で競技に臨むこと」を示します。
テーパリングは、トレーニング量の減少によって体力を回復させることを主眼とした調整方法です。
テーパリングとは、「目指す競技会やレースで最高の持久性パフォーマンスを発揮するために、数日あるいは数週間をかけて準備していく調整」です。
テーパリングとピーキングとの違い
ピーキングは、レースに向けて最高のパフォーマンスを発揮できるように、体調や技術面などを最適な状態に調整することを目的としています。
テーパリングは、主に体力面や疲労に焦点を当てますが、ピーキングは、競技会に向けて行われる総合的な調整であり、体力や技術面などの調整が含まれます。
ただし、一般にはテーパリングとピーキングは混在して使われることが多く、明確な区分けが無い、というのが現状です。
テーパリングによって得られる具体的な効果
テーパリングによって機能改善の可能性がある要素は、「乳酸性作業閾値・最大酸素摂取量・有酸素系能力(筋肉と代謝能力)」の3点です。
「最大酸素摂取量」・「乳酸性作業閾値」は変わらない
【自転車競技者、マラソンランナー、トライアスロン選手】にそれぞれ、テーパリングを行ってもらい、テーパリング前後で最大酸素摂取量の測定を行った実験があります。
自転車競技者については、最大酸素摂取量に有意な向上が見られましたが、マラソンランナー及びトライアスロン選手には、有意な向上は見られなかったそうです。
最大酸素摂取量及び乳酸性作業閾値に対しては、テーパリングによって有意な改善がみられることもあれば、そうでないこともあるようです。
しかし、テーパリングによって心血管系や呼吸器系の状態が安定するとは言えそう、と結論づけられています。
筋肉の代謝能力が向上し筋グリコーゲン量貯蔵量が増加する
「細胞(=筋繊維)や代謝能力(=糖質や脂質の酸化能力)には、有意な改善が見られる」と報告されています。
代謝に関しては、テーパリングによって糖質や脂質を酸化する酵素が、14~18%程度活性化していると報告されています。
また、テーパリングによるトレーニング量の調整効果で、筋グリコーゲン量も20%程度増加している結果となりました。
ただ、筋グリコーゲン量に関しては食事面も大きく関係してくる要素ですので、練習量のテーパリング効果だけで語ることは難しい面があります。
テーパリングを行ったマラソンランナーや水泳選手に対して、血中CK(クレアチンキナーゼ)濃度の測定を行うと、テーパリング後には24~43%の濃度低下が見られました。
クレアチンキナーゼは筋肉中の細胞損傷具合を表す指標です。筋肉細胞の損傷が多いほど、血中CK濃度が高まる傾向にあります。
したがって、適切なテーパリングを行うことによって筋繊維中の、細胞の修復も進んでいるものと推測されます。
このように、テーパリングは、感覚的に「疲労が取れた」と感じる事に加え、体感では感じることが難しい体内部の回復・機能向上効果が得られると言えます。
テーパリング効果例紹介と具体的方法
テーパリングを効果的に進めるためには、トレーニング負荷(強度と時間)を適切にコントロールすることが必要です。
競技や個人によって、適切なテーパリング方法は異なります。その人個人に合わせた方法を、自分で模索していくことが必要です。
※次で紹介する具体的テーパリング法は、あくまで実験においての結果です。
自転車選手に対してのテーパリングテスト
自転車競技の選手が8週間の高強度トレーニング(85%HRmax)を行い、その後トレーニング量を50~60%に低減するテーパリングを行いました。
結果は、4日間・8日間のテーパリング方法を採択したどちらグループも、パフォーマンスが有意に向上しました。
この時、定量的なデータとしては、糖質及び脂質を酸化する酵素の増加、筋グリコーゲン量の増加が観察されています。
具体的テーパリング例の考察
トレーニング量・強度・期間についてそれぞれテーパリング条件を変え、効果を確認した結果をまとめた表が下記となります。いくつかの実験を参考にしています。
参考文献:
テーパリングにおいては、トレーニングの【量・強度・期間】が重要です。
カテゴリー | 条件 | 効果量 |
---|---|---|
トレーニング量 | <20% | -0.02 |
21~40% | 0.27 | |
41~60% | 0.72 | |
>60% | 0.27 | |
トレーニング強度 | 下げ | -0.02 |
維持 | 0.33 | |
トレーニング頻度 | 下げ | 0.24 |
維持 | 0.35 | |
テーパリング期間 | <7日間 | 0.17 |
8~14日間 | 0.59 | |
15~21日間 | 0.28 | |
>22日間 | 0.31 |
テーパリングの実施方法で重要な点は次の通りです。
- トレーニング量:41~60%程度まで落とす
- トレーニング強度:維持する
- テーパリング期間:8日間~14日間
実際の実業団選手の話では「フルマラソンレース前に41~60%まで練習量を落としている選手はほとんどいない」と元GMOアスリーツ近藤秀一さんがnoteで記載しています。
実験データから、効果的だと考えられるテーパリング方法は提案させていただきましたが、最後は結局、自分に合った方法を模索していく必要がありそうです。
トレーニングの特異性を上げていく(ピーキング)
トレーニングをできる限りレースに近いスピードや状況で行うことで体を慣れさせる、「特異性の向上」も重要なテーパリングの内の一つです。
トレーニングの種類は、2週間前から特異的にするのでは遅いです。1ヶ月以上前から計画し、徐々にレースに近い強度や負荷でトレーニングを行えるようにします。
具体的には、マラソンであれば「マラソンレースペースでのトレーニング」、「マラソンと同じ時間走るトレーニング」、などがあります。
自分が目標としているレースに合わせ、トレーニングを特異的なものにしていきましょう。
ランニング以外のスポーツでも効果はあるのか?
テーパリングは、ランニング以外のスポーツでも効果はあると考えています。
筋グリコーゲンの貯蔵量が高まることによるメリットは、マラソン以外のスポーツでも十分にあると考えています。
例えば、90分間のサッカーは筋グリコーゲンを多く消費する種目ですが、試合終盤まで動きのパフォーマンスが維持できる可能性が高くなると予想されます。
重要ポイントまとめ
では、フルマラソンや5000mなどの長距離種目におけるテーパリング方法について、重要ポイントをまとめます。
- 適切なテーパリングによって、持久性パフォーマンスは有意に向上する
- テーパリングも「トレーニングの一環」として捉える
- テーパリングによって、代謝能力の向上や筋グリコーゲンの回復、細胞の修復等が進む
- トレーニング【量・強度・テーパリング期間】が重要
- トレーニング量は41~60%、強度は維持、期間は8日間~14日間程度、が最適なテーパリング条件である可能性が高い。上記ポイントを参考に、自分に合ったテーパリング方法を模索するべき
テーパリングはトレーニングの一環です。トレーニング量を落とすことに抵抗があるかもしれませんが、それも一つの練習として捉えることができれば、さらなる記録向上に結び付きます。
最適なテーパリング方法は、各個人で違います。今回紹介した方法をベースに、自分にとって最も適切なテーパリング方法を見つけましょう!
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