マラソン(長距離種目)で「才能」はどのくらい記録に影響するのか

マラソン才能

 今回の記事は、「マラソンなどの長距離種目において【才能】はどのくらい影響するのか」、についてです。

 はじめに結論を言うと、「競技結果は才能に大きく関係している」と言われています。

 身の回りに、運動歴がない・練習もあまりしていないのに、自分よりも速い人はいませんか?

 これは、先天的な筋繊維の構成割合がが長距離種目に適していて、はじめから長距離走が速いトレーニングをしたときの効果を得やすい「高反応型(ハイレスポンダー)」という資質を持っていたりします。

 しかし裏を返せば、「自分の努力で向上できる部分も確実にある」、とも言えます。

 本記事では、持久性運動パフォーマンスと才能の関係トレーニングによってどの要素が改善できるのか、について紹介していきます。

この記事を書いた人
日比野就一

社会人からランニングを始めました。
理論に基づいたトレーニングで、
どこまで記録を伸ばすことができるか挑戦。
競技志向で取り組んでいます。
自己紹介・記録変遷はこちら

★自己ベスト
 1500m 4:25(2022/08)
 5000m 16:01(2022/09)
 10000m 33:44(2021/12)
 ハーフ 1:12:29(2022/03)
 フル 2:43:55(2024/11)

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carb-upper
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目次

持久性パフォーマンスを決める3要素

 長距離種目の記録を左右する持久性パフォーマンスを決める要素としては、①最大酸素摂取量、②乳酸性作業閾値(LT値)、③ランニングエコノミーの3要素が重要です。

持久性パフォーマンスをきめる重要3要素

 これら要素の内どれを改善するかを考えながら、ランニングトレーニングに取り組んでいくことが必要です。

 以下では、トレーニングによって各要素がどれくらい改善できる見込みがあるのかを述べていきます。

最大酸素摂取量(VO2max)はどれだけ向上できるのか

 以下では、最大酸素摂取量(VO2max)は、トレーニングによってどれだけ向上する余地があるのかについて述べていきます。

最大酸素摂取量と遺伝の関係

 最大酸素摂取量は遺伝による影響が大きいことが分かっています。

 図1には、横軸にトレーニング期間、縦軸にVO2maxをとったグラフを示しました。

 ⑤のような資質を持っているような方は「低反応型(ローレスポンダー)」と言われ、トレーニングを行ってもそこまで効果が出ません。

 トレーニングを行ったとしても5%程度しか改善しない場合もあります。

 一方、①のような資質を持っている方は「高反応型(ハイレスポンダー)」と呼ばれています。

 そもそも持久性パフォーマンスに優れた能力を持っていることに加え、トレーニング効果が大きく表れます。このような方はトレーニングによって50%程度もVO2maxを向上させることができます

 したがって、オリンピックや世界陸上で活躍できる一握りの選手は総じて、高反応型の遺伝を持ち合わせた才能を持つ選手である、と言えます。

図1 トレーニング期間とVO2maxの関係(パワーズ運動生理学P512)

VO2maxは2~3年で最大値に到達する

 図1からわかるもう一つの事実として、VO2maxは継続的なトレーニングを行うと約2~3年で一定になる、ということです。個人の持って生まれた資質には関係が無いことが分かっています。

 しかし、これを読んだ方の中には「ランニングを始めて3年目以降も記録が伸び続けている」という方もいらっしゃると思います。

 2~3年目以降に記録が伸びていくのは、次以降で述べる「乳酸性作業閾値(LT値)」と「ランニングエコノミー」が向上することが要因です。

carb-middle
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乳酸性作業閾値(LT値)はどれだけ向上できるのか

 VO2maxとは異なり、乳酸性作業閾値の改善はかなり長い年月にわたって向上させ続けることができることが分かっています。

 その一例として、過去の女性エリートランナーであるポーラ・ラドクリフ選手は10年間にわたるトレーニングにより乳酸性作業閾値を30%も改善した、と言われています。

 「乳酸性作業閾値をどれだけ向上させることができるか」に対して遺伝的な影響があるかどうかは今のところ明らかにはなっていません。

ランニングエコノミーはどれだけ向上できるのか

 乳酸性作業閾値と同様に、ランニングエコノミーも数年に渡り向上させ続けることができることが分かっています。

 こちらもポーラ・ラドクリフ選手を例に挙げますが、9年間に渡るトレーニングによってランニングエコノミーを15%改善した、と報告されています。

 ランニングエコノミーの向上は、トレーニングを続けることによってだけで得られます

 同様の事例として、自転車競技者が運動効率を8%高めることができた事例もあるように、取り組んでいる競技への筋肉の使い方や動作のスムーズさが洗練されることによって得られると考えられます。

 ランニングエコノミー向上についても、遺伝的要素が影響するかどうかは明らかではありません。

まとめ

 では、本記事の内容をまとめます。

まとめ
  • トレーニングによる最大酸素摂取量(VO2max)の向上は遺伝の影響を受ける。向上割合は5~50%、2~3年程度で横ばいとなる。
  • 乳酸性作業閾値とランニングエコノミーは数年間に渡り向上させ続けることができる。向上割合は15~30%程度である。

 いかがでしたでしょうか。

 今回は持久性パフォーマンスと遺伝の関係や、トレーニングによってどれだけ持久性パフォーマンスを向上させることができるのか、について述べました。

 私自身がこの事実を知ったとき、「やっぱり才能は有るんだな」と少し残念には思いました。

 しかし一方で「数年間の努力でまだまだ記録を伸ばし続けることができる」という希望を得ることができました。

 もし記録が伸びず悩んでいる方がいれば、あきらめずにトレーニングを継続すれば、確実にパフォーマンスを向上させることができると信じて、突き進んでいただきたいと思います。

参考文献:

※「ランニングを科学する」では、筆者の知識・経験のアップデートと共に都度改定を行っています。

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