- 休養、休息をどのくらいとるとパフォーマンスが低下するのか知りたい
- レース後、何日休むべきなの?
- ランナーは完全休養をしてもいいの?
ランニングで故障してしまい、休養・休息しなければならなくなり、ランニングパフォーマンスの低下を心配しているランナーもいらっしゃるのではないでしょうか。
また、ランナーは完全休養を取るべきかどうかについて悩んでいる方もいらっしゃると思います。
私自身は基本的に週1回は完全休養を取ります。脚が不調の時には、無理せず休むようにしています。
学生時代、何度も怪我をしてきましたが、その都度パフォーマンス低下が頭をよぎり、無理して練習を再開させてしまい、怪我を長引かせる経験をしてきました。
今回は、休養・休息によってどの程度パフォーマンスが落ちるのか、また、そのパフォーマンス低下要因等を徹底解説します。
パフォーマンスの低下程度とその原因を知っておくことで、ランニングでの完全休養、休息を受け入れやすくなります。
また、ランニングができない期間に何をすれば、パフォーマンス低下を抑えられるかを考えることができるようになります
- VO2max、有酸素性持久力、ランニング効率・最大パワーが低下する
- 休養で最も低下が早いのがVO2max(最大酸素摂取量)
- レース後は、レース距離に応じて休養期間を設けるべき
- 長期でトレーニングを継続してきたのであれば5日以内の完全休養ではパフォーマンス低下はしない
完全休養によって体に起こる負の影響
トレーニングの中断によって、持久性パフォーマンスが低下するということは、下記の要素がそれぞれ機能低下することと同義です。
- VO2max(最大酸素摂取量)
- 有酸素性持久力(LT値を含む)
- ランニング効率、最大パワー
ランニングパフォーマンスを決める3大要素について、次の記事で詳しく解説しています。
それぞれの要素が機能低下していく原因と、どのくらいの速度で低下してしまうのかを説明します。
VO2max(最大酸素摂取量)の低下とその原因
トレーニング中断によって最も急速に機能低下するのが「最大酸素摂取量(VO2max)」です。
VO2maxは、次の生理学的要因で決まります。
- 心拍出量(SV):心拍1回当たりの最大血液拍出量
- 心拍数(HR):私たちが知っている心拍数と同義
- 動静脈酸素較差(a-vDO2max):詳細後述
7人の自転車選手に対して12~84日間のトレーニング中断がVO2maxに与える影響を検討した結果を紹介します。以下の図では、VO2maxを決める各要素の変化を示しています。
VO2maxはトレーニング中断後12日~21日間で5~8%程度、84日間で15%以上低下することが分かりました。
図1から、最初の12~21日間で主に低下しているのは心拍出量(=血液循環量)です。
休養開始後にまずVO2maxが急速に低下するのは「心拍出量低下による血液循環量の低下が原因」である事が分かります。
しかし一方、同時期に心拍数が上昇しています。心拍数の上昇によってVO2maxの低下が補完されていることが分かります。
トレーニング中断開始から21日以降は、動静脈酸素較差の低下とともにVO2maxが低下していくことが分かります。
別途調査した事項として、活動筋における毛細血管密度は、84日間のトレーニング中断後でさえも低下が見られませんでした。
動静脈酸素較差の低下は、活動筋におけるミトコンドリア密度の低下・血流低下・毛細血管と細胞間の血液透過性現象で説明できます。
VO2maxの低下は、休養を開始してから2週間程度は急激に低下し、トレーニング中断後およそ3週間後からはさらに持続的な低下が起こることが分かります。
- トレーニング中断から2週間程度でVO2maxは6~7%程度低下し、その要因は心拍出量の低下
- トレーニング中断から21日目以降は、動静脈酸素較差の低下が要因でVO2maxが低下
- トレーニング中断後84日目には、VO2maxの低下が15%以上となる
有酸素性持久力への影響
乳酸性作業閾値(有酸素性持久力)はVO2maxと分けて考えられます。同じVO2maxのアスリートがいたとしても、乳酸性作業閾値が高いかどうかは、各個人によって異なります。
有酸素性持久力は、筋繊維タイプの割合や、筋グリコーゲン貯蔵能力、ミトコンドリア活性の高さ、脂肪をエネルギー基質として利用できる能力等で決定されます。
筋繊維タイプの変異は時間がかかる
持久性トレーニングを行うことで、遅筋繊維の割合が増加することは知られていますが、その変化は時間がかかり、それほど多くの量が変化するものではありません。
そのため、トレーニング中断による筋繊維組成への影響は短期間ではほとんど見られないようです。
筋グリコーゲン貯蔵能力
筋グリコーゲン貯蔵能力は1週間のトレーニング中断により20%程度低下するようです。筋グリコーゲン貯蔵能力はフルマラソンで特に必要な能力だといえます。
目標とするレース距離が長いほど、完全休養の頻度は少なくするべきなのかもしれません。
エネルギー基質の変化(脂肪を使う力)
持久性トレーニングにより、呼吸交換比が低下します。呼吸交換比とは、呼気に含まれる二酸化炭素量を表します。
糖質をエネルギー基質として100%利用したと仮定すると、1Lの酸素に対して1Lの二酸化炭素が発生します。
一方、脂肪を100%利用したとすると、1Lの酸素に対して約0.7Lの二酸化炭素が発生します。したがって、エネルギーとして脂肪をより多く使用すると、呼吸交換比は低下します。
トレーニングの中断により、呼吸交換比の上昇、つまり、糖質代謝が優先されるようになっていきます。およそ14日間で5~7%程度上昇し、その後84日間はその状態が維持されるようです。
乳酸性作業閾値
上記で説明してきたいくつかの機能が低下することにより、トレーニング中断によって乳酸性作業閾値が低下します。
トレーニング中断後、約1か月で5%程度低下し、84日後までは同状態が維持されるようです。
しかし、3か月以上のトレーニング中断期間があると、徐々に筋繊維タイプの変化も発生することが考えられるため、乳酸性作業閾値はさらに低下していくことが予想されます。
ランニング(運動)効率、最大パワー
結論から言うと、比較的短いトレーニング中断では運動効率(=ランニングエコノミー)、最大パワー(=最大筋力)には影響を与えません。
VO2maxのテスト時と同様、最大84日間のトレーニング中断期間前後に、同じ運動強度での酸素摂取量を調べたところ、変化がなかったようです。
最大筋力・最大パワーに関しては、メタ分析(いくつかの論文や研究結果の情報を集めて分析すること)をしたところ、トレーニング中断後3~4週間程度はほとんど低下がみられない、という結果が出ています。
ランナーは完全休養をとっても良いのか?についての見解
これまで記述してきたことから、数日の完全休養で著しく低下するのはVO2maxのみであることが分かりました。一方で、有酸素性持久力に関する能力は、数日の休養ではほとんど変化がないことが分かりました。
VO2maxは、トレーニングによる適応も早いため、低下した分はすぐ元に戻せるとも言えます。このことから数日の完全休養によるパフォーマンス低下は大きな問題ではなく、ランナーが完全休養を取ることは全く問題ありません。
ダニエルズのランニング・フォーミュラでも、5日間の完全休養までであればランニングパフォーマンス低下はほとんど見られないことが述べられています。
GMOに所属していた東京大学出身の元実業団ランナーの近藤秀一さんは、自身のnoteで以下のように語っていました。
大学時代は週に1回は必ず完全休養をしていた。強制的に接地衝撃を0にする日を設けることが故障に対するリスクヘッジになると考えていたからだ。・・・
実業団に入ってからは、オフの日も少しは走る心づもりでいる。総合すると今の方が故障のリスクが減っており、疲労もうまく抜けている感がある。・・・
完全休養とアクティブレストのどちらが良いかを議論する内容ではない・・・。
引用元:完休かアクティブレストか、よりも大事なところ 近藤秀一 note
ケニアでトレーニングを積んでいるエリートランナーでさえも、週1回の完全休養を取っている方もいらっしゃるので、完全休養をとるか取らないかによる明確な差はない、と言えると考えています。
ただ、一つ考えないといけないことは、実業団選手などのエリートランナーと比べ、市民ランナーは普段の生活における「リカバリーの質」が低いと言えます。
市民ランナーの場合、走っていない時間は仕事や家事・育児に追われるため、体を回復させる余裕が少ないです。一方で実業団のランナーは、練習面以外の負荷は低く、体の回復に充てる時間が長い可能性が高いと考えられます。
市民ランナーは回復の時間をより多く設ける必要があります。「完全休養を必ず取る」ということを決めておくことで、回復時間を確保できる、という考え方もあると思います。
自分自身の体で色々なトレーニングスケジュールを試してみて、適した計画で継続していくようにしましょう。
パフォーマンスを低下させないためにできること
以上で述べてきた内容から、怪我などでトレーニングを中断せざるを得なくなった場合にできるだけパフォーマンスを維持する方法を考えます。
休養・休息期間が1か月~3か月未満である場合
トレーニングの中断が最大1か月程度であれば、運動効率や最大筋力の低下はほぼありません。
血液量及び代謝機能の変化によって、特にVO2maxの低下が著しいくことが分かりました。
そのため、可能な限りパフォーマンスを維持することを考えると、比較的運動強度が高く、心拍数が上がる運動を優先的に行うべきだ、ということになります。
ランニングを継続できない原因が脚の故障にある場合、脚に負担が少ない有効なクロストレーニングは水泳やエアロバイクです。
さらに、これらのトレーニングにおいてはできる限り心拍数を上げる努力をすることで、持久性パフォーマンスの低下が防げると考えられます。
短いトレーニング中断期間において、筋力トレーニングは優先しなくとも、筋力低下はそれほど気にしなくてよいと思われます。
ただし、1か月以上のトレーニング離脱となると、最大筋力も低下してくることが予想されるので、補強トレーニング等で維持していく必要はありそうです。
休養・休息期間が3か月以上に及ぶ場合
トレーニング中断期間が3か月以上に及ぶ場合は、VO2maxと有酸素性持久力は発生し、筋力低下や運動効率の低下も避けられません。
そのため、できる範囲内での筋力トレーニングやランニング動作を行っていき、できるだけ維持に努める必要がありそうです。
トレーニングを離れる期間が3カ月以上になると、精神的にも辛い期間が続くと思います。モチベーションをどうやって保つかも重要になります。
また、運動ができない期間が長くなりモチベーションが下がってしまうと、体重が増える傾向にあります。私自身の経験から、特にランニングパフォーマンスに対しては体重の影響が大きいです。
一度増えてしまうと、体重は元に戻しにくく苦労します。怪我で運動できない時こそ、体重に気を配ることで、復帰後パフォーマンスの戻りが早くなります。
レース後、何日休養すべきか
普段から多くの距離を走っているランナーの場合、レース出場後もすぐにトレーニングを再開したくなると思います。私自身もその一人です。
ダニエルズのランニング・フォーミュラによると、レースに出場した後の休養期間は以下の通りです。
レースで走った距離 / 3 日 は休養に充てる。休養とは完全休養だけでなく、Easyペースのトレーニングも含む
フルマラソンは約42kmなので、休養期間は14日になります。ハーフマラソンであれば7日ですね。
実際、この数値は比較的的を得ている数字だと感じています。私はハーフマラソンに出場することが多いのですが、レース後7日経過以降でないと、ランニングのパフォーマンスが回復してこない感覚があります。
とはいえ、この休養日数はあくまで目安です。レースに対して調整を重ね全精力を注いだ場合は、この休養日数が当てはまるのですが、練習の一環で出場したり、自分の中で余裕のあるペースで走ったときにはその限りではありません。
どれだけ休養すれば回復するのかは、それまでのトレーニングボリュームや個人の回復力に左右されます。自分自身の体と対話をして、レース後には適切な休養期間を設けましょう。
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