マラソン・ランニングにおける休養の影響。パフォーマンスはどのくらい低下する?

 こんにちは。管理人のsyu_hibiです。

※はじめに、「休養」によって得られるメリット(疲労からの超回復等)が当然ありますが、本記事では、「トレーニングの中断や離脱」による体への「負の影響」という観点から述べていきます。

 ランナーの皆さんは、完全休養を取るべきかどうか、または、休足日の頻度をどのくらいにするかを悩んでいる方も多いのではないでしょうか。

 悩む理由としては、休足日を設けることによってパフォーマンスが低下してしまうのではないか?と心配するからだと思います。

 また、怪我をするとしばらくランニングができない期間が発生しますが、「どの程度パフォーマンスが落ちるのか」と心配される方も多いと思います。

 私自身もそのうちの一人で、特に怪我した時には、パフォーマンス低下が頭をよぎり、無理して練習を再開させてしまい、怪我を長引かせる経験を何度もしてきました。

 今回は、休養(=トレーニングを中断せざるを得ない期間)によってどの程度パフォーマンスが落ちるのか、また、そのパフォーマンス低下要因等を考察していきます。

 パフォーマンスの低下程度とその原因を知っておくことによって、ランニングからの長期離脱自体を受け入れやすくなる(パフォーマンスは低下するものだと理解できる)ことや、ランニングができない期間に何をすれば、パフォーマンス低下を抑えられるかを考えられること、を狙っています。

※本記事は、よくトレーニングされた競技者がトレーニング中断を余儀なくされた場合の影響について試験、考察されたものになります。

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1.トレーニング中断によって体に起こる負の影響

 トレーニングの中断によって、持久性パフォーマンスが低下するということは、下記マラソンに必要な要素がそれぞれ機能低下することと同義になります。

  • 最大酸素摂取量(VO2max)
  • 乳酸性作業閾値(LT値)=有酸素性持久力
  • ランニング効率、最大パワー

 それぞれの要素が機能低下していく理由と、どのくらいの速度で低下してしまうのかを説明していきます。

2.VO2maxへの影響

 結論として、トレーニング中断によって最も急速に機能低下するのが「最大酸素摂取量(VO2max)」である事が分かっています。

 VO2maxは、下記の生理学的決定要因で決まると言われています。

  • 心拍出量(SV):心拍1回当たりの最大血液拍出量
  • 心拍数(HR):私たちが知っている心拍数と同義
  • 動静脈酸素較差(a-vDO2max):詳細後述

※動静脈酸素較差とは、心臓から送り出される血液中(=動脈)に含まれる酸素量と、各組織から心臓に戻ってくる血液(=静脈)に含まれる酸素量の差を表します。

 7人の自転車選手に対して12~84日間のトレーニング中断がVO2maxに与える影響を検討した結果を紹介します(図1)。

 VO2maxはトレーニング中断後12日~21日間で5~8%程度、84日間で15%以上急速に低下することが分かりました。それぞれの生理学的決定要因を見ていきます。

 図1から、最初の12~21日間で主に低下しているのは拍出量(=血液循環量)である事が分かります。従って、トレーニング中断後にまずVO2maxが急速に低下するのは、「心拍出量低下による血液循環量の低下」であることが分かります。

 しかし一方、同時期では心拍数が上昇しています。VO2maxの低下が抑えられているのは「心拍数の上昇」によって補完されているからだと考えることができます。

トレーニング中断開始から21日以降は、動静脈酸素較差の低下とともにVO2maxが低下していくことが分かります。

 活動筋における毛細血管密度は、84日間のトレーニング中断後でさえも低下が見られなかったため、動静脈酸素較差の低下は、活動筋におけるミトコンドリア密度の低下、血流低下、毛細血管と細胞間の血液透過性現象で説明できるようです。

 従って、トレーニングされた筋繊維で起こる機能変化によるVO2maxの低下は、トレーニング中断後およそ3週間後から起こることが分かります。

重要Point

・トレーニング中断から2週間程度でVO2maxは6~7%程度低下し、その要因は主に血液循環量(=心拍出量)の低下である。

・トレーニング中断から21日目以降は、トレーニングされた筋繊維における酸素消費能力低下によって、VO2maxが低下する。

・トレーニング中断後84日目には、VO2maxの低下が15%以上となる。

3.有酸素持久力(=乳酸性作業閾値)への影響

 有酸素性持久力はVO2maxと分けて考えられます。同じVO2maxのアスリートがいたとしても、必ずしもその二人がVO2maxに近い強度の運動を同等に維持できるとは限りません。有酸素性持久力は、ほぼ乳酸性作業閾値と同義と言えます。

 乳酸性作業閾値は、筋繊維タイプの割合(中間型速筋繊維が多いほうが有利)や、筋グリコーゲン貯蔵能力、ミトコンドリア活性の高さ、脂肪をより沢山エネルギー基質として利用できる能力等で決定されると考えられます。

■筋繊維タイプの変異は時間がかかる

 持久性トレーニングを行うことで、遅筋繊維の割合が増加することは知られていますが、その変化は時間がかかり、それほど多くの量が変化するものではありません。そのため、トレーニング中断による筋繊維組成への影響は短期間ではほとんど見られないようです。

■筋グリコーゲン貯蔵能力

筋グリコーゲン貯蔵能力は1週間のトレーニング中断により20%程度低下するようです。

■エネルギー基質の変化

 持久性トレーニングにより、呼吸交換比も低下します。呼吸交換比とは、呼気に含まれる二酸化炭素量を表し、糖質を酸化させるのと脂肪を酸化させるのでは最終的に排出される二酸化炭素量が違うため、呼吸交換比の測定により、エネルギー基質を判別することができます。

 糖質をエネルギー基質として100%利用したと仮定すると、1Lの酸素に対して1Lの二酸化炭素が発生するが、脂肪を100%利用したとすると、1Lの酸素に対して約0.7Lの二酸化炭素が発生します。従って、エネルギーとして脂肪をより沢山使用すると、呼吸交換比は低下します。

 トレーニングの中断により、呼吸交換比の上昇、つまり、糖質代謝が優先されるようになっていきます。およそ14日間で5~7%程度上昇し、その後84日間はその状態が維持されるようです。

■乳酸性作業閾値

 上記で説明してきたいくつかの機能が低下することにより、トレーニング中断によって乳酸性作業閾値が低下します。トレーニング中断開始後、約1か月で5%程度低下し、84日後までは同状態が維持されるようです。

 しかし、3か月以上のトレーニング中断期間があると、徐々に筋繊維タイプの変化も発生することが考えられるため、乳酸性作業閾値はさらに低下していくことが予想されます。

 以上をまとめると、乳酸性作業閾値は、トレーニング中断開始から約1か月間で急速に低下し(5%)、その要因は主に代謝機能の変化によるものです。一方、さらに長いトレーニング中断期間となった場合には、筋繊維の変化が、乳酸性作業閾値の低下要因となりえる、と言えます。

重要ポイント

・トレーニングの中断によって有酸素性持久力(=乳酸性作業閾値)は、主に代謝機能の変化(糖質代謝の促進、ミトコンドリアの機能低下等)によって、始め1か月間で5%程度急速に低下し、約3か月頃までは同状態が維持される。

・3か月以上の長期離脱になった場合、徐々に筋繊維タイプの変化が発生するため、乳酸性作業閾値はさらに低下していくことが予想される。

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4.ランニング(運動)効率、最大パワー

 結論から言うと、比較的短いトレーニング中断では運動効率(=ランニングエコノミー)、最大パワー(=最大筋力)には影響を与えないことが分かっています。

 VO2maxのテスト時と同様、最大84日間のトレーニング中断期間前後に、同じ運動強度での酸素摂取量を調べたところ、変化がなかったようです。

 最大筋力・最大パワーに関しては、メタ分析(いくつかの論文や研究結果の情報を集めて分析すること)をしたところ、トレーニング中断後3~4週間程度はほとんど低下がみられない、という結果が出ています。

重要ポイント

・トレーニング中断から約3か月後までは、運動効率への影響が少ない

・トレーニング中断から3~4週間では、最大筋力・最大パワーの低下がほとんど見られない(もしくはあってもわずか)

5.トレーニングが継続できなくなってしまった場合の方針例

 以上で述べてきた内容から、まとめとして、怪我などでトレーニングを中断せざるを得なくなった場合にできるだけパフォーマンスを維持する方法を考えます。

■トレーニング中断期間が1か月~3か月未満である場合

 トレーニングの中断が最大1か月程度であることが分かっているならば、運動効率や最大筋力の低下はほぼ考えなくてよく、血液量及び代謝機能の変化によって、最大酸素摂取量(VO2max)と有酸素性持久力(乳酸性作業閾値)が低下していくことが分かりました。

 そのため、可能な限り持久性パフォーマンスを維持することを考えると、比較的運動強度が高く、心拍数が上がり、エネルギー消費が大きい運動を優先的に行うべきだ、ということになります。

 ランニングを継続できない原因が脚の故障にある場合、脚に負担が少ない有効なクロストレーニング例としてはやはり水泳やエアロバイクであると考えられます。

 さらに、これらのトレーニングにおいてはできる限り心拍数を上げる努力をすることによって、持久性パフォーマンスの低下が防げると考えられます。

 時間が制約されている場合には、短いトレーニング中断期間において、筋力トレーニングは優先しなくとも、筋力低下はそれほど気にしなくてよいと思われます。

 ただし、1か月以上のトレーニング離脱となると、最大筋力も低下してくることが予想されるので、補強トレーニング等で維持していく必要はありそうです。

■トレーニング中断期間が3か月以上に及ぶ場合

 トレーニング中断期間が3か月以上に及ぶ場合は、VO2maxと乳酸性作業閾値は当然の事、筋力低下や運動効率の低下も避けられません

 そのため、できる範囲内での筋力トレーニングやランニング動作を行っていき、できるだけ維持に努める必要がありそうです。

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参考文献:

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