- 糖質がどうやって使われてエネルギーになるのか知りたい
- 減量するときに糖質制限することは適切なの?
減量目的で糖質制限をしているランナーも多いのではないでしょうか。
糖質は速く走るために必要不可欠な栄養素です。ハードなトレーニングをしているのにもかかわらず糖質制限をしてしまる場合、逆効果である可能性があります。
私自身も減量目的のために糖質制限を行っていた時期がありました。しかし、糖質を制限すると質の高いトレーニングを行うことができなくなり、パフォーマンスが低下することを感じました。
本記事では、糖質の代謝経路を徹底解説し、糖質の適切な摂取方法について紹介していきます。
運動強度が高まると糖質を多く利用するようになります。また、糖質を多く摂取した状態でトレーニングを行うと糖質を多く使うようになります。
最大酸素摂取量(VO2max)の向上や乳酸性作業閾値(LT)の向上を狙ってトレーニングを行う場合は、しっかり糖質を摂取しておく必要があります。
一方、脂肪を使える体に適応させるためには、体の糖質が少ない状態でトレーニングを行うことが有効です。
- 糖質は解糖系(無酸素系)と糖質酸化(有酸素系)でエネルギーを生み出す
- 糖質の代謝能力(解糖系)の強化は速く走るために必要不可欠
- 糖質は筋肉に貯蔵されているグリコーゲンもしくは血中グルコースから、筋肉に供給される
- 糖質の利用速度が高まると、乳酸の生成量が増加する
- 解糖系のトレーニングと低糖質ダイエットは相性が悪い
エネルギー供給の種類と競技種目別の重要度
はじめに、エネルギー供給の種類と種目別の重要度を示します。
人が体を動かすために必要なエネルギー源ATP(アデノシン三リン酸)を産み出す反応は全部で5通りあります。

種目別に、無酸素系・有酸素系からそれぞれどのくらいのエネルギー供給割合があるのかを以下に示しました。

最大努力での運動時間とエネルギー供給割合を、グラフで示しました。

糖質は、無酸素(解糖系)・有酸素(酸化)どちらでもエネルギーを産み出すので、非常に重要な栄養素です。糖質の代謝経路を理解し、適切な栄養摂取やトレーニング方法を理解することが、競技力向上につながります。
糖質の代謝能力は速く走るために必要不可欠
糖質の代謝能力は、「速く」走るために必要不可欠です。
例えば5000mでは、使うエネルギーのうちのほとんどが糖質から得られるエネルギーです。5000mを速く走るためには乳酸を処理する能力が高いほうが望ましいですが、そもそも「糖質を使える力」がないと乳酸も発生しません。
フルマラソンでは「脂肪を使う力」が注目されやすいですが、速く走るためには糖質も不可欠です。糖質を使って速いペースで走りながら乳酸を処理していくことで、長い時間、速いペースを維持することができます。
このように、「糖質を使える力」を高めておいたうえで「乳酸を処理する力」を高めるLTトレーニングを行うことで、LT値を効率よく向上させることができます。
糖質の代謝経路
糖質の代謝経路を解説します。
食事として摂取してから筋グリコーゲンとして貯蔵されるまで
人は、白米やパン、砂糖といった形で糖質を摂取します。白米やパンには多糖類(多くの分子が結合した、長い糖類)が含まれ、砂糖には二糖類(2つの分子が結合した糖類)が含まれます。
摂取した糖質は小腸に到達するまでにグルコース(=ブドウ糖)まで分解されます。グルコースは単糖類(分子1つからなる最小単位)です。
グルコースは小腸から血管を通って肝臓まで送られ、肝臓ではグルコースからグリコーゲン(グルコースがたくさんつながった形)に変化します。肝臓に蓄えられるグリコーゲンは「肝グリコーゲン」と呼ばれます。
一方で、筋肉組織でもグルコースからグリコーゲン合成反応が起こります。筋肉に蓄えられるグリコーゲンは「筋グリコーゲン」と呼ばれます。

糖質をエネルギーとして使う経路
糖質をエネルギーとして使う場合、血中の血糖グルコース、もしくは筋肉と肝臓に蓄えられているグリコーゲンが使われます。
グルコース・グリコーゲンがグルコース6-リン酸塩に変わり、ピルビン酸に変化します(図5)。
血中のグルコースがエネルギーとして使われるときには、ATP(アデノシン三リン酸)が必要になりますが、ここではそこまで重要ではないので説明は省略します。
ピルビン酸になった後は、ミトコンドリアに取り込まれ、アセチルCoAに変化し、TCA回路で完全酸化されることで、エネルギーを産み出します。

グリコーゲン(グルコース)からピルビン酸に変化する過程で3ATPが発生する経路のことを「解糖系」と呼びます。解糖系ではその経路において酸素を使いません。解糖系はエネルギーの生成速度が非常に速いことが特徴です。
ATP(アデノシン三リン酸)は筋肉を動かすために必要なエネルギー源です。ピルビン酸がミトコンドリアに取り込まれた後は「有酸素代謝」が行われます。
ミトコンドリアでの有酸素代謝は、無酸素代謝である解糖系よりもはるかに多くのエネルギーを産み出すことができます。
糖質と乳酸の関係
運動強度が高まると、速筋繊維が使われるようになり糖質が多く使われるようになります。
糖質が多く使われるようになるとピルビン酸の生成量が多くなりますが、ミトコンドリアでピルビン酸を処理してエネルギーを産み出す速度には限界があります。
処理できずに余ったピルビン酸は「乳酸」に変化します。

発生した乳酸の多くは、心臓や遅筋繊維に取り込まれてエネルギー源として酸化されます(乳酸シャトル)※1。定常状態の運動中に生成された乳酸の75%以上は、運動中にそのままエネルギーとして利用されることが示されています※1。
一方、残りの乳酸は肝臓に戻って糖新生によってグルコースに変化します。乳酸が肝臓に戻って糖新生される回路は「コリ回路」と呼ばれています。乳酸の代謝メカニズムについては、次の記事を参考にしてください。
糖質が不足すると脂肪の代謝効率も下がる
糖質は、それ自体が代謝されることでエネルギーを産み出しますが、糖質が不足すると脂肪代謝の効率が低下します。
糖質が不足すると、ミトコンドリア内のクエン酸回路(TCAサイクル)を回すために必要な中間体(オキサロ酢酸)の生成が低下します※2。オキサロ酢酸が不足するとクエン酸回路の回転数が下がり、脂肪から供給されるアセチルCoAを十分に処理できなくなるため、脂肪酸化の効率が実質的に制限されます※2。
ヒトの骨格筋を直接測定した研究でも、グリコーゲン枯渇に伴ってTCAサイクル中間体が減少し、有酸素エネルギー産生が障害されることが確認されています※2。
したがって、脂肪を使うためには同時に糖質が必ず必要になると言えます。詳しくは次の記事で詳細に解説しています。
低糖質によるメリットとデメリット
ランナーの中には、フルマラソンの記録を向上させるために「減量」に取り組んでいるランナーも多いかと思います。
その減量方法として「糖質制限」を行っている場合、解糖系のトレーニング効果が下がってしまう可能性があります。
解糖系のトレーニングは、筋肉に蓄えられているグリコーゲンや血中に存在するグルコースをエネルギー源として使うことで、トレーニング効果を得ることができます。
しかし、糖質制限をしている状態だと、そもそも筋肉に蓄えられているグリコーゲン量が減っている状態でトレーニングを行うことになりますので、糖質の利用が制限されることになります。
本来、「糖質を使うことで刺激することができる」解糖系のトレーニングと、糖質制限による減量は相性が悪いと考えられます。
解糖系のトレーニングをメインとして行う前には、十分に糖質を摂取しておくことをおすすめします。
グループをランダムに分けて効果を比べた実験(RCT)では、グリコーゲン枯渇セッションの翌日に低糖質食(1.5g/kg/日未満)を続けた競技ランナーは、高糖質食(5g/kg/日超)グループに比べて1500mタイムが約2%低下しました※3。高強度種目でも糖質不足がパフォーマンスを直接制限することを示しています。
糖質制限を取り入れたトレーニングが持久性パフォーマンスに与える効果を複数の研究でまとめた統計解析(メタアナリシス)では、通常の高糖質トレーニングと比較して、持久性パフォーマンスへの統計的に意味のある差は認められませんでした※4。
一方で、低糖質状態でのトレーニングにはミトコンドリア適応シグナルを高める可能性があります。ただし、高強度セッション時のピーク強度が低下するというトレードオフも存在します※4。
高強度インターバルや閾値走など、解糖系を使うセッションでは十分な糖質を確保し、低糖質での練習は低強度の回復走に組み合わせるという戦略が合理的です。
アメリカスポーツ医学会(ACSM)のガイドラインでは、1〜3時間/日の高強度トレーニングを行うアスリートには、体重1kgあたり6〜10gの糖質摂取が推奨されています※5。毎日ハードなトレーニングをしているランナーが糖質を制限しすぎると、この目安を大きく下回る可能性があります。
糖質の代謝能力を鍛える
これまで説明して糖質の代謝能力を鍛えるには、①解糖系の代謝速度を高める、②糖質を有酸素的に代謝する時に発生する乳酸の代謝能力を高める、の2つが必要です。
①と②は同時に達成することが難しいです。①の解糖系の代謝速度を高めるには、最大酸素摂取量(VO2max)を超える高強度のトレーニングを繰り返すことが有効です。
7週間のスプリントインターバルトレーニング(30秒全力スプリントを複数回繰り返す)を行った研究では、解糖系の酵素(ホスホフルクトキナーゼ・乳酸脱水素酵素)が統計的に意味のある増加を示しました※6。このような高強度インターバルは、解糖系と有酸素系の両方を同時に鍛える効果があります。
②は血中乳酸値が上昇しないぎりぎりの強度で、できるだけ多くのトレーニング量をこなすことで、乳酸を処理する能力を高めることができます。
①を鍛えるにはレペティション強度でのトレーニング、②を鍛えるにはLT強度でのトレーニングが有効です。
皆様の参考になれば幸いです。
参考文献
※1 Brooks GA (1986) “The lactate shuttle during exercise and recovery” Med Sci Sports Exerc
※2 Sahlin K, Katz A, Broberg S (1990) “Tricarboxylic acid cycle intermediates in human muscle during prolonged exercise” Am J Physiol
※3 Venckunas T et al. (2024) “Effect of Low vs. High Carbohydrate Intake after Glycogen-Depleting Workout on Subsequent 1500 m Run Performance in High-Level Runners” Nutrients
※4 Gejl KD, Nybo L (2021) “Performance effects of periodized carbohydrate restriction in endurance trained athletes – a systematic review and meta-analysis” J Int Soc Sports Nutr
※5 Thomas DT, Erdman KA, Burke LM (2016) “American College of Sports Medicine Joint Position Statement. Nutrition and Athletic Performance” Med Sci Sports Exerc
※6 MacDougall JD et al. (1998) “Muscle performance and enzymatic adaptations to sprint interval training” J Appl Physiol








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