- 糖質がどうやって使われてエネルギーになるのか知りたい
- 減量するときに糖質制限することは適切なの?
「糖質」とひとくくりにして、減量目的で糖質制限をしているランナーも多いのではないでしょうか。
糖質は速く走るために必要不可欠な栄養素です。ハードなトレーニングをしているのにもかかわらず糖質制限をしてしまる場合、逆効果である可能性があります。
私は社会人から本格的にランニングを始めた市民ランナーです。月500km程走り、競技志向でランニングに取り組んでいます。
私自身も減量目的のために糖質制限を行っていた時期がありました。しかし、糖質を制限すると質の高いトレーニングを行うことができなくなり、パフォーマンスが低下することを感じました。
本記事では、糖質の代謝経路を徹底解説し、糖質の適切な摂取方法について紹介していきます。
運動強度が高まると糖質を多く利用するようになります。また、糖質を多く摂取した状態でトレーニングを行うと糖質を多く使うようになります。
最大酸素摂取量(VO2max)の向上や乳酸性作業閾値(LT)の向上を狙ってトレーニングを行う場合は、しっかり糖質を摂取しておく必要があります。
一方、脂肪を使える体に適応させるためには、体の糖質が少ない状態でトレーニングを行うことが有効です。
- 糖質は解糖系(無酸素系)と糖質酸化(有酸素系)でエネルギーを生み出す
- 糖質の代謝能力(解糖系)の強化は速く走るために必要不可欠
- 糖質は筋肉に貯蔵されているグリコーゲンもしくは血中グルコースから、筋肉に供給される
- 糖質の利用速度が高まると、乳酸の生成量が増加する
- 解糖系を鍛えるためには30~100秒程度、100%VO2max以上の強度で疾走を繰り返すことが効果的
- 解糖系のトレーニングと低糖質ダイエットは相性が悪い
エネルギー供給の種類と競技種目別の重要度
はじめに、エネルギー供給の種類と種目別の重要度を示します。
人が体を動かすために必要なエネルギー源ATP(アデノシン三リン酸)を産み出す反応は全部で5通りあります(図1)。
種目別に、無酸素系・有酸素系からそれぞれどのくらいのエネルギー供給割合があるのかを図2に示しました。
最大努力での運動時間とエネルギー供給割合を、グラフで示しました(図3)。
糖質は、無酸素(解糖系)・有酸素(酸化)どちらでもエネルギーを産み出すので、非常に重要な栄養素です。
糖質の代謝経路を理解し、適切な栄養摂取やトレーニング方法を理解することが、競技力向上につながります。
糖質の代謝能力は速く走るために必要不可欠
糖質の代謝能力は、「速く」走るために必要不可欠です。
例えば5000mでは、使うエネルギーのうちのほとんどが糖質から得られるエネルギーです。もちろん、乳酸を処理する力も必要なのですが、そもそも「糖質を使える力」がないと乳酸も発生しないからです。
フルマラソンでは「脂肪を使う力」が注目されやすいですが、速く走るためには糖質も不可欠です。糖質を使って速いペースで走りながら乳酸を処理していくことで、長い時間、速いペースを維持することができます。
このように、「糖質を使える力」を高めておいたうえで「乳酸を処理する力」を高めるLTトレーニングを行うことで、LT値を効率よく向上させることができます。
糖質の代謝経路
糖質の代謝経路を解説します。
食事として摂取してから筋グリコーゲンとして貯蔵されるまで
人は、白米やパン、砂糖といった形で糖質を体に取り入れます。白米やパンには多糖類(多くの分子が結合した、長い糖類)が含まれ、砂糖には二糖類(2つの分子が結合した糖類)が含まれます。
取り込んだ糖質は小腸に到達するまでにグルコース(=ブドウ糖)まで分解されます。グルコースは単糖類(分子1つからなる最小単位)です。
グルコースは小腸から血管を通って肝臓まで送られ、肝臓ではグルコースからグリコーゲン(グルコースがたくさんつながった形)に変化します。
生成されたグリコーゲンは再び血管を通って筋肉に運ばれ、「筋グリコーゲン」として筋肉に貯蔵されます(図4)。一部のグリコーゲンはそのまま肝臓に貯蔵されます。
糖質をエネルギーとして使う経路
糖質をエネルギーとして使う場合、血中の血糖グルコース、もしくは筋肉と肝臓に蓄えられているグリコーゲンが使われます。
グルコース・グリコーゲンがグルコース6-リン酸塩に変わり、ピルビン酸に変化します(図5)。
血中のグルコースがエネルギーとして使われるときには、ATP(アデノシン三リン酸)が必要になる、という違いがありますが、ここではそこまで重要ではないので説明は省略します。
ピルビン酸になった後は、ミトコンドリアに取り込まれ、アセチルCoAに変化し、TCA回路で完全酸化されることで、エネルギーを産み出します。
グリコーゲン(グルコース)からピルビン酸に変化する過程で3ATPが発生する経路のことを「解糖系」と呼びます。
解糖系ではその経路において酸素を使いません。解糖系はエネルギーの生成速度が非常に速いことが特徴です。
ATP(アデノシン三リン酸)は筋肉を動かすために必要なエネルギー源です。
ピルビン酸がミトコンドリアに取り込まれた後は「有酸素代謝」が行われます。
ミトコンドリアでの有酸素代謝は、無酸素代謝である解糖系よりもはるかに多くのエネルギーを産み出すことができます。
糖質と乳酸の関係
運動強度が高まると、速筋繊維が使われるようになり糖質が多く使われるようになります。
糖質が多く使われるようになるとピルビン酸の生成量が多くなりますが、ミトコンドリアでピルビン酸を処理してエネルギーを産み出す速度には限界があります。
処理できずに余ったピルビン酸は「乳酸」に変化します。
発生した乳酸は、もう一度ピルビン酸に戻ってエネルギーとして利用されるか、肝臓に戻って糖新生によってグルコースになります。
肝臓に戻って糖新生される回路は「コリ回路」と呼ばれています。
乳酸の代謝メカニズムについては、次の記事を参考にしてください。
解糖系を鍛えるトレーニング
「糖質の代謝能力を鍛える」とは、ほぼ「解糖系を鍛える」ということを意味します。
つまり、無酸素で糖質からエネルギーを産み出す力です。
解糖系を鍛えるためには、強い運動強度でのトレーニングが必要です。解糖系をトレーニングするためには100%VO2max以上の強度で行うトレーニングが効果的です。
具体的なペースで示すと、3000mレースペースよりも速いペース、レペティションペース以上(=1500mレースペース)です。
図3で示したように、解糖系から供給されるエネルギーが最大になるのが、運動開始してからおよそ50~60秒後になります。
100秒を超えると、有酸素性のエネルギー供給量が急激に増えてくるので、解糖系を鍛えるトレーニングは、高い運動強度でおよそ30~100秒程度継続するものが良いと考えられます。
解糖系を鍛えるトレーニングとしては、次があげられます。
- レペティショントレーニング
- 坂道トレーニング(ヒルスプリント)
- 流し
レペティショントレーニング
レペティショントレーニングは、およそ1500mのレースペースで200m~800m程度の距離を繰り返し走るトレーニングです。
レスト時間は、走った時間の2~3倍の時間を、ゆっくりジョギング、もしくは歩きます。
- 200m×20
- 400m×10
- 600m×7
※レストは、疾走時間の2~3倍(ジョギングでも歩きでもOK)
一回当たりの疾走時間が2分を超えるような距離は、レペティショントレーニングには適していません。
解糖系代謝を効率よく向上させるためには、1回当たり30~60秒程度の疾走時間が理想です。
また、レストは十分に休んで構いません。レストでジョグをする場合も、とてもゆっくりで行います。
レストのジョグが速すぎると、有酸素系の立ち上がりが早くなり、解糖系代謝機能への刺激時間が減ってしまうためです。
坂道トレーニング
坂道トレーニングは「坂ダッシュ」として知られているトレーニングです。
傾斜率3.0~5.0%程度の坂を使って、繰り返しダッシュを行います。
疾走時間やレストの考え方は、基本的にレペティショントレーニングと同様です。
- 150m×20
- 200m×15
- 300m×10
坂ダッシュを行う場合、レストは登ってきた坂をジョグで戻るのが基本です。
ジョグのスピードはとてもゆっくりで構いません。普段のジョギングペースよりも遅くて大丈夫です。
時間に余裕があれば、歩いても問題ないです。
流し(ウィンドスプリント)
「流し」または「ウィンドスプリント」と呼ばれるトレーニングは、普段のジョギングに手軽に取り入れることができます。
正しいやり方が決まっているわけではありませんが、およそ20秒で走りきれる距離を、6~8本程度走ります。
走る際の努力感としては、90%程度です。普段のペース走やインターバル走よりは速いスピードになります。
間のレストは、ゆっくりジョグしても、歩いても、どちらでも構いません。
低糖質によるメリットとデメリット
ランナーの中には、フルマラソンの記録を向上させるために「減量」に取り組んでいるランナーも多いかと思います。
その減量方法として「糖質制限」を行っている場合、解糖系のトレーニング効果が下がってしまう可能性があります。
解糖系のトレーニングは、筋肉に蓄えられているグリコーゲンや血中に存在するグルコースをエネルギー源として使うことで、効果を得ることができます。
しかし、糖質制限をしている状態だと、そもそも筋肉に蓄えられているグリコーゲン量減っている状態でトレーニングを行うことになりますので、糖質の利用が制限されることになります。
本来、「糖質を使うことで刺激することができる」解糖系のトレーニングと、糖質制限による減量は相性が悪いと考えられます。
解糖系のトレーニングをメインとして行う前には、十分に糖質を摂取しておくことをおすすめします。
参考文献:
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