- トレーニング前にどんなウォーミングアップをするべきかわからない
- フルマラソンレース直前って、ウォーミングアップで走り過ぎると逆に良くない?
- 夏と冬でウォーミングアップ時間は変えるべきなの?
「ウォーミングアップ」はレースに参加するランナー全員が行っていると思います。ただ、ウォーミングアップはどのような目的で行っているのか、ウォーミングアップ後に体がどんな状態であれば適切なのかまで理解できているランナーは少ないと思います。
私自身も、ポイント練習やレースの前に様々なウォーミングアップの方法を試してきました。今でも「正解」には辿り着けていないと感じていますが、その正解にたどり着くために試行錯誤を続けてきました。
私の場合、レース前のウォーミングアップよりも「早朝ポイント練習前」のウォーミングアップに注目していました。早朝だとどうしてもランニングのパフォーマンスが上がらないので、ウォーミングアップの工夫が必要だったためです。
特に冬の早朝は体が動かないため、ポイント練習で行えるトレーニングも限られてくる印象です。そんな状況を打開すべく、最適なウォーミングアップ方法を模索してきました。
ここでは、ウォーミングアップの目的を詳細に解説し、ランニングトレーニングやレース前にどんなウォーミングアップをするべきかを紹介します。目標のレース距離や気温の違いによって、ウォーミングアップの内容にどんな影響があるのかについても解説します。
本記事を読めば、ご自身のトレーニング前や目標とするレース前のウォーミングアップを最適化し、ランニングパフォーマンスを高めることができます。1500m以上のレースを走るランナーを想定しています。
ウォーミングアップの目的
ランナーがウォーミングアップを行う目的は以下の通りです。
- 体温(筋温)の上昇
- 心拍数と呼吸数の増加
- 神経系の活性化
- 心理的な準備
それぞれ詳しく解説します。
体温(筋温)の上昇
ウォーミングアップの最も重要な目的が筋温の上昇です。筋温はランニングパフォーマンスに直結する要素です。
以下の研究は、ウォームアップを行った後、レースまでの待機時間に保温着(ヒートベスト等)を着用して筋温を下げないようにした場合の効果を調べたものです。
保温を行ったグループはピークパワー出力が有意に高く、ウォームアップ後の「筋温の維持」がパフォーマンスに直結することが分かります。※1
また、単に外側から加温によって筋温を高めるよりも、筋肉を動かすことによって筋温を高めるほうがよりパフォーマンス向上につながることも分かっています。
したがって、夏の暑い時期と冬の寒い時期では、ウォーミングアップに必要な時間と強度が異なってくることは明らかです。
心拍数と呼吸数の増加
筋温の上昇に次いで重要なことが、「循環器系」の準備です。循環器系の準備が整っているかどうかは心拍数や呼吸の状態を見ればわかります。
身体が必要とする酸素量が増えてくると、心拍数や呼吸数を増やすことで酸素供給量を増やすように調整されていきます。呼吸によって吸い込んだ空気から酸素を取り込み、血液の流れに載せて筋肉まで運ばれます。
筋肉に運ばれた酸素は、ミトコンドリアまで到達しエネルギーを産み出す源になります。
心拍数や呼吸数がある程度高まっていない状態では、目標とするレースに対して不十分であると言えます。ウォーミングアップの段階で一時的にでも、目標とするレース強度程度まで心肺機能を適応させておくと、レース開始直後から適切な循環機能を発揮することができます。
神経系の活性化
ランニング動作に必要な筋肉と神経の連携を活性化させます。特に短い距離のレースに出場するランナーは神経の活性化も重要な要素です。
神経の活性化は主に筋動員率に影響すると考えられます。「筋肉を動かそうという指令」に対してどのくらいの筋力が発揮できるかは、筋動員率に依存します。
ウォーミングアップにてレースでの動きに近い動作を、レースよりも強い筋力が必要な速度で行うことによって、レースで必要なパワーを発揮する準備が整います。
心理的な準備
ウォーミングアップには「心理的な準備」の要素も含まれます。心理面は主にホルモン分泌などに影響があります。レースに影響するホルモンの代表としては「アドレナリン」があります。
アドレナリンが分泌されることによって、心拍数の向上や血管の拡張などが起こりランニングパフォーマンスが向上します。
ただし、興奮状態が行き過ぎるとフルマラソン前半で力を使い果たし後半失速してしまうといったことも考えられます。短いレースであれば気にならないことですが、長い距離のレースである場合は落ち着きとのバランスも重要です。
気温によってウォーミングアップの時間と強度を変えるべき
上で述べた通り、ウォーミングアップにおいて最も重要な目的が「筋温の上昇」です。したがって、気温が高い夏(暑熱環境)と気温が低い冬(寒冷環境)では、ウォーミングアップの強度と時間を変える必要があります。
夏(気温が高い時)のウォーミングアップ
気温が高い夏のウォーミングアップで注意しておきたい事項は以下の通りです。
- 15分程度と短めにすること
- 体温が上昇するような強度が高いアップは不適切
- 本番レース前に体を冷却する
夏のウォーミングアップで注意したい事項は、ウォーミングアップの段階で体温が上昇し過ぎてしまい、疲れてしまうことです。
人がエネルギー代謝をスムーズに行うことができる最適な温度は37℃前後と言われています。夏はこの最適な温度を簡単に超えてしまうことが予想されるため、ウォーミングアップが行き過ぎると逆にパフォーマンスが落ちていきます。
Uckert & Joch(2007)※2 の研究では、気温30〜32°Cの暑熱環境下で3つの条件を比較しました。「通常のウォームアップ(最大心拍数70%で20分走)」「冷却ベストを20分着用するプレクーリング」「準備なし」の3条件です。
結果は、走り続けられた時間がプレクーリング(32.5分)>準備なし(30.3分)>ウォームアップ(26.9分)でした。つまり、暑い環境での長いウォームアップは、何もしないよりもパフォーマンスが下がってしまうということです。
一方、プレクーリング(アイスベスト等で体を冷やすこと)は準備なしよりも有意に長く走れており、夏のレース前の「体冷却」が効果的なことがわかっています。
一方で、短いレースになればなるほど長く走る必要もないため「ばてること」への対策重要度は下がると考えられます。
レースに向けた速い動きを取り入れつつ、レース前にはしっかり体を冷やす対策も取り入れることで、筋動員率を高めつつ適切なウォーミングアップを実行しましょう。
冬(気温が低い時)のウォーミングアップ
気温が低い冬のウォーミングアップで注意しておきたい事項は以下の通りです。
- 筋温が上昇するまでに時間がかかるため、30分程度の時間が必要
- 低強度のアップだけでは筋温が上がり切らない可能性があるため強度を上げたアップを取り入れる
- アップ後に筋肉が冷えない工夫をする
気温が低い寒冷環境では、ウォーミングアップによって筋温が上がってくるまでに時間がかかります。いくつかの論文を調査しましたが、アップ時の強度にもよりますが、筋温が最適な温度に到達するまでに30分程度はかかるようです。
また、ウォーミングアップ時の運動強度も筋温の上昇に影響します。低強度でアップを行っていると筋温が上がり切るまでに非常に時間がかかるため、LT強度程度の速度でアップを行うことも必要になってきます。
また、ウォーミングアップ後に体を冷やさない工夫も必要です。特にハーフマラソンやフルマラソンのロードレースではウォーミングアップ後に整列をして、実際にスタートするまでにかなりの時間待たされることもあります。この間に筋温が低下してしまうため、できるだけ体を冷やさないように工夫しましょう。
Morrissey et al.(2019)※3 の研究では、0°Cという寒冷環境での実験で、約25分のアクティブウォームアップを行うことで、乳酸閾値や最大運動能力が中性温度での条件と同等の水準まで回復することが確認されています。
つまり、真冬のレースでもしっかりウォームアップすれば夏と同じ体の準備が整えられるということです。
また、Spitz et al.(2014)※4 の研究では、5°Cの環境でウォームアップ後に30分間待機するとパフォーマンスが有意に低下することが示されています。
つまり、十分にウォームアップしても、スタートまでの待ち時間が長すぎると効果がなくなってしまいます。整列後にランニングドリルや軽い動きを続けたり、アウターを着て体を冷やさない工夫が大切です。
レース別ウォーミングアップ方法の解説
レース距離別に具体的なウォーミングアップ方法の解説をしていきます。
1500m ~ 5000m
1500m ~ 5000mでは、レーススタート時から最大酸素摂取量、もしくはそれを超える速度で走る必要があるため、走り始める前には筋動員率をしっかり高めておく必要があります。
- 股関節、肩甲骨など各種関節をほぐす動作
- 低強度のジョギング 15 ~ 30分:気温によって時間を調整
- LT強度での短いランニング 2分 × 2:暑い夏は実施しない
- 流し 3 ~ 5 本(スパイクを想定):実際のレースペース前後を意識
- レースまで休憩:10分程度が望ましい
なぜウォームアップ終盤に速い動き(流し)を入れるのかというと、VO2(酸素摂取量)の立ち上がりを速くするためです。
Burnley et al.(2012)※5 の研究では、800mレース前に高強度のプライミング運動(短い全力走など)を行うとVO2の立ち上がりが速まり、タイムが有意に短縮したことが示されています。
短い距離ほど、スタート直後からVO2が最大に近い状態になっているかどうかでタイム差が生まれやすくなります。
10000m(10km) ~ ハーフマラソン
10km ~ ハーフマラソンはロードで走ることを想定しています。比較的レース距離が長いこともあり、前半から最大出力が求められるわけではありません。
ランナーのレベルにもよりますが、10kmであれば60分、ハーフマラソンでは2時間程度の時間がかかることもあると考えると、ウォーミングアップで疲れてしまうことは逆効果だと考えられます。
- 股関節、肩甲骨など各種関節をほぐす動作
- 低強度のジョギング 10 ~ 30分:気温や走力によって時間を調整
- 流し 3 ~ 5 本:5000mのレースペース前後で十分
- 整列時間を使って休憩:冬は体を冷やさない工夫をする
フルマラソン
走力にもよりますが、フルマラソンではほとんどウォーミングアップをする必要がない可能性があります。
理由としては、フルマラソンではレース前の整列開始からレーススタートまでの時間がかなりかかること、レース時間そのものが数時間にわたるため、レースそのものがウォーミングアップを兼ねることができることです。
フルマラソンレースでの失速要因は、レース後半の筋グリコーゲン減少が原因になる例が多く、ウォーミングアップの段階ではできるだけ糖質の減少を防いだ方がいい、という考え方もありそうです。
一方で、サブ3よりも高い記録を狙っているランナーは、相応のウォーミングアップが必要と考えています。ウォーミングアップが不足していると、逆にレース前半で体が温まってくるまでに糖質を多く使ってしまうことが考えられるためです。
- 股関節、肩甲骨など各種関節をほぐす動作
- 低強度のジョギング 5 ~ 20分:レースの始めをアップ代わりにするのであれば、ほとんど無くていい
- 流し 3 ~ 5 本:5000mのレースペース前後で十分
- 整列時間を使って休憩:冬は体を冷やさない工夫をする
自分なりのウォーミングアップルーティーンを作る
ここまで、ウォーミングアップに関する理論を述べてきましたが、筋温の上がりやすさや循環器系の応答については個人差があります。
私がおすすめするのは、各距離のレースに対して自分なりのウォーミングアップルーティーンを作ることです。今回紹介したウォーミングアップについての理論をベースに、自分に適したウォーミングアップの流れを作ってみましょう。
実際のレースでは、理想のウォーミングアップができないことが多くあります。荷物預かりのタイミングやレース整列のタイミング、そもそもウォーミングアップする場所がないなど、思った通りにならないことが多いです。
どんな環境でも再現できるような、自分なりのウォーミングアップの型を作っておけば、精神的にも安定しますし、「ウォーミングアップができなかったから」という理由が排除されます。
参考文献
- ※1 Cowper G et al. (2022) “The impact of passive heat maintenance strategies between an active warm-up and performance: a systematic review and meta-analysis” BMC Sports Science, Medicine and Rehabilitation
- ※2 Uckert S, Joch W (2007) “Effects of warm-up and precooling on endurance performance in the heat” British Journal of Sports Medicine
- ※3 Morrissey MC et al. (2019) “The effect of cold ambient temperature and preceding active warm-up on lactate kinetics during a graded exercise test” Applied Physiology, Nutrition, and Metabolism
- ※4 Spitz MG et al. (2014) “The effects of elapsed time after warm-up on subsequent exercise performance in a cold environment” Journal of Strength and Conditioning Research
- ※5 Burnley M et al. (2012) “Improvement of 800-m running performance with prior high-intensity exercise” Medicine & Science in Sports & Exercise








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