- ランニングにおいて「トレーニング強度」がよくわからない
- トレーニング強度の表し方がいくつかあるけど、どれが正しいの?
- 結局、どんな強度でトレーニングをしたらいいの?
ランニングトレーニングを積み重ねてレースで良い結果を出すためには、ただゆっくりジョギングするだけではなく、ペースが速いインターバルトレーニングや、適度な速さでのロングランなどを適切に組み合わせて行う必要があります。
ランニングに対して少し勉強を始めると、どんなトレーニングをすればレースでいい結果を残すことができるかについて考え始める方もいらっしゃいます。そんな方に向けて、考え方を整理できるような説明をしようと思いました。
私自身がランニングを本格的に始めた当初は、ダニエルズのランニング・フォーミュラに書いてある通りの練習をしていました。
それから、ランニングについての勉強を始め、適切なランニングトレーニングについてよく考えるようになりました。
本記事では、ランニングトレーニングを構築するうえで、なぜトレーニング強度が重要なのか?についてや、トレーニング強度の分け方、各種目においてどの強度のトレーニングが適切なのかについての解説をします。
これまで私自身が学んできたこと、文献等を参考にして網羅的に解説をします。
なぜマラソンにおいて「トレーニング強度」が重要なのか?
トラック800mの中距離から42.195kmのフルマラソンまで、中長距離種目で記録を伸ばしていくためには「ランニングトレーニング強度」の考え方が非常に重要になります。
その理由としては、以下の通りです。
- 特に800m以上の中長距離種目でも「有酸素代謝能力」は共有して必要
- 種目毎に「有酸素および無酸素の重要さ」と「理想的な筋組成」が異なる
- 各種目に合わせたトレーニングを行う特異期においては、その種目に合わせた強度でのトレーニングが必要
陸上競技各種目における、有酸素および無酸素エネルギー代謝寄与割合を図で示します。800mでさえ、有酸素エネルギーの寄与割合が40%もあることが分かります。
100m程の短いダッシュばかりを行っていても、フルマラソンではいい記録を出せないことは明らかです。フルマラソンが目標である場合、長い時間のロングラン(距離走)やマラソンペースでのペース走などを行います。
一方で800mが目標である場合は、150m × 3 × 3などのスプリント的なトレーニングが必要です。
このように、特定の種目で良い記録を出すためにはその種目に適切な強度のトレーニングを行う必要があります。
私たちは普段、「フルマラソン向けのトレーニングはこれ!」という情報を得てその通りのトレーニングをしている、という状況です。
このような情報で、どんどん記録を伸ばしていくことができるランナーもいれば、なかなか記録が伸びないランナーや怪我をしてしまうランナーもいます。
このような個人差が発生するのは、「個人が持っている長距離種目に対しての素質が異なる」こと、「トレーニング強度および負荷の捉え方に個人差があり実施内容に差が出てくる」ことが原因です。
よくあるランニングトレーニングを解説した本では、目安の強度を「設定ペース」や「最大心拍数に対する割合(%HRmax)」で記述されています。
しかしここには、「自分の今の自己ベストを正確に測れていること」「自分の最大心拍数を正確に把握でき、走っている時の心拍数を正確に測定できること」という前提条件があります。
ほとんどのランナーは、この前提条件を深くは考えないで、トレーニングメニューが書いてある通りに実行します。その結果、上手くいくランナーもいれば、そうでないランナーもいる、という状況になります。
これらの事実から、ランニングトレーニングにおいては、「自分にとっての」トレーニング強度を正確に把握し、適切に取り組んでいく必要がある、と言えます。
トレーニング強度の網羅的図解
ランニング・トレーニングの世界では、トレーニング強度が様々な指標で表現されています。例を挙げると、「zone1,zone2,zone3,zone4,zone5」、「低強度,中強度,高強度」、「Easy,Moderate,Threshold,OBLA,VO2max」などです。
基本的には、自分が最も使いやすい呼び方・区分けで呼ぶといいと思いますが、ランニングトレーニングを学んでいくにあたり、どの呼び方がどんな区分けになっているのかを理解することは必要だと考えています。
ここでは、表及び図を使って、トレーニング強度を網羅的に解説していきます。
表でのトレーニング強度解説
トレーニング強度を表で表すと次の通りです。以下の表はノルウェーのオリンピック協会が提唱したzone区分に基づいています。
運動強度 | 強度名称 | 強度区分 | ※1 %HRmax | ※2 %VO2max | ※3 血中乳酸濃度 mmol/L |
---|---|---|---|---|---|
zone1 | Easy | 低強度 | 60~71 | 50~65 | 0.8~1.5 |
zone2 | Moderate | 低~中強度 | 72~82 | 66~80 | 1.5~2.5 |
zone3 | LT | 中強度 | 83~87 | 81~87 | 2.4~4.0 |
zone4 | OBLA | 高強度 | 88~92 | 88~93 | 4.1~6.0 |
zone5 | VO2max | 高強度 | 93~100 | 94~100 | >6.1 |
Sprint | 高強度 | - | 100~ | - |
- ※1 %HRmax:最大心拍数に対する割合。
- ※2 %VO2max:最大酸素摂取量に対する割合。
- ※3 血中乳酸濃度:血液中の乳酸濃度。専用の測定機器でしか測ることができない。競技レベルが向上すると、同じ強度でも血中乳酸濃度の数値は低下する傾向がある。
これはあくまでも強度区分の目安です。
図でのトレーニング強度解説
トレーニング強度を図で表すと次の通りです。zone区分の他にも、乳酸濃度や心拍数、該当するレース強度示しました。
トレーニング強度の配分方法
中長距離種目において競技力を伸ばしていくためには、上で解説してきたいくつかのトレーニング強度を適切に組み合わせて行う必要があります。
実際にどのトレーニング強度をどのくらいの比率でトレーニングに組み込んでいくのか、具体的なスケジュールはどうしたらいいのかについては、目標種目や、レースまでの期間によります。
トレーニング強度を配分するうえで、重要な考え方は「無酸素と有酸素のバランス」、「疲労からの回復と適応」です。
目標レースが短い距離であればあるほど、無酸素性のエネルギー寄与率が高くなりますが、フルマラソンではほぼ100%が有酸素性のエネルギー寄与になります。
無酸素性代謝と有酸素性代謝の適応は同時には起こりません。無酸素性代謝が活性化すると有酸素性代謝は後退します。トレードオフの関係なのです。
したがって、目標レースによって無酸素性・有酸素性代謝のトレーニング割合を調整していく必要があります。
また、どれだけ強度が高いトレーニングを行っても、「回復と適応」が間に合わなければ走力は向上していきません。高強度インターバルトレーニングをやりすぎると逆にパフォーマンスが低下していくような研究例もあります。
回復と適応が間に合うかどうかは、「負荷の大きさ(強度 × 量)」で決まります。強度が高くても量が少なければ回復までの時間は短くなります。
しかし、量を減らすぎると、適応に必要な刺激を確保することができません。適度な強度と負荷の組み合わせで、自分の目標としている種目に向けてトレーニングを積み重ねていく必要があります。
具体的なトレーニング強度配分の解説については、今後別の記事で解説します。
エリートランナーのトレーニング強度配分
世界で活躍するようなエリートアスリートをピックアップして、トレーニング強度配分がどのようになっていたのかを調べた研究があります。
エリートアスリートのトレーニング強度比率は「低強度:高強度=80:20」と言われています。
ただ、「80:20」という数字は、全期間のトレーニングを平均した数字になっています。オフシーズンのトレーニングとレースシーズンのトレーニングでは、トレーニング強度の比率も異なってくることには注意しなければなりません。
強度別トレーニング論
以下の記事で、強度別のトレーニング方法について解説しています。
自分の種目に適していて、回復と適応が間に合うようなトレーニング強度の配分を目指してトレーニングを構築していきましょう。
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