- ランニングエコノミーって、VO2maxと何が違うの?
- エコノミーが良くなると、タイムはどれくらい変わる?
- どうすれば向上するの?筋トレは効果ある?
- LSDはランニングエコノミーを下げると聞いたけど本当?
- カーボンシューズは本当にエコノミーを改善するの?
ランニングエコノミーという言葉は、多くのランナーが一度は聞いたことがあるはずです。しかし「なんとなく走りの効率のこと」という理解で止まっているケースが少なくありません。
実はランニングエコノミーは、最大酸素摂取量(VO2max)や乳酸閾値(LT値)と並ぶパフォーマンスの3大決定因子のひとつです※1。
VO2maxが同じランナーが2人いても、ランニングエコノミーの差によってフルマラソンのタイムに10〜20分もの開きが生まれます。
この記事では、ランニングエコノミーを定量的に理解するために、定義・測定方法・生理学的なメカニズムから、具体的なトレーニング方法まで、科学雑誌の審査を通った研究をもとに解説します。
ランニングエコノミーとは何か:定義と測定方法
「一定速度での酸素コスト」という定義
ランニングエコノミー(Running Economy)とは、一定の速度で走るときに体重1kgあたり1km進むために消費する酸素量のことを指します。単位は mL/kg/km(ミリリットル毎キログラム毎キロメートル)で表します。
この値が小さいほど、同じ距離を走るのに使う酸素が少ない、つまり「燃費が良い」ということです。トレーニングを積んだランナーの値は180〜220 mL/kg/km程度が目安で、エリートランナーはこれより大幅に低い傾向があります。
測定は実験室のトレッドミル上で行います。特定の速度で8分以上走った定常状態(体が速度に慣れ、酸素消費量が安定した状態)で呼気ガス分析をおこない、消費した酸素量からランニングエコノミーを算出します※3。
速度を段階的に上げていくインクリメンタルプロトコルを用いても測定の信頼性は損なわれないことが確認されており※4、通常のトレーニング状態で繰り返し計測することができます。
なお、測定速度が変わってもランニングエコノミーの値は概ね一定です。VO2maxの90%以下の速度であれば、速度が変わっても1kmあたりの酸素コストはほとんど変化しないことが分かっています※4。
そのため「キロ5分でのエコノミー」「キロ4分30秒でのエコノミー」といった速度を指定した比較が成立します。異なる速度で測定した値でもある程度の比較が可能です。
VO2maxとの根本的な違い
VO2maxは「1分間に使える酸素量の上限」を表します。一方でランニングエコノミーは、「一定量の酸素消費をどれだけ速い走りに変換できるか」を表します。2つは独立した指標です。
VO2maxは1分間に体重1kgあたり最大で何ミリリットルの酸素を使えるかを表し、心臓や肺の酸素運搬能力を反映します。ランニングエコノミーは、消費した酸素をどれだけ効率よく推進力に変換できるかを反映します。
両者は独立した能力であり、VO2maxが高くてもランニングエコノミーが悪ければタイムには直結しません※1。
重要なのは、エリートランナーの間でもランニングエコノミーには21%以上の個人差があることです※5。VO2maxが横並びになりやすい競技レベルの高い集団では、このエコノミーの差がタイムの差につながります※7。
GarminなどウェアラブルデバイスでのRE測定
一部のGarminデバイス(フェニックスシリーズ等)はランニングエコノミーを推定する機能を搭載しています。これは加速度計・心拍センサー・歩容データから間接的に推算した値であり、実験室での直接測定とは異なります。
ウェアラブルの推定値は「自分のトレンドを追う」参考指標として活用するのが現実的です。絶対値で他者と比較するよりも、同条件のルートを定期的に走って変化を見る使い方が向いています。
- ランニングエコノミーは「特定の速度で走るときの1kmあたりの酸素コスト(mL/kg/km)」
- 値が小さいほど効率が良く、エリートレベルでも21%以上の個人差がある
- VO2max(酸素運搬の上限)とは独立した能力で、両者が揃って初めてタイムに反映される
パフォーマンスへの影響:3決定因子の中でのREの役割

長距離タイムを決める3つの要因
長距離走のパフォーマンスを決める生理学的要因として、VO2max・乳酸性作業閾値(LT値)・ランニングエコノミー(RE)の3つが繰り返し研究で確認されています※1。
VO2maxは「酸素を使える上限」であり、LT値は「その上限に対してどれだけの割合でレースを走れるか」を決めます。
ランニングエコノミーは「その酸素消費量が実際の速度にどれだけ変換されるか」を規定します。この3つが組み合わさってレースタイムが決まります※2。
800mや1500mのような中距離でも、VO2maxとランニングエコノミーの2つを組み合わせることで、パフォーマンスのばらつきの96%近くを統計的に説明できることが分かっています※6。ランニングエコノミーは長距離に限らない重要指標です。
同じVO2maxでもタイムが違う理由
仮に2人のランナーがまったく同じVO2max(55 mL/kg/min)と乳酸閾値(VO2maxの80%)を持っているとします。ランニングエコノミーだけが異なる場合、フルマラソンのタイムはどうなるでしょうか。
計算すると、エコノミー200の選手のマラソン速度は約13.2 km/h(タイム3:11台)、エコノミー220の選手は約12.0 km/h(タイム3:31台)になります。
同じVO2maxとLT値でも、ランニングエコノミーの差だけで約20分の差が生まれます。
この差は、VO2maxを改善するよりもランニングエコノミーを改善する方が実用的なケースがあることを示しています。特にVO2maxが均質になりやすい高レベルのランナー集団では、ランニングエコノミーの差が競技成績の差に直結します※7。
計算例:REが5%向上するとタイムが何分変わるか
Joyner(1991年)の生理学的モデルから導かれる重要な事実があります。それは、ランニングエコノミーの改善率(%)は、そのままほぼ同じ割合でマラソンタイムの短縮率(%)に反映されるということです※2。
具体的に計算してみましょう。フルマラソン3時間30分(210分)のランナーがランニングエコノミーを5%改善した場合、タイムは約5%短縮されます。
210分の5%は約10.5分ですので、約10〜11分の短縮に相当し、3時間19〜20分台に入る計算になります。
3時間ちょうどのランナーであれば、5%の改善で約9分の短縮(2時間51分台)になります。ランニングエコノミーは数年単位のトレーニングで10〜20%の改善が現実的な範囲ですので、積み重ねによる効果は決して小さくありません※2。
「LSDはランニングエコノミーを下げる」という疑問について補足しておきます。有酸素性トレーニングの蓄積(距離走を含む長期的な走行量)は、ランニングエコノミーを向上させる主要な要因のひとつです※12。
長期的にジョグや距離走を継続することでエコノミーは改善されていきます。
- 同じVO2max・LT値でもランニングエコノミーの差が20分超のタイム差を生む
- ランニングエコノミーが5%改善すると、マラソンタイムが約5%(9〜11分)短縮できる
- LSDはエコノミーを下げない。有酸素トレーニングの蓄積がエコノミー向上の基盤になる

ランニングエコノミーを決める生理学的要因
ランニングエコノミーの個人差はなぜ生まれるのでしょうか。研究が指摘している主な要因は「バイオメカニクス」「神経筋・弾性エネルギー」「代謝・筋組成」の3つに分類されます。
バイオメカニクス要因
97名のさまざまなレベルのランナーを対象に、三次元全身動作解析とランニングエコノミーを同時測定した研究(Folland 2017)があります※8。
この研究で分かったのは、「上下動を抑える」「骨盤を前傾させる」といった単一のフォーム要素よりも、上下動・制動・姿勢・ストライド・下肢角度を組み合わせた総合的なテクニックスコアがランニングエコノミーの独立した予測因子になるという点です。
特に接地時間(Ground Contact Time)の短さはランニングエコノミーと強い相関があります。ケニア人女性ランナーを対象にした研究では、閾値強度での接地時間とエコノミーの間に高い相関関係が示されています※9。
ただし接地時間を意識的に短くしようとするより、トレーニングを通じて自然に短縮されていく方が現実的です。
骨盤の前傾については、わずかな前傾(体幹の前傾)は推進力に有利ですが、過度の前傾は逆にランニングエコノミーを悪化させる可能性があります※8。「骨盤前傾=必ず良い」という単純な解釈は正確ではありません。
神経筋・弾性エネルギー要因(最も重要なメカニズム)

ランニングエコノミーの差を生む要因のなかで、研究で最も強いエビデンスが集まっているのが「腱の弾性エネルギー再利用」です。
走るとき、足が地面に接地する瞬間にアキレス腱や下肢の腱が変形してエネルギーを蓄積し、離地時にそのエネルギーを解放して推進力に変えます。
この弾性エネルギーの再利用には筋肉のエネルギー(ATP)をほとんど使わないため、腱のスティフネス(硬さ・弾性)が高いほど走りが経済的になります。
14週間の下腿筋力トレーニングを行った実験(Albracht 2013)では、腱のスティフネスが約16%増加した結果、走行時の酸素消費量が約4%減少しました。
腱スティフネスの増加量とランニングエコノミーの改善量の間には強い相関関係が確認されています※10。
アキレス腱の形態的な特徴(腱のモーメントアーム長)もランニングエコノミーと関連しています※5。これは先天的な要因であり、変えることはできませんが、後天的に腱スティフネスを高めることでエコノミーを改善できる余地があります。
代謝・筋組成要因
代謝面では、骨格筋のミトコンドリア(エネルギー産生の場)の密度と酸化系酵素の活性が高いほど、同じペースで走る際の代謝コストが低くなります※1。
有酸素トレーニングの長期的な積み重ねが、このミトコンドリア適応を通じてランニングエコノミーを改善します。
筋線維組成については、遅筋線維(TypeI)の比率が高いほど有酸素性のエネルギー代謝が効率よく機能するため、長距離のエコノミーに有利に働く傾向があります。
ただしこれは遺伝的な要因が大きく、トレーニングで劇的に変えることは難しい要素です。
「ランニングエコノミーが悪いと脂肪燃焼が多い」という誤解についても触れておきます。単位距離あたりの酸素コストが高い(エコノミーが悪い)ということは、同じ距離を走るために多くのエネルギーを消費するということです。
しかし脂肪と糖質のどちらを燃やすかは運動強度(%VO2max)によって決まるため、ランニングエコノミーの良し悪しと脂肪燃焼の多さは直接連動しません。
- 総合的なランニングフォームがエコノミーを決める。骨盤前傾など単一要素の意識だけでは不十分
- アキレス腱の弾性エネルギー再利用が最も強いエビデンスのあるメカニズム
- 腱スティフネスは後天的に高められる。これがトレーニングでエコノミーを改善できる主要な理由
ランニングエコノミーを向上させる方法
走行量の蓄積(最も基本的な方法)
ランニングエコノミーを向上させる最も基本的かつ確実な方法は、有酸素性トレーニングの長期的な蓄積です。距離走を含むトレーニング歴とトレーニング量が、ランニングエコノミーを改善する最も重要な要因であることが確認されています※12。
メカニズムとしては、継続的な走行によって腱の弾性特性が最適化されること、ミトコンドリア密度が増加して代謝効率が上がること、神経筋協調が向上して不必要な筋活動が減ること、などが複合的に作用します。
こうした適応は月単位・年単位の蓄積を通じて起きるため、走行量を継続することに大きな意味があります。
週に1〜2回のLSD(Long Slow Distance)はランニングエコノミーを下げるどころか、長期的には向上に貢献します。
「LSDはエコノミーを悪化させる」という言説が一部で流れていますが、これは短期的な疲労状態を測定したデータが誤解を生んでいるためと考えられます。
高負荷筋力トレーニング
複数の研究をまとめた解析(Balsalobre 2016)では、高い練習水準のランナー(VO2max 60 mL/kg/min以上)でも、筋力トレーニングを追加するだけでエコノミーが改善することが確認されています※15。
また、別の解析(Eihara 2022)では、高負荷の筋力トレーニングがプライオメトリクスよりもエコノミー改善に有効であることが示されています※13。
特に1RM(最大挙上重量)の90%以上の高負荷を使った場合に効果が最大になる傾向があります。
主要なメカニズムは腱スティフネスの向上です※10。高負荷の筋力トレーニングがアキレス腱や下肢の腱を強化し、弾性エネルギーの蓄積・解放効率を高めます。また、神経筋の協調能力が改善され、同じペースでの筋活動量が減少することも確認されています。
推奨する種目はスクワット・レッグプレス・カーフレイズなどの複合・単関節種目です。週2回を8週間以上継続することで効果が現れ始め、期間が長いほど改善幅が大きくなる傾向があります。

プライオメトリクストレーニング
6週間のプライオメトリクストレーニング(ドロップジャンプ等)を実施した実験(Spurrs 2003)では、VO2maxや乳酸閾値は変化しないまま、3kmタイムが約2.7%短縮されランニングエコノミーが改善しました※11。
この研究では腱スティフネスの向上量とランニングエコノミーの改善量の間に強い相関関係が見られており、弾性エネルギーの活用改善が主な作用経路と考えられます。
VO2maxや乳酸閾値が変わらずにタイムが短縮したという点は重要です。ランニングエコノミーの改善だけでパフォーマンスが向上したことを示しており、プライオメトリクスがエコノミー改善に直接作用するメカニズムを裏付けています。
ただし、複数研究のまとめ解析では、プライオメトリクスは高負荷筋力トレーニングと比べるとランニングエコノミーへの効果量がやや小さい傾向があります※13。両者を組み合わせることが最も効果的です。
高速走・複合プログラムの効果
低強度連続走・HIIT(高強度インターバルトレーニング)・補助筋力トレーニングを組み合わせた複合プログラムを8週間実施した研究(Rodriguez-Barbero 2023)があります※17。
その結果、酸素コストが約6%、エネルギーコストが約5%低下しました。
トレーニング経験が豊富なランナーでも初中級者でも同様の改善が見られており、複合プログラムの汎用性が示されています。
長時間のレースで重要なのが「ランニングエコノミーの耐久性」という概念です。序盤は経済的に走れていても、90分以降にエコノミーが悪化するランナーがいます。
筋力トレーニングを加えた介入(Zanini 2025)では、90分走行後のランニングエコノミーの悪化が抑制され、疲労耐性が向上することが示されています※16。フルマラソンを目標にしているランナーにとって特に重要な知見です。
シューズとランニングエコノミー
カーボンプレート・AFT(最先端フットウェア技術)の効果
カーボンプレートを搭載した厚底シューズ(Advanced Footwear Technology:AFT)は、トレーニングや身体能力とは独立した形でランニングエコノミーを改善します。
AFTスパイク・非AFTスパイク・従来型ロードシューズを同一速度(時速16km)で比較した研究(Warne 2024)では、AFT搭載のスパイクが最もランニングエコノミーを改善することが示されています※18。
メカニズムは、厚いフォーム素材がカーボンファイバープレートと組み合わさることで機能します。接地時に変形して弾性エネルギーを蓄積し、離地時にそのエネルギーを解放することで推進力を補助します。
AFTによるランニングエコノミーの改善幅は概ね2〜4%程度で、個人によって異なります。この2〜4%は、前のセクションで示したように、フルマラソンで3〜8分程度のタイム短縮に相当します。レースへの活用は合理的な選択肢です。
厚底から薄底に変えるとランニングが難しくなる理由
厚底シューズで練習してきたランナーが薄底シューズや一般的なシューズに変えると、同じペースでもきつく感じたり、ふくらはぎや足底に疲労が出やすくなることがあります。
これはシューズの弾性補助がなくなるため、その分を下肢筋群と腱で補う必要が生じるからです。薄底での走行は下肢に対してより大きな神経筋的な刺激を与えるため、トレーニング目的で少量混ぜる使い方は腱スティフネス向上の観点から有効です。
一方で、急激な移行はふくらはぎや足底への負荷集中につながるため、段階的に移行することが推奨されます。
- カーボンプレートAFTはランニングエコノミーを約2〜4%改善する
- フルマラソンで換算すると3〜8分のタイム短縮に相当し、レースへの活用は合理的
- 薄底への急激な移行は下肢への負荷集中を招くため段階的に行う
まとめ:ランニングエコノミーを改善する実践チェックリスト
ランニングエコノミーは、VO2maxや乳酸閾値と並ぶパフォーマンスの3大決定因子のひとつです。同じVO2maxでも、ランニングエコノミーの差がフルマラソンで10〜20分のタイム差を生みます。
5%の改善がマラソンで9〜11分の短縮に相当するという定量的な意味があります。
ランニングエコノミーを改善する実践的な方法をまとめます。
- 走行量を継続して積み上げる(LSDを含む有酸素トレーニングの蓄積が基盤)
- 週2回の高負荷筋力トレーニング(スクワット等、高重量・低回数)を走行メニューに追加する
- プライオメトリクス(ドロップジャンプ・バウンディング)を週1〜2回取り入れる
- フォームは単一指標を意識するより、総合的なテクニック向上を目指す
- レースではカーボンプレートAFTシューズを活用する(2〜4%のエコノミー向上)
- フルマラソン挑戦者は「エコノミーの耐久性」にも注目し、長時間走でのフォーム維持を意識する
参考文献
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※10 Albracht K, Arampatzis A. Exercise-induced changes in triceps surae tendon stiffness and muscle strength affect running economy in humans. J Exp Biol. 2013;216(Pt 2):244-51.
※11 Spurrs RW, Murphy AJ, Watsford ML. The effect of plyometric training on distance running performance. Eur J Appl Physiol. 2003;89(1):1-7.
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※15 Balsalobre-Fernández C, Santos-Concejero J, Grivas GV. Effects of Strength Training on Running Economy in Highly Trained Runners: A Systematic Review With Meta-Analysis of Controlled Trials. J Strength Cond Res. 2016;30(6):1770-84.
※16 Zanini M et al. Effects of concurrent strength and endurance training on running economy durability. RCT. 2025.
※17 Rodriguez-Barbero S et al. Effects of a Regular Endurance Training Program on Running Economy and Biomechanics in Runners. Applied Sciences. 2023;13(19):10982.
※18 Warne JP et al. AFT track spikes versus non-AFT spikes and road shoes: running economy at 16 km/h. Int J Sports Physiol Perform. 2024.









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