- ランナーは糖質とたんぱく質をどのくらい摂取すればいいの?
- ランニングトレーニングの疲労がなかなか抜けない
- よく怪我をする
「リカバリー」と聞いて思い浮かぶのは、睡眠・ケア(ストレッチやマッサージ)・栄養などです。しかし私の印象として、「栄養」に気を配れているランナーは少ないと感じます。
トレーニング直後にプロテインを飲むことなどは一般的に普及していますが、ランナーのリカバリーにとってはたんぱく質だけを摂取することは効果的ではありません。
- トレーニングの疲労がなかなか抜けない
- トレーニングをしている割には走力が伸びていかない
- よく怪我をしてしまう
こんな悩みを持っている方は、適切な栄養摂取ができていない可能性があります。栄養素の中でも特に「糖質・たんぱく質」の摂取が最適化されていない可能性があります。
栄養面でのランナーのためのリカバリー戦略を紹介します。栄養素の中でもたんぱく質と糖質の重要性とその適切な摂取方法について紹介します。
たんぱく質と糖質以外にも、水分やビタミン・ミネラルなど、必要不可欠な栄養素は多くありますが、ここでは、最も摂取量が多くなる糖質とたんぱく質について解説します。
本記事を読めば、いま自分自身が摂取している糖質やたんぱく質の量や摂取タイミングが適切かどうかが判断でき、自分の摂取方法を見直すきっかけになります。
栄養面での「リカバリー」の意味
はじめに、栄養面でのリカバリーの意味を説明します。
ランナーにとって「栄養面でのリカバリー」とは、「運動後の体の回復を促進し、次のトレーニングやレースに向けて最適な状態を維持するための栄養摂取」を指します。
リカバリーの目的は、体が受けた負荷やダメージから回復し、筋肉やエネルギーを再生し、翌日のパフォーマンスに影響を与えないようにすることです。具体的には以下のような要素があります。
- 筋肉、組織の回復と修復
- グリコーゲンの補充
- 水分補給
- ビタミン、ミネラルの補充
筋肉、組織の回復と修復
ランニング中に筋肉は微細な損傷を受けます。そのため、運動後に適切な栄養素を摂取することで、筋肉の修復と再生を促進することができます。特に重要なのはたんぱく質です。
たんぱく質は筋肉の修復以外にも、ミトコンドリアやヘモグロビンの構成物質にもなっています。トレーニングで負荷が加わった各組織を再生し適応を起こすためにはたんぱく質が必要になります。
グリコーゲンの補充
ランニング中に使われるエネルギー源は主にグリコーゲン(筋肉と肝臓に蓄えられる糖質)です。トレーニングを高いパフォーマンスで行うためには、蓄えられているグリコーゲンレベルが高い状態である必要があります。
トレーニング実施後に十分な糖質が摂取できていない場合、グリコーゲンの回復が遅れます。次に行うトレーニングのパフォーマンスが上がらないことに加え、疲労感の増大にもつながります。
また、糖質が不足している状態の時には筋肉を構成するたんぱく質を一部分解し「アラニン」として放出、エネルギー不足分を補う反応が起きます。本来落としたくない筋肉が落ちてしまう原因にもなります。
水分補給
運動中に汗をかくことにより、体内の水分や電解質が失われます。運動後の水分補給は、これらの不足を補い、体の正常な機能を維持するために不可欠です。
グリコーゲンを体に蓄える際にも水分が必要で、1gの糖質に対して3gの水分が結合します。トレーニングで失われた水分は直ちに補給する必要があります。
ビタミン・ミネラルの補充
ビタミンやミネラルもリカバリーにおいて重要な役割を果たします。例えば、ビタミンCやビタミンEは抗酸化作用があり、筋肉の炎症を抑えるのに役立ちます。また、ナトリウムやカリウムなどの電解質は水分バランスを保つために重要です。
特に鉄分はヘモグロビンを構成する物質であり、ランニングのパフォーマンスに直結する栄養素です。血液中に存在するヘモグロビンは酸素を運搬する機能があります。鉄分が不足すると血液中のヘモグロビン濃度が低下し、酸素運搬能力が低下するため、ランニングパフォーマンスが低下します。
ランナーのリカバリーになぜ糖質とたんぱく質が重要なのか
特に糖質とたんぱく質は、ランナーが走力を向上させていくうえで必要不可欠な栄養素です。
トレーニングは体に負荷をかける行為です。負荷がかかった筋組織やミトコンドリアは、かかった負荷に適応して発達していきます。
筋肉やミトコンドリアが発達していくには十分な量のたんぱく質が必要です。日常生活を送っていく上で必要不可欠なタンパク質量に加えて、筋肉やミトコンドリアがさらに発達するためのたんぱく質も必要なので、走っていない方に比べたら多くのたんぱく質量を摂取する必要があります。
また、たんぱく質と糖質は密接に関係しています。トレーニングによって体のエネルギーが不足している状態になると、たんぱく質の分解が旺盛になります。本来、さらなる適応と発達に利用されるべきたんぱく質が分解されてしまいます。
運動によるたんぱく質の分解量を汗に含まれる尿素窒素量から調査を行った結果を以下に示します。運動実施前に十分な量の糖質を摂取して筋グリコーゲンが高い場合には骨格筋たんぱく質の分解が抑制されていることが分かります。
参考:トレーニングとリカバリーの基礎的科学
たんぱく質の分解を防ぐためには、体に十分な糖質を補給する必要があります。トレーニングによって失われたグリコーゲンを直ちに回復させることで、トレーニングでかかった負荷に対して適応を起こすことができます。
グリコーゲン貯蔵量とトレーニングサイクルの関係
普段のランニングトレーニングによって、体に蓄えられていたグリコーゲン量がどのように変化をするか紹介します。
次に示すグラフは、3日連続で80%VO2maxの強度で16km走を行った際の筋グリコーゲン濃度を示しています。80%VO2maxはちょうどマラソンペースに相当する強度です。
高糖質食は糖質エネルギー比70%の食事、低糖質食は糖質エネルギー比40%の食事を意味しています。
参考:トレーニングとリカバリーの基礎的科学
こちらのデータからわかる通り、高糖質食を取ったグループでは筋グリコーゲン濃度が高く保たれているのに対し、低糖質食グループでは徐々に筋グリコーゲン濃度が低下してしまっていることが分かります。
筋グリコーゲン濃度が低下している状態は、必ずしも悪いことばかりではありません。エネルギーが不足気味であるとミトコンドリアの活性が高まることが分かっています。
しかし、低エネルギー状態でのトレーニングは、たんぱく質の分解、トレーニングパフォーマンスの低下などにつながり、総じていい影響は及ぼさないと考えられます。
体の適応を起こすための糖質とたんぱく質の適切な摂取方法
トレーニングで体に負荷をかけてから、できるだけ早く筋グリコーゲンを回復させ、筋肉や組織の修復と適応を進めるためには、糖質とたんぱく質の摂取タイミングと量が重要です。
トレーニング後のおすすめ糖質・たんぱく質の摂取方法は次の通りです。
- 運動直後、できるだけ早く糖質:たんぱく質=2~3:1の比率で摂取する
- 運動後から、1時間当たり1.0~1.2g / kgの糖質を摂取していく
- 1日トータルで、エネルギーが不足しすぎないように糖質とたんぱく質を摂取する
まず重要なことは「運動直後、できるだけ早くたんぱく質を含む糖質を摂取すること」です。
次に示すグラフは、運動直後に糖質を摂取したグループと、運動から2時間後に糖質を摂取したグループの間で、筋グリコーゲンの回復率を比べています。
参考:トレーニングとリカバリーの基礎的科学
運動直後に糖質を摂取したグループの方が、明らかにグリコーゲン回復速度が高いことが分かります。同じ量の糖質を摂取した場合、運動直後の方が効率的に筋グリコーゲンへの変換ができます。
また、運動後に摂取する糖質にたんぱく質が混ざることで筋グリコーゲンの回復率が高まることが分かっています。
筋グリコーゲン回復速度は、主に糖質の量に比例し、「糖質1.2g / 体重kg」でほぼ最大化します。体重60kgの場合、72gの糖質です。
たんぱく質は炭水化物の半分量程度が含まれていれば、グリコーゲン回復量には大きな影響がないことが分かっています。
減量をしている期間である場合は、1日トータルで摂取するカロリーが消費カロリーを下回る必要がありますが、トレーニングパフォーマンスを最大化していくためには、摂取カロリーが消費カロリーと同等程度になるようにする必要があります。
摂取カロリーが極端に消費カロリーを下回ってしまうと、筋グリコーゲンの貯蔵率も低下傾向になる可能性がありますので、不足しすぎないように食事量を調整していく必要があります。
リカバリーのためのおすすめサプリメント
基本的に、リカバリーのための栄養摂取は普段の食事のみで十分です。アスリートの場合は朝・昼・夕の食事に加えて間食などを挟むことで、必要十分な栄養を摂ることが可能です。
ただ、食事をコントロールしきれないランナーや時間がなくて十分な食事が摂れないランナーにとっては、別の方法で不足する栄養を摂取する必要があります。
糖質とたんぱく質のサプリメントとして最もおすすめなのがリカバリープロテインです。リカバリープロテインとは、主に糖質とたんぱく質を含んでいるプロテインのことを指します。
市販のリカバリープロテイン
リカバリープロテインには糖質とたんぱく質が適切な比率で配合されており、運動直後に摂取することで筋肉・組織の修復と筋グリコーゲンの回復を促進することが可能です。
ここでは、栄養成分や添加物などを考慮して、ランナーのリカバリーにおすすめの市販されているリカバリープロテインは以下の通りです。
メーカー名 | 森永 | Kentai | ACTIVIKE |
---|---|---|---|
製品名 | リカバリーパワープロテインココア味 | パワーリカバリーホエイペプチド グレープフルーツ風味 | リカバリープロテイン |
価格 | 7,218円(3.0kg) | 6,224円(2.0kg) | 8,980円(2.8kg) |
たんぱく質20g の価格 | 219円 | 234円 | 214円 |
糖質:たんぱく質 | 3.2 : 1 | 2.6 : 1 | 2.1 : 1 |
原材料 | デキストリン(国内製造)、砂糖、ホエイたんぱく(乳成分を含む)、ココアパウダー、食用油脂/香料、V.C、乳化剤、ロイシン、グルタミン、ナイアシン、パントテン酸Ca、V.B6、V.B2、V.B1、葉酸、V.B12 | マルトデキストリン(国内製造)、ホエイペプチド(乳清たんぱく分解物)(乳成分を含む)、ブドウ糖、果糖、デキストリン、食用油脂 / 酸味料、塩化K、乳化剤(乳・大豆由来)、甘味料(スクラロース、アセスルファムK)、クエン酸鉄Na、香料、ビタミンC、ビタミンE、ナイアシン、ビタミンB1、ビタミンB6、ビタミンA、パントテン酸Ca、ビタミンB12、葉酸、ビタミンB2、ビタミンD | ブドウ糖、ホエイプロテイン(WPI)、大豆たんぱく、カカオパウダーなど(フレーバーによって異なる) |
基本的に、どれを選んでも大きな差はありません。たんぱく質と糖質を同時に摂取することと、糖質を十分量摂取することが重要です。極力添加物が少ない製品を選びたい場合は、ACTIVIKEのリカバリープロテインがおすすめです。
自作でリカバリープロテインを作る
リカバリープロテインは「自作」が可能です。私の例で言うと、市販のホエイプロテインとマルトデキストリンを購入して、約2:1の割合で混合して、トレーニング後に摂取しています。
自作でリカバリープロテインを製作する場合は、たんぱく質は「ホエイ(WPC)・ホエイ(WPI)・ソイ」の選択肢があり、糖質としては主に「ブドウ糖(マルトデキストリン)・砂糖(ショ糖)・果糖」の選択肢があります。
たんぱく質はご自身の目的と、胃腸の特性などを考慮して選択しましょう。また、糖質としては吸収された後に直接筋グリコーゲンに変換されやすいブドウ糖かマルトデキストリンがおすすめです。
マルトデキストリンはブドウ糖が弱い結合で繋がった糖質ですが、同量のブドウ糖と比較してほとんど甘さを感じません。プロテイン自体が甘いものと混ぜる場合は、ブドウ糖を使ってしまうと、甘すぎて飲みにくくなる可能性があります。
例として、ACTIVIKEのリカバリープロテインは、たんぱく質としてWPIホエイとソイが1:1の割合で含まれており、糖質としてはブドウ糖が使用されています。
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