- マラソンにおけるピラミッド型トレーニングとは何か?
- ポラライズドモデルや80/20ルールとどう違うのか?
- マラソン向けの週間スケジュールをどう組めばよいか?
- 「中強度の罠」とは何か?なぜ危険なのか?
本記事ではマラソンなどの持久系スポーツにおけるトレーニング強度の配分モデルとしてのピラミッド型TID(Training Intensity Distribution)を解説します。
強度配分モデルとしてのピラミッド型トレーニングは、低強度を最も多く、中強度を少量、高強度をさらに少量とする配分パターンです。エリートマラソンランナーの多くが採用しているのが、実はこのピラミッド型であることが科学的な分析で示されています※1※2。
一方で「ポラライズドモデル(二極化モデル)の方が効果的と聞いた」「ノルウェーモデルとどう違うのか」という疑問も多く聞かれます。本記事ではピラミッド型TIDの定義・他モデルとの違い・実践方法・注意点をエビデンスにもとづいて解説します。
ピラミッド型トレーニングとは(3ゾーン分類)
トレーニング強度は、よく3つのゾーンに分類されます※3。
- Zone 1(低強度):乳酸値が2 mmol/L以下の有酸素域。会話ができ、翌日に疲労が残らない強度。ゆっくりジョグやLSD(Long Slow Distance)がこれにあたる
- Zone 2(中強度):乳酸値2〜4 mmol/L相当の閾値域。フルマラソンペース〜それより少し速い程度で息はかなり上がるが、VO2maxインターバルよりはっきりラクな強度。有酸素テンポ走がこれにあたる
- Zone 3(高強度):乳酸値4 mmol/Lを超える高強度域。VO2max(最大酸素摂取量)領域のインターバルトレーニングがこれにあたる
ピラミッド型TIDは、この3つの配分が「Zone 1が最多 → Zone 2が次 → Zone 3が最少」になる形です。まさにピラミッドを横から見たように、強度が上がるほど量が少なくなります。

エリートランナーの実態データを見ると、この傾向が明確です。世界クラスの中距離・長距離ランナー7名の50週間トレーニングを分析した研究では、Zone 1=88.5%、Zone 2=7.4%、Zone 3=4.1%というピラミッド型の分布が確認されました※3。
また、エリートランナーのTIDを10研究でまとめたシステマティックレビューでも、主流はピラミッド型であり、特にマラソン選手でZone 2(閾値強度)の比率が高め(中強度を適度に含む傾向)であることが示されています※2。
- ピラミッド型TIDはZone 1(低強度)が最多、Zone 2(中強度)が次、Zone 3(高強度)が最少の配分パターン
- エリートランナーの多くが採用しており、特にマラソン選手で顕著
- 世界クラスランナーの実測値はZone 1が約88%・Zone 2が約7%・Zone 3が約4%
ポラライズドモデルとの違い
ポラライズドモデル(二極化モデル)とは、Zone 1(低強度)を多く確保しながらZone 3(高強度)も適度に行い、Zone 2(中強度)を意図的に少なくする配分です。ピラミッド型との最大の違いは、「Zone 2(中強度)の量」にあります。
| 項目 | ピラミッド型(PYR) | ポラライズド型(POL) |
|---|---|---|
| Zone 1(低強度) | 約80% | 約80% |
| Zone 2(中強度) | 約15% | 約5% |
| Zone 3(高強度) | 約5% | 約15% |
| Zone 2とZone 3の関係 | Zone 2 > Zone 3 | Zone 2 < Zone 3 |
訓練されたランナー60名を4グループに分けた16週間のRCT(無作為化比較試験)では、上表のようなゾーン配分で直接比較が行われました※5。結果として、ピラミッド型は乳酸閾値(LT:乳酸値4 mmol/L時の速度)の改善が顕著で、ポラライズド型はVO2peak(最大酸素摂取量)の向上でやや優れていました。
また、ピラミッド型で8週間トレーニングした後にポラライズドへ移行したグループが、4グループの中で最大の総合的改善を示したことも重要な発見です※5。
他の研究でも、ポラライズドはVO2maxやタイムトライアルのパフォーマンス向上でやや優位な傾向が見られます※6※7※8。しかしその差は小さく、トレーニング経験・競技レベル・実施時期によって最適なモデルは変わります。
市民マラソンランナー120名を対象にした研究(機械学習で個人反応を分析)では、全体的にはポラライズド型がピラミッド型より約30%大きいマラソンタイムの改善を示しました。一方で、ピラミッド型に反応するランナーも約32%存在し、ポラライズドに反応する32%と同数でした。
最も重要な予測因子はトレーニング経験で、経験が少ないランナーほどピラミッド型への反応が優れていました※14。

- 最大の違いはZone 2の量。ピラミッドは約15%、ポラライズドは約5%
- ポラライズドはVO2max向上にやや優位、ピラミッドは乳酸閾値改善に優れる
- トレーニング経験が少ない市民ランナーにはピラミッド型への反応が優れる傾向がある
ノルウェーモデルとの違い
近年注目されているノルウェーモデル(LGTIT:乳酸ガイド型閾値インターバルトレーニング)は、乳酸値(目標2〜4.5 mmol/L)を計測しながら閾値セッションを週3〜4回行い、それ以外の大量の距離は低強度(週150〜180km)で走るというシステムです※11。
「ダブル閾値(1日に閾値セッションを2回行う)」もノルウェーモデル固有の手法で、分割することで疲労を抑えながら閾値刺激の量を確保できることが実験で確かめられています※12。
ピラミッド型との最大の違いは「Zone 2(閾値)の量と管理方法」です。ピラミッド型では閾値走は週1〜2回程度ですが、ノルウェーモデルでは週3〜4回行います。また、ノルウェーモデルは乳酸値計測を前提としており、専用機器がなければ再現が難しい面があります。
| 項目 | ピラミッド型 | ノルウェーモデル |
|---|---|---|
| Zone 2(閾値)の頻度 | 週1〜2回 | 週3〜4回 |
| 乳酸値管理 | 不要 | 必須(2〜4.5 mmol/L) |
| Zone 3(高強度) | 少量含む | 週1回程度 |
| 低強度ベースの量 | 多い | 週150〜180kmと大量 |
| 適用対象 | 初中級者から対応可 | 高ボリューム可能なエリート向け |
ノルウェーモデルは「ピラミッド型の進化系」として解釈することもできます※2。Zone 2(閾値)の比率をさらに高め、乳酸値でリアルタイムに管理するという点でより高度化したシステムです。
週40〜60km程度の市民ランナーがノルウェーモデルをそのまま取り入れるのは現実的ではなく、ピラミッド型の方が汎用性が高いといえます。
- ノルウェーモデルはピラミッド型より閾値セッション(Zone 2)の量がはるかに多い(週3〜4回)
- 乳酸値をリアルタイム計測して強度管理するため、専用機器が必要
- 高ボリュームを前提とするエリート向けシステム。市民ランナーにはピラミッド型が汎用的
ピラミッド型が適している場面・時期
基礎期・オフシーズンに最適
科学的なエビデンスと実際のエリート選手の事例から、ピラミッド型TIDは特に「基礎期(オフシーズン・一般準備期)」に適していることがわかっています※5※15。
世界選手権5000m決勝進出者の1年間ケーススタディでは、52週間のほとんどをピラミッド型で過ごし、大会6週前だけポラライズド型に移行するという戦略が記録されています※4。「基礎期で有酸素基盤を大量の低強度練習で固め、競技期の直前に高強度比率を上げる」というパターンです。
Filipas 2022のRCTでも、ピラミッド型を前半8週間実施してからポラライズドに移行したグループが4群の中で最大の総合改善を示しました※5。この結果は「ピラミッドを基盤として、その後にポラライズドを重ねる」という時期区分の有効性を裏付けています。
初中級市民ランナーにも適している
ピラミッド型は、トレーニング経験が少ないランナーに反応しやすいことが示されています※14。
週3〜5回走り始めた市民ランナーが最初に取り組むモデルとして適しており、低強度を大量に積み上げながら少量の閾値走と高強度を加える構成は、オーバートレーニングのリスクを抑えながら有酸素基盤を築くのに有効です。

- 基礎期・オフシーズンに最も適したTIDモデル
- エリート選手は「基礎期ピラミッド型 → 競技直前ポラライズド型」というパターンを採用することが多い
- 経験の少ない市民ランナーにも適しており、有酸素基盤の構築に有効
実践方法(週間スケジュール例)
各ゾーンの目安を把握する
ピラミッド型TIDを実践するには、まず自分の練習がどのゾーンに当たるかを把握することが重要です。専門家のコンセンサスによると、各ゾーンの実用的な目安は以下のとおりです※16。
- Zone 1(低強度):会話ができる。翌日に疲労が残らない。最大心拍数の75%以下が目安。ゆっくりジョグ・LSD・回復走
- Zone 2(中強度):フルマラソンペース〜それより少し速い程度。息はかなり上がるがVO2maxインターバルよりはっきりラクな強度。有酸素テンポ走(DanielsのTペース走より余裕あり)
- Zone 3(高強度):会話できない強度。インターバル(1000m×5本など)・VO2max領域
Zone 2の有酸素テンポ走は、Daniels著『ランニング・フォーミュラ』のTペース走(LT2付近・乳酸値4 mmol/L相当)とは異なります。Tペース走の強度で行うと実質的にZone 3に入り込んでしまい、ピラミッド型ではなくポラライズド型に近い配分になります。フルマラソンペース〜それより少し速い程度(翌日に疲労が残らない強度)を目安にしてください。
週間スケジュール例
| 曜日 | メニュー | ゾーン | 時間/距離の目安 |
|---|---|---|---|
| 月 | オフ or 軽いジョグ | Zone 1 | 30分以内(任意) |
| 火 | ゆっくりジョグ | Zone 1 | 60分・10km程度 |
| 水 | テンポ走(有酸素テンポ) | Zone 2 | W-up+マラソンペース前後で20分+C-down |
| 木 | ゆっくりジョグ | Zone 1 | 60〜80分・10〜12km程度 |
| 金 | オフ | — | 完全休養 |
| 土 | ロングラン | Zone 1 | 90〜120分・15〜20km |
| 日 | インターバル(月1〜2回のみ) | Zone 3 | 1000m×5本 / それ以外はジョグ |
この例ではおおよそZone 1=80%・Zone 2=15%・Zone 3=5%の配分になります。高強度インターバルは月1〜2回程度にとどめ、大半の練習はゆっくりジョグとロングランに充てるのがポイントです。
「ゆっくり走りすぎていないか?」と不安に感じることがあるかもしれませんが、世界クラスのランナーが週間走行量の約88%をゆっくりジョグに充てているデータがあります※3。強度よりもまず「量を積む」ことが有酸素基盤の構築に直結します。
- Zone 1(ゆっくりジョグ)を全体の80%以上確保することが基本
- Zone 2(有酸素テンポ走)は週1回・約20分が目安。Tペースではなくマラソンペース前後の有酸素テンポを維持する
- 「もっと強度を上げなければ」という感覚は見直し、Zone 1の量を増やすことが最優先
注意点:「中強度の罠」とは
ピラミッド型TIDを実践するうえで最も注意すべきなのが、「中強度の罠(moderate intensity trap)」です。
中強度の罠とは何か
「中強度の罠」とは、Zone 2(中強度)に費やす時間が多くなりすぎることで、疲労が蓄積する一方でVO2max(最大酸素摂取量)を高めるための十分な刺激が入らなくなるという状態です※15。
Zone 2は「ちょうど良い強度」に感じやすく、特に意識していないと練習の大半が中強度になりがちです。
Zone 2偏重のトレーニング(閾値中心型)の問題点は複数のRCTで実証されています。
訓練されたサイクリストを対象とした研究では、中強度を43%に設定した閾値中心グループはVO2maxに統計的に意味のある改善がなかった一方、低強度75%+高強度20%のポラライズドグループは乳酸閾値・VO2max・タイムトライアルのすべてで大きく改善しました※10。
同様に、4グループを比較した別のRCTでも、閾値中心グループのVO2peakは統計的に意味のある改善なしに終わった一方で、ポラライズドグループはVO2peakが約11.7%向上するという最大の改善を示しました※9。
市民ランナーが「罠」に陥りやすい理由
119,452名のマラソンランナーのトレーニングデータを分析した研究では、速いランナーほどZone 1(低強度)の比率が高く、Zone 1比率とマラソンタイムに極めて強い相関があることが示されました※13。
逆に言えば、多くの市民ランナーは無意識にZone 2(中強度)に費やす時間が多くなりすぎているということです。
「そこそこ速いペースで走ることが練習」という感覚は自然なものですが、これが中強度の罠につながりやすい。ゆっくり走るのが「もったいない」と感じる心理が、練習全体の強度を中強度に引き上げてしまうのです。

ピラミッド型はZone 2を「意図的に含む」モデルですが、その量はあくまで全体の15%程度が目安です。これを超えてZone 2に偏ると、ポラライズドどころか閾値中心型に近づいてしまい、上記の問題が生じる可能性があります。
- Zone 2(中強度)が過多になると「疲労蓄積 + VO2max刺激不足」の二重の問題が生じる
- 市民ランナーは無意識に中強度に偏りやすく、これが「がんばっているのにタイムが伸びない」原因になりうる
- ピラミッド型のZone 2の目安は全体の15%程度。大部分(80%)はゆっくりジョグを徹底する
まとめ
ピラミッド型TIDは「Zone 1(低強度)が最多・Zone 2(中強度)が次・Zone 3(高強度)が最少」という強度配分モデルで、エリートランナーの主流モデルです。
ポラライズドモデルとの最大の違いはZone 2の量(ピラミッド約15%・ポラライズド約5%)にあり、ノルウェーモデルよりも閾値セッション量が少なく汎用性が高いという特徴があります。
基礎期・オフシーズンや初中級市民ランナーに特に適しており、「まずはゆっくりジョグを積み上げ、少量の閾値走と高強度を加える」というシンプルな原則を守ることが重要です。
最大の注意点は「中強度の罠」で、Zone 2が全体の15%を大きく超えないようにすることが、長期的なパフォーマンス向上につながります。
参考文献
※1 Seiler S, Kjerland GØ. Quantifying training intensity distribution in elite endurance athletes: is there evidence for an “optimal” distribution? Scand J Med Sci Sports. 2006;16(1):49-56.
※2 Casado A, González-Mohíno F, González-Ravé JM et al. Training Periodization, Methods, Intensity Distribution, and Volume in Highly Trained and Elite Distance Runners: A Systematic Review. Int J Sports Physiol Perform. 2022;17(6):820-833.
※3 Kenneally M, Casado A, Gomez-Ezeiza J, Santos-Concejero J. Training intensity distribution analysis by race pace vs. physiological approach in world-class middle- and long-distance runners. Eur J Sport Sci. 2021;21(6):819-826.
※4 Kenneally M, Casado A, Gomez-Ezeiza J, Santos-Concejero J. Training Characteristics of a World Championship 5000-m Finalist and Multiple Continental Record Holder. Int J Sports Physiol Perform. 2022;17(3):430-436.
※5 Filipas L, Bonato M, Gallo G, Codella R. Effects of 16 weeks of pyramidal and polarized training intensity distributions in well-trained endurance runners. Scand J Med Sci Sports. 2022;32(3):498-511.
※6 Rivera-Köfler J, Sperlich B. Polarized Training in Endurance Athletes: A Scoping Review on the Efficacy for Improving Maximal Oxygen Uptake. Front Physiol. 2025.
※7 Rosenblat MA et al. Individual participant data network meta-analysis for training intensity distribution and performance in endurance athletes. Int J Sports Physiol Perform. 2025.
※8 Silva Oliveira L et al. Polarized training is superior to other training intensity distributions for improving peak oxygen uptake in trained individuals: A systematic review and meta-analysis. J Sci Med Sport. 2024;27(5):327-334.
※9 Stöggl T, Sperlich B. Polarized training has greater impact on key endurance variables than threshold, high intensity, or high volume training. Front Physiol. 2014;5:33.
※10 Neal CM et al. Six weeks of a polarized training-intensity distribution leads to greater physiological and performance adaptations than a threshold model in trained cyclists. J Appl Physiol. 2013;114(4):461-471.
※11 Casado A, Bakken M. The lactate-guided threshold interval training (LGTIT) model. Int J Sports Physiol Perform. 2023;18(7):697-700.
※12 Talsnes RK et al. Dividing the same double-threshold day into 2 separate sessions reduces physiological and perceptual loading in cross-country skiers. Int J Sports Physiol Perform. 2024.
※13 Muniz-Pumares D et al. Training intensity distribution across levels of marathon performance: a large-scale observational study. Int J Sports Physiol Perform. 2025.
※14 Qin G, Lee S, Kim S. Machine learning-based personalized training models for optimizing marathon performance through pyramidal and polarized training intensity distributions. Sci Rep. 2025.
※15 Sun Q et al. Recent advances in training intensity distribution theory for cyclic endurance sports. Front Physiol. 2025.
※16 Sitko S et al. Zone 2 training: what is it and where does the evidence point? Eur J Sport Sci. 2025.










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