マラソンのジェル補給|タイミング・本数と、吸収されない2つの理由

マラソンのジェル補給:タイミングと本数、吸収されない2つの理由

※本記事は、DM三井製糖株式会社のご提供により制作しました。

こんな疑問を解消
  • ジェルはいつ、何本摂ればいいのか
  • ジェルを摂っているのに、30km以降でエネルギー切れするのはなぜか
  • ジェルがドロッとして気持ち悪い。我慢して減らしてもいいのか
  • 「水と一緒に」とよく言われるが、なぜなのか

 マラソンのレース中、エネルギージェルをいつ・何本摂ればいいのか。この疑問の背景には、たいてい「ジェルを摂っているのに後半でエネルギー切れした」という経験があります。

 その原因の多くは、摂ったジェルの糖質が思ったほど吸収されていないことです。理由は2つあります。1つは、腸が糖質を吸収できる速さに上限があること。もう1つは、運動中の胃腸はジェルを送り出すのも受け入れるのも遅くなることです。

 グルコース(ブドウ糖)だけのジェルは、1時間あたり60g前後で吸収が頭打ちになります※1。市販ジェルの浸透圧はスポーツドリンクの10倍以上あり、水なしで摂ると胃にとどまりやすくなります※2。ただし、水と一緒なら液体飲料と吸収速度は変わりません※3。

 この記事では、その2つの理由を説明し、ジェルの配合・本数・タイミング・水の摂り方を組み立てる方法を解説します。1時間あたり何gを目標にすべきか、なぜ後半に糖質が切れると失速するのかはフルマラソンの糖質補給量で、水分補給そのものはマラソンの水分補給で扱っています。

著者:らんしゅー
日比野就一

社会人からランニングを始めました。
理論に基づいたトレーニングで、
どこまで記録を伸ばすことができるか挑戦。
競技志向で取り組んでいます。
自己紹介・記録変遷はこちら

血中乳酸濃度や血糖値も測定。
マラソンへ科学的にアプローチします。

★自己ベスト
 1500m 4:25(2022/08)
 5000m 16:01(2022/09)
 10000m 33:44(2021/12)
 ハーフ 1:12:29(2022/03)
 フル 2:40:15(2026/03)

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目次

理由1 — 腸が糖質を吸収できる速さには上限がある

 グルコースは小腸のSGLT1という運び手(糖を細胞に取り込むタンパク質)で吸収されますが、この運び手は1時間あたり60g前後で飽和します※1※4。それ以上グルコースを摂っても吸収されず、腸に残って張りや不快感の原因になります。

 国内で一般的なジェル1本の糖質は20〜25g。グルコースだけのジェルなら、1時間に3本ほどで頭打ちです。

 果糖(フルクトース)は、グルコースとは別のGLUT5という運び手で吸収されます。経路が違うので、グルコースと果糖の両方を含むジェルなら、吸収の上限は1時間あたり90gまで上がります※4。配合を変えた飲料で、グルコース単体よりタイムトライアルの成績が約8%高くなった研究もあります※5。

ブドウ糖はSGLT1、果糖はGLUT5という別々の運び手で吸収され、ブドウ糖だけだと60g/hで頭打ちになる

 つまり「何本持つか」は、ジェルの糖質の種類で変わります。目標量そのもの(60〜90g/h)と完走タイム別の必要量はフルマラソンの糖質補給量で確認してください。

 私自身の話をします。レースでは、給水ポイントごとにジェルを1本ずつ摂っていました。1本の糖質は25g、1時間あたりにすると2.5本ほどで、これで60gを超えます。

 このペースだと、フルマラソンで携帯するジェルは7本前後になります。周りを見ても、ここまで持っている人は多くありません。私自身も持ったのは最大6本で、これで十分だろうと思っていました。

 しかし、1時間あたり60〜90gで組み立て直すと、グルコースと果糖の配合を選べば、まだ増やせる余地がありました。「しっかり摂っているつもり」でも、目標の上限には届いていなかったということです。

理由2 — 強度が上がると、胃腸は「送り出し」も「受け入れ」も落ちる

ジェルの浸透圧は極端に高い

 胃から小腸へ内容物が送り出される速さ(胃排出)は、飲食物のエネルギー密度・量・運動強度で決まります※6。浸透圧も大きな要因です※2※7。

 中程度の強度までは、走ること自体は胃排出をむしろ促します※7。問題になるのは、強度と時間が増した後半です。

 浸透圧とは、溶けている粒子の濃さのことです。市販エネルギージェル51製品を調べた研究では、浸透圧は平均で1kgあたり4,424 mmol、範囲は303〜10,135でした※2。等張のスポーツドリンクが280〜330程度なので、平均で約15倍、高いものどうしを比べると30倍を超えます。

エネルギージェルの浸透圧は平均4,424 mmol/kgで、スポーツドリンク約300の10倍以上と桁が違う

 浸透圧の高い液体が胃に入ると、胃は水分を引き込んで薄めようとします。その間、内容物は胃にとどまります。走行中に濃度の違う溶液を飲ませた研究でも、糖質濃度が高い溶液ほど胃内に残る量が多く、水が最も速く排出されました※7。

 粘度(とろみ)そのものも胃排出を遅らせます。ゲル状の食物繊維を加えて粘度を上げると、胃排出が有意に遅くなったという報告があります※8。

 ただしこれは安静時の食事での測定で、浸透圧は測られていません。ジェルの場合は、水と一緒に摂れば液体飲料と吸収速度が変わらないこと※3※9から、粘度そのものより摂り方の影響が大きいと考えられます。

後半・高強度では吸収そのものも落ちる

 運動の強度と時間が増すと、血液は筋肉に優先的に回され、胃や腸への血流が減ります。腸の壁が傷つき、消化と吸収の働きも低下します。60%VO2max・2時間以上がこうした変化の出やすい目安とされます※10。

 「レース後半はジェルも水も受け付けない」という体感は、胃排出の遅れに、この血流低下が重なって起きています。

ただし「水と一緒」なら形は関係ない

 グルコースと果糖を1時間あたり108g、ジェルと飲料で比べた研究では、糖質の使われ方に差がありませんでした※3。

 より新しい研究では、1時間あたり120gを飲料・ジェル・固形・混合の4通りで摂っても、糖質の使われ方も消化器症状も差がありませんでした※9。いずれも水と一緒に摂った条件です。

 胃の中でゲル化させる加工(アルギン酸とペクチンによるハイドロゲル)を施した糖質飲料でも、従来の糖質飲料と比べて糖質の使われ方も消化器症状も変わらなかった、と複数の研究をまとめたレビューは結論しています※11。

 つまり、ジェルという形そのものが悪いのではありません。問題は、水なしで、慣れていないまま、立て続けに摂ることです。水を150〜200ml一緒に摂れば浸透圧が薄まり、これらの研究と同じ条件に近づきます。

 ただしこれらはいずれも自転車での検証です。上下動のあるランニングでは胃腸への負担が大きく、より慎重な確認が要ります。

ジェルを水と一緒に摂ると、糖質飲料で摂ったときと同じ速さで糖質が使われる

日本のランナーは「水なしジェル」になりがち

 国内の市民ランナー171名を対象にした調査では、「レース中の水分補給が大切」と考える人が91.2%いる一方、「レース中の栄養補給が大切」と考える人は77.2%でした※12。ジェルと水をセットで摂るという発想は、まだ定着しているとは言えません。

 半マラソンでの研究では、6%の糖質飲料をガイドライン通りに飲む条件と、グルコースのジェルを摂りながら水を自分のペースで飲む条件を比べました※13。記録自体は変わりませんでしたが、ジェルの条件では飲水量が3分の1以下に減り、体重の減り方が大きくなりました。ジェルにすると、水を摂る量が自然と減りがちだということです。

 実際、市民ランナーの相談には「ジェルがドロッとして一口で気持ち悪い」「エイドで給水したら胸焼けがして、それ以来レースは無補給・無給水で走っている」といった声が目立ちます。

 レース中に中等度以上の消化器症状が出たのは、市民マラソンの参加者の3割弱でした※14。中国の市民ランナー805名の調査でも、消化器症状は26.1%で、ジェルやスポーツドリンクを使う人ほど症状が出やすい関係が見られました※15。

 症状が出ると記録にも響きます。よく訓練されたランナー18名のハーフマラソンで、ジェル補給時に消化器の不快感を訴えた3名は、ジェルなしの条件よりタイムが2.4%(105秒)遅くなっていました※16。人数は少ないものの、症状が出たときの代償の大きさを示しています。

 「気持ち悪いから水も補給も控える」という判断は、ここまで説明した胃排出の遅れをそのまま抱えることになり、かえって失速につながります。私自身、エイドで水をうまく取れずにジェルだけを流し込んで、その後しばらく気持ち悪さが抜けなかった経験があります。ジェルは水とセットで初めて機能する、というのが実感です。

出版情報
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吸収から逆算するジェル補給の組み立て方

グルコースと果糖の両方を含む製品を選ぶ

 成分表示で「果糖」「フルクトース」が入っているか、「2種類の糖質」「デュアルソース」と書かれているかを確認します※4※5。混合タイプなら1時間あたり90gまで対応できます。

ジェル1本につき水150〜200ml

 ジェルを摂ったら、水を一緒に飲みます。上の研究はいずれも十分な水分と一緒に摂った条件で(Pfeiffer 2010 では1時間あたり867ml)※3※9、エイドの給水1杯にあたる150〜200mlが実践上の目安になります。

 エイドの水は、喉の渇きをうるおす分とは別に、ジェル用に確保しておくと計画が立てやすくなります。

20〜30分ごと、序盤から等間隔で

 補給の間隔は20〜30分に1回、5kmごとが目安です。これは1時間あたりの目標量(60〜90g)を等分し、給水ポイントの間隔に合わせた実践的な組み立てです。

 空腹やだるさを感じてから摂り始めるのでは遅すぎます。最初の30分ほどはスタート前の食事の糖質が残っているので、急ぐ必要はありません。

1時間あたりの目標量を等分した補給プラン。5km以降、20〜30分ごとに水と一緒にジェルを1本

 私自身は、20~30分毎に水と一緒に摂取するために、給水ポイント毎にジェルを摂取するようにしています。

本番前にロング走で試す

 いきなりレースで高い量(たとえば1時間あたり75g)を摂ると、胃腸が慣れておらず不調が出やすくなります。ロング走で、本番と同じ製品・量・タイミングを試しておきます。腸は補給に慣れます。練習中に糖質を摂ることを数週間繰り返すと、消化器症状や吸収不良が減ったという研究があります(→ ガットトレーニングとは?)。

まとめ

この記事のポイント
  • ジェルの糖質が吸収されにくくなる理由は2つ。腸の吸収上限(グルコース単独で60g/h)と、運動中の胃排出・吸収の低下
  • どちらも「グルコースと果糖の両方を含む製品を選ぶ」「水150〜200mlと一緒に摂る」で大きく改善できる
  • 補給は20〜30分ごと、序盤から等間隔。空腹を感じてからでは遅い
  • ジェルにすると水の摂取量が減りがち。ジェルは水とセットで初めて機能する
  • 何g/hを目標にするかは完走タイムから逆算する(→ フルマラソンの糖質補給量)
  • 本番前にロング走で試し、腸を慣らす(→ ガットトレーニング)

 ジェルの本数やタイミングは、「何本持つか」ではなく「どれだけ吸収できるか」から逆算すると決めやすくなります。まずは配合を確認し、水とセットで、序盤から等間隔に。目標量をフルマラソンの糖質補給量で、腸の慣らし方をガットトレーニングで確認して、レース前のロング走で試してみてください。

参考文献

※1 Jeukendrup AE, Jentjens R (2000) “Oxidation of carbohydrate feedings during prolonged exercise: current thoughts, guidelines and directions for future research” Sports Med

※2 Zhang X, O’Kennedy N, Morton JP (2015) “Extreme Variation of Nutritional Composition and Osmolality of Commercially Available Carbohydrate Energy Gels” Int J Sport Nutr Exerc Metab

※3 Pfeiffer B, Stellingwerff T, Zaltas E, Jeukendrup AE (2010) “Carbohydrate oxidation from a carbohydrate gel compared with a drink during exercise” Med Sci Sports Exerc

※4 Fuchs CJ, Gonzalez JT, van Loon LJC (2019) “Fructose co-ingestion to increase carbohydrate availability in athletes” J Physiol

※5 Currell K, Jeukendrup AE (2008) “Superior endurance performance with ingestion of multiple transportable carbohydrates” Med Sci Sports Exerc

※6 Costill DL, Saltin B (1974) “Factors limiting gastric emptying during rest and exercise” J Appl Physiol

※7 Neufer PD, Costill DL, Fink WJ, Kirwan JP, Fielding RA, Flynn MG (1986) “Effects of exercise and carbohydrate composition on gastric emptying” Med Sci Sports Exerc

※8 Darwiche G, Björgell O, Almér LO (2003) “The addition of locust bean gum but not water delayed the gastric emptying rate of a nutrient semisolid meal in healthy subjects” BMC Gastroenterol

※9 Hearris MA, Pugh JN, Langan-Evans C, Mann SJ, Burke L, Stellingwerff T, Gonzalez JT, Morton JP (2022) “13C-glucose-fructose labeling reveals comparable exogenous CHO oxidation during exercise when consuming 120 g/h in fluid, gel, jelly chew, or coingestion” J Appl Physiol

※10 Costa RJS, Snipe RMJ, Kitic CM, Gibson PR (2017) “Systematic review: exercise-induced gastrointestinal syndrome-implications for health and intestinal disease” Aliment Pharmacol Ther

※11 King AJ, Rowe JT, Burke LM (2020) “Carbohydrate Hydrogel Products Do Not Improve Performance or Gastrointestinal Distress During Moderate-Intensity Endurance Exercise” Int J Sport Nutr Exerc Metab

※12 田井勇毅, 真木瑛, 木戸康博 (2021) 「市民ランナーを対象とした食行動と食意識に関する調査」 日本スポーツ栄養研究誌

※13 Lee MJ, Hammond KM, Vasdev A, Poole KL, Impey SG, Close GL, Morton JP (2014) “Self-selecting fluid intake while maintaining high carbohydrate availability does not impair half-marathon performance” Int J Sports Med

※14 Pugh JN, Kirk B, Fearn R, Morton JP, Close GL (2018) “Prevalence, Severity and Potential Nutritional Causes of Gastrointestinal Symptoms during a Marathon in Recreational Runners” Nutrients

※15 Zhao X, Chen Y, Li X, Wen W, Zhang J, Qiu J (2025) “Gastrointestinal symptoms among recreational long distance runners in China: prevalence, severity, and contributing factors” Front Nutr

※16 Burke LM, Wood C, Pyne DB, Telford DR, Saunders PU (2005) “Effect of carbohydrate intake on half-marathon performance of well-trained runners” Int J Sport Nutr Exerc Metab

※「ランニングを科学する」では、筆者の知識・経験のアップデートと共に都度改定を行っています。

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