※本記事は、DM三井製糖株式会社のご提供により制作しました。
- レース中の糖質は、結局1時間あたり何グラム摂ればいいのか
- ジェル2〜3本で足りていると思っているが、本当に十分なのか
- 30kmで毎回失速するのは、練習量ではなく補給量の問題ではないか
- 気持ち悪くなるのが怖くて補給を控えているが、どうすればいいのか
フルマラソンのレース中、糖質をどのくらい摂ればいいのか。科学の答えははっきりしています。1時間あたり60〜90gです。この数字は、複数の研究と栄養の指針が一致して示す水準です※1※2。フルマラソンで自己ベストを狙うなら避けて通れない目安になります。
ところが、実際のマラソンランナーの摂取量を測った海外の研究では、平均は1時間あたり35g前後にとどまります※3※4。これは、およそジェル1~2本分の糖質に相当します。
これでは目標の下限にも届いていません。日本のランナーの補給量を数値で調べたデータはほとんどありませんが、10km以下の種目も含む全距離の参加者を対象にした調査で、レース中に補給をまったくしない人が4人に1人という結果があります※5。
この記事では、なぜ60〜90g/hが目標になるのか、多くのランナーがそこに届かない理由、そしてタイム別に必要な糖質量とレース当日の補給プランを解説します。
なお、この記事はレース中の補給量に絞ります。前日までのカーボローディングは扱いません。水分・塩分の摂り方はマラソンの水分補給で解説しています。
なぜ糖質補給がマラソンの記録を左右するのか
マラソンの後半で脚が止まる現象は、古くから「30kmの壁」と呼ばれてきました。その主な原因は、体内に蓄えた糖質、つまりグリコーゲン(筋肉や肝臓にためられる糖のかたち)の枯渇です。
1986年の研究では、マラソン後半に失速したランナーは血糖が低下し、糖質の利用量が急落していました※6。失速しなかったランナーには血糖の低下は見られませんでした。
脂肪を使う量は変わらず、糖質を使う量だけが急に落ちていました。失速は「脂肪が使えなくなる」のではなく「糖質が足りなくなる」ことで起きるということです。
グリコーゲンが減ると、筋肉そのものの収縮力も落ちます。ヒトの筋肉を使った研究で、グリコーゲンが低下すると筋肉内でカルシウムを放出する働きが弱まることが確認されています※7。エネルギー不足であると同時に、筋肉の動き自体が鈍くなります。
この失速がどれだけ広く起きているかを示したのが、約400万件のマラソン記録を解析した2021年の研究です※8。32km(20マイル)以降に持続的なペース低下が起こったランナーは、男性で28%、女性で17%にのぼりました。オーバーペースとの関連も示されており、後半の失速が例外的な出来事ではないことがわかります。
逆に、走りながら糖質を補給すればパフォーマンスは上がります。実験室での研究では、水だけの条件と比べてタイムトライアルの成績が19%向上しました。さらに、グルコース単体ではなくグルコースとフルクトースを2対1で含む飲料にすると、グルコース単体よりさらに8%速くなりました※9。
これは市民ランナーだけの話ではありません。エリートマラソン選手の栄養戦略をまとめた総説でも、2時間台で走るレベルであっても糖質の蓄えがパフォーマンスを制限する要因になると指摘されています※10。補給なしで最後まで高いペースを保つのは、誰にとっても難しいということです。
グリコーゲンがエネルギーに変わる仕組みは糖質の代謝経路、糖質補給を意識すべき理由の全体像は糖質の重要性で解説しています。
科学が示す目標値:1時間あたり60〜90g
腸の吸収には上限がある
摂った糖質がすべてエネルギーとして使えるわけではありません。口から入れた糖質が実際に筋肉で使われる速度には上限があります。2000年のレビューで、その上限は1分あたり約1.0〜1.1g、1時間あたりにすると60〜66gだと整理されました※11。
ボトルネックは筋肉ではなく、腸での吸収(および肝臓での処理)にあると考えられています。
この上限は、グルコース(ブドウ糖)だけを摂った場合の数字です。グルコースは小腸のSGLT1という運び手(糖を細胞に取り込むタンパク質)を通って吸収されますが、この運び手は1時間あたり60g程度で飽和します※12。それ以上摂っても、吸収されずに腸に残ります。
種類を組み合わせると90g/hまで上がる
フルクトース(果糖)は、グルコースとは別のGLUT5という運び手で吸収されます※13。経路が違うので、グルコースの運び手が飽和していてもフルクトースは吸収できます。
両方を一緒に摂ることで、吸収の合計を1時間あたり90gまで引き上げられます。この仕組みは、運動中の糖質摂取を体系的にまとめたレビューでも整理されています※12。

14件の研究を精査したレビューでは、フルクトースとグルコースを混ぜた糖質をとると、グルコース単体に比べて平均出力が1〜9%高くなっていました※14。混ぜる比率は、グルコース:フルクトースを1:1から2:1あたりが良いとされています。
どのくらいで「足りる」のか
では最低どのくらい摂ればいいのか。これを直接調べた2018年の研究があります※15。糖質を1時間あたり0g、20g、39g、64g摂る4つの条件でパフォーマンスを比べたところ、39gと64gの条件では成績がはっきり向上しましたが、20gの条件では意味のある差が出ませんでした。
つまり、1時間あたり40g程度が効果の出る最低ラインです。そして39gと64gで差がほとんどなかったことから、グルコース単体では40g近くで頭打ちになることもわかります。ここから先を伸ばすには、前に述べた種類の組み合わせが必要になります。
これらは自転車での実験ですが、腸の糖質吸収の仕組みは種目によらないため、走る場合にも当てはまると考えられています。
60〜90g/hは公的な推奨でもある
この数字は一部の研究者の主張ではありません。アメリカスポーツ医学会などがまとめた栄養の指針では、1〜2.5時間の運動で1時間あたり30〜60g、2.5時間を超える運動では複数の種類の糖質を使って最大90gが推奨されています※1。
距離種目のレース栄養を総説した2019年の論文でも、フルマラソンのような長い種目では1時間あたり75〜90gが目安とされています※2。
2022年以降のレビューでは、上限を90gよりさらに上げられる可能性も議論されています※16。ただし、これはまだ一般的な推奨ではなく、トレイルレースやトップ選手を対象にした限定的なデータが中心です。市民ランナーがまず目指すべきは60〜90g/hです。
| 出典 | 運動の長さ | 1時間あたりの糖質 |
|---|---|---|
| アメリカスポーツ医学会の栄養指針 | 1〜2.5時間 | 30〜60g |
| 同上 | 2.5時間超 | 最大90g(複数の種類の糖質) |
| 距離種目のレース栄養レビュー(2019年) | フルマラソンなど長時間種目 | 75〜90g |
日本の市民ランナーは糖質補給量が足りていない
目標は60〜90g/h。ではランナーは実際にどのくらい摂れているのか。海外にはレース中の摂取量を測った研究がいくつかあります。

2025年に発表されたセビリアマラソンの調査では、参加者160名の平均は1時間あたり35gでした※3。目標の下限にも届いていません。この研究では、60〜90g/hを満たしたランナーは、そうでないランナーより3時間を切る割合が高いという関係も出ています。
別の2025年の研究では、レース前後にジェルやドリンクの重さを量って実際の摂取量を調べました※17。マラソンのランナーは計画では1時間あたり25.9gのつもりが、実測は21.7gでした。しかも、自分では計画通り摂れていると思い込む傾向がありました。
2.5時間を超える持久系の種目に出るアスリート50名を調べた研究では、レース中に60〜90g/hを実践できていたのは36%だけでした※18。推奨値を正しく答えられた人でも実際の摂取量は56g/h前後にとどまっており、知識があれば摂れるという単純な話ではないこともわかっています。
2026年の最新のレビューも、マラソンランナーのレース中の糖質摂取量は報告されている平均で1時間あたり35g前後だと整理しています※4。これは自転車競技の選手より明らかに少ない水準です。
大規模な調査もあります。中国の市民マラソンランナー5668名を対象にした2025年の調査では、カーボローディングを実践している人は57.2%にとどまり、半数近く(49.1%)は日常的に決まった食習慣がないと答えています※19。
日本ではどうか。市民ランナーのレース中の糖質摂取量を数値で測った調査は、探した範囲では見つかりませんでした。近いものとして、加賀温泉郷マラソンの参加者171名に聞き取った2021年の調査があります※5。
この調査では、レース中に「栄養補給をしない」と答えた人が28.0%、およそ4人に1人でした。ただしこれは10km以下の種目の参加者も含む全体の集計で、フルマラソンの参加者だけの値ではありません。エネルギーゼリーを使う人は54.2%。フルマラソンに出る人でも、前日に主食を増やす人は約半数にとどまりました。
食に対する意識にも差がありました。「レース中の水分補給が大切」と考える人が91.2%いる一方、「レース中の栄養補給が大切」と考える人は77.2%で、糖質より水分が重視されていました。
日本人男性アスリートを競技別に調べた2026年の研究では、長距離選手の1日の糖質摂取量の中央値が体重1kgあたり6.4gで、持久系アスリートの推奨である6〜10gに対して不足気味でした※20。市民ランナーそのものではありませんが、日常の食事の段階から糖質が少なめという傾向がうかがえます。
市民ランナー向けの専門誌でも、この問題は取り上げられています。ランニング雑誌『ランナーズ』2026年4月号の特集では、編集部の取材として「フルマラソンでのエネルギージェルの摂取量は、多くのランナーが3個以内」と報告されています※21。
ジェル1本の糖質を20〜25gとすると、レース全体で60〜75g。4時間かけて走る場合、1時間あたりにすると15〜20g程度です。海外の実測平均35g/hのさらに半分で、目標の60〜90g/hには遠く及びません。
この特集に登場するサブスリーランナーの研究者も、「少なくとも3個、できれば6個」と増量を勧めています※21。
私自身、補給を意識していたのにもかかわらず、最大でもフルマラソンでジェルを5~6本しか持っていませんでした。それで十分だと思っていたからです。30分に1本くらいのペースで摂取してました。周りのランナーに聞いても3〜4本という人が多く、意識して増やしている人は少数派という印象です。
しかしこれだと、推奨の60~90g/hには届かない計算です。
もう一つの理由が、胃腸の不調です。ジェルを増やすと気持ち悪くなる、という不安から、意図的に量を減らしているランナーは少なくありません。この問題への対処はマラソンのジェル補給で詳しく扱います。
現状を整理すると、目標は60〜90g/h、海外の実測でマラソンランナーの平均は35g/h前後、日本の調査(全距離の参加者)ではレース中に補給しない人が4人に1人。多くのランナーにとって、補給量を増やす余地はかなり大きいということです。
目標から逆算するレース補給プラン
タイム別に必要な糖質量を出す
自分に必要な量は、走っている時間に1時間あたりの目標量をかけると出ます。下の表は、完走タイムごとに必要な糖質の総量をまとめたものです。
| 完走タイム | 60g/h | 75g/h | 90g/h |
|---|---|---|---|
| 3時間 | 約180g | 約225g | 約270g |
| 3時間30分 | 約210g | 約265g | 約315g |
| 4時間 | 約240g | 約300g | 約360g |
| 4時間30分 | 約270g | 約340g | 約405g |
| 5時間 | 約300g | 約375g | 約450g |
たとえば4時間で完走するランナーが1時間あたり75gを目指すなら、レース全体で約300gの糖質が必要です。ジェル1本を25gとすると12本分にあたります。
実際にはエイドで配られるスポーツドリンクや補給食からもとれるので、ジェルだけで12本用意する必要はありません。ただし、3〜4本では大きく足りないことがわかります。
最初の30分ほどはスタート前の食事の糖質が残っているので、急いで摂る必要はありません。5km地点、時間にして20〜30分を過ぎたあたりから、一定のペースで摂り始めます。空腹やだるさを感じてから摂り始めるのでは遅すぎます。
そのうえで、ジェルの摂り方を整える
必要な量がわかったら、あとは実際に摂れるかどうかです。ポイントは3つあります。グルコースとフルクトースの両方を含む製品を選ぶこと(混合タイプなら1時間あたり90gまで対応できます)、ジェル1本につき水を150〜200ml一緒に摂ること、そして20〜30分ごとに序盤から等間隔で摂ることです。
いきなりレースで高い量を摂ると胃腸が不調を起こしやすいので、本番前のロング走で同じ製品・量・タイミングを必ず試しておきます。ジェルが吸収されにくくなる仕組みと具体的な摂り方はマラソンのジェル補給、腸を補給に慣らす方法はガットトレーニングで解説しています。
まとめ
- フルマラソンのレース中の糖質補給の目標は1時間あたり60〜90g
- グルコースだけでは40〜60gで頭打ち。フルクトースを含む製品で90gまで伸ばせる
- 1時間あたり40g未満では効果が出にくい
- 海外の実測ではマラソンランナーの平均は35g/h前後、日本の調査(全距離の参加者)ではレース中に補給しない人が4人に1人
- 4時間完走で目標75g/hなら総量は約300g。ジェル3〜4本では足りない
- 水150〜200mlと一緒に、20〜30分ごとに摂る。本番前にロング走で必ず試す
60〜90g/hという目標を知るだけで、次のレースの準備は変わります。まずは自分の完走タイムから必要な総量を出し、グルコースとフルクトースを含むジェルを本数分そろえ、ロング走で試すところから始めてみてください。
参考文献
※1 Thomas DT, Erdman KA, Burke LM (2016) “American College of Sports Medicine Joint Position Statement. Nutrition and Athletic Performance” Med Sci Sports Exerc
※2 Burke LM, Jeukendrup AE, Jones AM, Mooses M (2019) “Contemporary Nutrition Strategies to Optimize Performance in Distance Runners and Race Walkers” Int J Sport Nutr Exerc Metab
※3 Jimenez-Alfageme R, Garrone FP, Rodriguez-Sanchez N, et al. (2025) “Nutritional Intake and Timing of Marathon Runners: Influence of Athlete’s Characteristics and Fueling Practices on Finishing Time” Sports Med Open
※4 Morton JP, Fell JM, Gonzalez JT, Hearris MA, Podlogar T, Pugh JN, Wallis GA (2026) “From Metabolism to Medals: Contemporary Perspectives and Revisiting Carbohydrate Guidelines for Fueling Endurance Athletes during Exercise” J Nutr
※5 田井勇毅, 真木瑛, 木戸康博 (2021) 「市民ランナーを対象とした食行動と食意識に関する調査」 日本スポーツ栄養研究誌
※6 Callow M, Morton A, Guppy M (1986) “Marathon fatigue: the role of plasma fatty acids, muscle glycogen and blood glucose” Eur J Appl Physiol Occup Physiol
※7 Ørtenblad N, Nielsen J, Saltin B, Holmberg HC (2011) “Role of glycogen availability in sarcoplasmic reticulum Ca2+ kinetics in human skeletal muscle” J Physiol
※8 Smyth B (2021) “How recreational marathon runners hit the wall: A large-scale data analysis of late-race pacing collapse in the marathon” PLOS ONE
※9 Currell K, Jeukendrup AE (2008) “Superior endurance performance with ingestion of multiple transportable carbohydrates” Med Sci Sports Exerc
※10 Stellingwerff T (2013) “Contemporary nutrition approaches to optimize elite marathon performance” Int J Sports Physiol Perform
※11 Jeukendrup AE, Jentjens R (2000) “Oxidation of carbohydrate feedings during prolonged exercise: current thoughts, guidelines and directions for future research” Sports Med
※12 Cermak NM, van Loon LJC (2013) “The use of carbohydrates during exercise as an ergogenic aid” Sports Med
※13 Fuchs CJ, Gonzalez JT, van Loon LJC (2019) “Fructose co-ingestion to increase carbohydrate availability in athletes” J Physiol
※14 Rowlands DS, Houltham S, Musa-Veloso K, Brown F, Paulionis L, Bailey D (2015) “Fructose-Glucose Composite Carbohydrates and Endurance Performance: Critical Review and Future Perspectives” Sports Med
※15 Newell ML, Wallis GA, Hunter AM, Tipton KD, Galloway SDR (2018) “Metabolic Responses to Carbohydrate Ingestion during Exercise: Associations between Carbohydrate Dose and Endurance Performance” Nutrients
※16 Podlogar T, Wallis GA (2022) “New Horizons in Carbohydrate Research and Application for Endurance Athletes” Sports Med
※17 Lanpir AD, Eroglu MN, Ozyildirim M, Louis J (2025) “Under Consumed and Overestimated: Discrepancies in Race-Day Carbohydrate Intake Among Endurance Athletes” Eur J Sport Sci
※18 Sampson G, Morton JP, Areta JL (2024) “A broken link: Knowledge of carbohydrate requirements do not predict carbohydrate intake around competition in endurance athletes” Eur J Sport Sci
※19 Chen Y, et al. (2025) “Nutritional status and practices among Chinese marathon runners: data from the China marathon nutrition survey (CMNS)” J Int Soc Sports Nutr
※20 Nakamura N, Ozawa S, Tokiwa S, Yamamoto K, et al. (2026) “Energy intake and expenditure of Japanese male soccer, long-distance running, and road cycling athletes across multiple teams” Phys Act Nutr
※21 『ランナーズ』2026年4月号 特集「エネルギージェル新常識」 株式会社アールビーズ








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