【耐乳酸トレーニングの考え方】乳酸代謝能力と緩衝能力の向上がカギ

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※「ランニングを科学する」では、筆者の知識・経験のアップデートと共に都度改定を行っています。改訂履歴は記事の最後に記載しています。

こんな疑問を解消
  • 「耐乳酸トレーニング」って何?
  • 血中乳酸濃度が高くなるとなんで走れなくなるの?
  • きつくなった状態で走り続けることに意味はあるの?

 陸上競技者や市民ランナーの方で「耐乳酸トレーニング」という言葉を聞いたことがある方も多いのではないでしょうか?ただ「乳酸が発生するとなぜ走れなくなるのか」を知っている方は少ないと思います。

 私は、社会人から本格的にランニングを始めた市民ランナーです。月500km程走り競技志向でランニングに取り組んでいます。

 強度が高いトレーニングを行っていると足が動かなくなる感覚を感じることがあると思いますが、フルマラソン後半で足が動かなくなる現象とは原因が異なります。

 本記事では、高強度な運動中に乳酸が蓄積することで細胞や血液がアシドーシス状態(=酸性)になり、運動パフォーマンスが制限されてしまうことについて解説します。

 また、トレーニングによってアシドーシス状態になる現象を防ぐことができる能力についてや、その能力を補助するサプリメントを紹介します。

 この記事を読めば、特に10000m以下のトラックレースで足が動かなくなってしまうランナーの方が、その原因を知り、対策をとることができる可能性があります。

目次

なぜ乳酸濃度が増加すると運動パフォーマンスが低下するのか

 結論としては、乳酸濃度が増加すると血液が酸性に傾き、代謝に関わる酵素の働きが阻害されてしまい、代謝効率が低下してしまうため、エネルギー産生効率が低下運動パフォーマンスが低下します。

 また、増加した水素イオンが筋収縮の際に重要なCa+(カルシウムイオン)と競合することにより、筋収縮を妨げる可能性があります。

 以下では、乳酸濃度が増加する仕組みを簡単に解説します。

 人は、エネルギーを産生し活動を行いますが、エネルギー源としては糖質・脂質・たんぱく質が主です。

 特に、運動強度が高くなってくると糖質の消費割合が増加します。

 高強度な運動を行うと糖質代謝速度が速くなり、中間生成物であるピルビン酸の生成量が増加します。

 ミトコンドリアではピルビン酸から多量のATPを作り出すことができますが、あまりにピルビン酸の生成量が多いと、処理速度が間に合わなくなるため、ピルビン酸の一部が乳酸に変換されます。

図1 糖質の代謝経路

 糖質の代謝については次の記事を参考にしてください。

 乳酸自体は、ミトコンドリアですぐに再利用されるか、血液中に放出されて肝臓にて糖質に変換される(糖新生)経路をたどります。

 しかし、この乳酸が血液中であまりに増えすぎると乳酸に含まれる水素イオンの影響で血液が酸性に傾きます

 血液が酸性に傾くと、糖質・脂質・たんぱく質の代謝に関わっている多くの酵素が働きにくくなります。この酵素は最適な温度・PH(血液の酸性/アルカリ性の度合い)でよく働くことが知られています。

 乳酸が増加することでPHが酸性に傾くと、この酵素の働きが阻害されて代謝の効率が低下します。

 PHに対する酵素活性%を図2に示しました。最適なPH範囲である7.2~7.4前後から少し離れるだけで、大きく活性率が落ちることがわかります。

図2 PHに対する酵素活性%

 専門的な用語で言うと、代謝の結果乳酸が増加することで血液が酸性に傾く現象を「代謝性アシドーシス」と呼びます。

耐乳酸能力とは?

 耐乳酸能力は「発生した乳酸によって細胞や血液が酸性に傾くアシドーシス化を防ぎ、血液のPHを維持すること」と言えます。

 ただし、細胞や血液が酸性に傾くのは乳酸の生成だけが原因ではありません。耐乳酸と呼ばれる能力は、広く意味をとらえると「血液を酸性に傾かせる現象を防ぐこと」と言えます。

 以下では、乳酸以外の要因についての説明や、耐乳酸能力が向上する仕組みについて説明します。

血液が酸性に傾く乳酸以外の要因

 乳酸の生成以外にも、血液が酸性に傾く要因があります。

 高強度な運動を行うと、以下の3通りで水素イオンが発生します。

高強度運動時に水素イオンが発生する原因
  • 乳酸の生成
  • 二酸化炭素と炭酸の産生
  • ATPの分解

 乳酸の生成については上で説明したので、残り2つについて解説します。

二酸化炭素と炭酸の産生

 運動を行う際に糖質・脂質・たんぱく質を代謝してエネルギーを得ますが、その最終生成物としてCO2(二酸化炭素)が発生します。

 二酸化炭素は体内の水(H2O)と反応して炭酸(H2CO3)を生成し、それが解離して水素イオン(H+)が発生します。

CO2 + H2O ⇔ H+ + HCO3-

 CO2は、呼吸を行うことによって体外に排出されますが、エネルギーを作り出す量が増加するとCO2の発生量も増加します。発生したCO2を体外に排出しきれなくなった場合、CO2が水に溶け炭酸となり水素イオンが増加します。

 このように、呼吸に関わる要因で血液が酸性に傾く現象を「呼吸性アシドーシス」と呼びます。

ATPの分解

 筋肉が収縮する際にエネルギー源としてATPが分解されると、水素イオンが発生します。

ATP + H2O → ADP + Pi + H+

 したがって、運動時のATP分解はそれ自体が活動筋内の水素イオン増加の原因になります。

酸塩基平衡調整の重要性

 これまで述べてきたことから、高強度運動時の急激な血液のアシドーシス化は、運動パフォーマンスの低下を引き起こすことは明らかです。

 したがって身体には、血液のPHの急激な変化を防ぐ機能が備わっています。その機能は以下の通りです

血液のPHの急激な変化を防ぐ機能
  • 乳酸の再利用能力
  • 緩衝能力

 以下では、それぞれの機能について説明します。

血液のPHの急激な変化を防ぐ機能

 血液のPHの急激な変化を防ぐ機能は、大きく分類すると「乳酸の再利用能力」「緩衝能力」の2つに分類されます。

乳酸の再利用能力

 運動時に発生した乳酸を、再度エネルギー源として利用する能力です。

 血中の乳酸が増加する要因は、速筋繊維で発生した乳酸がその場で処理できずに余ってしまい、血液中に放出されることが原因です。

 血液中に放出された乳酸は、遅筋繊維に取り込まれエネルギー源として利用されるか、肝臓で糖新生されグルコースに変換されます。

 乳酸を筋繊維に取り込むMCT1、乳酸を血液中に放出するMCT4、がそれぞれ働くことが知られています。

 MCT1は低強度から高強度なトレーニングどれでも増加することが知られていますが、MCT4は高強度なトレーニングでのみ増えることが分かっています。

 詳しくは、次の記事を参考にしてください。

 筋繊維での乳酸利用速度はミトコンドリアの数(大きさ)と機能によって決まります。ミトコンドリアの数はトレーニング総負荷によって決まり、機能はトレーニング強度によって決まることが知られています。

緩衝能力

 乳酸が大量に発生して酸性に傾いた時、一時的にその変化を抑える物質のことを「緩衝物質」と呼びます。

 筋繊維ではまず、筋繊維内自体でのアシドーシス化を防ぐために細胞内緩衝物質を使って変化を防ごうとします。

 細胞内緩衝物質として知られているのは以下の通りです。

筋繊維内細胞内緩衝物質
  • 重炭酸緩衝系
  • リン酸緩衝系
  • 細胞タンパク質緩衝系
  • ヒスチジンジペプチド(カルノシン)緩衝系

 このうち、細胞タンパク質とカルノシンが緩衝能力の60%を占めていることが知られています。特にカルノシンはトレーニングによって増加することが知られています。

 細胞内から血液中に乳酸が放出されると、次に働くのは細胞外緩衝物質です。

細胞外緩衝物質
  • 血漿タンパク質緩衝系
  • ヘモグロビン緩衝系
  • 重炭酸緩衝系

 細胞外緩衝物質のは個々では省略させていただきます。

耐乳酸能力を向上させる方法

 これらをまとめると耐乳酸能力は「細胞や血液が酸性に傾くことを防ぐこと」と言い換えることができます。「ランニングトレーニングで耐乳酸能力」を向上させるための方法は下記の通りです。

耐乳酸能力を向上させるための方法
  • 筋繊維における乳酸放出および取り込み速度を向上させる
  • ミトコンドリアの数(大きさ)と機能を向上させる
  • 緩衝能力を向上させる

 持久性トレーニングを行うことで、これらの耐乳酸能力が向上することが分かっています。特に、速筋繊維からの乳酸放出、ミトコンドリアの機能向上は高強度なトレーニングで優位に起こることが分かっています。

 「高強度」と言っても、実際どのくらいの強度であればこれらの効果が得られるかという研究は、まだまだ例が少ないようです。

 しかし、88%VO2max以上(90%HRmax以上)の強度のトレーニングが一般に高強度に分類されることを考えると、私たちが高強度と呼ぶ強度以上のトレーニングを適宜導入していくことが必要不可欠だと思われます。

 また、高強度なトレーニングによって、細胞内緩衝物質であるカルノシンが増加することも知られています。

 実はこのカルノシン、サプリメントで増やすことも可能であると言われていて、それを実現するサプリメントは「β-アラニン」です。

 β-アラニンは、筋繊維におけるカルノシンを増量する効果があることが知られており、国際的にも認められたサプリメントです。特に4分以下の競技において効果を発揮することが知られています。

 β-アラニンについては、次の記事で詳しく解説していますのでご参照ください。

 β-アラニンは私自身も摂取しています。効果があるかどうかは正直よくわかりませんが、国際的に認められているサプリメントですので、効果は間違いなくあると考えています。

 いかがでしたでしょうか。参考になれば幸いです。

参考文献:

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