【LT値(乳酸性作業閾値)の徹底解説】マラソン自己ベスト更新のためのペース目安

LT値徹底解説
こんな疑問を解消
  • LT値(乳酸性作業閾値)がいまいち理解できない
  • LT値に相当するペースはどのくらい?
  • LT値の目安や計算方法が知りたい

 マラソンで自己ベスト記録更新を目指しているランナーであれば、LT値(乳酸性作業閾値)という言葉は聞いたことがある人も多いと思います。しかし、LT値をちゃんと理解できているランナーは少ないと感じます。

 私が本格的にランニングを始めた時もLT(Lactate Threshold)という言葉は知っていたものの、その本質を理解することはできていませんでした。

 LT値はランニングパフォーマンスを決める重要な要素であり、トレーニングを進める上でも重要な指標となります。

 ここでは、LTについて徹底解説します。LTに関連する専門用語の説明、LT値がどんな数値を表しているのか、ランニングとLTの関係性などを紹介します。

 本記事を読めば、LT値について網羅的に理解することができます。

著者:らんしゅー
日比野就一

社会人からランニングを始めました。
理論に基づいたトレーニングで、
どこまで記録を伸ばすことができるか挑戦。
競技志向で取り組んでいます。
自己紹介・記録変遷はこちら

血中乳酸濃度や血糖値も測定。
マラソンへ科学的にアプローチします。

★自己ベスト
 1500m 4:25(2022/08)
 5000m 16:01(2022/09)
 10000m 33:44(2021/12)
 ハーフ 1:12:29(2022/03)
 フル 2:40:15(2026/03)

著者:らんしゅー
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   フル 2:40:15(2026/03)

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目次

LT値とは乳酸性作業閾値(Lactate Threshold)のことである

 LTはLactate Thresholdの略語です。日本語では乳酸性作業閾値と呼びます。乳酸性作業閾値は運動強度を上げていったときに血中乳酸濃度が急激に上昇し始める領域です。

 重要なことはあくまでも「血中乳酸濃度の値」が基準となってLT値が決まるということです。

 ランナーの間でよくあるのが「走るペース」が基準になっているパターンです。「私のLTは4:00/kmです」というのは正しくありません。LT値は血中乳酸濃度で決まるものであり、その時のペースが4:00/kmであるとは言えません。

 血中乳酸濃度を測定するためには専用の測定機器が必要になります。市民ランナーで血中乳酸濃度測定器を持っている方はほとんどいらっしゃらないと思います。

 私自身はランニングを科学的に追及するために血中乳酸濃度測定器を購入しました。日本で手に入れることができる代表的な測定器はアークレイのラクテート・プロ2です。

ラクテートプロ2 センサーの挿入

LT値は「点」ではなく「領域」を表す

 LT値は「領域」を表します。ある唯一の1点をLT値と呼ぶわけではありません。次の図でLT値を図示しました。横軸に運動強度、縦軸に血中乳酸濃度を取ったグラフです。

運動強度 vs 血中乳酸濃度

 運動強度は「走るペース」や「心拍数」で表されることが多いですが、本来の意味は異なります。同じペースや同じ心拍数で走っても身体の調子によってその時の「運動強度」は変わってくるためです。

 しかし、走るペースや心拍数は、ランナーがリアルタイムに把握できる数値であるため、運動強度の参考値として走るペースや心拍数を使うことが多いです。

 この図からわかる通り、LT値は血中乳酸濃度が2.0mmol/Lから4.0mmol/Lの範囲を示します。LT値を境に運動強度に対して血中乳酸濃度が急激に上昇し始めていることが分かります。

 LT値は個人によって異なります。4mmol/L付近から血中乳酸濃度が急激に上昇し始める人もいれば、3.0mmol/L付近から血中乳酸濃度が急激に上昇し始める人もいます。トレーニングを積んだエリートランナーほど、LT値が3.0mmol/Lに近い数値まで下がってくると言われています。

 LTに関連する専門用語として、「LT1」「LT2」「OBLA (Onset of Blood Lactate Accumulation)」があります。

LT1・LT2・OBLA
  • LT1:乳酸濃度が徐々に上がり始める領域
  • LT2:乳酸濃度が急激に上がり始める領域
  • OBLA:乳酸濃度が4.0mmol/Lのポイント
LT1,LT2,OBLAの図

 LT1・LT2 の二閾値モデルはKindermann et al.(1979)※1 が提唱したものです。OBLAはSjödin & Jacobs(1981)※2 がストックホルムマラソンのランナーを対象に実施した研究で定義されました。血中乳酸4 mmol/Lに達したときの走行速度(VOBLA)は、マラソンタイムの変動の92%を説明することが示されています。XやInstagramでもLT1やLT2などの単語が使われていますので、参考にしてください。

LT値で走れるペースはどうやって決まるのか?

 LT値で走れるペースは「乳酸が生成する速度」と「乳酸が処理される速度」によって決まります。

 乳酸はかつて「疲労の原因物質」として知られていましたが、現代の運動生理学ではその見方は否定されています。Brooks(1986)※3 が提唱した「乳酸シャトル」仮説によれば、定常状態の持続運動中に生成された乳酸の75%以上が、運動中にその場でエネルギーとして利用されています。乳酸は活動筋(主にType II繊維)で生成され、酸化能力の高い遅筋繊維や心臓・肝臓へと輸送されて燃料として利用されます。

ピルビン酸と乳酸

 このため、血中乳酸濃度は「乳酸の産生速度」と「乳酸の処理速度」のバランスで決まります。運動強度が高くなるほど乳酸の産生が増え、処理が追いつかなくなると血中乳酸濃度が上昇します。血中に放出された乳酸が血中乳酸濃度として測定されます。

 ミトコンドリアで再び乳酸を使う、別の組織で乳酸を使う、これらの速度が速ければ血中乳酸濃度が上がりにくい、つまりLT値におけるペースも速くなる、と言えます。

自分のLTを知ることでトレーニングが効率的になる

 自分のLT値を把握することによるメリットは「疲労が溜まりにくい強度でトレーニングボリュームを上げることができる」ことです。

 Seiler(2010)※4 の研究では、エリート持久力アスリートはトレーニングセッションの約80%を血中乳酸2 mmol/L以下(LT1以下)の低強度で実施していることが示されています。翌日に疲労を残しにくい強度でトレーニングボリュームを積み重ねているためです。Sitko et al.(2025)※5 の専門家コンセンサスでも、LT1以下の強度の重要な特徴として「翌日に疲労が残らない」点が挙げられています。

 一方でLT2を超える強度の運動は回復に時間がかかるため、高頻度でこなすことができません。自分のLT値を把握することで「疲労が残りにくい強度の上限」を理解し、より多くのトレーニングを質高くこなすことができます。

 実際に私自身の体感としても、ある一定強度以下に抑えたトレーニングの後と、一定以上に強度を高めたトレーニングの後を比較すると、一定強度以下に抑えたトレーニングの後の方が圧倒的に体が疲れないことを実感しています。

 もう少し具体的な数値で示すと、血中乳酸濃度が3.5mmol/L以下、心拍数では90%HRmax以下に抑えると、疲労の残り方がかなり少なくなります。

 ここで伝えたいこととしては、「どれくらいの強度以下に抑えれば自分の体の疲労が残りにくいかを体感的に理解することにメリットがある」ということです。血中乳酸濃度が測定できない場合には、自分の感覚に頼るしかありません。

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LTに相当するペースを把握する方法

 血中乳酸濃度を直接測定できない場合、自分のLT値に相当するペースを把握する方法としては以下があります。

自分のLT値を把握する方法
  • 最大心拍数を算出し、LTに相当する心拍数で走れるペースから把握する
  • 直近レースでの自己ベスト記録から算出する
  • 主観的なきつさにしたがって判断する

最大心拍数を算出し、LTに相当する心拍数で走れるペースから把握する

 最大心拍数を正確に把握できれば、最大心拍数に対する比率からLTに相当するペースを推測することができます。LT1からLT2に相当する心拍数はおよそ82%〜90%HRmax(最大心拍数に対する比率)とされています。Swain et al.(1994)※6 の研究では、90%HRmax は最大酸素摂取量(VO2max)の約80〜82%に相当することが示されており、LT2がVO2maxの80〜90%付近で起きることと整合します。ただし心拍数と血中乳酸濃度の関係には個人差があるので注意してください。

血中乳酸濃度と心拍数の関係

 私自身が血中乳酸濃度を測定した例で言うと、心拍数を84%HRmax以下に抑えれば2.0mmol/L以下となり、89%HRmax以下に抑えれば4.0mmol/Lになることが分かっています。

直近レースでの自己ベスト記録から算出する

 直近で走ったレース記録からVDOTを計算することで、LT値におけるペースを推算することが可能です。以下に、レースペースと血中乳酸濃度の関係性を示します。

レースペースと血中乳酸濃度

 LT1からLT2付近はおよそマラソンペースに相当し、LT2前後はハーフマラソンレースペース程度となります。Bassett & Howley(2000)※7 は乳酸閾値速度(LT速度)がマラソンパフォーマンスの最良の生理学的予測因子であることを示しました。また、Sjödin & Jacobs(1981)※2 はマラソンランナーのOBLA速度(血中乳酸4 mmol/L到達速度)がマラソンタイムの変動の92%を説明することを実証しています。したがって、およそマラソンペースからハーフマラソンペースが自分のLT値におけるペースと言えます。

主観的な感覚から推測する

 自分の「主観的なきつさ」から、LT値に相当するペースを判断します。ただしこれは、主観的な感覚と実際の数値をすり合わせておく必要があるため、あくまでも目安になります。

 上で述べた通り、LTに相当するペースはマラソンペースからハーフマラソンペースとなります。したがって、マラソンやハーフマラソンで感じる主観的な感覚がLTであるということになります。

 マラソン、ハーフマラソンのレース終盤は苦しくなるためあくまでもレース序盤に感じているきつさだと考えていいと思います。マラソンなどはレース序盤は相当楽に感じると思うのですが、実際に血中乳酸濃度2.0mmol/Lくらいでは、ほとんどきつさを感じません。

LT値で走れるペースを高めるためには

 LT値で走れるペースを高めるためには、「乳酸ができるだけ発生しないようにする」か「発生した乳酸をできるだけ早く処理できるようにする」ことが必要です。

 乳酸に関して最も重要なカギを握っているのがミトコンドリアです。ミトコンドリアの数が多く機能が高ければ、糖質を取り込む速度や乳酸を再利用する速度も速くなります。

 ミトコンドリアの数を増やすことと機能を向上させることは、別々のアプローチが必要であることが分かっています。Granata et al.(2018)※8 のレビューでは、ミトコンドリアの「数(含量)」はトレーニングの総量(ボリューム)に依存する一方、ミトコンドリアの「呼吸機能(質)」は運動強度に依存することが示されています。ミトコンドリアについては次の記事で紹介していますので、是非ご参照ください。

参考文献

※1 Kindermann W, Simon G, Keul J (1979) “The significance of the aerobic-anaerobic transition for the determination of work load intensities during endurance training” Eur J Appl Physiol Occup Physiol

※2 Sjödin B, Jacobs I (1981) “Onset of blood lactate accumulation and marathon running performance” Int J Sports Med

※3 Brooks GA (1986) “The lactate shuttle during exercise and recovery” Med Sci Sports Exerc

※4 Seiler S (2010) “What is best practice for training intensity and duration distribution in endurance athletes?” Int J Sports Physiol Perform

※5 Sitko S et al. (2025) “What Is ‘Zone 2 Training’?: Experts’ Viewpoint on Definition, Training Methods, and Expected Adaptations” Int J Sports Physiol Perform

※6 Swain DP, Abernathy KS, Smith CS, Lee SJ, Bunn SA (1994) “Target heart rates for the development of cardiorespiratory fitness” Med Sci Sports Exerc

※7 Bassett DR Jr, Howley ET (2000) “Limiting factors for maximum oxygen uptake and determinants of endurance performance” Med Sci Sports Exerc

※8 Granata C, Jamnick NA, Bishop DJ (2018) “Training-Induced Changes in Mitochondrial Content and Respiratory Function in Human Skeletal Muscle” Sports Medicine

※「ランニングを科学する」では、筆者の知識・経験のアップデートと共に都度改定を行っています。

出版情報
サブ4達成に向けたトレーニングプログラム

「ランニングを科学する」から「サブ4達成に向けたトレーニングプログラム」のkindle出版をしました。kindle unlimitedに登録していれば無料で読めますので是非ご一読ください。

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コメント

コメント一覧 (2件)

  • 心拍計はつけてるんですが、どこを基準にしたらいいかよくわかりません。HRmaxも年齢でいえば152ですが、20分走で推計するFTPだと230Wくらいなので180W(160hr)1時間維持やりました、辛かったけど疲労は残りませんでしたが、LT弱心拍数のハズが最大心拍数を超えています???ランスアームストロングが37才の時にHRmax=204だったので、年齢の計算は怪しいのかもしれません。

    記事の心拍強度はカルボーネン法ですか?

    • gkrsnamaさん

      コメントありがとうございます。
      最大心拍数の計算式はあくまで目安ですので、最大心拍数を記録できるようなプロトコル(テスト)で、最大心拍数を測定してください。特に年齢を重ねた方はずれが大きいように思います。

      コメントから読み取ると、自転車かと思いますので、自転車で最大心拍が出せるような方法をテストしてください。

      ランニングでテストするには、坂道を使った方法やランニングマシンを使った方法、トラックを使った方法が考えられます。ご自身に適した方法を採択してください。

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