- LT値(乳酸性作業閾値)がいまいち理解できない
- LT値に相当するペースはどのくらい?
- LT値の目安や計算方法が知りたい
マラソンで自己ベスト記録更新を目指しているランナーであれば、LT値(乳酸性作業閾値)という言葉は聞いたことがある人も多いと思います。しかし、LT値をちゃんと理解できているランナーは少ないと感じます。
私が本格的にランニングを始めた時もLT(Lactate Threshold)という言葉は知っていたものの、その本質を理解することはできていませんでした。
LT値はランニングパフォーマンスを決める重要な要素であり、トレーニングを進める上でも重要な指標となります。
ここでは、LTについて徹底解説します。LTに関連する専門用語の説明、LT値がどんな数値を表しているのか、ランニングとLTの関係性などを紹介します。
本記事を読めば、LT値について網羅的に理解することができます。
LT値とは乳酸性作業閾値(Lactate Threshold)のことである
LTはLactate Thresholdの略語です。日本語では乳酸性作業閾値と呼びます。乳酸性作業閾値は運動強度を上げていったときに血中乳酸濃度が急激に上昇し始める領域です。
重要なことはあくまでも「血中乳酸濃度の値」が基準となってLT値が決まるということです。
ランナーの間でよくあるのが「走るペース」が基準になっているパターンです。「私のLTは4:00/kmです」というのは正しくありません。LT値は血中乳酸濃度で決まるものであり、その時のペースが4:00/kmであるとは言えません。
血中乳酸濃度を測定するためには専用の測定機器が必要になります。市民ランナーで血中乳酸濃度測定器を持っている方はほとんどいらっしゃらないと思います。
私自身はランニングを科学的に追及するために血中乳酸濃度測定器を購入しました。日本で手に入れることができる代表的な測定器はアークレイのラクテート・プロ2です。
LT値は「点」ではなく「領域」を表す
LT値は「領域」を表します。ある唯一の1点をLT値と呼ぶわけではありません。次の図でLT値を図示しました。横軸に運動強度、縦軸に血中乳酸濃度を取ったグラフです。
運動強度は「走るペース」や「心拍数」で表されることが多いですが、本来の意味は異なります。同じペースや同じ心拍数で走っても身体の調子によってその時の「運動強度」は変わってくるためです。
しかし、走るペースや心拍数は、ランナーがリアルタイムに把握できる数値であるため、運動強度の参考値として走るペースや心拍数を使うことが多いです。
この図からわかる通り、LT値は血中乳酸濃度が2.0mmol/Lから4.0mmol/Lの範囲を示します。LT値を境に運動強度に対して血中乳酸濃度が急激に上昇し始めていることが分かります。
LT値は個人によって異なります。4mmol/L付近から血中乳酸濃度が急激に上昇し始める人もいれば、3.0mmol/L付近から血中乳酸濃度が急激に上昇し始める人もいます。トレーニングを積んだエリートランナーほど、LT値が3.0mmol/Lに近い数値まで下がってくると言われています。
LTに関連する専門用語として、「LT1」「LT2」「OBLA (Onset of Blood Lactate Accumulation)」があります。
- LT1:乳酸濃度が徐々に上がり始める領域
- LT2:乳酸濃度が急激に上がり始める領域
- OBLA:乳酸濃度が4.0mmol/Lのポイント
XやInstagram、Web SiteでもLT1やLT2などの単語が使われていますので、参考にしてください。
LT値で走れるペースはどうやって決まるのか?
LT値で走れるペースは「乳酸が生成する速度」と「乳酸が処理される速度」によって決まります。
エネルギー源として糖質を使うときに、ミトコンドリアに取り込み切れない糖質が乳酸となります。運動をしていない時は糖質を使う速度がゆっくりであるため乳酸が溜まることはないですが、強度が高く糖質を多く使う運動をした場合、糖質を使い切れずに乳酸が溜まることになります。
余った乳酸は、その場でもう一度ピルビン酸に戻ってミトコンドリアに入るか、血中に放出されて別の組織で代謝されます。血中に放出された乳酸が血中乳酸濃度として測定されます。
ミトコンドリアで再び乳酸を使う、別の組織で乳酸を使う、これらの速度が速ければ血中乳酸濃度が上がりにくい、つまりLT値におけるペースも速くなる、と言えます。
自分のLTを知ることでトレーニングが効率的になる
自分のLT値を把握することによるメリットは「疲労が溜まりにくい強度でトレーニングボリュームを上げることができる」ことです。
ある研究では、LT2の領域を上回る強度とLT2をわずかに下回る強度の運動で疲労具合を比較したところ、LT2を下回る強度の運動はLT2の領域を上回る強度での運動よりも、数倍疲労が溜まりにくかったことが示されています。
実際に私自身の体感としても、ある一定強度以下に抑えたトレーニングの後と、一定以上に強度を高めたトレーニングの後を比較すると、一定強度以下に抑えたトレーニングの後の方が圧倒的に体が疲れないことを実感しています。
もう少し具体的な数値で示すと、血中乳酸濃度が3.5mmol/L以下、心拍数では90%HRmax以下に抑えると、疲労の残り方がかなり少なくなります。
ここで伝えたいこととしては、「どれくらいの強度以下に抑えれば自分の体の疲労が残りにくいかを体感的に理解することにメリットがある」ということです。血中乳酸濃度が測定できない場合には、自分の感覚に頼るしかありません。
LTに相当するペースを把握する方法
血中乳酸濃度を直接測定できない場合、自分のLT値に相当するペースを把握する方法としては以下があります。
- 最大心拍数を算出し、LTに相当する心拍数で走れるペースから把握する
- 直近レースでの自己ベスト記録から算出する
- 主観的なきつさにしたがって判断する
最大心拍数を算出し、LTに相当する心拍数で走れるペースから把握する
最大心拍数を正確に把握できれば、最大心拍数に対する比率からLTに相当するペースを推測することができます。LT1からLT2に相当する心拍数はおよそ82%~90%HRmax(最大心拍数に対する比率)です。
私自身が血中乳酸濃度を測定した例で言うと、心拍数を84%HRmax以下に抑えれば2.0mmol/L以下となり、89%HRmax以下に抑えれば4.0mmol/Lになることが分かっています。
ただし心拍数と血中乳酸濃度の関係性も個人差があるので注意してください。
直近レースでの自己ベスト記録から算出する
直近で走ったレース記録からVDOTを計算することで、LT値におけるペースを推算することが可能です。以下に、レースペースと血中乳酸濃度の関係性を示します。
LT1からLT2付近はおよそマラソンペースに相当し、LT2前後はハーフマラソンレースペース程度となります。したがって、およそマラソンペースからハーフマラソンペースが自分のLT値におけるペースと言えます。
主観的な感覚から推測する
自分の「主観的なきつさ」から、LT値に相当するペースを判断します。ただしこれは、主観的な感覚と実際の数値をすり合わせておく必要があるため、あくまでも目安になります。
上で述べた通り、LTに相当するペースはマラソンペースからハーフマラソンペースとなります。したがって、マラソンやハーフマラソンで感じる主観的な感覚がLTであるということになります。
マラソン、ハーフマラソンのレース終盤は苦しくなるためあくまでもレース序盤に感じているきつさだと考えていいと思います。マラソンなどはレース序盤は相当楽に感じると思うのですが、実際に血中乳酸濃度2.0mmol/Lくらいでは、ほとんどきつさを感じません。
LT値で走れるペースを高めるためには
LT値で走れるペースを高めるためには、「乳酸ができるだけ発生しないようにする」か「発生した乳酸をできるだけ早く処理できるようにする」ことが必要です。
乳酸に関して最も重要なカギを握っているのがミトコンドリアです。ミトコンドリアの数が多く機能が高ければ、糖質を取り込む速度や乳酸を再利用する速度も速くなります。
ミトコンドリアの数を増やすことと機能を向上させることは、別々のアプローチが必要であることが分かっています。ミトコンドリアについては次の記事で紹介していますので、是非ご参照ください。
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