当サイトのランニングシューズレビューでは、重量・スタック高(ソールの厚み)・ドロップ(かかとと前足部の高低差)・硬度・剛性といった項目を、メーカーの公称値だけでなく実際に測定した数値とあわせて紹介しています。
このページでは、なぜ実測にこだわるのか、そしてどんな測定器具・手順を使っているのかをまとめます。個別のシューズの測定結果は、それぞれのレビュー記事に掲載しています。
- このサイトのレビューの数値は、メーカー公称値の転載?それとも実測?
- 実測だとしたら、どんな器具で・どうやって測っている?
- 硬度(アウトソール・ミッドソール)は、どうやって数値化している?
- 測定には、どのくらいの誤差・精度があるのか?
なぜ実測にこだわるのか(メーカー公称値とのズレの実例)
スタック高やミッドソールの硬さは、単なる仕様表の数字ではありません。ランニングエコノミー(同じペースで走るときに使うエネルギーの効率)や怪我のリスクに、実際に関わってくるパラメータであることが研究でも報告されています。
ミッドソールのクッション性は走り込むほど徐々に低下していきますが、履いている本人はその変化にほとんど気づけないことが報告されています。
一方でデュロメーター(硬度計)を使えば、この劣化を客観的な数値として検出できます。※1 感覚だけに頼らず数値で確認する意味は、ここにあります。
ミッドソールの硬さが違うと、着地時の足の動き方(プロネーション、着地の際に足が内側へ倒れ込む動き)にも違いが表れることは、古くから報告されています。※2 硬度という数値は、走りに直結する情報だということです。
熟練ランナーを対象にミッドソールの厚みだけを変えて比較した試験では、40mmより50mmのほうがランニングエコノミーがわずかに良いという結果が報告されています。※3
シューズの縦剛性(前足部の曲がりにくさ)についても、硬ければ硬いほど良いわけではなく、中程度の剛性で最もランニングエコノミーが良くなったという報告があります。※4
複数の研究をまとめた解析でも、縦剛性を高めるとランニングエコノミーが改善する傾向が確認されています。※5
一方で、同じシューズのカーボンプレートに切れ込みを入れて曲げ剛性だけを落とし、無加工のものと比較した研究では、ランニングエコノミーの差はほとんど見られませんでした。※6
プレートという一部品の硬さだけで決まるのではなく、フォーム・ソール形状・プレートの組み合わせ全体で効果が決まるということです。
だからこそ、スペック表の一項目だけでなく複数の実測値を並べて見る価値があります。
シューズの重量についても、複数の研究をまとめたレビューで代謝コストとの正の関連が確認されており、両足合わせて440グラム未満(片足220グラム未満)であればランニングエコノミーへの悪影響は認められなかったという目安が示されています。※7
重量も、数値として把握しておく価値のある項目です。
怪我のリスクという観点でも、シューズの構造的な特徴は無関係ではありません。カーボンプレート入りのシューズが足関節や中足部の力学を変化させ、疲労骨折のリスクに関わる可能性があるとする専門家の見解が報告されています。※8
市民ランナー1697名を1年間追跡した試験でも、カーボンプレート入りの厚底シューズを履いているグループで怪我の発生率が高く、とくに膝の痛みが多いという結果が出ています。※9
一方で、12件の試験・約11,000人分をまとめたCochraneレビューもあります。「クッション性が高い」「ミニマリスト」といったカテゴリーの違いで、怪我の発生率に差が出るという明確な証拠は得られていません。
エビデンスの確実性自体も、低い〜非常に低いと評価されています。※10
ラベルだけでなく、実際の数値を確認することに意味があると考える理由です。
こうした背景から、当サイトのレビューではメーカーの公称値をそのまま転載するのではなく、可能な範囲で自分たちで実測した数値をあわせて掲載する方針にしています。
使用している測定器具
実測にあたっては、以下の測定器具を使用しています。いずれも工業用の精密測定機器で、当サイトが必要とする精度(後述)に対して十分な性能があります。

ハイトゲージ+デプスアタッチメント(スタック高・ドロップ・ソール厚み)
スタック高・ドロップ・ソール厚みの測定には、ハイトゲージ(対象物の高さを精密に測る測定器)に、デプスアタッチメント(溝や穴の深さを測るための付属パーツ)を組み合わせて使用しています。
デプスアタッチメントを靴の履き口からソール内側へ差し込み、ヒール中央・前足部(母趾球の直下)のソール上面から接地面までの高さを、靴を切断せずに直接読み取ります。

ノギス(幅方向・簡易チェック)
ノギス(外側・内側・深さを測れる測定器)は、ミッドソールの幅など側面方向の計測や、ハイトゲージを使わない場面での簡易チェックに使用しています。

Shore A硬度計(アウトソールゴム)
アウトソールのゴムの硬さは、Shore A(ショアA、ゴムや硬めの樹脂向けの硬度スケール)のデジタル硬度計で測定しています。

C型デジタル硬度計(ミッドソールフォーム)
ミッドソールのフォームは、Shore Aでは正確に測れません。フォームの硬さはShore Aスケールの低い側(15〜30程度)に集中していて、この帯域はスケールが粗くなってしまうためです。
そこで、より軟質な素材向けのC型(アスカーC相当のスケール)のデジタル硬度計を使用し、アウトソールとは役割を分けています。

測定プロトコル(項目別)
項目ごとの具体的な測定手順は以下の通りです。
重量
開封直後に、左右それぞれの重量を計測します。メーカーの公称重量は片足のみ・特定サイズのみの表記であることが多いため、実測値は公称値と並記して掲載します。
スタック・ドロップ
ヒール中央・前足部(母趾球の直下)のスタック高を、ハイトゲージとデプスアタッチメントで計測します。ドロップは、ヒールとフォアフットのスタック高の差から算出します。
余談ですが、陸上競技にもソールの厚みに関する規定があります。ワールドアスレティックス(世界陸連)のルールでは、フィールド種目において「前足部中心のソール厚みが、かかと中心のソール厚みを超えてはならない」と定められています。
測定の基準点は、前足部の中心を靴内部の長さの75%の位置、かかとの中心を12%の位置と定義されています。
日本陸上競技連盟の運用では、目視で明らかにかかと部分が厚いと分かる場合には、かかと部分のみの測定で足りるとされています。
前足部の測定には靴紐を解きスパイクピンを外す必要があり、大会の招集所(レース前に選手が集まり、用具チェックなどを受ける場所)では簡単に計測できないためです。
当サイトのハイトゲージでも、アッパー(甲を覆う部分)の構造によって前足部の厚みを直接測れないことがあり、公式の計測現場と同じ制約に行き当たっています。
この規定は改定が重ねられているため、最新の運用は日本陸上競技連盟公式サイトでご確認ください。
幅・厚み
ミッドソールの幅(前足部・かかと)はノギスで計測します。アウトソール厚・中敷き厚・タンパッド厚は、中敷きを外した状態でノギスを使って計測します。
硬度
アウトソールはShore A硬度計、ミッドソールはC型硬度計で、それぞれ複数箇所を計測して平均値を記録します。
硬度計は正しく使わないと数値がぶれやすいため、測定のたびにゼロ点を確認し、面に対して垂直に押し当て、押し付けてから一定時間後(当サイトでは1秒後)の値を読み取るようにしています。
同じ箇所を連続して測ると圧痕の影響で低く出るため、毎回少し位置をずらしながら計測しています。
官能評価(1-5段階の基準)
曲げ剛性(前足部の曲がりにくさ)・ねじり剛性・ヒールカウンター(かかとを支える芯材)の硬さ・横方向の安定性は、数値化のコストがリスクに見合わないため、1(弱い・柔らかい)〜5(強い・硬い)の5段階の官能評価で記録しています。
曲げ剛性については、フォースゲージ(力を数値化する測定器)での定量化も検討しました。ただし前足部を正確に30度曲げるには角度を固定する治具が別途必要で手間がかかります。
カーボンプレート入りのシューズを想定外の角度まで無理に曲げるとプレートが割れるリスクもあるため、費用対効果を踏まえて官能評価で代替することにしました。
市民ランナーを対象としたメタ解析では、履き心地が良いと感じるシューズほどランニングエコノミーが良いという関連も報告されています(因果関係を示したものではありません)。※11
数値化しきれない「感じ方」も、走りに関わる情報として記録する価値があると考えています。
あえて測定しない項目とその理由
衝撃吸収性やエネルギーリターン(着地時のエネルギーが反発としてどれだけ返ってくるか)は、海外の専門メディアが専用の試験機で数値化していますが、当サイトでは測定していません。個人で導入できる価格帯の機材がなく、精度を担保できないためです。
これらの項目については、実際に走った際の主観的な感覚を、ペース帯とあわせて記述するようにしています。
精度と限界について
当サイトの実測に求めている精度は、±1〜2ミリ程度です。「公称8ミリのドロップが、実測では6ミリだった」というレベルの差が伝わることを重視しており、0.1ミリ単位の精度までは必要ないと考えています。
また、ハイトゲージによるスタック高の計測は、靴を切断せずに外側から測る方法のため、靴の中心線を通る断面の厳密な値とは、数ミリ程度ずれる可能性があります。この前提のうえでご覧いただければと思います。
各レビュー記事はこちら
実測データは、それぞれのシューズレビュー記事に順次掲載しています。まずは以下のページから、気になるシューズをチェックしてみてください。
参考文献
※1 Cornwall MW, McPoil TG. Can Runners Perceive Changes in Heel Cushioning as the Shoe Ages with Increased Mileage? International Journal of Sports Physical Therapy 2017
※2 Clarke TE, Frederick EC, Hamill CL. The Effects of Shoe Design Parameters on Rearfoot Control in Running. Medicine & Science in Sports & Exercise 1983
※3 Baumann GA, Biedermann K, Item E, Spengler CM, Beltrami FG. The Effect of Midsole Thickness on Running Economy, Spatiotemporal Values and Perceptions of Comfort and Exertion in Well-trained Runners: A Randomized, Cross-over Trial. Sports Medicine – Open 2025
※4 Rodrigo-Carranza V et al. Relationship Between Advanced Footwear Technology Longitudinal Bending Stiffness and Energy Cost of Running. Scandinavian Journal of Medicine & Science in Sports 2024
※5 Rodrigo-Carranza V, González-Mohíno F, Santos-Concejero J, González-Ravé JM. The effects of footwear midsole longitudinal bending stiffness on running economy and ground contact biomechanics: A systematic review and meta-analysis. European Journal of Sport Science 2022
※6 Healey LA, Hoogkamer W. Longitudinal bending stiffness does not affect running economy in Nike Vaporfly Shoes. Journal of Sport and Health Science 2022
※7 Fuller JT, Bellenger CR, Thewlis D, Tsiros MD, Buckley JD. The effect of footwear on running performance and running economy in distance runners. Sports Medicine 2015
※8 Tenforde A, Hoenig T, Saxena A, Hollander K. Bone Stress Injuries in Runners Using Carbon Fiber Plate Footwear. Sports Medicine 2023
※9 Brüggemann GP, Esser T, Rehorst S, Hirschhäuser E, Hensen N. The Influence of Different Running Shoe Technologies on the Musculoskeletal Load in Running and Injury Outcomes in Recreational Runners. Sportverletzung Sportschaden 2025
※10 Relph N, Greaves H, Armstrong R, Prior TD, Spencer S, Griffiths IB, Dey P, Langley B. Running shoes for preventing lower limb running injuries in adults. Cochrane Database of Systematic Reviews 2022
※11 Van Alsenoy K, van der Linden ML, Girard O, Santos D. Increased footwear comfort is associated with improved running economy – a systematic review and meta-analysis. European Journal of Sport Science 2023








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