【夏のランニング】気温が高くなるとパフォーマンスが落ちる理由とその対策

気温が高い中でのトレーニング
こんな疑問を解消
  • 暑いとなんで走れなくなるの?
  • 暑い時は走るべきなの?
  • 暑い時に行うべきおすすめのランニングトレーニングが知りたい

 日本では梅雨入りの6月中旬以降気温がとても高くなり、普通にジョギングをするだけでもきつさを感じるようになります。暑い時のランニングに苦労しているランナーの方も多いのではないでしょうか。

 私自身も、夏の暑い時期に行うランニングには苦労しています。高温多湿で体感的な強度が非常に高くなってしまい、高強度なトレーニングが行いにくくなります。

 しかし、この暑さを逆に利用して効果的な練習ができると、秋以降に飛躍的に走力を伸ばせる可能性があります。

 本記事では、暑いとなぜ運動パフォーマンスが低下するのかの理由を説明します。そのうえで、暑い時期のおすすめトレーニング方法について解説します。

 この記事を読めば、夏の暑い時期に行うべきトレーニングとその方法がわかります。

著者:らんしゅー
日比野就一

社会人からランニングを始めました。
理論に基づいたトレーニングで、
どこまで記録を伸ばすことができるか挑戦。
競技志向で取り組んでいます。
自己紹介・記録変遷はこちら

血中乳酸濃度や血糖値も測定。
マラソンへ科学的にアプローチします。

★自己ベスト
 1500m 4:25(2022/08)
 5000m 16:01(2022/09)
 10000m 33:44(2021/12)
 ハーフ 1:12:29(2022/03)
 フル 2:43:55(2024/11)

著者:らんしゅー
日比野就一

  社会人からランニングを始めました。
  理論に基づいたトレーニングで、
  どこまで記録を伸ばすことができるか挑戦。
  競技志向で取り組んでいます。
   自己紹介・記録変遷はこちら

  血中乳酸濃度や血糖値も測定。
  マラソンへ科学的にアプローチします。

  ★自己ベスト
   1500m 4:25(2022/08)
   5000m 16:01(2022/09)
   10000m 33:44(2021/12)
   ハーフ 1:12:29(2022/03)
   フル 2:43:55(2024/11)

carb-upper
carb-upper
目次

高温多湿環境で運動パフォーマンスが落ちる理由

 気温が高い夏に、運動パフォーマンスが低下する理由は以下の通りです。

暑いと運動パフォーマンスが落ちる理由
  • 筋疲労が進みやすい
  • 心血管系機能低下(筋肉への血流量低下、血漿量の減少)
  • 中枢神経系機能低下
気温と運動パフォーマンスの関係

筋疲労が進みやすい(筋疲労の亢進)

 高温多湿の環境では、比較的涼しい条件と比べて筋グリコーゲンの消費量が増え、乳酸生成量が増加することが知られています。

 また、筋肉が収縮するときに発生する物質(フリーラジカル)が増える影響で、筋収縮に関わるたんぱく質が損傷しやすい状態になります。

 この結果、通常よりもLTが低下したり、筋出力が低下します。

筋肉への血流量低下、血漿量の減少(心血管系機能低下)

 ランニングで使用するエネルギー(ATP)を作り出す際、同時に熱エネルギーも発生します。実際にランニングに使うのは作り出したエネルギーのうち約30%程度であると言われています。

 残りの70%は熱エネルギーとして放出されます。放出されたエネルギーにより体温が上昇します。

 体は体温の上昇に反応し、体温が上がりすぎることを防ぐために発汗をしたり、皮膚表面への血流量を増やして血液を冷やして体温を低下させようとします。

 皮膚表面への血流量が増加すると、筋繊維への血流量が相対的に低下します。また、発汗により血漿量の減少が引き起こされ、血液における酸素運搬能力が低下します。

 同じ心拍数でも、筋肉に運ばれる血液(=酸素)が少なくなるため、筋肉での有酸素系代謝機能が低下することになります。

中枢神経系機能低下

 体温の上昇と脱水が進むと、中枢神経から筋肉の動員率を減らす指令が出ます。

 動員率とは「筋肉における筋繊維のうちどれだけ稼働させるか」の比率です。

 運動時の運動単位減少は、そのまま運動パフォーマンスの低下に直結します。同じ意識で走ろうとしても力が出ない、という状況になります。

体温の上昇と筋繊維動員率の減少
図 筋繊維動員率の減少

 また、暑熱環境では筋疲労が進みやすくその疲労が中枢神経に伝わります。その情報伝達をきっかけに、筋肉での運動単位を減らす指令が出ます。

気温が高いと酸素摂取量はどうなる?

 気温が高いと、主観的な強度は高くなり心拍数も上昇します。

 しかし、運動を行う際に必要とする酸素量は、その主観的なきつさには比例していません。

 運動時の酸素摂取量はあくまでも運動強度に比例しているため、暑さでランニングのペースがダウンすれば、その分、その時の酸素摂取量は低下します。

 夏の暑い時期に心拍数が高くなるのは、体温を下げるための皮膚表面への血流量が増えたりすることが原因です。

 逆に筋繊維への血流量は低下するため、同じ体感的なきつさであっても、体全体としての酸素摂取量は冬と比べて低下する傾向にあります。

 高い酸素摂取量を維持する必要があるインターバルトレーニングなどは、夏には適しません。

気温が高い時に行うトレーニングのメリットとデメリット

 ランニングトレーニングは、気温の高い・低いに関わらず、継続が必要です。気温が高い時に行うトレーニングのメリットとデメリットを以下の通りまとめました。

メリット
  • 遅めのペースでもLT強化につながりやすくなる
  • 心肺的なきつさが先行するため怪我しにくくなる
  • スプリント系のトレーニングは適している
デメリット
  • 暑くてトレーニング量が減る
  • VO2maxトレーニングがこなしにくい
  • 気持ち的に走りたくなくなる

気温が高い時に行うトレーニングのメリット

 気温が高い時は筋繊維への血流量が低下するため、遅めのペースでもLTに到達します。

 LTが向上するためには、筋繊維におけるミトコンドリア容量の増大と機能向上が重要です。筋繊維への血流量が減少すると、ミトコンドリアへの酸素供給も減少するため、「酸素不足」状態になります。

 酸素不足状態になることでミトコンドリア新生および機能向上のための活性化が起こります。その結果ミトコンドリアの適応が起こるため、LTが向上します。

 また、暑さで心肺的なきつさが先行することで、ペースダウンを余儀なくされるため、結果的にケガをしにくくなります。

 気温が高い時は、スプリントトレーニングなどの超高強度なランニングトレーニングが適しています。レストが長い分体温が上昇しにくいため、気温の高い低いに関わらず、トレーニングをこなすことができます。

 また、気温が高い分関節の可動域などは広がっているため、スプリントトレーニング時の怪我発症率も低下します。

気温が高い時に行うトレーニングのデメリット

 気温が高いと疲労感が増大するため、トレーニングボリュームは減る傾向にあります。

 また、最大強度近くで運動を継続するVO2maxインターバルトレーニングのようなトレーニングは、夏にはこなせなくなります。

 気温が高く主観的強度が高くても、体の酸素摂取量自体は上がっていないため、目的の強度でトレーニングを実施することが難しいためです。

 精神的に、暑いと走りたくなくなることもマイナスです。

carb-middle
carb-middle

暑い時のトレーニングにおける対応方法

 暑い時期にトレーニングを継続しやすくする方法を紹介します。

暑熱順化

 暑熱環境で定期的な運動を行うと、熱ストレスがかかることで熱に対する生理的適応が見られます。これを暑熱順化と呼びます。

 暑熱順化が最終的にもたらす効果は、最大下運動時の心拍数現象と深部体温の低下です。最大化運動とは、最大酸素摂取量の上限よりも低い強度領域での運動を指します(具体的な強度は定められていません)。

 暑熱順化を進ませるためには、深部体温が上昇する経験が必要です。暑熱順化のためのトレーニングとしては、高温な環境下で50%VO2max以上の強度で持続的な運動を行う必要があります。

 暑熱順化の過程で発生する生理的適応は、血漿量の増加運動時の発汗の早期開始発汗量の増加汗による塩分喪失量の低下皮膚血流の低下熱ショックタンパク質の合成増加が挙げられます。

らんしゅー
暑熱順化に関わる詳細な解説は難しくなるのでここでは述べません

 暑熱順化は暑熱への暴露から7~14日後までに順化がほぼ完了します。下図では各項目における順化日数を示しています。

 生理的適応と順化日数
図 生理的適応と順化日数

 

早朝・夜間のトレーニング

 暑い夏でも、早朝・夜間は比較的走りやすい気温になります。

 特に早朝は、日が落ちてからしばらく時間が経過していることもあり、夏としては涼しさを感じる中で走ることができます。

 昼間や夕方のランニングが暑すぎて走れない、という方は、夏の期間は早朝や夜間に走ることに挑戦してみてはいかがでしょうか。

スピードトレーニング

 気温が高いと、持続的なトレーニングが難しくなります。一方で、1回ずつ長めのレストを取るようなスピードトレーニングでは、暑さの影響をあまり受けることなくトレーニングを行うことが可能です。

 秋・冬・春はレースも多く、特にフルマラソンランナーはスピードトレーニングを行っている余裕がないと思います。夏は、そんなランナーの方も唯一スピードトレーニングを行うべき時期、とも言えます。

 スピードトレーニングとしては、坂を使ったトレーニングレペティションペースでのトレーニングがあげられます。

トレッドミル・ランニングマシンの活用

 室内でのランニングに切り替える、というのもおすすめです。

 これまで、ランニングマシンを使ったことがない人にとっては、ランニングマシンでのトレーニングって効果あるの?と疑問に思う方もいらっしゃるかもしれません。

 結論から言うと、世界のエリートランナーもトレッドミルを積極的に活用しており、屋外でのランニングと同様に、効果が期待できます。

 室内は空気抵抗がないため、屋外と強度を合わせるためには傾斜をつける必要がありますが、走るペースを同じにすることにこだわらなければ、無理に傾斜をつける必要はありません。

 アミノサウルスの嵜本さんはトレッドミル主体のトレーニングでフルマラソン2時間30分を切っていますので、適切に使用すれば間違いなく効果を得ることができます。

 トレッドミルの効果的な使い方は次の記事で解説していますのでご参照ください。

夏場のおすすめトレーニング

 気温が高い夏におすすめのランニングトレーニングを紹介します。

LTインターバル

 LTインターバルは、LT強度以下で行うインターバルトレーニングのことを指します。疾走ペースはおよそハーフマラソンでのレースペース~フルマラソンレースペース程度になります。

 気温が高いとペース走のように、比較的長時間継続するようなトレーニングはこなすのが難しくなります。インターバル化してレストを挟みながら行えば、ある程度こなすことが可能です。

LTインターバルメニュー例
  • 1000m * 8 レスト60秒ジョグ
  • 2000m * 4 レスト60秒ジョグ

 LTインターバルとして紹介しているトレーニングで、スイートスポットトレーニング(SST)があります。具体的な実施方法は次の記事で詳しく解説していますので、ご参照下さい。

レペティショントレーニング、坂道トレーニング

 上でも一度紹介しましたが、レペティショントレーニングと坂道トレーニングは、ぜひ夏の間に行っておきたいトレーニングです。

 フルマラソンのシーズンに入ってしまうと、このようなスピードトレーニングを行っている余裕がなくなります。

 夏の間にしっかり基礎スピードを身につけることができれば、秋~冬にかけてのフルマラソンレースで一段高いレベルに到達することができます。 

 レペティショントレーニングや坂道トレーニングは様々な実施方法がありますので、以下の記事を参考にしてください。

 皆様の参考になれば幸いです。

※「ランニングを科学する」では、筆者の知識・経験のアップデートと共に都度改定を行っています。

carb-bottom
carb-bottom
Instagram

日々のトレーニング記録を発信!

血中乳酸濃度・血糖値・心拍数を測定しながら、怪我せず「楽に」速くなるトレーニングを追求します。

【トレーニング記録やレース結果】などブログでは伝えきれない内容も発信しています!

広告掲載募集
ランニングを科学するロゴ

「ランニングを科学する」で
PRできます
表示回数・クリック回数の設定も行います

コメント

コメントする

CAPTCHA


目次