- 暑いとなんで走れなくなるの?暑い時は走るべきなの?
- 気温が高い時のペース設定方法が知りたい
- 暑い時に行うべきおすすめのランニングトレーニングが知りたい
日本では梅雨入りの6月中旬以降気温がとても高くなり、普通にジョギングをするだけでもきつさを感じるようになります。暑い時のランニングに苦労しているランナーの方も多いのではないでしょうか。
私自身も、夏の暑い時期に行うランニングには苦労しています。高温多湿で体感的な強度が非常に高くなってしまい、高強度なトレーニングが行いにくくなります。
しかし、この暑さを逆に利用して効果的な練習ができると、秋以降に飛躍的に走力を伸ばせる可能性があります。
本記事では、暑いとなぜ運動パフォーマンスが低下するのかの理由を説明します。そのうえで、暑い時期のおすすめトレーニング方法について解説します。
この記事を読めば、夏の暑い時期に行うべきトレーニングとその方法がわかります。
高温多湿環境で運動パフォーマンスが落ちる理由
気温が高い夏に、運動パフォーマンスが低下する理由は以下の通りです。
- 筋疲労が進みやすい
- 心血管系機能低下(筋肉への血流量低下、血漿量の減少)
- 中枢神経系機能低下
筋疲労が進みやすい(筋疲労の亢進)
高温多湿の環境では、比較的涼しい条件と比べて筋グリコーゲンの消費量が増え、乳酸生成量が増加することが知られています
また、筋肉が収縮するときに発生する物質(フリーラジカル)が増える影響で、筋収縮に関わるたんぱく質が損傷しやすい状態になります。
これらの結果、筋疲労が進みやすくなり筋出力が低下、ランニングパフォーマンスが低下します。
筋肉への血流量低下、血漿量の減少(心血管系機能低下)
ランニングで使用するエネルギー(ATP)を作り出す際、同時に熱エネルギーも発生します。実際にランニングに使うのは作り出したエネルギーのうち約30%程度であると言われています。
残りの70%は熱エネルギーとして放出されます。放出されたエネルギーにより体温が上昇します。
体は体温の上昇に反応し、体温が上がりすぎることを防ぐために発汗をしたり、皮膚表面への血流量を増やして血液を冷やして体温を低下させようとします。
皮膚表面への血流量が増加すると、筋繊維への血流量が相対的に低下します。また、発汗により血漿量の減少が引き起こされ、心拍出量が低下し血液における酸素運搬能力が低下します。
同じ心拍数でも、筋肉に運ばれる血液(=酸素)が少なくなるため、筋肉での有酸素系代謝機能が低下することになります。
中枢神経系機能低下
体温の上昇と脱水が進むと、中枢神経から筋肉の動員率を減らす指令が出ます。動員率とは「筋肉における筋繊維のうちどれだけ稼働させるか」の比率です。
運動時の運動単位減少は、そのまま運動パフォーマンスの低下に直結します。同じ意識で走ろうとしても力が出ない、という状況になります。
また、暑熱環境では筋疲労が進みやすくその疲労が中枢神経に伝わります。その情報伝達をきっかけに、筋肉での運動単位を減らす指令が出ます。
気温が高いと酸素摂取量はどうなる?
気温が高いと、主観的な強度は高くなり心拍数も上昇します。夏の暑い時期に心拍数が高くなるのは、体温を下げるための皮膚表面への血流量が増えたりすることが原因です。
逆に筋繊維への血流量は低下します。同じ体感的なきつさであっても、体全体としての酸素摂取量は冬と比べて低下する傾向にあります。
運動時の酸素摂取量はあくまでも運動強度に比例しているため、暑さでランニングのペースがダウンすれば、その分、その時の酸素摂取量は低下します。
そのため高い酸素摂取量を維持する必要があるインターバルトレーニングなどは、夏には適しません。
気温が高い時に行うトレーニングのメリットとデメリット
ランニングトレーニングは、気温の高い・低いに関わらず、継続が必要です。気温が高い時に行うトレーニングのメリットとデメリットを以下の通りまとめました。
- 遅めのペースでもLT強化につながりやすくなる
- 心肺的なきつさが先行するため怪我しにくくなる
- スプリント系のトレーニングは適している
- 暑くてトレーニング量が減る
- VO2maxトレーニングがこなしにくい
- 気持ち的に走りたくなくなる
気温が高い時に行うトレーニングのメリット
気温が高い時は筋繊維への血流量が低下するため、遅めのペースでもLTに到達します。
LTが向上するためには、筋繊維におけるミトコンドリア容量の増大と機能向上が重要です。筋繊維への血流量が減少すると、ミトコンドリアへの酸素供給も減少するため、「酸素不足」状態になります。
酸素不足状態になることでミトコンドリア新生および機能向上のための活性化が起こります。その結果ミトコンドリアの適応が起こるため、LTが向上します。
また、暑さで心肺的なきつさが先行することで、ペースダウンを余儀なくされるため、結果的にケガをしにくくなります。
気温が高い時は、スプリントトレーニングなどの超高強度なランニングトレーニングが適しています。レストが長い分体温が上昇しにくいため、気温の高い低いに関わらず、トレーニングをこなすことができます。
また、気温が高い分関節の可動域などは広がっているため、スプリントトレーニング時の怪我発症率も低下します。
気温が高い時に行うトレーニングのデメリット
気温が高いと疲労感が増大するため、トレーニングボリュームは減る傾向にあります。最大強度近くで運動を継続するVO2maxインターバルトレーニングのようなトレーニングは、夏にはこなせなくなります。
気温が高く主観的強度が高くても、体の酸素摂取量自体は上がっていないため、目的の強度でトレーニングを実施することが難しいためです。精神的に、暑いと走りたくなくなることもマイナスです。
暑い時のランニングトレーニングにおける対策
暑い時期にランニングトレーニングを行うための対策を紹介します。
暑熱順化
暑熱環境で定期的な運動を行うと、熱ストレスがかかることで熱に対する生理的適応が見られます。これを暑熱順化と呼びます。
暑熱順化が最終的にもたらす効果は、最大下運動時の心拍数現象と深部体温の低下です。最大化運動とは、最大酸素摂取量の上限よりも低い強度領域での運動を指します(具体的な強度は定められていません)。
暑熱順化を進ませるためには、深部体温が上昇する経験が必要です。暑熱順化のためのトレーニングとしては、高温な環境下で50%VO2max以上の強度で持続的な運動を行う必要があります。
暑熱順化の過程で発生する生理的適応は、血漿量の増加、運動時の発汗の早期開始、発汗量の増加、汗による塩分喪失量の低下、皮膚血流の低下、熱ショックタンパク質の合成増加が挙げられます。
暑熱順化は暑熱への暴露から7~14日後までに順化がほぼ完了します。下図では各項目における順化日数を示しています。
早朝・夜間のトレーニング
暑い夏でも、早朝・夜間は比較的走りやすい気温になります。
特に早朝は、日が落ちてからしばらく時間が経過していることもあり、夏としては涼しさを感じる中で走ることができます。
昼間や夕方のランニングが暑すぎて走れない、という方は、夏の期間は早朝や夜間に走ることに挑戦してみてはいかがでしょうか。
スピードトレーニング
気温が高いと、持続的なトレーニングが難しくなります。一方で、1回ずつ長めのレストを取るスピードトレーニングでは、暑さの影響をあまり受けることなくトレーニングを行うことが可能です。
秋・冬・春はレースも多く、特にフルマラソンランナーはスピードトレーニングを行っている余裕がないと思います。夏は、そんなランナーの方も唯一スピードトレーニングを行うべき時期、とも言えます。
スピードトレーニングとしては、坂を使ったトレーニングやレペティションペースでのトレーニングがあげられます。
トレッドミル・ランニングマシンの活用
室内でのランニングに切り替える、というのもおすすめです。
これまで、ランニングマシンを使ったことがない人にとっては、ランニングマシンでのトレーニングって効果あるの?と疑問に思う方もいらっしゃるかもしれません。
結論から言うと、世界のエリートランナーもトレッドミルを積極的に活用しており、屋外でのランニングと同様に、効果が期待できます。
室内は空気抵抗がないため、屋外と強度を合わせるためには傾斜をつける必要がありますが、走るペースを同じにすることにこだわらなければ、無理に傾斜をつける必要はありません。
アミノサウルスの嵜本さんはトレッドミル主体のトレーニングでフルマラソン2時間30分を切っていますので、適切に使用すれば間違いなく効果を得ることができます。
トレッドミルの効果的な使い方は次の記事で解説していますのでご参照ください。
気温が高い時のペース設定方法
気温が低い時に比べ気温が高い時はトレーニングにおける設定ペースを落とす必要があります。どのくらいペースを落とせばいいのかについて簡易的に計算することが可能です。
使うツールはVDOT Running Calculatorです。気温によるペース補正の方法は以下の通りです。ここでは気温による補正方法のみを紹介します。通常の使用方法については、次の記事を参考にしてください。
気温による設定ペース補正の具体的手順
Calculateボタンの下にある「Advanced Features(高度な設定)」をクリックし以下の手順で入力していきます。
- Temperatureを選択
- 記録を出した時の気温を入力
- 「℃」を選択(セルシウス度)
- Calculateを押す
- 最後にREVERSEを押す
気温を入力してCalculateボタンを押すと、入力した気温による補正が入った予想タイムが算出されます。Calculateを押した後に「Reverse」を押すことを忘れないでください。
以下では、ハーフマラソン1時間14分40秒の記録を気温30℃で出していた場合、気温15℃以下ではどのくらいの記録に相当するかを計算しています。
1時間14分40秒を記録した際の気温が30℃だと仮定した場合、気温15℃の環境でレースをしたらVDOTは66.4、Half marathonの記録は1時間11分33秒が予想されています。
夏場は暑くて、どうしても記録が出ないですよね。そんな時、夏に出した記録が冬の気温だったらどのくらいのペースに相当するのかを確認する、というような使い方をすることができます。
最後にREVERSEを押さない場合、「気温15℃以下で出したハーフ1時間14分40秒の記録は、30℃ではどのような記録に相当するか」が計算できます。
気温が15℃以下の冬に1時間14分40秒で走れたとしても、気温30℃の環境では1時間17分47秒でしか走れない、ということが分かります。気温30℃だと仮定すると、トレーニングでの設定ペースは以下の様になります。
Thresholdペースだと、3:39/kmとなります。15℃以下の気温だと3:31/kmとなるので、1kmあたり8秒程度は遅くなる計算ですね。
夏場のおすすめトレーニング
気温が高い夏におすすめのランニングトレーニングを紹介します。
LTインターバル
LTインターバルは、LT強度以下で行うインターバルトレーニングのことを指します。疾走ペースはおよそハーフマラソンでのレースペース~フルマラソンレースペース程度になります。
気温が高いとペース走のように、比較的長時間継続するようなトレーニングはこなすのが難しくなります。インターバル化してレストを挟みながら行えば、ある程度こなすことが可能です。
- 1000m * 8 レスト60秒ジョグ
- 2000m * 4 レスト60秒ジョグ
LTインターバルとして紹介しているトレーニングで、スイートスポットトレーニング(SST)があります。具体的な実施方法は次の記事で詳しく解説していますので、ご参照下さい。
レペティショントレーニング、坂道トレーニング
上でも一度紹介しましたが、レペティショントレーニングと坂道トレーニングは、ぜひ夏の間に行っておきたいトレーニングです。
フルマラソンのシーズンに入ってしまうと、このようなスピードトレーニングを行っている余裕がなくなります。
夏の間にしっかり基礎スピードを身につけることができれば、秋~冬にかけてのフルマラソンレースで一段高いレベルに到達することができます。
レペティショントレーニングや坂道トレーニングは様々な実施方法がありますので、以下の記事を参考にしてください。
皆様の参考になれば幸いです。
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