- 夏のランニングで得られる効果が知りたい
- 暑い中でのトレーニング効果が高地トレーニングと同じ、というのは本当なの?
- 無理してでも暑い中でトレーニングを行うべきかどうかが知りたい
「暑い夏のランニングは、高地トレーニングと同じ効果がある」という話を聞いたことはありませんか?私自身もそのような話を最近よく耳にします。
結論から言うと暑い環境でのトレーニングで得られる効果と高地トレーニングで得られる効果のメカニズムは異なります。ただ、最終的に得られるパフォーマンスの向上は似ている、と言えます。
ここでは、夏のランニングで得られる効果について徹底解説します。気温と湿度が高く走ることもきつい中、あえて夏に走ることにどんな効果が期待できるのかを紹介します。
本記事を読めば、夏に頑張ってランニングトレーニングを行う理由を理解することができます。
夏のランニング(暑熱トレーニング)で体に起こる現象と効果
夏のランニングは「気温と湿度が高い中でのトレーニング」であり「暑熱トレーニング」と呼びます。一般的には暑熱環境でトレーニングを行うことで暑熱順化をするとも言われます。暑熱トレーニングの効果は以下の通りです。
- 血漿量の増加
- 発汗効率の改善
- 皮膚血流量の増加
血漿量の増加
暑熱トレーニングを行うことで、血漿量が増加します。血漿とは、血液を構成する成分の一つで血液の半分以上を占める液体成分です。
暑熱トレーニングで血漿量が増加するメカニズムは複数あります。
まず、運動中に血管外への圧力がかかると、血漿タンパク質(アルブミン)が血管内へと移行します。アルブミンは水を引き寄せる性質を持つため、組織から血管内へ水分が引き込まれます。これが血漿量増加の最も即効性の高いメカニズムです※1。
次に、発汗や体温上昇により血液が濃縮されると、腎臓からADH(抗利尿ホルモン)が分泌され、腎臓での水分再吸収が促進されます。同時に、アルドステロンの分泌によってナトリウムも保持され、浸透圧を介した水分の体内保留が起こります※1。
上でも述べた通り、暑熱トレーニングによって持久性パフォーマンス向上が達成されるのは、血漿量が増加することが主要因となっています。
発汗効率の改善
発汗開始温度が下がり、より早い段階で汗をかき始めるようになります。結果的に体温上昇を抑制し暑熱環境でもパフォーマンスを維持できるようになります。
皮膚血流量
暑熱環境でトレーニングを行うと、体温を下げるために皮膚表面の血流量が増加します。
持久性パフォーマンス向上に大きく寄与するのは血漿量の増加である
暑熱トレーニングで得られる効果のうち、持久性パフォーマンス向上に大きく寄与するのは「血漿量の増加による心拍出量の増加」です。
血漿量増加以外の効果はあくまでも「暑熱環境における適応」であり、暑熱環境がなくなればその効果の恩恵を受けることはできなくなります。
心拍出量はVO2max(最大酸素摂取量)を決める重要な指標です。心拍出量が増加するとVO2maxが向上するため、持久性パフォーマンスが向上します。

以下の論文では、暑熱環境(38℃)でトレーニングを行った群と通常環境(13℃)でトレーニングを行った群に分け、持久性パフォーマンス向上の差をテストしています。暑熱環境でのトレーニングが通常環境での持久性パフォーマンスを向上させることが示されています。
12人の熟練したサイクリストが暑熱環境グループに参加、8人の被験者が通常環境群に参加した。両グループとも、10日間のトレーニング前後に通常環境(13°C)と暑い環境(38°C)で様々な生理学的・運動能力テストを受実施。暑熱環境グループは、40°Cの環境下で最大酸素摂取量の50%の強度で、45分間×2のトレーニング、通常環境グループは、13°Cの環境下で同じ内容のトレーニングを行った。
暑熱環境グループでは、測定されたすべてのパラメータで有意な改善が見られた。
- 最大酸素摂取量:通常環境で5%、暑熱環境で8%増加
- タイムトライアルパフォーマンス:通常環境で6%、暑熱環境で8%改善
- 乳酸閾値でのパワー出力:通常環境と暑熱環境の両方で5%増加
- 血漿量:6.5%増加
- 最大心拍出量:通常環境で9.1%、暑熱環境で4.5%増加
一方、通常環境グループでは、これらのパフォーマンスや生理学的パラメータにいかなる変化もなかった。
暑熱トレーニングと高地トレーニングの効果の違い
高地トレーニングで得られる効果は「低酸素環境に暴露」されることで発生します。高地トレーニングで得られる効果を簡単にまとめると以下の通りです。
- 赤血球、ヘモグロビン(Hb)量の増加
- ミトコンドリア機能の適応
- 毛細血管密度の増加
これらは低酸素環境に暴露されることで発生する特有の効果であり、暑熱トレーニングで得られる効果とは全く異なります。
しかし、血液系で起こる適応現象の結果が、暑熱トレーニングと高地トレーニングで似ているため、暑熱トレーニングと高地トレーニングで同じような効果が得られる、と言われるようになったと考えられます。
血液系に関して得られる効果を暑熱トレーニングと高地トレーニングを比較表にまとめました。
| 項目 | 暑熱トレーニング(夏のランニング) | 高地トレーニング(低酸素) |
|---|---|---|
| 刺激 | 高温・高湿度 | 低酸素 |
| 効果発現速度 | 1〜2週間 | 3週間以上 |
| 効果の持続 | 約2〜4週間で消失※3※4 | 長め |
| 血液への影響 | 血漿量が増加 | 赤血球量増加、Hb濃度向上 |
| 循環系への影響 | 心拍出量向上→心拍数低下 | 心拍数低下 |
| 持久性パフォーマンス向上要因 | 心拍出量増加 | 血液の酸素運搬能力向上 |
暑熱順化の効果がどれくらい続くかは適応の種類によって異なります。心拍数・深部体温の適応は1日あたり約2.5%ずつ失われ、3〜5週間で完全に消失します※3。総ヘモグロビン量(酸素を運ぶ赤血球の量)や運動パフォーマンスの改善は、より早く、2週間以内に元の水準に戻ることが確認されています※4。
つまり、秋のレースに向けて暑熱順化の効果を活かすには、レース2〜3週前までを目安にしっかり走り込んでおくことが重要です。
暑熱トレーニング、高地トレーニング、どちらの場合も「心拍数が低下する」現象が見られますが、その現象が発生する理由が異なります。
暑熱トレーニングの場合は、血漿量が増加し心拍出量が向上した結果心拍数が低下します。一方で、高地トレーニングの場合は赤血球量が増加しヘモグロビン量が増えることで酸素運搬能力が向上した結果、心拍数が低下します。
- 暑熱:血漿量の増加 → 心拍出量向上が主因
- 高地:赤血球・ヘモグロビンの増加 → 酸素運搬能力の向上が主因
暑熱トレーニングでも赤血球とヘモグロビンが増える可能性がある
暑熱トレーニングでも赤血球とヘモグロビンが増える可能性があります。
暑熱トレーニング直後の反応
暑熱適応の初期(数日〜1週間)に血漿量が急増します。血漿量が増えると血液は希釈されるため、ヘモグロビン濃度は一時的に低下します。
赤血球総量は減っていないため酸素運搬能力は大きく低下しません。
適応期間(数週間スパン)
数週間の暑熱環境トレーニングを継続すると、低酸素刺激とは異なるメカニズムですが、造血系が緩やかに働きます。
血漿量増加によって相対的にヘモグロビン濃度が下がり、 これを感知した腎臓がEPO(エリスロポエチン)を少し増加させ、赤血球産生がわずかに促進されます。
その結果、ヘモグロビン濃度が元に近い値に戻る一方で、血漿量は増えたままとなるため、赤血球総量が増えるということが起こりえます。
ただし、高地トレーニングほど大きくない
高地トレーニングでは、低酸素刺激によるEPOの上昇が強く、赤血球総量の増加幅は顕著(数%〜10%以上)です。暑熱トレーニングでのヘモグロビン増加は限定的(数%程度)で、論文によっては有意差が出ないこともあります。
つまり、「血漿量増加に続いて、軽度の赤血球増加が起こる」ことは 一部の研究で確認されているが、小規模な効果であり、暑熱トレーニングだけで赤血球総量を高地並みに増やすのは ほぼ不可能だと考えられます。
暑熱トレーニングと高地トレーニングにおける、血漿量及びヘモグロビン量の推移を模式的に表すと次のようになります。


そのため、暑熱トレーニングは「高地トレーニングの代替」ではなく、「血漿量という循環面のアドバンテージを作る手段」と考えるのが現実的です。
夏の暑い時期に行うべきランニングトレーニング
暑熱環境でのトレーニング効果は「血漿量」が増加することによる心拍出量の増加が要因です。前述のLorenzo et al. の研究※2では、試験強度は50%VO2max(ゆっくり走る程度のペース)でした。それでも血漿量が+6.5%増加しています。つまり、夏特有の効果を得るために高強度なトレーニングを行わないといけない、ということはありません。
それよりも、暑い環境で可能な限りトレーニングを継続することの方が重要です。血漿量が増加し、さらにわずかではありますが造血の適応も起こすことができれば、気温が下がる秋や冬には身体的に適応が続いた状態で走ることができます。
夏におすすめなのは、低強度のジョグや休息を長めにとるスプリント系のトレーニングです。夏におすすめのトレーニングは次の記事で詳しく解説しています。
参考文献
※1 Fellmann N (1992) “Hormonal and plasma volume alterations following endurance exercise. A brief review.” Sports Medicine
※2 Lorenzo S, Halliwill JR, Sawka MN, Minson CT (2010) “Heat acclimation improves exercise performance.” Journal of Applied Physiology
※3 Daanen HAM, Racinais S, Périard JD (2018) “Heat Acclimation Decay and Re-Induction: A Systematic Review and Meta-Analysis.” Sports Medicine
※4 Cubel C, Fischer M, Stampe D et al. (2024) “Time-course for onset and decay of physiological adaptations in endurance trained athletes undertaking prolonged heat acclimation training.” Temperature (Austin)









コメント