- 普段どのくらいの速さで走ったらいいかわからない
- ポイント練習で設定ペースを守れないことが多い
- ランニングトレーニングにおける心拍数の目安がわからない
普段、心拍数を気にして走っているランナーの方は少ないかもしれません。しかし、心拍数はトレーニングの強度と負荷を知るのにとても重要な指標であり、トレーニングに活かさないのはもったいないです。
私自身が心拍数を強く意識し始めたのが3年前です。きっかけは、中長距離界で一躍有名になったヤコブインゲブリクトセン選手のトレーニングを知ったことでした。
ヤコブ選手は血中乳酸濃度でトレーニング強度を精密に管理していますが、市民ランナーである私は血中乳酸濃度を測定する方法がなかったので、代わりに心拍数を測定することで代用できないか?と考えました。
心拍数を正確に測定しながらランニングトレーニングを行ったところ、体が疲れすぎることやポイント練習で設定おペースでこなせないことも少なくなりました。
結果的に、2021年の秋には各種目で自己ベストを連発し、大きく走力を向上させることができました。
ここでは、ランニングにおける心拍トレーニングについて徹底解説します。
本記事を読めば、ランニングトレーニングにおける心拍数管理の重要性が理解でき、各トレーニングにおける心拍数の目安を知ることができます。
心拍トレーニングとは
ランニングにおける心拍トレーニングとは、運動中の心拍数(1分間の心臓の鼓動回数)を基準にしてトレーニング強度を調整する方法です。
ランニングトレーニングは、トレーニングを行う強度(=走るスピード)によって得られる効果が異なります。その人にとって適切なペースは、過去に走ったレースなどから算出することができます。
しかし、レースに参加したことがない方や、参加していたとしてもかなり昔の場合、また、怪我でしばらく走れなかった方は、過去のレースの記録を参考に、今の自分にとって適切なペースを決めることができません。
心拍数を基準にすると、今の自分にとって適切な強度でランニングトレーニングを行うことが可能になります。結果として、効率よく持久力を高めることができたり、オーバートレーニングによる怪我を予防できるメリットがあります。
ランニングトレーニングにおける心拍数の決め方
ランニングトレーニングにおける心拍数の目安はその人個人によって異なります。理由としては、「最大心拍数」が人によって異なるからです。
ランニングにおいて心拍トレーニングを行うためには、まず自分の「最大心拍数」を知るところから始まります。
最大心拍数の算出方法
最大心拍数の算出方法はいくつかありますが、年齢から算出する式として最も広く使われているのが次の式です。Tanaka et al. (2001)※1 が18,000名超のデータをもとに導き出しました。
208 – (0.7 × 年齢)
年齢が32歳の場合、最大心拍数は185.6bpmと算出できます。
私の場合はこの計算で算出した心拍数がほぼ正確でした。しかし、この式で算出した結果とは全く異なる最大心拍数であるランナーの方も多いです。
計算式で算出できない場合には、最大心拍数を測定できる施設で測定を行うか、実際に走って測定する方法があります。
実際に走って測定する場合、以下の方法が紹介されています。トレッドミルを使っての測定か、400mトラックを使っての測定です。
- 8 -10km/hrのペースで15分ほど走る
- 15分経過後トレッドミルの勾配を2~3%上昇させる
- トレッドミルの速度を1分毎に1km/hrずつ上げていく
- 速度を上げていく段階でペースが維持できなくなると感じる場合、そこで走行をやめる。心拍数が最も高かった時点の前後5~10秒の平均値が最大心拍数となる
- ウォーミングアップとして10分ほどジョギングを行う
- 800mを10kmのレースペース+30秒/kmのペースから開始する。800mを走り終えたら、心拍数が135bpmまで低下してから次のスピードに進む。スピードは30秒/kmずつ上げていく
どちらかというと、個人的にはトレッドミルでの測定の方が取り組みやすいと感じています。トラックだと気温や風などの環境影響を受けやすく安定した測定ができない恐れがあるためです。
また、最大心拍数を測定する際には正確に心拍数を測定できるセンサーが必要です。おすすめなのはアームバンド型の心拍センサーか胸ベルト式のハートレートセンサーです。
トレーニングにおける心拍数の目安
ランニングトレーニングにおける、心拍数の目安は下記の通りです。表における「%HRmax」の列が心拍数の目安です。
| 運動強度 | 強度名称 | 強度区分 | ※a %HRmax | ※b %VO2max | ※c 血中乳酸濃度 mmol/L |
|---|---|---|---|---|---|
| zone1 | Easy | 低強度 | 60~71 | 50~65 | 0.8~1.5 |
| zone2 | Moderate | 低~中強度 | 72~82 | 66~80 | 1.5~2.5 |
| zone3 | LT | 中強度 | 83~87 | 81~87 | 2.4~4.0 |
| zone4 | OBLA | 高強度 | 88~92 | 88~93 | 4.1~6.0 |
| zone5 | VO2max | 高強度 | 93~100 | 94~100 | >6.1 |
| Sprint | 高強度 | - | 100~ | - |
- ※a %HRmax:最大心拍数に対する割合。
- ※b %VO2max:最大酸素摂取量に対する割合。
- ※c 血中乳酸濃度:血液中の乳酸濃度。専用の測定機器でしか測ることができない。競技レベルが向上すると、同じ強度でも血中乳酸濃度の数値は低下する傾向がある。
あくまでも、最大心拍数に対する割合であることに注意してください。最大心拍数がある程度正確に把握できていないと、心拍トレーニングはうまくいきません。
心拍数を正確に測定するには
走っている間に心拍数を測定する方法は、次の3通りです。
- 心拍計付きの腕時計で測定する
- アームバンド型/胸ベルト式の心拍計を使う
- 自分で脈を測る
この中で、測定値が信頼できるのが「アームバンド型/胸ベルト式」の心拍計による測定です。
腕時計の光学センサーは手軽に使えますが、心拍ゾーンを厳密に管理したい場合は精度が不十分なことがあります。
Gillinov et al. (2017)※2 の研究では、市販の光学式センサー5種をトレッドミルで測定したところ、胸ベルト式(ECGとほぼ一致)と比べて誤差が大きく、強度や運動の種類によって精度が変わることが示されました。
心拍トレーニングで使える精度を出すためには、「アームバンド型もしくは胸ベルト式」が必要です。次の記事で詳しく解説していますのでご参照ください。
心拍トレーニングにおける注意点
心拍トレーニングにおける注意点を紹介します。注意すべき事項は下記となります。
- 最大心拍数が正確に測定できていない
- 気温、湿度に大きく影響を受ける
- 心拍数を意識しすぎて主観的な感覚を忘れがち
最大心拍数が正確に測れていない
最も多くあるミスが最大心拍数が正確に測れていないことです。
各ランニングトレーニングの適切な強度は、あくまでも「最大心拍数に対する比率」で決まります。自分にとっての心拍数160bpmと、他人にとっての心拍数160bpmは、強度が同じではありません。
最大心拍数がある程度正確に測定できていないと、自分が思っていたような強度でトレーニングを行うことができません。
上で説明した通り、最大心拍数を正確に把握することが最優先となります。
気温・湿度に大きく影響を受ける
心拍数は気温と湿度の影響を大きく受けます。気温と湿度が高くなると、明確に心拍数が上昇します。
春から夏にかけて気温と湿度が上昇すると、同じペースで走っていても心拍数がどんどん上がってきます。心拍数を基準にトレーニングしている場合は、走るペースをしっかり落として心拍数は決めた数値を維持します。
そうはいっても、冬と夏で全く同じ心拍数にしても体が感じるきつさには違いが出てきます。私自身の感覚としては、夏の気温に合わせてペースダウンをすると、意外と足の疲労が少ないことに気が付きました。
冬と夏で心拍数を揃えた場合、走るペースは大きく異なります。冬の方が速く、夏の方が遅くなります。足の筋肉に対する負荷はペースが速いほうが負荷が大きくなるようです。
したがって、夏と冬で全く同じ心拍数の基準を設定すると、少し狙った強度からは離れてしまうかもしれません。自分自身の体感的な疲労感や翌日に感じる疲労度などを考慮して、季節に合った心拍数の基準を設定します。
私自身の経験からすると、夏は冬に比べて心拍数の基準を5bpm程度分は上げてもいいと感じています。例えば、冬のジョギングでは125~140bpm程度を目安にしている場合、 夏は130~145bpm程度くらいでちょうどいい、といった具合です。
心拍数を意識しすぎて主観的な感覚を忘れがち
心拍数を意識しすぎると、主観的な感覚を忘れがちになります。
主観的な感覚とは自分が感覚的に感じる「きつさ」のことです。心拍数の数値にとらわれていると、感覚的にはきついと感じているのに、狙った心拍数で維持するために頑張りすぎる、といった事象が発生する可能性があります。
心拍数にとらわれすぎることと、自分の最大心拍数を間違えていることが合わせて発生すると、オーバートレーニングが発生することがあります。
研究でも、RPEと心拍数は必ずしも一致しないことが示されています。Tibana et al. (2019)※3 によると、運動中のRPEと心拍数の相関は低く(r=0.38)、むしろRPEは血中乳酸濃度と強く相関していました(r=0.66)。
つまりRPEは心拍数とは別の情報(筋疲労・代謝の負荷)を教えてくれます。心拍数と主観的なきつさを組み合わせることで、より精度の高い強度管理ができます。
心拍数を活用したトレーニング例
はじめに、私自身が行ってきたトレーニングにおける心拍ゾーンを紹介します。私はすべてのトレーニングにおいて、アームバンド型の心拍センサー、もしくは胸ベルト式のハートレートセンサーを着用しています。
本記事で紹介した心拍ゾーンで分類すると、以下の通りになります。2024年5月~8月のトレーニングデータから算出しました。
| zone | %HRmax | 比率 | |
|---|---|---|---|
| zone1 | 60 | 72 | 25.6% |
| zone2 | 72 | 82 | 56.0% |
| zone3 | 82 | 88 | 9.7% |
| zone4 | 88 | 92 | 7.1% |
| zone5 | 92 | 100 | 1.7% |
また、別の方法で分類された心拍ゾーンを採用すると、次の通りです。この分類方法はインゲブリクトセン兄弟のヘンリク選手が行ったトレーニングを分析している論文における分類方法になります。
| zone | %HRmax | 比率 | |
|---|---|---|---|
| zone1 | 62 | 82 | 81.4% |
| zone2 | 82 | 92 | 16.9% |
| zone3 | 92 | 97 | 1.4% |
| zone4 | 97 | 100 | 0.3% |
私自身は、zone1~zone5の分類におけるzone3,4でのトレーニングボリュームを高める「閾値トレーニングモデル」を取り入れています。
中長距離界で有名なヤコブインゲブリクトセン兄弟が行っていることで有名になったトレーニングモデルです。このトレーニングモデルの基礎になっているのは同じくノルウェーの代表選手であったマリウスバッケン選手の理論でした。
インゲブリクトセン兄弟のトレーニング内容を見ると、zone3,4におけるトレーニング比率が25%前後まで高められていることが分かります。私と比較しても1.5倍程度、こなしているということです。
心拍数を基準にしたトレーニングを行う場合、本記事冒頭で紹介した次の心拍ゾーン分類の表を参考します。
| 運動強度 | 強度名称 | 強度区分 | ※a %HRmax | ※b %VO2max | ※c 血中乳酸濃度 mmol/L |
|---|---|---|---|---|---|
| zone1 | Easy | 低強度 | 60~71 | 50~65 | 0.8~1.5 |
| zone2 | Moderate | 低~中強度 | 72~82 | 66~80 | 1.5~2.5 |
| zone3 | LT | 中強度 | 83~87 | 81~87 | 2.4~4.0 |
| zone4 | OBLA | 高強度 | 88~92 | 88~93 | 4.1~6.0 |
| zone5 | VO2max | 高強度 | 93~100 | 94~100 | >6.1 |
| Sprint | 高強度 | - | 100~ | - |
- ※a %HRmax:最大心拍数に対する割合。
- ※b %VO2max:最大酸素摂取量に対する割合。
- ※c 血中乳酸濃度:血液中の乳酸濃度。専用の測定機器でしか測ることができない。競技レベルが向上すると、同じ強度でも血中乳酸濃度の数値は低下する傾向がある。
自分が高めていきたい能力に適した心拍ゾーンを選択し、そのゾーンに該当する心拍を狙ってトレーニングを行います。
心拍ゾーン毎に、どのくらいの割合で取り入れるべきかについては、自分の基礎体力、レースまでの期日、狙っている種目によって異なりますので唯一の正解はありません。
私自身はフルマラソンレースを目標にしながら、ロードでのハーフマラソンやトラックでの5000mにも出場しています。Instagramでは、トレーニングの発信をしていますので、是非参考にしてみてください。
参考文献
※1 Tanaka H, Monahan KD, Seals DR (2001) “Age-predicted maximal heart rate revisited.” Journal of the American College of Cardiology
※2 Gillinov S et al. (2017) “Variable Accuracy of Wearable Heart Rate Monitors during Aerobic Exercise.” Medicine and Science in Sports and Exercise
※3 Tibana RA et al. (2019) “Perceived exertion is not correlated with heart rate in CrossFit competition.” Sports (Basel)









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