※本記事は、DM三井製糖株式会社のご提供により制作しました。
- ジェルや補給食を増やすと、決まってお腹を壊す
- 「ガットトレーニング」という言葉を聞いたが、何をするのか
- 胃腸の弱さは体質だから仕方ない、と諦めていないか
- 補給を減らす以外に、後半のお腹の不調を防ぐ方法はあるのか
フルマラソンでは1時間あたり60〜90gの糖質補給が目標になります。ところが、その量を摂ろうとすると、お腹が張る、痛くなる、下してしまう、というランナーは少なくありません。運動中に消化器症状を経験する持久系アスリートは30〜50%にのぼります※1。
この「補給を増やすとお腹を壊す」問題への対策として知られているのが、ガットトレーニングです。練習中に糖質を摂ることを繰り返して、腸を補給に慣れさせていく方法です。
結論から言うと、2週間ほど続けると運動中の腹部不快感と糖質の取りこぼしが減ることが、ランナーを対象にした研究で示されています※2※3※4。一方で、「腸が吸収できる量の上限そのものが上がる」というヒトのデータはありません。この記事では、できることとできないことを分けて解説します。
なお、1時間あたり何gを目標にすべきかはフルマラソンの糖質補給量、ジェルの摂り方(水と一緒に・糖質の配合)はマラソンのジェル補給で扱っています。
なぜ「腸を鍛える」という発想が出てきたのか
糖質補給の効果は、口から入れた量ではなく、腸が吸収できる速さで決まります。2000年の総説では、運動中に体が使える外から摂った糖質は1時間あたり60〜66gが上限で、その制限は筋肉ではなく腸(あるいは肝臓)にあるとまとめられています※5。
グルコース(ブドウ糖)だけの場合、この上限は運び手(SGLT1)の飽和で決まります。果糖を加えて別の運び手も使うと、1時間あたり90g以上まで引き上げられます※6。詳しくはマラソンのジェル補給で解説しています。
問題は、この量を実際に摂ろうとすると胃腸の不調が出やすいことです。運動誘発性消化管症候群(EIGS)と呼ばれ、運動強度が最大酸素摂取量の60%を超えて2時間以上続くと、腸の傷つき・胃排出の遅れ・吸収不良が起こりやすくなります※7。
主な原因は、運動中に内臓への血流が減ること、そして自律神経とホルモンの働きです。この不調を「体質だから」で終わらせず、腸を補給に慣らして軽くできないか、という発想がガットトレーニングです。

ただし、根っこにある「運動中に内臓への血流が減る」ことそのものは、ガットトレーニングでもなくなりません。
ガットトレーニングとは何か
何をするのか
定義はシンプルで、練習中に意図的に糖質を摂り続けることです※8。ロング走やポイント練習で、レース本番と同じジェルやドリンクを、同じ量・同じタイミングで摂ります。
これを数週間続けて、腸を「補給されている状態」に慣らします。この考え方は2011年のレビューで「腸は鍛えられる可能性がある」として提示されました※9。
ヒトで確かめられている効果
ランナーを対象にした研究(25名)※3では、2週間の反復摂取で運動中の消化器症状が6割前後減り、糖質の取りこぼしを示す指標も改善しました※2※3。
8件の研究を集めた系統的レビューでも、2週間の反復摂取を行った研究では腹部不快感が平均で47%、糖質の吸収不良が45〜54%減っていました。ただし吸収不良に変化がなかった研究も1件あります※4。
言いかえると、ガットトレーニングで確実に期待できるのは「目標の量を、お腹を壊さずに摂れるようになる」ことです。
ヒトでは確認されていないこと
一方で、同じ分析では胃排出の速さ、腸の傷つき、腸の通りやすさには変化がありませんでした※4。「腸が吸収できる量の上限(最大g/h)が上がる」ことを直接測ったヒトの研究もありません。先ほどのランナーの研究でも、運動中の糖質の酸化速度(燃やす速さ)自体は増えていませんでした※3。
総説では「糖質の運び手(SGLT1)が増えて吸収能力が上がる」と説明されます※8。ただしこれを示しているのは動物実験です。マウスに高糖質食を10日間与えるとSGLT1のタンパク量は増えましたが、運動後のグリコーゲンの回復量は増えませんでした※10。
ラットに週5日・6週間のトレーニングを課した実験では、1日6時間の群でSGLT1が増え、1日1時間の群では増えませんでした※11。適応を起こすには、ある程度まとまった時間の刺激が必要だということです。
ヒトでも腸のSGLT1が状況に応じて変わること自体は知られています。たとえば2型糖尿病の患者では、腸のSGLT1が健康な人の4倍以上になっていました※12。ただしこれは糖尿病という代謝状態にともなう変化で、「ランナーが糖質補給を続けたらSGLT1が増えた」ことを示したものではありません。

具体的なやり方
いつ、どのくらいから始めるか
研究で症状が軽くなったのは2週間ですが※2、目標の量まで段階的に上げていくには、レースの6〜10週間前から始めるのが現実的です。ロング走やレースペースのポイント練習に組み込みます。
短い練習では腸の適応が起きにくいことが動物実験で示されているためです※11。ジョギングのついでではなく、レースに近い強度と時間の練習で行います(→ 距離走(ロングジョグ)の効果)。
増やし方
最初は1時間あたり30〜40gから始めます。ジェルなら1〜1.5本分です。1〜2週間ごとに10〜20gずつ増やし、最終的に60〜90gを練習中に通せるようにします。
増やす幅や期間の数値は、総説※8 の「少量から段階的に」という方針を実践に落とし込んだ目安です。この数値そのものを検証した研究があるわけではありません。
レース本番と同じ製品・濃度・タイミング(20〜30分ごと)で行うことが大切です※8※13。

うまくいかないとき
お腹の不調が出たら、無理に押し通さず、量を一段戻して再開します。数週間やっても改善しないこともあります。
トップ選手を対象にした研究では、現行ガイドラインを超えて糖質量を増やし、高糖質食とガットトレーニングを組み合わせても、対照群を上回る効果は見られませんでした。個人差が非常に大きく、競歩選手では運動後半の上部消化器症状がむしろ増えています※14。
合わないと感じたら、先に糖質の配合(グルコースと果糖の両方を含む製品)と、水を一緒に摂ることを見直してください。この2つのほうが即効性があります(→ マラソンのジェル補給)。
まとめ
- ガットトレーニングは、練習中に糖質を摂り続けて腸を補給に慣らすこと
- ランナーの研究で確実なのは、2週間ほどで運動中の腹部不快感と糖質の取りこぼしが減ること
- 「吸収量の上限が上がる」「胃排出が速くなる」はヒトでは確認されていない。SGLT1が増えるのは動物実験の話
- 実利は「目標の量(60〜90g/h)を、お腹を壊さずに摂れる体になる」こと
- やり方:レース6〜10週間前から、ロング走・ポイント練習で、30〜40g/hから段階的に
- 効果は個人差が大きい。合わなければ糖質の配合と水(→①)を先に見直す
ガットトレーニングは、補給戦略の仕上げにあたる部分です。まずフルマラソンの糖質補給量で目標量を決め、マラソンのジェル補給で配合と水の摂り方を整えたうえで、レースまでの数週間で腸を慣らしていく。この順番で組み立てると、後半の失速もお腹の不調も減らせます。
参考文献
※1 de Oliveira EP, Burini RC, Jeukendrup A (2014) “Gastrointestinal complaints during exercise: prevalence, etiology, and nutritional recommendations” Sports Med
※2 Miall A, Khoo A, Rauch C, et al. (2018) “Two weeks of repetitive gut-challenge reduce exercise-associated gastrointestinal symptoms and malabsorption” Scand J Med Sci Sports
※3 Costa RJS, Miall A, Khoo A, Rauch C, Snipe R, Camões-Costa V, Gibson P (2017) “Gut-training: the impact of two weeks repetitive gut-challenge during exercise on gastrointestinal status, glucose availability, fuel kinetics, and running performance” Appl Physiol Nutr Metab
※4 Martinez IG, Mika AS, Biesiekierski JR, Costa RJS (2023) “The Effect of Gut-Training and Feeding-Challenge on Markers of Gastrointestinal Status in Response to Endurance Exercise: A Systematic Literature Review” Sports Med
※5 Jeukendrup AE, Jentjens R (2000) “Oxidation of carbohydrate feedings during prolonged exercise: current thoughts, guidelines and directions for future research” Sports Med
※6 Fuchs CJ, Gonzalez JT, van Loon LJC (2019) “Fructose co-ingestion to increase carbohydrate availability in athletes” J Physiol
※7 Costa RJS, Snipe RMJ, Kitic CM, Gibson PR (2017) “Systematic review: exercise-induced gastrointestinal syndrome-implications for health and intestinal disease” Aliment Pharmacol Ther
※8 Jeukendrup AE (2017) “Training the Gut for Athletes” Sports Med
※9 Jeukendrup AE, McLaughlin J (2011) “Carbohydrate ingestion during exercise: effects on performance, training adaptations and trainability of the gut” Nestlé Nutr Inst Workshop Ser
※10 Takahashi Y, Matsunaga Y, Yoshida H, Shinya T, Sakaguchi R, Hatta H (2021) “High Carbohydrate Diet Increased Glucose Transporter Protein Levels in Jejunum but Did Not Lead to Enhanced Post-Exercise Skeletal Muscle Glycogen Recovery” Nutrients
※11 Kondo S, Fukazawa A, Karasawa T, Terada S (2019) “Effects of long-term exercise training for different durations on pancreatic amylase activity and intestinal glucose transporter content in rats” Physiol Rep
※12 Dyer J, Wood IS, Palejwala A, Ellis A, Shirazi-Beechey SP (2002) “Expression of monosaccharide transporters in intestine of diabetic humans” Am J Physiol Gastrointest Liver Physiol
※13 Burke LM, Jeukendrup AE, Jones AM, Mooses M (2019) “Contemporary Nutrition Strategies to Optimize Performance in Distance Runners and Race Walkers” Int J Sport Nutr Exerc Metab
※14 King AJ, Etxebarria N, Ross ML, et al. (2022) “Short-Term Very High Carbohydrate Diet and Gut-Training Have Minor Effects on Gastrointestinal Status and Performance in Highly Trained Endurance Athletes” Nutrients








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