- 解糖系ってなに?
- トラックレースでなかなか結果が出ない。何が足りない?
- 練習で走るペースは速いことに越したことはないんじゃないの?
練習で走るペースは「速ければ速いほどいい」と思っているランナーの方もいらっしゃるのではないでしょうか?実は、疾走ペースが速いと、逆に有酸素能力強化を妨げることもあり得ます。
私は社会人から本格的にランニングを始めた市民ランナーです。月500km程を走り、競技志向でランニングに取り組んでいます。
私自身は、秋~冬にかけてハーフマラソンやフルマラソンに取り組み、春~夏はトラックレースに出場します。
トラックレースでは、1500m~5000mに出場しますが、特に1500mは無酸素系代謝の重要度が増します。
無酸素系代謝の中で重要なのが「解糖系」です。特に1500m以下のレースで記録を伸ばしたい場合は、解糖系の強化に力を入れる必要があります。
本記事では、解糖系についての説明と、解糖系と有酸素能力の関係性、解糖系強化のポイントを解説します。
解糖系とは?
解糖系とは、グルコースもしくはグリコーゲンからピルビン酸に代謝される過程のことを示します。

解糖系でエネルギーを産み出す過程では酸素を必要としません。そのため、無酸素性代謝と呼びます。

有酸素系の代謝(糖質・脂質・乳酸)のエネルギー産生速度を1とすると、解糖系は2.5倍の速さでATPを産み出すことができ、エネルギーの産生速度が非常に速いことが特徴です。
しかし、その持続能力は20~40秒程度でしかありません。
解糖系代謝の位置づけ
Spencer & Gastin(2001)※1 の研究では、AOD(蓄積酸素借)法を用いて高度なトレーニングを積んだ競技選手の各距離でのエネルギー代謝寄与率を測定しています。1500mにおける無酸素系の寄与率は約16%(有酸素系が約84%)です。800mでは無酸素系が約34%と高まり、400mではさらに約57%となります。
測定方法によって数値は変わりますが、1500mは「有酸素主体の種目」であることは共通しています。それでも5000m(無酸素3〜10%程度)と比べると無酸素系の重要度が高く、解糖系の強化が記録向上に直結しやすい距離といえます。
解糖系の強化は有酸素能力とトレードオフ
解糖系を強化することは、有酸素能力を強化することと、一部トレードオフになります。
持久性トレーニングを行うことでミトコンドリアの増加及び機能向上が起こる時に重要なのは、PGC-1αという転写共役因子です。
トレーニングによってPGC-1αの発現量が高まることで、ミトコンドリアの新生が起こります。

一方で、解糖系強化のためのトレーニングは最大酸素摂取量を超えた強度で行います。したがって、筋繊維では酸素の供給不足が発生します。
運動強度が高くなると筋内の酸素供給が追いつかなくなります。このとき活性化されるのが HIF-1(低酸素誘導因子1)というタンパク質です。
HIF-1 が活性化されると、グルコースを取り込む輸送体(GLUT)や、解糖系で働く酵素(LDH・PFK など)の産生が促されます※2。これにより、酸素を使わずにエネルギーを素早く生み出す能力が高まります。
したがって、解糖系を強化するためには酸素不足を発生させる必要があるため、最大酸素摂取量を超えた強度でトレーニングを行う必要があります。
ところが同じ HIF-1 は、ミトコンドリアのクエン酸回路や酸化的リン酸化に関わる酵素の遺伝子を抑制する方向にも働きます※2。つまり、解糖系の強化とミトコンドリアを使った有酸素代謝の強化は、同時には起きにくいのです。これがトレードオフといわれる理由です。
あくまでバランスが重要
上で述べた通り、解糖系を強化するために最大酸素摂取量を超える強度でトレーニングを行うと、酸素供給不足が発生し、ミトコンドリアの有酸素代謝を向上させる酵素群の能力向上を妨げます。
したがって、解糖系強化と有酸素能力強化はバランスが重要だと言えます。
競技時間が4~5分で終わる1500mでさえも、有酸素由来の代謝寄与率は約84%※1です。解糖系よりも有酸素由来のエネルギー代謝寄与率の方が高いです。
これらのことから、自分が取り組む種目によって解糖系強化(無酸素系)と有酸素能力強化はバランスを変える必要があります。
解糖系を鍛えるトレーニング
これまで述べてきた通り、解糖系を強化するためには酸素不足が発生するような強度でトレーニングを行う必要があります。
運動強度で言うと、100%VO2maxを超える強度です。速さで言うと3000mレースペース以上での強度です。
疾走時間が100秒を超えると、有酸素性のエネルギー供給量が急激に増えてくるので、解糖系を鍛えるトレーニングは、高い運動強度でおよそ30~100秒程度継続するものが良いと考えられます。
解糖系を鍛えるトレーニングとしては、次があげられます。
- レペティショントレーニング
- 坂道トレーニング(ヒルスプリント)
- 流し
レペティショントレーニング
レペティショントレーニングは、およそ1500mのレースペースで200m~800m程度の距離を繰り返し走るトレーニングです。
レスト時間は、走った時間の2~3倍の時間を、ゆっくりジョギング、もしくは歩きます。
- 200m×20
- 400m×10
- 600m×7
※レストは、疾走時間の2~3倍(ジョギングでも歩きでもOK)
一回当たりの疾走時間が2分を超えるような距離は、レペティショントレーニングには適していません。
解糖系代謝を効率よく向上させるためには、1回当たり30~60秒程度の疾走時間が理想です。
こうしたトレーニングによって実際に解糖系能力が高まることは、複数の研究で確認されています。
MacDougall ら(1998)※3 は、30秒の全力スプリントを7週間繰り返したところ、解糖系の主要な酵素である LDH(乳酸脱水素酵素)と PFK(ホスホフルクトキナーゼ)の活性が有意に増加したと報告しています。
また Kohn ら(2011)※4 は、高強度インターバルトレーニングを6週間行った持久ランナーで、速筋繊維(TypeII 繊維)の LDH 活性が約9%増加したことを筋生検で確認しています。同じペースで走っていても、以前より乳酸をエネルギーとして素早く利用できるようになるということです。
レストは十分に休んで構いません。レストでジョグをする場合も、とてもゆっくりで行います。レストのジョグが速すぎると、有酸素系の立ち上がりが早くなり、解糖系代謝機能への刺激時間が減ってしまうためです。
坂道トレーニング
坂道トレーニングは「坂ダッシュ」として知られているトレーニングです。傾斜率3.0~5.0%程度の坂を使って、繰り返しダッシュを行います。
疾走時間やレストの考え方は、基本的にレペティショントレーニングと同様です。
- 150m×20
- 200m×15
- 300m×10
坂ダッシュを行う場合、レストは登ってきた坂をジョグで戻るのが基本です。
解糖系強化が目的の場合、レストのジョグのスピードはとてもゆっくりで構いません。普段のジョギングペースよりも遅くて大丈夫です。
時間に余裕があれば、歩いても問題ないです。
流し(ウィンドスプリント)
「流し」または「ウィンドスプリント」と呼ばれるトレーニングは、普段のジョギングに手軽に取り入れることができます。
正しいやり方が決まっているわけではありませんが、およそ20秒で走りきれる距離を、6~8本程度走ります。走る際の努力感としては、90%程度です。普段のペース走やインターバル走よりは速いスピードになります。
間のレストは、ゆっくりジョグしても、歩いても、どちらでも構いません。
参考文献
※1 Spencer MR, Gastin PB (2001) “Energy system contribution during 200- to 1500-m running in highly trained athletes” Medicine and Science in Sports and Exercise
※2 Lindholm ME, Rundqvist H (2016) “Skeletal muscle hypoxia-inducible factor-1 and exercise” Experimental Physiology
※3 MacDougall JD et al. (1998) “Muscle performance and enzymatic adaptations to sprint interval training” Journal of Applied Physiology
※4 Kohn TA et al. (2011) “Specific muscle adaptations in type II fibers after high-intensity interval training of well-trained runners” Scandinavian Journal of Medicine & Science in Sports









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