こんにちは、管理人のsyu_hibiです。
長距離種目において市民ランナーが本気で記録を伸ばしたいと思った時に、確実に当たる壁が練習時間が自由に確保できないことです。
実業団選手の中にはフルタイムで勤務している方も稀にいらっしゃいますが、ほとんどの場合、トレーニングに費やせる時間が多く、その分、負荷が高い練習を積み、リカバリーに充てる時間も稼ぐことができます。
一方、自由に練習時間を確保することが難しい市民ランナーは、朝早くから夜遅くまで勤務しなければならないことも多く、仕事による疲労も溜まります。
そんな中、できる限り記録を伸ばすためには、僅かな練習時間で得られる効果を最大化することが必要です。
本記事では、練習効果を最大化してくれる、ランニングギヤを紹介していきます。
今回紹介するのは、ガーミン(Garmin)の心拍計(HRM-Dual)とランニングダイナミクスポッド(RDP)です。ランニングウォッチと合わせて、ランニングデータを詳細に把握するための三種の神器と言えるほど、重要なデバイスです。
長距離の専門的指導がなかなか受けられない市民ランナーにとって、ランニングデータを客観的に把握できることは非常に重要だと考えています。
本記事では、自分自身の体験を元に、これらのデバイスの有用性と必要性を発信していきます。
1.客観的に把握することが難しいランニングフォームを数値化する:RDP
学生時代、長距離の専門的指導を受けていない市民ランナーにとって、自己流のトレーニングで改善していくことが難しい要素がランニングフォームだ。
ランニングフォームは、「自然と良くなっていくもの」だとか「意識して修正するものではない」と考えている人もいる。いわゆる、「鶏が先か卵が先か」問題だ。
しかし、長距離種目における記録が身体能力だけで決まることは絶対にない。間違いなく、ランニングフォームの良し悪しが記録に結び付いてくる。そうでなければ、全く同じ練習をしている同チーム陸上部員の走力が、これだけ差が出る説明をすることが難しい。
ランニングフォームを修正していくには、「理想のあるべき姿」を把握し、体の動かし方を知っている必要がある。しかし、一度も「理想の体の動かし方」を経験したことが無いランナーが、自分の感覚だけを信じてフォームを修正していくのはとても困難だ。
最近では、Youtubeにエリートランナーのレース動画が沢山上がっている。それらの動画と、自ら撮影した、自分のランニングフォームを見比べる、といった分析をすれば、自分でもある程度のフォーム改良は可能であると考えられる。
しかし、そのような分析も「自分の主観」から逃れることは難しく、もっと客観的なデータが必要だ。
そんなランニングフォーム改良の一助となるデバイスがガーミンのランニングダイナミクスポッド(通称:RDP)である。RDPはガーミンが発売している、ランニング時の走行データを取得できるデバイスだ。
RDPを使用することでで新たに得られるデータは下記である。
- ピッチ
- 地面接地時間(GCT)
- 地面接地時間(GCT)バランス
- ストライド幅
- 上下動
- 上下動比
いずれも、記録向上には欠かせない要素であり、数値データとして得られることはとても重要だ。
■ランニングダイナミクスデータ活用例
ここで示す例は、RDPにより得られたデータを用いてランニングフォームを改善した例ではない。ランニング界で2019年当たりから台頭してきた「厚底シューズ」の効果をデータで証明したものになる。
以下の例では、陸上競技場にて、1000mのCVインターバル2回(別日)を行った際のデータを示す。可能な限りトレーニング環境を合わせこんだうえでのデータ比較だ(気温等)。違いは、使用したシューズであり、片方はアディゼロジャパン4(ADJ4)、もう一方はヴェイパーフライネクスト(VFN)だ。
- Pace:1km当たりのペース
- Pitch:1分当たりのピッチ
- Stride:ストライド幅
- GCT:地面接地時間
Pace | Pitch | Stride | GCT | ||||
/km | spm | m | ms | ||||
ADJ4 | VFN% | ADJ4 | VFN% | ADJ4 | VFN% | ADJ4 | VFN% |
03:25.6 | 03:25.1 | 183 | 184 | 1.6 | 1.54 | 157 | 161 |
03:26.0 | 03:26.3 | 186 | 185 | 1.59 | 1.61 | 158 | 166 |
03:27.6 | 03:25.4 | 186 | 186 | 1.58 | 1.58 | 158 | 168 |
03:28.7 | 03:26.0 | 188 | 186 | 1.56 | 1.59 | 159 | 167 |
03:28.1 | 03:26.7 | 188 | 188 | 1.57 | 1.58 | 157 | 171 |
03:30.0 | 03:25.5 | 188 | 187 | 1.54 | 1.59 | 159 | 169 |
03:28.9 | 03:26.4 | 189 | 187 | 1.56 | 1.57 | 161 | 168 |
03:28.6 | 03:25.5 | 189 | 187 | 1.56 | 1.6 | 158 | 172 |
× | 03:26.9 | × | 186 | × | 1.61 | × | 171 |
× | 03:24.2 | × | 187 | × | 1.61 | × | 171 |
ADJ4を使用した際には、1000mを8本しかこなせなかったが、VFNを使用した場合では、1000mを10本こなすことができ、タイムも平均して2秒/km程度良い、という結果となった。
着目したい点は、StrideとGCTである。VFNを使用した場合の方が、GCTは長いもののStirdeが稼げている。この点が意味することとしては、VFNからカーボンプレートとクッショニングによる助力を受けている、と言えるだろう。
ランニングエコノミーとして収穫があるとすれば、ADJ4を使用した場合でも、地面を踏み込む強さと離地のタイミングが適切に調整されれば、ランニングフォームの改善が見込める可能性があるということだ。
以上のように、直接的にデータを眺めるだけでなく、ランニング条件を変えた時のデータ差異を分析することで、何か気づきが得られる、といった使い方もできる。
2.ウォッチだけでは正確に測定することが難しい「心拍数」
ランニングトレーニングにおいて心拍数を正確に把握することは非常に重要である。
その理由は、長距離の持久性トレーニングにおいて、狙っている効果を得るためには、トレーニング強度をコントロールし、適切な質と量にしていく必要があるからだ。
トレーニング強度を把握する手段として、その方法や手間等を一切無視するとした場合、最も適切な手段は「血中乳酸濃度の測定」であると考えている。
例として挙げるならば、ノルウェーのインゲブリクトセン兄弟である。三兄弟そろって、中長距離において素晴らしい記録を連発しているが、科学トレーニングを非常に重要視しており、トレーニング中に血中乳酸濃度を測定している様子も見られる。
次の記事でも説明しているが、乳酸は糖を分解する過程で発生する物質だ。できるだけ乳酸を発生させない能力であったり、発生した乳酸を素早く処理する能力を高めることが、フルマラソンや5000mでの記録向上につながる。
しかし、トレーニング中に血中乳酸濃度を測定することは容易ではない。少なくとも血液を採取する必要があるため、正直、現実的ではない手段だ。
そこで、簡易的にトレーニング強度を測定する手段として広く用いられているのが心拍数の測定だ。心拍数と血中乳酸濃度には一定の相関がある事が知られている(しかし、心拍数=血中酸素濃度ではない)。
身近な例を挙げると、LT走と呼ぶ閾値トレーニングは、血中乳酸濃度が急上昇し始める2~4mmol/Lの濃度領域でトレーニングすることで効果があることが知られている。適切な強度であるかどうかは、トレーニング中の心拍数を使って把握する。閾値の場合は、およそ最大心拍数の88~92%である。
LT走では適切な強度に抑えてトレーニングを行うことが重要である。理由としては、強度を上げすぎることで、体感的にきつくなり過ぎ、練習の継続が困難となり、結果として閾値付近でトレーニングを継続する時間が減少してしまうためだ。
従って、市民ランナーがトレーニング強度を正確に把握し、練習効率を高めるためには心拍数を正確に把握することが必要なのだ。
現在、様々なメーカーから光学心拍計機能付きのランニングウォッチが発売されている。私自身はGarmin(ガーミン)のForeathlete245を使用している。
ランニングウォッチでの光学心拍計も相当高性能だ。次の記事で紹介している通り、装着方法を工夫すれば、かなり心拍数を正確に測定することができる。
しかし、ランニングウォッチの光学心拍計による心拍数の測定には技術的限界があるようで、特に、インターバルトレーニングなどの、心拍数が急上昇/急低下を繰り返すような場合に、大きな測定誤差が発生する。

そのような誤差なく、正確に心拍数を捉えることができるデバイスがハートレートセンサーだ。
ハートレートセンサーは、その多くが胸付近に巻くタイプとなっている。
■ハートレートセンサーvs光学心拍計
では、ハートレートセンサーとランニングウォッチの光学心拍計を使用した場合の、正確性を比較していく。
図2では、400m×16~20のインターバルトレーニングを行った際の心拍数推移だ。上が光学心拍計、下がハートレートセンサーを用いてトレーニングを行った時のデータである。

図2からも明白だが、ハートレートセンサーを用いた場合の方が圧倒的に心拍数が正確に測定できている。
これだけ見ると「大した差ではないな」と思われてしまうかもしれないが、そんなことはない。次の記事でも紹介しているが、インターバルトレーニングにおけるトレーニング中の心拍数が2%違うだけで、最大酸素摂取量向上の効果は大きく変わる事が分かっている。
光学心拍計を用いた場合、心拍数の急上昇及び急低下がとらえきれていないことが多く、実際心拍数がどの程度まで上昇したのかを正確に把握することが困難である。その結果、取り組んでいるインターバルトレーニングのペース設定が適切かどうかの判断を誤ってしまう可能性があるのだ。
トレーニング強度をコントロールすることは、トレーニングの継続性や過負荷防止のために重要なことだ。そのためにも、簡単に強度が把握できる心拍数はできるだけ正確に把握しておきたい。
ガーミンから発売しているハートレートセンサーは全部で3種類であり、心拍数だけ測定できればよい場合はHRM-Dualとなる。ランニングダイナミクスも同時に測定したい場合は、HRM4-Run、もしくはHRM-Proである。
3.すべてをつかさどるランニングウォッチ
上記で紹介してきたデバイスは、そもそも、対応したランニングウォッチを持っていなければ機能しない。私自身は、ガーミンのForeathlete245・RDP・HRM-Dualをそれぞれ所持している。
将来的に、ランニングダイナミクスポッドやハートレートセンサーとの連携を考えている場合、もしくは、ランニングウォッチ購入時点では考えていなかったとしても、これらのセンシングデバイスとの連携可否はあらかじめ検討しておくことをおすすめしたい。
以上、RDP、ハートレートセンサー、ランニングウォッチが、現在のランニング界における重要なデバイスであると考えている。
もし、まだ所持していない方がいれば、是非手に入れることを検討してみてはいかがだろうか。
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