【アンドレアス・アルムグレンのトレーニング】欧州記録保持者の1週間の練習を完全解説

アンドレアス・アルムグレン
こんな疑問を解消
  • アンドレアス・アルムグレンの1週間の練習はどんな構成?
  • ダブル閾値セッションの具体的な中身(何をどのくらいやるか)は?
  • バイクトレーニングや坂道インターバルはどう位置づけられているの?

 アンドレアス・アルムグレン(Andreas Almgren)は、5000m・10kmロード・ハーフマラソンの欧州記録を持つスウェーデンのランナーです。2025年の世界陸上東京では10000mで銅メダルを獲得し、スウェーデン初の長距離世界選手権メダリストとなりました。

 彼のトレーニングには「ダブル閾値(1日2回の閾値インターバル)」「週1回の高強度坂道セッション」「バイクによるクロストレーニング」という3つの柱があります。ヤコブ・インゲブリクセンらのノルウェーメソッドをベースにしつつ、アルムグレン独自の工夫が加わっています。

 この記事では、アルムグレン本人の発言と公開されているデータをもとに、1週間の練習の全体像を解説します。後半でノルウェーモデルとの違いと、市民ランナーへの応用ポイントもまとめます。

著者:らんしゅー
日比野就一

社会人からランニングを始めました。
理論に基づいたトレーニングで、
どこまで記録を伸ばすことができるか挑戦。
競技志向で取り組んでいます。
自己紹介・記録変遷はこちら

血中乳酸濃度や血糖値も測定。
マラソンへ科学的にアプローチします。

★自己ベスト
 1500m 4:25(2022/08)
 5000m 16:01(2022/09)
 10000m 33:44(2021/12)
 ハーフ 1:12:29(2022/03)
 フル 2:40:15(2026/03)

著者:らんしゅー
日比野就一

  社会人からランニングを始めました。
  理論に基づいたトレーニングで、
  どこまで記録を伸ばすことができるか挑戦。
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   自己紹介・記録変遷はこちら

  血中乳酸濃度や血糖値も測定。
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  ★自己ベスト
   1500m 4:25(2022/08)
   5000m 16:01(2022/09)
   10000m 33:44(2021/12)
   ハーフ 1:12:29(2022/03)
   フル 2:40:15(2026/03)

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目次

アンドレアス・アルムグレンとはどんな選手か

プロフィールと主な記録

 アルムグレンの正式名はカール・アンドレアス・アルムグレン(Karl Andreas Almgren)。1995年6月12日生まれ、ストックホルム近郊のソレントゥーナ出身です。

 種目は中距離から長距離まで幅広く、主な記録は以下のとおりです。

種目記録備考
5000m12:44.27欧州記録(2025年)
10kmロード26:45欧州記録(2026年 バレンシア)
ハーフマラソン58:41欧州記録(2025年)
10000m26:52.87スウェーデン記録
1500m3:32.00スウェーデン記録
800m1:45.59スウェーデン記録(2015年)
表 アンドレアス・アルムグレンの主な記録

 もともとは800m〜1500mの中距離専門でした。2014年の世界ジュニア選手権では800mで銅メダルを獲得しています。しかし2016年から2021年にかけてストレス骨折や筋断裂が続き、6年間のブランクを経て長距離にシフト。2022年以降にスウェーデン記録を次々と更新し、2025年の世界陸上でスウェーデン初の長距離世界選手権メダリストになりました。

アルムグレンの経歴まとめ
  • 1995年生まれ、スウェーデン出身。コーチはUrban Aruhn
  • 元800m・1500m専門。2016〜2021年の長期負傷を経て長距離に転向
  • 5000m・10kmロード・ハーフマラソンの欧州記録保持者
  • 2025年世界陸上東京 10000m銅メダル(スウェーデン初の長距離世界選手権メダル)

アルムグレンの週間トレーニング構成

1日2回・週170〜200km

 アルムグレンは毎日2回練習を行い、週の走行量は通常170km前後、ピーク時は206kmに達することもあります。「先週は206km走った。1週間毎日2回練習した」と本人も語っています※4。

 この走行量の大半は低強度の有酸素走です。イージーランのペースはキロ4分前後、心拍数は120bpm程度を維持します。大量の低強度走が有酸素系の基盤を支え、その上に閾値セッションが乗る構造です。

アルムグレンのトレーニング強度分布

典型的な1週間の構成

 複数のインタビューとCOROS公式記事をもとに、ベースブロック中の典型的な1週間をまとめると以下のようになります。

曜日AMPM
イージーラン(12km程度)イージーラン(10km程度)
閾値インターバル①閾値インターバル②
イージーラン+バイクジム(筋力トレーニング)
閾値インターバル①閾値インターバル②
イージーランイージーラン or バイク
X要素(坂道ショートレップ)イージーラン or 完全休養
ロングランジム(ヘビーリフティング)
表 ベースブロック中の典型的な1週間(複数インタビューより統合)

 ダブル閾値セッションは火曜と木曜の週2回。残りの日はイージーラン・バイク・ジムで構成されます。土曜のX要素(坂道インターバル)については後述します。

ダブル閾値セッションの具体的な中身

 閾値セッションを1日に2回(午前と午後)行うのが「ダブル閾値」の骨格です。アルムグレン本人が語った各セッションの典型的な構成は次のとおりです。

午前セッション:6×6分(レスト2〜3分)

 6分間の閾値走を6本行います。インゲブリクセンと同じ構成で、10×3分などのバリエーションも使います。

午後セッション:400m×複数本(レスト30秒)

 レストが30秒と短いため、セッション全体を通じて乳酸値が一定の範囲内に留まるよう設計されています。レストを短くすることで、個々のレップを速く走りすぎることを防ぎ、閾値強度を維持しやすくなります※4。

 強度の目安は心拍数167〜178 bpm、ペースは最大でキロ2分40秒前後です。ただし数値よりも「ペース・乳酸値・心拍数・RPE(主観的なきつさ)」の4指標を総合的に判断し、調子に応じてその日の強度を微調整します。

週1回の高強度セッション(X要素・坂道インターバル)

 ダブル閾値に加えて、週に1回、閾値を超える強度の「X要素」セッションを取り入れています。これはアルムグレンが採用するバッケン・トレーニングシステムの一部で、ノルウェーメソッドの原型に含まれているアプローチです。

 内容は200m程度の坂道で、レストは疾走時間の約2倍(例:45秒で登れる坂なら90秒レスト)。ベース期は坂道で行い、レースシーズンに近づくにつれてトラックでの300mに移行します。

 この強度は閾値を超えており、VO2max領域に近い刺激を与えます。大量の低強度走と閾値セッションに加え、週1回このX要素を入れることで、スピードの刺激を継続的に維持しています※5。

バイクとジム(クロストレーニング)

 バイク(自転車)は週5時間程度を分散して取り入れます。これはスウェーデンのスピードスケーター、ニルス・ヴァン・デル・ポール(Nils van der Poel)のトレーニングに着想を得たものです。長期の怪我歴を持つアルムグレンが、ランニングの衝撃を抑えながら有酸素系の総量を積むための手段として活用しています※6。

 強度は低強度の有酸素走と同じ領域で、ランニングの代替ではなく補完として機能します。走行量の多い週でも、バイクを加えることで身体への衝撃負荷を一定範囲内に収められます。

 ジムは週4回行います。月・水・金曜は補助的な筋力トレーニングで、日曜のロングランの後はヘビーリフティングを行います。ランナーとしては珍しい高頻度のウエイトトレーニングで、怪我予防と長距離走に必要な筋持久力の維持を目的としています。

主要キーセッションの詳細

 レース前の調整期(特化ブロック)には、通常の閾値セッションとは異なる「キーセッション」を2本入れていたことが話題になりました。話題になったトレーニングについて紹介します。

3×3km(3分レスト)

 バレンシア10kmの直前、170km週の最終日に実施したセッションで、8:00→7:52→7:43というネガティブスプリットで完了しました。疲労が蓄積した状態で閾値ペースを維持できるかを確認するシャープニング(調整)目的のセッションです※4。なお、このセッションは屋内でバイクにペースメーカーを務めてもらいながら行いました。

10×1km(1分レスト)

 平均ペースはキロ2分34秒、最終ラップは2分28秒、平均心拍数162bpmで実施。レース直前の「最終チェック」として使います。このセッションはアルムグレンのStravaに投稿されてから注目を集め、ランニングコミュニティで話題になりました※4。

6週間ブロックによる周期化

 6週間程度をひとつの練習ブロックとして設定し、その中では構成をほぼ固定します。6週間のブロックが終わると「より特化した2週間」(レースペースに近いセッションを導入)に入り、最後の1週間でテーパリング(疲労抜き)を行います。

 また、シーズンオフにはスペインのシエラネバダ(標高約2500m)で高地合宿を行い、赤血球量を増やして帰国後のパフォーマンスを高めます。

アルムグレンのトレーニング構成まとめ
  • 週走行量:通常170km、ピーク時は206km。毎日2回練習
  • ダブル閾値:火曜・木曜の週2回(AM: 6×6分、PM: 400m×n・レスト30秒)
  • X要素:週1回の坂道200mショートレップ(レスト約2倍)→ シーズン前はトラック300mに移行
  • バイク:週5時間・低強度の有酸素クロストレーニング(Nils van der Poel着想)
  • ジム:週4回。日曜はヘビーリフティング
  • 6週間ブロック+2週間特化期+1週間テーパリングで周期化

ノルウェーモデルとの違い

 アルムグレンはヤコブ・インゲブリクセン(Jakob Ingebrigtsen)と同じダブル閾値の枠組みを使いつつ、いくつかの点で独自のアプローチを取っています。

 共通しているのは「閾値セッションを週2回・1日2回に分割する」という骨格と、6×6分や10×3分といった具体的なセッション構成です。インゲブリクセンとの共通の友人であるスウェーデンのKalle Berglundを通じてダブル閾値と出会い、2022年頃から本格的に採用しました。

バイクトレーニングの着想(Nils van der Poel)

 バイクトレーニングの導入は、スウェーデンの元スピードスケーター、ニルス・ヴァン・デル・ポール(2022年北京五輪10000m・5000m金メダリスト)が自身のトレーニング論を公開したことがきっかけです。

 ヴァン・デル・ポールは「ランニング(衝撃の高い運動)の時間を一部バイクに置き換えることで、身体への衝撃を抑えながら有酸素系の総量を積める」というアプローチを実践していました。長期の負傷歴を持つアルムグレンはこれを2023年のオフシーズンに取り入れ、週に数時間のバイクを低強度の有酸素走として積み上げています。

 バイクの強度はあくまで低強度です。高強度のバイクセッションではなく、ランニングと並行して「総有酸素量」を増やすための手段として機能しています。

バイクトレーニングを含めた走行量はインゲブリクセン以上

 アルムグレンはバイクによるクロストレーニングも組み合わせながら、走行量だけで170〜200km超を実現しています。「走行量の多さが、シーズン後半に特化した練習を入れるときに大きなアドバンテージになる」と本人は語っています。

 このアプローチはダブル閾値の「量を積む」という思想の延長ですが、インゲブリクセンほどのサポート体制がない環境でも実現できるよう、バイクというクロストレーニングを組み込んでいる点がアルムグレンの工夫です。

ノルウェーモデルとの違いまとめ
  • ダブル閾値の骨格(火・木に週2回、AM+PM)はインゲブリクセンと共通
  • 走行量はインゲブリクセン以上(バイクで上乗せ)。衝撃を抑えながら有酸素総量を最大化
  • X要素(坂道インターバル)を週1回継続。スピード刺激を絶やさない
  • バイクの着想はスピードスケーター・ヴァン・デル・ポールのトレーニング論
出版情報
閾値トレーニング完全ガイド

「ランニングを科学する」から「閾値トレーニング完全ガイド」のkindle出版をしました。kindle unlimitedに登録していれば無料で読めますので是非ご一読ください。

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ダブル閾値の科学的根拠

なぜ1日2回に分けるのか

 閾値セッションを1日2回に分ける理由は、疲労の蓄積を抑えながら同じ量の閾値刺激を積めるためです。

 持久系アスリートを対象にした研究では、6×10分を1回でまとめるグループと、午前・午後に3×10分ずつ分けるグループを比較しました※1。1回でまとめたグループは後半になるほど心拍数・乳酸値・RPEが上昇し、翌日の回復も遅れました。一方、分割グループは第2セッションでも疲労の蓄積が抑えられ、翌朝の回復が良好でした。

 つまり「今日の練習が翌日の質を下げにくくなる」という効果が分割の本質です。週単位・月単位で見たときに積み上げられる閾値刺激の総量が多くなります。

乳酸ガイド型トレーニングの仕組み

 アルムグレンが管理する4指標のうち、最も重要なのが血中乳酸濃度値です。目標は2〜4.5 mmol/Lの範囲で、ペースが速すぎれば落とし、余裕があれば上げるというリアルタイム調整をします※2。

 心拍数だけでは体調や気温の影響を受けやすく、実際の身体への負荷を正確に反映しません。乳酸値を基準にすることで、追い込みすぎずに十分な刺激を継続的に与え続けられます。この刺激が筋肉のミトコンドリアを増やし、同じペースで走るときのエネルギーコストを下げていきます※2。

 世界クラスのランナーのトレーニングデータを統合した研究でも、練習の80%以上が乳酸閾値を下回る低強度であり、残りの閾値・高強度帯の刺激が重なることで適応が起きることが確認されています※3。アルムグレンの構成(大量低強度走+週2回ダブル閾値+週1回X要素)はこの原則に沿っています。

科学的根拠のポイント
  • 1日2回に分割することで疲労の蓄積を抑えながら閾値刺激の総量を増やせる
  • 乳酸値でペースを管理することで「追い込みすぎず、十分な刺激」を継続できる
  • エリートランナーでも練習の80%以上は低強度。量の基盤が閾値刺激の効果を高める

市民ランナーへの応用ポイント

 市民ランナーがアルムグレン選手のトレーニングを取り入れるうえでの応用ポイントを紹介します。

「週75km未満には向かない」の意味

 アルムグレン自身は、ダブル閾値について「週75kmを走っていないランナーには向かない」と明言しています※4。週75km未満の選手にとっては、VO2maxインターバルのほうが効果的だという考えです。

 ダブル閾値は大量の低強度走の上に成り立つアプローチです。有酸素系の基盤が整っていない状態で閾値セッションを週に何度も入れると、回復が追いつかずに疲労が蓄積するだけになります。逆に週75km以上を安定して走れているランナーには、試す価値があると言えます。

市民ランナー向けの「ノルウェーシングルズ」という選択肢

 1日2回のセッションは、社会人ランナーにとって現実的でない場合がほとんどです。そこで市民ランナーの間で広まっているのが「ノルウェーシングルズ(Norwegian Singles Method)」と呼ばれるアレンジです。

 基本的な考え方は「1日1回の閾値セッションを週2〜3回、残りはすべて低強度ジョグ」です。乳酸計がなければ心拍数(最大心拍数の85〜90%前後)や体感(少しきつい程度で会話がギリギリできる強度)を目安にします。閾値を超えないことが最重要で、追い込みすぎると翌日の質が落ちます。

まず取り組むべきこと

 ノルウェーメソッドを試したい場合の最初のステップは、走行量の底上げです。週60kmに届いていないランナーは、まず低強度ジョグの積み上げを優先します。

 週60〜75kmが安定してきたら、週2回の閾値セッションを導入します。構成は「4〜6×1km(1〜2分レスト)」や「2×15分」など、閾値付近の強度を継続できるものを選びます。週75kmを超えてきたら閾値セッションを週3回に増やすタイミングを検討できますが、セッションを増やすより先に、低強度の走行量を積み上げることを優先してください。

市民ランナーへの応用まとめ
  • 週75km未満はまず走行量の底上げを優先する(アルムグレン本人が推奨)
  • 社会人は1日2回が難しいため、「週2〜3回の閾値セッション+低強度ジョグ」から始める
  • 閾値強度の目安:最大心拍数の85〜90%前後、少しきつい程度で会話がギリギリできる強度
  • 翌日に疲労が残るようなら頻度を減らす。追い込みすぎないことが最重要

参考文献

※1 Kjøsen Talsnes R, Torvik PØ, Skovereng K, Sandbakk Ø. Comparison of acute physiological responses between one long and two short sessions of moderate-intensity training in endurance athletes. Front Physiol. 2024;15:1432918. PMID: 39139482

※2 Casado A, Foster C, Bakken M, Tjelta LI. Does Lactate-Guided Threshold Interval Training within a High-Volume Low-Intensity Approach Represent the “Next Step” in the Evolution of Distance Running Training? Int J Environ Res Public Health. 2023;20(5):3782. PMID: 36900796

※3 Haugen T, Sandbakk Ø, Seiler S, et al. The Training Characteristics of World-Class Distance Runners: An Integration of Scientific Literature and Results-Proven Practice. Sports Med Open. 2022;8(1):46. PMID: 35362850

※4 “Inside the Training of One of Europe’s Fastest Runners” – Marathon Handbook(2026年2月)https://marathonhandbook.com/inside-the-training-of-one-of-europes-fastest-runners/

※5 LetsRun.com Discussion Thread: Andreas Almgren training week(2024〜2025年)https://www.letsrun.com/forum/flat_read.php?thread=12538338

※6 Maratonlabbet Podcast Ep.151「Andreas Almgren」(2023年3月)https://maratonlabbet.se/ / Running Effect Podcast: “Andreas Almgren on Five-Hour Bike Weeks”

※「ランニングを科学する」では、筆者の知識・経験のアップデートと共に都度改定を行っています。

出版情報
サブ4達成に向けたトレーニングプログラム

「ランニングを科学する」から「サブ4達成に向けたトレーニングプログラム」のkindle出版をしました。kindle unlimitedに登録していれば無料で読めますので是非ご一読ください。

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